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第12話 少女との再会

 


 安全地帯から出た俺は再び探索を始めた。

 そこから1時間ほど歩き回り、

 俺は下層への階段を見つける。


 慣れていないと言うこともあり、

 ここまで既に4時間以上。

 ペースとしてはかなり遅いほうだ。


「・・・少しペースを上げたほうが良いかもしれないな」


 俺は暗闇の中、一人そんな事を考える。

 このままでは早い段階で食料や飲み水が底をつき、

 それなりの稼ぎが出る前に探索を中断することになる。



 そうなれば準備費用などの元も取れずに赤字だ。

 それだけは避けなくてはならない。

 俺は探索の足を早めることにした。




 その甲斐あってか、1階層とは異なり2階層は比較的テンポよく踏破することが出来た。

 だがそれは、慎重さををある程度犠牲にしたもので、

 当然魔物との遭遇も増えた。



 合計でオーク5頭に吸血コウモリが3頭。




 俺が3階層への階段を見つけるまでには、

 3回以上も戦闘を重ねることになった。

 ダンジョンに入ってからおおよそ7時間。

 さすがに疲労を感じ始めた。




 3階層へと到達してすぐに魔法転送装置(ゲート)と安全地帯を発見したため、

 今日のところは探索を打ち切り、眠りにつくことにした。




 魔法転送装置(ゲート)の灯りに照らされて、

 俺は部屋の入り口から一番遠い壁際で横になる。

 安全地帯を信じていないわけではないが、

 これで何かあっても気配を感じることくらいは出来る。


 念のため、眠る前に<ファイア>の魔法を唱え組んでおいた薪に火をつける。

 オークは火が苦手だ。

 これが消えるまでは寄り付くこともしないだろう。



 俺は眠る前に考える。

 ダンジョンに入って一番の問題は、引き際だ。




 自分の体調と、稼ぎと。

 正確に天秤にかけるのは一流の魔導士でも難しい。


 特に階層が深いほど報酬が良くなるダンジョンでは、

 次の階で何か見つかるかもと言う射幸心が先立ち、

 引き際を見誤ることが多い。


 依頼書の仕事に比べてダンジョンでの死亡例が多い理由の一つだ。



 疲労は感じているが、精神状態は良好。

 まだもう少し潜れるだろう。



「明日の進捗次第・・・ってとこか」



 閉鎖空間での行動は48時間を境に

 精神に多大な負荷をかけると言われている。

 なんとかそれまでには帰還したいものだ。


 俺はそんな事を考えながら、目を閉じた。

 眠りはすぐに訪れた。




 ・・・

 ・・

 ・



 ―――――キキン



 俺は金属音に気が付き目を覚ます。

 坑道のような場所では金属の音は反響しやすい。


 ―――――キン、キキン


 意識がはっきりしてくると、

 より鮮明に金属同士がぶつかるような音が聞こえた。


「・・・戦闘?」


 俺は広げた野営セットを片づけ、安全地帯を出る。

 そしてその音の元へと走った。







 坑道を何度か曲がると、

 金属の音が大きくなってきた。

 近付いている。



 俺は身を屈めて、先を窺った。

 岩陰の向こうで何かが素早く動いている。


 そこには一回り巨大な身体を甲冑に身を包んだオークが2頭と、

 そいつらの猛攻に晒されるフード姿の人影があった。



 よく見るとそれは入り口で出会った彼女であった。

 彼女は単独で、オークジェネラルと呼ばれるオークの上位種と相対していた。



 かなり分が分が悪いようで、

 彼女の身体はフラフラでオークジェネラル達はそんな彼女を

 いたぶっているかの様に見えた。



 ある程度の知能を持つ魔物は、

 こうして相手を嬲ることがある。

 食料を得るためではなく、

 遊びの為に。


 下劣た笑いを浮かべたオークジェネラル達に、

 俺は激しい怒りを覚えた。


 咄嗟に岩陰から飛び出て、

 オークジェネラルに向け魔法を放つ。



「<時よ>」



 その瞬間、俺以外の時間の流れが止まる。

「忘れ人の磐宿」を出てから始めて使用する時間魔法だ。



 全身から魔力が吸い取られるような強い脱力感。

 停滞し、ねっとりと絡みつくような空気の中を俺は駆ける。



 射程範囲のギリギリで、俺は再び魔法を放つ。



<フレイムボム>

<フレイムボム>



 俺はオークジェネラル二頭に向け、それぞれ魔法を設置した。

 その瞬間、耳元でバキンと何かが割れるような大きな音がし、

 時間は再び流れ始める。



「ぐっ、は・・・」



 魔法を解いてすぐに息苦しさに襲われる。

 マズイ、酸素が足りない。

 一瞬にして意識が遠のくような感覚。



 だが俺は荒くなった呼吸を整える事もせず、

 なりふり構わずオークジェネラルに相対する。

 

 急に現れた俺に、オークジェネラル達は驚いている様子だ。


 

 そして設置した魔法を発動するきっかけに指を鳴らす。

 

