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第145話 後悔



「はい、これが今日の報酬よ」


ギルド職員の言葉と共にカウンターの奥から出てきたのは、

金貨の山だった。


「おぉ・・・すごいな。こんなに」


俺は思わず呟く。


「ふふ。Aランクダンジョンの素材だから、これくらい当たり前よ」


そう言ったのはギルド職員のカーミラだ。


「ありがとう。全部カーミラさんのお陰だ」


俺は彼女に礼を言う。

そもそも旧ハヴィラル城というダンジョンに関する仕事を、

紹介してくれたのが彼女だった。



「・・・それはこっちの台詞よ。必要な素材があったのに、誰もダンジョンに行ってくれなくて困ってたの。でもまさか主まで倒して、旧ハヴィラル城をクリアしてくるとは思わなかったわ」



カーミラが笑う。


「・・・相性が良かったんだ。たまたまだよ」


俺は答えた。

たしかに旧ハヴィラル城はAランクのダンジョンに相応しいの強力な魔物が多かったが、

主に出現するアンデッド系の魔物には俺の操る火炎魔法が効果的だった。



「謙遜しなくても良いのに・・・。そうだ、もしグレイ君さえ良ければ、今夜食事でもどうかしら?ダンジョンでの話とかゆっくり聞かせてくれない?」


そう言ってカーミラが俺にウインクをしてみせる。


「・・・食事?」


俺は尋ねた。


「そ。二人っきりで。どうかしら?」


そう言って俺に熱い眼差しを向けるカーミラ。

どうしよう、あまりに魅力的なお誘いだ。

俺は考える。


カーミラはギルド職員というには些か蠱惑的過ぎるスタイルの持ち主。

そしてその明るく優しい性格から、このギルド、いや街のマドンナと言ってもいい存在だ。


俺が返事に悩んでいると、

横から怒声が響いた。


「ちょっと!カーミラさん!グレイさんを誘惑しないでっていつも言ってるじゃないですか!!」


そう言って顔を真っ赤にしているのはロロだ。


「あら、ロロちゃん。貴女に止める権利はないでしょ?これは私とグレイ君の大人の話なんだから・・・」


そう言ってニコリと笑うカーミラ。


「誰が子供ですか!と、とにかく!グレイさんが食事に行くなら私もついていきます!私たちはパーティーなので!」


そう言って鼻息を荒くするロロ。

俺はため息を吐いて、苦笑した。


「・・・と言うわけで、すみません、カーミラさん。二人きりの食事はいずれ、また」


俺はカーミラに言った。

彼女と二人きりで食事なんてしたら、

多方面から要らぬ恨みを買いそうだ。



「ふふふ。そう?ざーんねん。でも私は待ってるからね」


そう言って笑顔になるカーミラ。

だがその表情はどこか満足そうだ。


この人、俺にちょっかいを出しながら、

間接的にロロをからかって遊んでる気がするんだよな。

食事に誘ったのも横にロロがいたのを理解しての行動だろう。



「ええ、ではまた」


そう言って俺とロロはギルドを後にした。






南の大陸に到着して2ヶ月。

俺とロロはこのコーフの街で魔導士として働き、

生計を立てていた。


コーフの街は南の大陸の中型都市でも、

人間とエルフがほぼ半数で混在する珍しい都市だ。


「そうだ。グレイさん、今日の夕飯は外で食べませんか?」


ロロが言う。


「別に構わないが・・・どうしたんだ?改まって」


俺は尋ねた。


「・・・ダンジョン攻略と、あとはグレイさんが新聞に載ったのでそのお祝いに、です」


ロロが言う。


「お、お祝いって・・・」


旧ハヴィラル城から戻って早々に日刊魔導新聞の取材を受けたときは驚いた。

そして今朝の新聞に俺の名前が載っているのを見てさらに驚いた。


「・・・・旧ハヴィラル城は二人で攻略したから、本来はロロの名前も載るはずだったんだがな」


俺は呟く。


こうして無事に暮らしてはいるが、

東の大陸ではロロは行方不明中の身だ。


一応、騎士団長のツクヨミが上手くやってくれることになっているが、

しばらくは目立たないほうがいいだろう。


そう言った判断から、記者さんにお願いし、

ロロの名前を新聞に載せるのは止めてもらったのだ。

どちらにせよ、南の大陸内にしか出回らないから大丈夫だと思うが。



「・・・わ、私はいいんです!でもグレイさんは魔導士として新聞に載るのが夢だったんですよね。じゃあ今日くらいは素直に喜んでください!」


ロロが言う。


たしかに彼女の言うとおりだ。

俺は小さい頃から魔導士に憧れて、

カッコイイ魔導士になりたいと願ってきた。

それこそ新聞に載るくらいに。


ロロには言っていないが、

俺の鞄の中には俺の記事が載っている新聞が三部入っている。

読む用と保存用と、保存の予備だ。


「そうだな。じゃあ今日はいっぱいやるか」


