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第133話 異変



「やめろ!キリカ!」


俺は叫び、キリカの剣撃を回避する。

だがキリカは躊躇することもなく、

何度もその剣を向ける。


「君が二度とここに現れないと約束するのであればそうしよう」


キリカはそう言って剣を振るう。


「・・・グッ!」


俺はキリカから距離を取る。


信じがたい話だが、

キリカの剣にはしかと殺気を感じる。


「止めてくれ、こんな・・・」


俺は懇願する様にキリカに声を掛ける。

だがキリカは薄い笑みを浮かべ、

再び地面を蹴った。


「くっ!」


俺は右手の籠手で剣を受け止める。

ガキンと言う、金属音がホールに響いた。


「・・・どうした?抵抗しないのか?君が本気を出せば、私などすぐに殺すことが出来るだろう?」


「キリカ・・・目を覚ませ、こんなのはおかしい・・・」


キリカの剣を受けながら、

俺は呟く。


だが近くで見るその表情には、

感情が浮かんでおらず、

俺の声が届いている様には見えなかった。


その時、急に横腹に激痛を感じ俺は吹き飛んだ。

キリカの蹴りが俺の横腹にめり込んだのだ。


「ぐはッ」



俺は思わず、二歩三歩と後退する。

キリカは払う様に剣を振って見せた。


「・・・あくまで、抵抗はしない・・・か。愚かな」


「・・・俺たちは同じ騎士だろ?俺たちが戦うのはおかしい。落ち着くんだ、キリカ」


俺の言葉にキリカが反応する。


「同じ、騎士だと?」


「そうだ。ロロを守ると言う意味で俺たちの目的は同じだったはずだ」


「・・・一緒にするな」


「なに?」


「・・・ロロ様を、あの子を守れるのは私だけだ・・・だから・・・だから・・・」


そう言ってキリカはまたブルブルと震えだした。

それはまるで、見えない何かが彼女を蝕んでいるかのように思えた。


「キリカ・・・?」


俺は彼女に声を掛け、一歩前に踏み出そうとした。


その時―――――


「そこまでだッ!」


声を上げてホールに踏み込んできたのは、

騎士長の一人、カリュアドと他の騎士だった。


「カリュアドさん!」


俺は叫ぶ。

カリュアドであれば話が出来るかもしれない。

一瞬だけそう期待したが、

その期待は打ち砕かれることになる。


「・・・グレイ!貴様をロロ様に、近付かせるものか!!」


そう言って俺に視線を向けるカリュアドの目には、

憎悪の感情が満ちていた。


「まさか・・・あんたもかよ・・・」


俺は呟く。


重装備の騎士たちが剣を抜き、

俺目掛けて突進してくる。


俺はその光景を見て確信した。

もはや彼らにとって、俺は倒すべき敵なのだ。


逃げるか、応戦するか。

俺が一瞬の躊躇を見せた時。


突如部屋の中に魔力の高まりを感じた。



「・・・ッ!?」



新手の出現か。

そう思い身構えたその時、

俺の耳元にだけ声が届いた。



―――――目を閉じなさい。


優しく慈しむ様な声に、俺は思わず従ってしまう。



その瞬間、ホールが目も眩むような光に包まれた。


「ぐわっ!」


カリュアドの叫び声が聞こえる。

騎士たちもあまりの光に目が眩み、

動きを止めていた。



―――――ここは逃げなさい。



再び俺に誰かの声が届く。


俺はその声に従い、

白魔法を発動すると、

ホールの窓に飛び込んだ。


バリンと音を立てて、

外へと飛び出す。


その瞬間、俺の目にはロロがいる東の塔が目に映った。


「・・・く」


ロロにある事がこんなにも遠い道のりだと想像もしていなかった。

俺は地面に着地すると、

そのまま暗闇に姿を隠し、

大聖堂を後にした。



・・・

・・



俺は宿屋の一室をノックする。

顔を出したのは、セブンだった。


「グレイさん・・・?どうしたのですか!?」


セブンは慌てて俺を部屋の中へと招き入れる。


「・・・セブン?こんな夜明けに騒がしいぞ。って、グレイか。どうし・・・」


「グレイさん、血が!」


俺の肩口からは血が流れていた。

キリカの剣が掠っていたようだ。


「何ごとだ・・・?」


リエルが尋ねる。

だが俺は首を横に振った。







「落ち着いたか?」


リエルが尋ねる。

俺はセブンの煎れてくれたお茶を飲んだ。


「ああ」


「して、なにがあった?話してみよ」


「大聖堂に忍び込んだ。だが、そこで・・・」


「大聖堂に・・・?どういうことじゃ」