 その瞬間、オークジェネラル2頭の頭部は爆発に包まれた。



 完全に無防備な状態の頭部への爆破魔法。

 オークジェネラルは、その巨体を地面に倒した。




「これは・・・」


 先ほどの少女が驚いている。


「ゼェ・・・ハァ、大丈、ハァハァ夫だったか?」


 俺は肩で呼吸をしながら、彼女に声を掛ける。

 そこでようやく彼女は俺に気が付いたようだった。



「あなた、入り口の?これは一体・・・」



 俺はようやく呼吸を落ち着けて、彼女に向かい合う。



「・・・勝手に加勢させて貰った。お、お節介だったが、獲物を横取りするつもりはないから安心してくれ」


 俺は言い訳をする。

 彼女は首を横に振る。


「いえ、助かった。さすがにオークジェネラル2頭は分が悪かった。逃げるタイミングも見つけられずあのままでは私はやられていた」


 冷静な分析だ。

 たしかに俺が駆けつけなければ彼女はやられていただろう。

 オークジェネラルは単体でもCランク相当の魔物。

 同時に2体と言うことになれば、上級魔導士でも単身では厳しい相手だ。


 彼女は何かを考え込んでいるようで、暗い顔をしていた。

 俺は尋ねる。



「・・・おい、どうした。怪我でもしているのか?」


「もしやられていたらという事を想像していた。おそらく私は生かされたまま捕まり、オーク共の慰み者になっていた。あなたには本当に感謝している」


 彼女は礼を言う。



 俺が慌てて駆け出したのは、同じことを危惧していたからだ。

 オークは多種族の雌を襲い繁殖する。

 人間が捕まるという事件も少なくはない。



 彼女はフードを下ろし、俺に向きあう。


「私の名前はヒナタ。入り口の件も含めてあなたには二度も助けられた。」


 そうして頭を下げた彼女は、

 銀髪のショートカットでとても美しい顔立ちをしていた。

 無表情な顔がまるで、彫刻美術のような印象を与える少女であった。



 ・・・

 ・・

 ・



 俺は引き続き坑道を歩き続ける。

 睡眠を取れたお陰でかなり回復できたようだ。

 ダンジョンのような閉鎖的な場所では

 体力より先に精神が限界を迎えることが多い。


 ここはまだ3階層の途中。


 どこまで行けるかは分からないが、

 潜れ潜るほど稼ぎは多くなる。

 実際、先ほどのオークジェネラルから得た魔石は、

 市場で売ればひとつ10,000ゴールド以上にはなるだろう。


 それだけで角ウサギの依頼書の日給は越える。

 俺はまだ見ぬお宝の発見に胸を高鳴らせた。



「ところで、お前はどこまで付いて来る気だ?」



 俺は隣を歩くヒナタに声を尋ねる。


 オークジェネラルを倒してから1時間。

 俺たちは坑道を共に歩いていた。



「・・・冷たい。また私がオークジェネラルに襲われたらどうする気」


 ヒナタが答える。


「いや、それが怖いなら街に戻れよ。魔法転送装置(ゲート)の場所は教えただろ?」



 俺はヒナタに言う。



「私の辞書に撤退の二文字はない。目的を達するまでは街には戻らない」



 ヒナタは得意げな顔で言う。

 いや、やられそうになってただろ。

 俺は心の中でツッコミを入れた。


「そう邪険にしないで。街に戻ったらぜひお礼をしたい」


 ヒナタが言う。


「お礼?そんなのは不要だ。ダンジョンで困ったときはお互い様だろ?」


 俺は言った。

 ヒナタは困ったような表情をする。



「それはダメ。一族の掟で恩には必ず報いる必要がある。そうしなければ私は一族から追放されかねない」



「いや、それは俺には関係ないんじゃ・・・」



「ダメ」



 その後も説得を試みたが、

