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第131話 不穏



「やけに騒がしい雰囲気じゃの」


ブルゴーの街に着くと、

リエルが言った。


「確かに、そうだな」


俺は答える。

たしかに出発前のブルゴーとはいささか雰囲気が異なる気がした。


街に帰着して早々、目に付いたのは重装備の騎士達。

そして司祭やシスター、商人と言った人々がいつも以上に街に溢れていた。


「・・・・戦争でも始まるのか?」


リエルが呟く。


「そんなはずは・・・ないんだけどな」


俺は呟く。

しかし状況も分からないので、

明確な回答は出来なかった。


俺は街の中央にそびえる、大聖堂を見つめた。




「・・・とりあえず俺は大聖堂に帰還の報告を入れてくる。合わせて状況も聞いてくるよ」


俺はリエルに言った。


「む、そうか。ならば私とセブンは先に宿で休ませて貰おう。久々の馬車に移動で身体が固まってしまったわ」


「お気を付けください。グレイさん」


とセブンが俺に頭を下げる。


「分かりました。のちほど」


そう言って俺たちは別れた。







「おい、待て。止まれ」


俺は大聖堂の入り口で、騎士に止められた


「・・・ん?どういうことだ」


俺は騎士に尋ねる。

普段大聖堂は礼拝堂など一部エリアを市民に開放しており、

ここで止められるなど今まで経験が無かった。



「大聖堂は現在、一般人の入場を禁止している。早々にここから立ち去れ」


騎士は高圧的に言った。

その顔には見覚えが無かった。


「そうか、だが俺は一般人じゃない。聖女の騎士をしているグレイと言う者だ」


俺は丁寧に答えた。


「・・・なに?聖女様の騎士だと?」


騎士はそう言うと疑わし気な目で俺を眺める。

そして鼻で笑い、再び口を開く。


「・・・愚かな。聖女の騎士は死んだ。嘘を吐くならもっとマシな嘘を吐け」


騎士は言った。


「死んだ、だと?」


騎士は頷く。


「ああ、騎士は聖女様の任務遂行中にダンジョンで行方不明になったそうだ。だからお前の話は嘘っぱちってことだな」


そうか。

俺が連絡をしない内に、そんなことになっていたのか。

それは大変な心配を掛けてしまっただろうな。

早く誤解を解かなければ。

そう思い、俺は構わず一歩前に出る。


「・・・教えてくれてありがとう。だがその情報は間違いだ。俺はこの通り生きている。中に入れてくれ」


とりあえずロロかキリカあたりときちんと話せれば、

誤解が解けるだろう。


そう考えていた俺の前進を阻むように、

騎士は俺の正面に立ちふさがった。


「それ以上、近づくな。聖女様の近衛は現在聖魔騎士が担っている。そして今は聖女様の教皇就任のための式典の準備中だ」


騎士は答える。


俺は騎士の言葉に驚いた。


「・・・教皇就任・・・?どういうことだ?」


俺の質問に、

騎士はわざとらしくため息をついた。


「何も知らんのだな。聖女様は史上初めて、聖女として最高位聖職者となられるのだ。ブルゴーの街を通らなかったか?今はどこもその準備で大忙しだ」


騎士は恍惚とした表情で答える。


「・・・そんなはずはない」


俺ははっきりと答えた。

今の説明で街の騒がしい様子には合点がいったが、

そもそもロロがそんな事を望まないのは百も承知だ。

きっと何かの間違いだろう。



俺の言葉に騎士がギロリとこちらを睨んだ。


「・・・お前、あまりふざけたことを言っていると痛い目にあうぞ??とっととここから出ていけ!」


騎士が声を荒げる。

その言い方に流石の俺もカチンとくる。

たとえ百歩譲って俺が一般人だったとしても、

その言い方は横柄過ぎないだろうか。


少なくとも聖魔の騎士にはふさわしくない言動だ。


「・・・やれるものならやってみろ。俺はロロに会うぞ」


俺は短く答える。

その瞬間、騎士は声を発することなく拳を振るった。


「・・・ッ!」


突然の攻撃に驚いたが、

俺はその拳を回避する。


