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第157話 暁


「・・・失礼します」


照明の落とされている室内に踏み入る。


卓上の灯りに照らされ、

一人の男性がこちらに顔を向けた。


若いエルフだ。


「初めまして」


そう言って若いエルフは立ち上がり挨拶をする。


「初めまして、グレイです。家名は無い、ただのグレイ」


俺は彼に名乗る。


「グレイさん、ですね。私はアカツキ。この国の王の息子です」


「息子・・・と言う事は」


俺は尋ねた。


「はい。王位継承権は第一位。一応、次のエルフの王とされていいます」


そう言ってアカツキと名乗るエルフは微笑んだ。


俺は思わず恐縮する。

どうしよう、跪いて首を垂れるのが正しいだろうか。


そんな俺の戸惑いにアカツキは気が付いたようで、

優しく微笑み言った。


「あまり肩ひじを張らずとも結構です。私もその方が話しやすいので」


「そ、そうですか・・・」


そう言われたところでどうしても強張りはするが、

俺は努めて普通に振舞うことにした。


アカツキは改めて俺の目を正面から見て、

そして申し訳なさそうな顔で言った。


「この度は我々の不手際により、<紅の風>アリシアさんに危険が及びましたこと、深くお詫びいたします」


「あ・・・いえ」


俺は口ごもる。

別にアリシアがああなったのはエルフの責任ではない。


「・・・アリシアさんの治療に関しては優秀なエルフの白魔導士が担当し、全力を尽くしています。グレイさんの立場からすればお辛いでしょうが、どうか我々を信じてください」


アカツキが言う。


「一体、何があったのですか」


俺は聞きたかったことを尋ねた。


「・・・アリシアさんからどこまで共有されているか分からないので、一から話します。まず半年前、エルフの王家が守護する神殿が襲われ、あるものが盗まれました」


「ある物・・・」


「大魔導ゼメウスの残した秘宝『緑の箱』です」


「そこまではアリシアから聞いています。盗んだのは、白蝶、ですよね」


俺の質問にアカツキが頷く。


「ええ。その通りです。正しくは白蝶とその一味とされています」


「・・・一味。単独ではないのですね」


「はい。白蝶はどちらかと言うと自身が動くと言うより他者を操る事を得意とします。・・・『緑の箱』を盗まれた事は公には出来ず、王家は極秘で国内に警備線を張りました。他の大陸へと脱出できぬよう、特に大陸内の港には念入りに。そして数日前、ミヤコからさらに南に進んだところにある廃墟に白蝶潜伏中の情報が手に入ったのです」


アカツキが答えた。

数日前と言う事は俺との手紙のやり取りの後にその情報が入ったわけか。

アリシアの手紙に何も書かれていなかった状況が理解できた。


「その廃墟の調査に、アリシアも?」


俺は尋ねた。


「はい。もとより彼女にはエルフの里での白蝶の調査を依頼しておりましたので、その流れで。それがまさかあんな事になるとは・・・」


アカツキが表情を暗くする。


「廃墟で戦いになったのですね」


俺は尋ねる。

アカツキは頷いた。


「・・・状況からするとその通りです。アリシアさんを除くエルフの優秀な魔導士7名が犠牲になりました」


「7人も・・・相手は白蝶、ですか」


「それも分かりません、状況を知るものはおらず。戦闘の痕跡すら・・・」


「・・・戦闘の痕跡?」


どういうことだろうか。

俺の質問にアカツキが頷いた。


「異変に気が付き支援部隊が駆け付けた時、そこにあったはずの廃墟は跡形もなく消えていました。壊されていた、とか言うレベルではありません。文字通り、消失していたそうです。・・・支援部隊の話では、地面ごとまるで何かに抉られたように大穴が空いていたそうです。アリシアさんはその端に倒れていた、と」


「・・・跡形も無くって・・・」


俺は驚愕する。

それが本当なら、とてつもない話だ。

アリシアの使う火属性の最上級魔法、<龍の炎(ドラゴフレイム)>ですら、

地形を変えてしまうような力はない。



「現在エルフの里、調査部が全力で調査しています。ですが記録にはもちろんそんな魔法は残っておらず・・・」


俺はアカツキの話を聞いて、

嫌な予感が頭によぎった。


もしもその予感が当たっていれば、

エルフの里の調査部とやらがいくら調査しても、

その魔法の正体が分かる事はないだろう。



「俺もその調査に協力させていただけませんか」


俺はアカツキに申し出た。

彼は俺の顔を見る。


「アリシアさんがあんな事になり、うやむやになってしまいましたが、元よりお願いをするつもりでした。アリシアさんから貴方がどれだけ優秀な魔導士かは聞いております。東の大陸でどのような活躍をされたのかも」