俺はロロに言った。


「そう来なくっちゃ!」


ロロは笑顔で駆け出す。


時間的には少しはやかったが、

俺たちは宿に戻る前に、

食事が出来る酒場へと向かった。


・・・

・・


「グレイさんは良いですよね。魔法も体術も高レベルで、格闘だけである程度の魔物は倒せそうですし。私なんてホントに回復でしか役に立たないですし、攻撃なんて避けられないから前衛には到底回れません。攻撃魔法の一つでも撃てれば少し違うんですけど、私は魔力濃度の操作が苦手だから不慣れな魔法を使うと威力過多で逆に迷惑を掛けてしまいます。おまけに箱から受け継いだ魔法だって、時間魔法と生命魔法で使い勝手が全然違うし。私はどうせグレイさんのお荷物なんです」


先ほどからロロの泣き言が止まらない。


「どうしてこうなった」


俺は目の前で泥酔するロロを見つめた。

そこまで多くの酒を飲んだ訳ではない。

最初の一杯か二杯を飲んだらこの状態だ。


ロロと飲むのは初めてだったが、

こうなるとは思わなかった。


俺が戸惑っていると、

ロロがこちらを恨めしそうに睨む。


「・・・それに、こうしてニヶ月も二人で暮らしてるのにグレイさんは私にまったく手を出そうともしないし、正直女子としての自信がなくなります。私はグレイさんに好きって伝えてるのに・・・」


「いや、それとこれとは・・・」


突然のカチコミに俺はあたふたする。


「グレイさんは私のこと嫌いなんですか?」


ロロがうるんだ瞳で俺の顔を覗き込む。

俺は急に恥ずかしくなって視線を外した。


アリシアと言い、ロロと言い、

どうして俺の周りの女子はこうも酒癖が悪いのだろうか。


ヒナタ。

今どこで何をしている。

お前とは酒を飲んでいないが、

俺はお前のことだけは信じているぞ。


そんなことを考えていると、

ふと隣から寝息が聞こえた。


見れば一瞬前まで俺に管を巻いていたロロが、

目を閉じて、安らかな寝息を立てている。


「自分が一番ハメを外しているじゃないか・・・」


俺はため息をついた。



・・・

・・



「ん・・・う・・・」


夜半、ロロが呻きながら声を上げる。


「・・・起きたか?」


ロロの目覚めを感じ、

俺は声をかける。


「・・・わたし・・・ここは・・・」


ロロはゆっくりと身体を起こし、

あたりを窺った。


ここは俺たちの泊まっている宿の部屋だ。


「・・・ったく。あんなに飲むからだ、ほら」


俺はロロに水の入ったコップを渡した。


「・・・ごめんなさい」


ロロはそれを受け取り、

そっと口をつける。


「・・・連れて・・・帰ってくれたんですか?」


ロロが気が付いたように俺に尋ねる。


「当たり前だ。酒場に置いて帰るわけないだろ」


どこの大陸だろうと、

女の子ひとりで酒場で酔いつぶれてはいい結果にはならないだろう。


「・・・もしかしてお姫様だっこですか?」


ロロが尋ねる。


「・・・脱力した人間を背負うより、前に抱いた方が楽だ」


俺は答えた。


「・・・覚えてないです・・・ウウ、勿体無い・・・」


「寝てたからな」


「・・・今度はぜひ意識のあるときにお願いします」


ロロが言う。


「意識のある時に運ぶ意味がわからないが」


「ふふ。良いじゃないですか、細かいことは」


そう言って、ロロは笑った。


その笑顔を見て、

俺は最近ロロがよく笑うようになったな、と改めて感じる。


東の大陸を出たばかりの頃は、

俺の前でも表情が強張っていたくらいだった。


そんなことをしんみり考えていると、

不意にロロが俺の顔を覗き込んだ。


「・・・グレイさん?」


「ん?」


「楽しいですね。外の世界は」


ロロが言う。


「・・・そうか?」


俺はわざと素っ気なく答えた。


「・・・はい、知らないこと、初めてのことがたくさんあります。毎日がワクワクでいっぱいです」


ロロはそう言って、笑った。




「・・・後悔はしていないのか?」


俺は尋ねた。


「・・・後悔?」


「東の大陸を出たこと、聖女を辞めた事をだ」


「もちろんです、と胸を張って言いたいところですが。正直よくわかりません」


ロロが答える。


「わからない?」


俺はその言葉の真意を尋ねた。


「・・・はい。自分の判断が正しかったか、なんて分かりませんよ。少なくとも今は」


「それもそう、か」


俺が答えると、

ロロは困ったような笑顔をする。



「はい。・・・あ、でも」


「でも?」


「・・・後悔はしないように精一杯、頑張ろうとは思っています」


そう言ってロロは笑った。


「ロロは、強いな」


俺は答えた。



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