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第158話 偶然


「こんな偶然ってあるんだねぇ」


カナデが微笑みながら、

そんな事を言う。


「・・・まさか、カナデが魔導士だったとはな」


「うーん、路銀を稼ぐための副業みたいなもんだよ。僕は間違いなく旅の詩人さ」


ギルド長のシグレからの紹介によると、

カナデは吟遊詩人兼魔導士として世界中を旅しているらしい。

本業ではないのにAクラスと言うのが、

彼女が優秀な魔導士であると言うことを示唆していた。


「でも今回は気が進まないな。犯罪者の捕縛なんて」


カナデが言った。


「・・・実は・・・」


俺はカナデにアリシアの話を伝えた。



「それは、気の毒だったね・・・」


話を聞き終えたカナデは悲痛な表情を浮かべる。


「ああ。だから俺は白蝶を必ず捕まえたい。俺一人でもやって見せるけど、カナデが協力してくれるとありがたい。なんせ俺はこのエルフの里に関する知識が皆無だからな」


「・・・そっか・・・そうだよね」


カナデは何かを考え込む様な素振りを見せ、

それから俺の目を見つめた。


「よし。それなら僕が一肌脱ごう。王族の頼みなんて面倒臭いと思っていたけど、友達であるグレイのためなら協力するよ」


「本当か?」


「ああ。けど、そうだな。代わりにグレイには僕のお願いを何か聞いて貰いたいな」


カナデは言った。


「お願い?それはどういうことだ?」


俺は尋ねた。


「・・・やる気を出すためのおまじないみたいなものさ。大したお願いじゃないから安心してくれ」


「分かった。俺に出来る事なら協力するよ」


俺は答えた。


「ありがとう。では即席チームの完成だね」


そう言って俺とカナデは互いに手を握り合った。



・・・

・・



それから数時間後。

俺とカナデは森の中を歩いていた。

アリシアと白蝶が戦ったと思われる廃墟に向かうためだ。


俺とカナデで話し合い、

まずは現場に向かってみようと言う事になったのだ。



「どうだい、エルフの森は・・・」


カナデが尋ねる。


「・・・なんて言うか不思議な感じだ」


俺は答えた。


「うん、それが分かるならグレイは本当に優秀な魔導士だ。この森には精霊がたくさん住んでいる。他の大陸の森にも居るけど、

その数がケタ違いだからね」


カナデが言う。


「精霊・・・話には聞いていたがどういうものなんだ?」


俺は尋ねる。


「そうか。精霊魔法は見た事あるかい?」


カナデの質問に俺は頷いた。


「東の大陸で一度だけ、光の精霊による魔法を見せて貰った」


俺は答える。


「光の精霊って・・・それはもしかしてツクヨミ様の事かい?」


今度はカナデが驚いたように尋ねた。


「知っているのか?」


「知っているも何も、彼はエルフの中でも有名人さ。あれだけの力がありながら、外の大陸で要職に就くエルフなんて滅多にいないから」


「確かに、言われてみればそうか」


俺は答える。




「見えて来たよ」


そう言ってカナデが指差したのは、

崖の下の一帯だった。


「これは・・・」


俺はその光景に驚く。

アカツキから話を聞いていた通り、

かつてはただの森であろうその場所は、

円形に繰り抜かれたかのように大穴が開いていた。


俺たちは調査をすべく、

その大穴に向け崖を降りた。




「・・・こんな魔法、見た事ないよ」


カナデが言う。

俺もまったく同じ意見だった。


「見て。消失した部分から線を引いたように、その周りに影響は出ていない」


大穴のすぐよこの木々に焦げたり、傷付いた様子はなく、

この大穴がそう言った破壊の力で開けられたものではないことが分かる。


「もう少し、調べてみよう」


俺はカナデに声を掛け、

大穴の周囲を歩き出した。



――――助けて。



誰かの声が聞こえた様な気がした。


「何か聞こえたか?」


俺はカナデに尋ねる?