未来のエルフの王にそんなことを言われ、

思わず恐縮してしまう。


「・・・どこまで出来るかは分かりません。・・・ですが、俺自身もアリシアの仇を取りたいと思っています。」


俺の言葉にアカツキは頷いた。


「・・・それで十分です。実はエルフの中でも指折りの魔導士がここミヤコに戻ってきております。その魔導士にも調査協力を依頼しましたので、一緒に行動していただければと思います。グレイさんはまだエルフの里に帰着したばかりで不慣れでしょうから」


アカツキは言った。


「・・・エルフの魔導士?」


「ええ。魔導士ランクこそ、グレイさんと同じAランクですが非常に優秀な魔導士ですよ」




・・・

・・




「おかえりなさい」


病院に戻ると、

ロロとシオンがいた。


「ただいま」


「いかがでしたか?」


シオンが心配そうに尋ねる。


「依頼主、王の息子アカツキには会えました。アリシアがやっていた白蝶の調査、引き継げることになりましたよ。まぁ条件付きだけど」


「・・・条件、ですか?」


シオンが尋ねた。


「ええ。エルフの魔導士と共に調査を。同じAクラス魔導士のようです」


俺は答えた。


「なるほど。言い方は悪いですが、sクラス魔導士の抜けた穴をAクラス魔導士二人で補うつもりですね。」


「おそらくは、そうでしょうね。ですが問題はありません」


俺は答えた。


「グレイさん。申し訳ありませんがよろしくお願いいたします。」


そう言ってシオンが頭を下げる。


「大丈夫です。元からアリシアからの依頼でここに来てますし・・・」


俺はベッドに静かに横たわるアリシアを見た。


「アリシアをこんな目に合わせた白蝶は俺が捕ます」



・・・

・・



Sクラス賞金首である白蝶。

神出鬼没、かつ正体不明。

白魔導士であること以外はほとんど情報が無い。

組織的に動くこともあれば、

単身で事件を起こすこともある。

白蝶が下手人とされる、主な事件は以下の通り

北の大陸、魔導研究所の襲撃、

西の大陸、魔香花の群生地の大規模火災、

南の大陸、ハーフエルフの大量虐殺。


俺はシオンから受け取った大量の資料に目を通していた。

白蝶に関する事前調査だが、

眼新らしい情報はほとんどない。


「そろそろ時間か」



時計を見ると、もう朝だ。

結局一睡もしなかった。

俺は書類を机の上に戻し、宿を出る。



アカツキからの指示によれば、

今日の午前中に、

エルフの魔導士と合流することになる。


場所はミヤコの街の魔導士ギルド。

俺は足早にギルドへと向かった。




「おはようございます」


朝一番の閑散としたギルドの中で、

俺は昨日見たばかりの顔を見つける。


ギルド長のシグレだ。


「お、おはようござますグレイさん。昨日は大変失礼いたしました・・・」


俺の顔を見るなりシグレが頭を下げる。


「いえ、俺の方こそ突然飛び出してしまい失礼しました。それから態度が悪かったことも謝ります」


俺もシグレに頭を下げる。


「いえいえ無理もありません。状況は依頼主様より仰せつかっております。奥の部屋にどうぞ」



そう言ってシグレは俺をギルドの奥の部屋へと案内した。



「では、お相手が到着しましたらお声がけいたします」


そう言ってシグレは部屋を出て行く。

俺は椅子に腰かけ、相手の到着を待った。



「・・・なかなか来ないな」


そう言いながら時計を見る。

俺の到着からは既に半刻。

たしかに明確な時間指定は無かったが、

そろそろ来てもいいのではないか。


そう思っていると、

部屋の外に人の気配と話し声が聞こえた。


「そこをなんとかお願いいたします」


「アカツキ様のお願いとは言え気は進まないなぁ、魔導士は本職じゃないって何度言えば分かってくれるんだろ」


「それだけ貴女を信頼しているのです。どうかギルドの面目を保つためと思って・・・」


「僕はそれが面倒だから自由に流浪してるんだけどね」


なんだか不穏な会話だな。

俺はそう思った。


扉をノックする音がする。


「はい」


「お待たせしました。到着されました」


シグレがそう言って扉を開く。


そしてその隣に居る人物に、

俺は驚くことになる。



「えっ!?グレイ?」


そう言って扉から入ってきたのは、

吟遊詩人のカナデだった。


「どうして、グレイが?」


彼女もまた驚いた顔で、

こちらを見ていた。


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