その姿を見て、騎士は舌打ちをする。


もし俺が一般人なら間違いなく大怪我を負うほどに、

拳は速く強く振りぬかれた。


「どういうつもりだ・・・?」


俺は騎士と少し距離を取り、強い視線を向ける。


騎士は先ほどとは打って変わって顔を紅潮させ、

唇を震わせていた。


「俺のせ、聖女様を・・・呼び捨てに・・するな・・・こ、殺すぞ?」


その表情に浮かんでいたのは怒り。

急激に膨れた彼の感情に、俺は戸惑った。


「・・・なにを・・・」


俺は戸惑い呟く。


「良いからここから立ち去れ!!」


騎士は再び叫んだ。

口角には白い泡を浮かべ、目が血走っている。


俺はその異常とも思える姿と剣幕に、

これ以上の追及を諦めた。


彼を倒し無理やりに侵入することも出来たが、

状況が掴めない以上、そうすることが正しいとは思えなかった。



・・・

・・



「おかえりなさい、グレイさん」


大聖堂に入れず、途方に暮れた俺が向かったのは『灰色のゴブリン亭』だった。


開店前の店内にいたのはシルバだけだ。

店主は最近こちらには顔を出さないことが多いらしい。


彼らに店を任せてブルゴーを離れてしまったが、

大丈夫だったかな。

ちゃんとお客さんは来てくれているのだろうか。

一瞬、そんな事が頭によぎる。


「心配なさらず。店は上手くまわってますよ」


俺の表情を察し、シルバが言った。

俺ははっとして、言葉をつづけた。


「・・・ただいま帰りました。シルバさんは驚かないんですね?俺が死んだことになっていると聞きましたが・・・」


俺は改めて尋ねた。


「グレイさんが死ぬわけないと確信しておりました」


そう言ってシルバがウインクする。

うん、相変わらずのイケメンぶりだ。


「それは、ありがとうございます」


「ロロ様も、バロンさん達もきっと同じ気持ちですよ」


シルバが答えた。


「そう。実はその話を聞きに来たんです。いったいどういう事なんです?ロロが教皇に就くと聞きましたが・・・そんなこと・・・」


俺は尋ねる。

俺の言葉にシルバが表情を暗くする。


「残念ながら、その通りです」


シルバは短く答えた。


「いったい何があったんですか?」


俺は尋ねる。

シルバは何かを思案する表情を浮かべた後、

ゆっくりと話し始めた。


「・・・私にも状況は掴めておりません。ただ騎士団の動きがおかしいのです」


「おかしい、と言うのは」


俺は尋ねた。


「まず2週間ほど前に突如大聖堂を封鎖。人の入退を厳しく管理し始めました」


俺は黙って頷いた。

聖堂入口の騎士とのやりとりで、すでにそれは体験済みだ。


「それから息を潜めるように音沙汰が無かったかと思えば、ちょうど3日前。ロロ様が教皇に就任すると言うお触れを一方的に出したのです」


「そんな・・・」


「市民も戸惑っておりますが、元々人気のあったロロ様です。戸惑い半分ながら、就任を祝う雰囲気に移行しつつあります」


俺は考える。

教皇が消えてからは、聖女であるロロが事実上のトップであった。

公務等も卒なくこなし、

市民から見れば教皇への就任は特段の反発も起きないわけか。


だが。


「ロロは、事が片付いたら聖女すら辞するつもりでした。教皇就任があいつの意志だとは思えません」


俺は言った。


「私も同感です。しかし―――」


シルバも頷く。


「しかし?」


「騎士団に情報統制されながらも、大聖堂の中から漏れ伝わる噂があります」


「噂、ですか?」


「・・・はい。聞くところによると、聖女は魔力の神より偉大なる力を授けられた、故に最高位聖職者に相応しいと。そうすることが魔力の神の意志なのだと、騎士団は盲信しているとのことです」


「偉大なる、力・・・?」


俺は嫌な予感に冷や汗をかく。

シルバもまた俺の心中を察し、険しい顔で頷いた。


「・・・聖女ロロは、死者を甦らせた、と言うのです」



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