「なにも。どうしたの?」


「いや、今人の声が――――」


そう言った瞬間、

俺は自分の頭に激痛が走るのを感じ、思わず蹲る。


「グレイ!?!」


カナデが叫ぶ声が聞こえる。

だがその言葉は遠くで残響し、

俺の意識は途切れた。



・・・

・・



気が付くと、俺は淡い薄緑に発光する空間にいた。

ここには以前も来たことがある気がする。



辺りを見渡すと、

真後ろに人影がある事に気が付いた。



「君は・・・」



俺は呟く。

そこにいたのは幼児と呼ぶほどに小さな男の子だった。



男の子は俺を見つけると、

おぼつかない足取りでテトテトと歩き、

やがて俺の足にしがみついた。



「どうしたんだ」


俺は彼に尋ねるが、

子供らしくグズる幼児に説明能力は当然になく、

俺はただ彼の背中を優しく撫で続けた。




「一人か?お父さんかお母さんは?」


俺はしゃがみ込み、

彼に目線を合わせるようにして話しかける。


彼は泣きすぎて赤くなった目で、

俺を見つめる。

一体何を伝えたいのだろう。


「お話、出来るか?名前は?」


俺は努めて優しく、

彼に尋ねた。


俺の言葉一つひとつに身を震わせる、

どうやらひどく怯えているようだ。


子供を育てたことの無い俺は、

こういう時どうしたらいいのか分からない。


彼は一瞬、俺を窺う様に見た後、

意を決したように口を開いた。


「・・・ゼメウス」


「え?」


そこで俺の意識は再び、

はじき出されるように途切れた。



・・・

・・


「―――レイ!グレイ!」


俺が目を開けると、

カナデが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。


「カナデ?」


「カナデ?じゃないよ、どうしたのさ急に倒れて」


「いや、俺にもよく分からない・・・」


俺は答えた。


「あぁびっくりした。本当に大丈夫?まだ調査は始めたばかりなんだ。無理せず休んでも良いんだよ?」


カナデが尋ねる。


「いや、本当に大丈夫だ。悪い、心配をかけて」


俺はカナデに笑いかけた。



「まったく、君には驚かされてばかりいる気が――――」


話していたカナデの表情がとつぜん固まる。


「カナデ?」


「どうやら誰かいるようだよ、精霊が騒いでいる」


「誰か?」


「うん、向こうだ」


そう言ってカナデは、

木々の間を走り出した。


俺も慌ててその後を追う。


・・・

・・


カナデの足は速かった。


歩幅も筋力も俺の方が上なはずだが、

彼女は風の様に木々の間を駆けていく。


なにか魔法でも使っているんだろうか。



俺はその姿を見失わない事で精いっぱいだった。


やがて立ち止まる彼女の背中に追いつく。

彼女は木の陰に隠れ、何かを見ていた。


「カナデ?」

「しっ、静かに。あそこだ」


カナデの指し示すほうを見ると、

人影が見えた。


俺は目を凝らし、

そちらを見る。


「・・・あれは・・・」


俺は呟く。

「知ってるの?」


カナデが尋ねる。


視線の先の人影は、全身フルプレートの鎧を纏っている。

俺の記憶の中にとある集団の格好によく似ていた。



「あれは、騎士だ。おそらく東の大陸の」



そこには聖魔騎士団と同じく甲冑に身を包んだ、

男たちがいた。


「騎士団・・・なんでそんな人たちが?」


カナデが呟く。


「分からない。この大陸に騎士がいるなどと言う話も聞いたことが無い」


俺は答える。


「分かった。もう少し近付いてみよう」


カナデは頷き、更に声を落とし言った。


一瞬、もしかして東の大陸からロロを探しに来たのだろうかと思った。

だがそれはすぐに杞憂だと言う事が分かる。


彼らの話声の中に、

「白蝶」と言う単語が聞こえたからだ。


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