 ヒナタは頑なにお礼をすると言って聞かなかった。



「・・・もちろん、お礼と言っても限界はある。その、よ、夜の相手を、と言われても困る。責任を取ってもらえるなら考えるけど」


「誰がそんなこと言うか!」


 そんなやりとりをしながら歩いていると、

 4階層へと至る階段を見つけた。

 俺とヒナタは連れ立ってその階段を下りていく。








「グレイ、そっちじゃない。こっち」


「お、あぁ。悪い」


 ヒナタに指示を出されて進行方向を変える。


「そこ、罠がある」


「お、おう」


 ヒナタが指さした地面には、

 踏むと作動するタイプの罠が仕掛けられていた。



 結論から言うと、ヒナタはむちゃくちゃ優秀だった。

 マッピング、索敵、罠の解除まで。

 一家に一台ならぬ、一パーティーに一人は必要な人材だ。


 彼女のお陰で探索スピードは恐ろしく上がり、

 既に第7層も中盤に差し掛かろうとしていた。

 ここまで掛かった時間は、俺が3層に到達した時間の半分以下だ。



「お前、何者だ?」


 俺はヒナタに尋ねた。

 その意図を理解したのか、ヒナタはドヤ顔で答える。


「内緒。尊敬した?」


 俺とヒナタは薄暗い坑道をほぼ一直線に進んでいった。




 ヒナタについて分かったことは、

 フォレスの街に滞在している事、

 出身は俺の目的地である東の大陸であること、

 Cランクの魔導士だという事だ。

 このダンジョンへはとあるアイテムを目当てに入ったらしい。

 なんのアイテムかは教えて貰えなかった。



 それからもう一つ分かったこと。

 彼女は魔法がほとんど使えなかった。

 魔法の適性は白だが、生まれながらにして魔力量が低く、

 回復魔法を一度使うだけで魔力切れを起こすそうだ。

 彼女もまたこの魔導士社会では落ちこぼれと言える。



 だが、彼女は魔法など必要ないくらいの強さを持っていた。




「グレイ、伏せて」


 彼女に指示されて咄嗟に身を屈める。

 彼女が腰に差したロングソードを振るう。



「「グギャア」」



 そのたったひと振りで、

 俺の背後に潜んでいたオーク2頭が同時に両断される。

 剣筋は俺には見えなかった。


 俺が手を出す前に戦闘が終わる。

 これで三度目だ。


 彼女は剣に付いた血を払うと、剣を収めた。

 彼女の小さな身体には不釣り合いなロングソード。

 

 だがそれを扱う仕草があまりにも自然で、

 俺はその姿に見とれてしまう。



「ん、惚れた?」


 そう言って俺の目を見るヒナタ。

 俺は途端に恥ずかしくなり、顔が赤くなる。


「ば、馬鹿。そんなワケあるか!」


「照れない照れない」


 ヒナタは俺をいじりながら、

 今倒したオークから魔石をはぎ取っていた。



 ・・・

 ・・

 ・



「着いた、な」


 俺とヒナタの前には巨大な扉がそびえたっていた。

 入り口の扉と同じ仕掛けの魔導扉。

 これがダンジョンの最奥の証だ。

 ここまでたどり着けるとは正直思わなかった。



「あなたは入る?」


 ヒナタが俺に尋ねる。

 結局ここまでヒナタが探すアイテムと言うのは手に入らなかった。

 彼女は当然に主の部屋に入るつもりのようだった。

 

 俺は彼女に答える。


「ここまで来たんだ、主の顔くらい拝んでやるさ。いざとなったら逃げる」


「同意」


 俺は扉に、手を掛け魔力を流した。

 扉は土煙を上げながら、左右にゆっくりと開き始めた。

 生暖かい風が中から流れてくる。


「行くぞ」


 俺とヒナタは、主の部屋へと足を踏み入れた。


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