俺はリエルに事の顛末を話す。

聖女が教皇に推されていると言う状況と、

聖魔騎士団の異常事態。


俺が理解出来ている事は少ない、

だから意識して事実だけをリエルに伝えるようにした。

俺から話を聞いたリエルは何かを考え出した。





「一体、なにがどうなっているのか・・・」


俺は呟く。


「たしかに不自然じゃ。何もかもが崩壊しておる」


リエルが言う。


「あのキリカが、俺に剣を向けるなんて・・・」


俺たちは共にデビルゴブリンの脅威に立ちむかった仲間だ。

お互いに戦う理由なんて、存在しないはずだ。


「お主の話を聞く限りでは聖女可愛さのあまり、気でも狂ったか・・・」


「そんなことって・・・」


「あり得んと思うか?人の愛憎は紙一重じゃぞ」


リエルが言う。


「だが、キリカだけじゃない。騎士長のカリュアドさんも、同じだった・・・まるで何かに取り付かれたように俺を・・・」


「個人の行動の範疇ではない、か。ふむ、まだまだ真実に到達するには手掛かりが足りぬの」


リエルが言う。


「手掛かり・・・」


俺は呟いた。


「おい、セブン」


「はい。リエル様」


俺たちの話を静かに聞いていたセブンが返事をする。


「お主、夜が明けたら情報を少し集めて参れ。・・・特に大聖堂が魔法的な影響を受けておらぬかが知りたい」


「リエル・・・」


俺は呟く。


「・・・ふん。貸すのはあくまで知恵だけじゃ。力は貸さぬから、努々忘れるなよ?」


そう言ってリエルは俺から顔を背ける。


「それで十分だ。・・・ありがとう」


俺の言葉にリエルはふんと鼻をならした。


「俺は・・・俺はどうすればいい?」


俺はリエルに尋ねた。


「まずはまともに話が出来る者を探すべきじゃ。やはりそちらも情報が足りん。」


リエルが言う。


「まともに・・・か・・・そうだな。」


俺は答えた。

確かにブルゴーに着いてまともに会話できたのはシルバぐらいだ。


「・・・気を付けろよ?お主の話を聞く限り、ただ事ではない。全容が掴めるまでは誰も信じぬ事じゃ」


リエルが言う。


「分かってる」


俺はリエルの言葉に頷く。


そして俺はそのまま、

二人の部屋の一角を借り眠りに落ちた。



・・・

・・


翌朝のブルゴーは、昨日にも増して賑やかであった。


「・・・何事だ」


俺は呟く。

商人や騎士が慌ただしく動き回っていた。


俺はそんな光景を見ながら、

「灰色のゴブリン亭」へと向かう。




「グレイさん」


灰色のゴブリン亭に行くと、

シルバが険しい顔で声を掛けてきた。


「連日すみません」


俺はシルバに促され店の中に入る。



「昨晩、大聖堂に賊が入ったと聞きました・・・もしや・・・」


相変わらず情報が早い。


「ご存じでしたか」


「まったく、無茶をなさる・・・」


そう言ってシルバはため息をついた。


「とは言え、まともな収穫はありませんでしたが・・・」


「一体なにが・・・?


「仰る通り俺は昨晩大聖堂へ。そこでキリカと聖魔の騎士団から攻撃を」


「なんと・・・」


シルバが驚いている。


「シルバさん、なんとか中と連絡を取る手段は無いでしょうか」


「大聖堂内部と、ですか?」


「・・・ええ。どうしても情報が足りず」


俺は呟く。


「・・・難しいですね。今は私ですら中に入ることを許されていない。それに・・・」


「それに?」


「今朝がた、大聖堂からお達しがでたばかりです」


「お達し、どのような?」


「・・・聖女ロロが教皇の座に就任します。三日後です」


「なんですって」


「あまりに急な事に驚きましたが、グレイ殿の話を聞いて分かりました。騎士団はあなたの出現により、聖女の教皇就任を急いだのですね・・・」


「俺が・・・?」


「彼らはどうしても貴方と聖女を会わせたくないらしいみたいですな」


「なぜでしょう・・・」


「・・・それは分かりません・・・」


俺とシルバはお互いに黙り込む。


だがその時、

俺たちは店の外に人の気配を感じる。



「む」


シルバが立ち上がり警戒する。


「来客の様

ですね・・・」


俺もその気配に思わず立ちあがる。



バタンと音を立てて店の中に入って来たのは、

騎士の格好をした人物だった。



「グレイさん!」


「・・・アン?」


そこに現れたのはロロの近衛の一人、

アンであった。



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