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第128話 黒炎


リエルは驚いていた。


グレイがあのゼメウスと戦っている。


最強と言われたあの魔導士の攻撃を、

すべて紙一重で捌いているのだ。


現時点でのグレイとゼメウスの力量の差は明らか。

だがそれでもグレイは死に戻りと言うこの世界のルールを使い、

文字通り命を削ってゼメウスに挑んでいる。


一見ズルの様にも思えるが、

そもそもそんな事が出来る精神力を有しているグレイが規格外なのだ。


リエルは弟子の成長を、まるで親の様な気持ちで見守っていた。



「・・・本当にもったいないの」


リエルが呟く。


現代の魔導士が弱体化したと言うのは無理もない話だ。


かつては大陸同士が争い、

そこに強力な魔物の跋扈や、

特殊な力を持つ魔族も加わり、

この世界は混沌と戦いに溢れていた。


そこは平和な今の世界とは異なる修羅の世界。

今の平和な時代に生きる魔導士とは、

そもそもの基準が異なる。



だがそれを考えてもグレイの力は突出していると思えた。


もしもあの時代にグレイが生まれていたら、

きっと名のある魔導士に成長したに違いない。


そういう意味で、リエルはもったいないと呟いたのだ。



「・・・お主、もしや・・・」


リエルは呟く。

脳裏に浮かん考えをリエルは即座に否定する。

そんなこと出来る訳がない。

リエルはそう思い、再び二人の戦いに目を向けた。






<フレイムボム改>


俺は魔法をゼメウスでは無く、

彼の立っている地面に対し放った。


爆破により地盤が崩れ、地面が陥没する。

それにより、この戦いで初めてゼメウスが体勢を崩した。


よし、ここだ。

俺は一つ目の切り札を切る。



攻防の中で少しずつ溜めていた左手の魔法を、

開放する。



<死よ>



俺が魔力を零した地から、

まるで波紋のように魔力が広がり、

そこに白い靄が生まれる。


白い靄はそれぞれが小さな塊となり、

徐々に形を作っていく。



「・・・む」


ゼメウスが俺の魔法に気が付いた。

だがその前に、俺の魔法は完成する。


闘技場には百匹近くのゴブリンが、

生み出されていた。


「ギャギャギャ」


俺の生み出した白ゴブリン達は、

目の前のゼメウスに牙を剥き、

威嚇している。


「いけっ!!!」


俺が叫ぶと同時に、

白ゴブリンはゼメウスに襲い掛かった。



「・・・何かと思えば」


ゼメウスはため息をつき、

右手を振るう。

生み出される爆発。

それだけで半数近くの白ゴブリンが拭き飛んだ。


だが恐れを知らない白ゴブリンたちは、

次々とゼメウスに襲い掛かる。

ゼメウスは二度、三度とゴブリンを薙ぎ払う。


僅かな時間で、

全てのゴブリンは白靄へと返った。


これも想定通り、

ゼメウスが一瞬でも俺から注意を逸らしてくれればそれでよかった。


俺は白魔法を全力展開し、

自分の全身を極限まで強化する。



「無駄な――――――」


無駄なことを。


ゼメウスが次にそう言うのは分かっていた。

そしてその瞬間、ほんの僅かに俺への警戒心を緩める事を。


その瞬間に俺はゼメウスとの距離を一気に詰め、

彼の懐へと入る。


「ッ!」


ゼメウスが表情を固くするのが見えた。


<フレイムボム>


俺が魔法を放つとゼメウスがそれを避ける。


このタイミングで魔法を放つと、

ゼメウスが魔法で相殺しないのは確認済みだ。


<ファイアボール改>


俺は既に集束を済ませていた魔力をゼメウスに放つ。


だが分かっている。

この火球をゼメウスは、

魔法障壁により跳ね返すのだ。


「無駄だっ!」


俺の考える通り、

ゼメウスは俺の魔法を魔力の障壁により跳ね返した。




――――来た。




俺は身震いする。

魔法障壁の展開後の硬直。


ここがゼメウスに攻撃が通る唯一の場面だ。




俺は目を見開き、

右手に集束した魔法を、

()()()()()更に圧縮した。



「ああああああ!!!」


俺の右手にかつてないほどの圧力が掛かる。


初めての魔力操作に、

右手が暴れ回る。


筋繊維が引きちぎれ、

腕の中で内出血が起きるのが分かる。


だがそれでも、構わない。


積み重ねてきた死に比べば、

こんなのは些細な事だ。


行く所までいってやる。


俺は痛みに耐えるため、

ぐっと歯を食いしばった。


そして右手と左手を合わせ、

まるで合掌のような構えを取る。


俺は圧縮した時間魔法と、

左手に圧縮していた別の魔力とを掛け合わせ更に力を加える。


二つの相反する魔力が混じり合っていく。




魔法同士の結合。

これが俺のイメージした切り札だ。




属性の異なる二つの魔法が反発し合う。

それにより合掌された俺手の中で、

今までに感じた事のないほど強力な魔力が生まれる。



「くらええええええ!!!」



そして俺はゼメウスにその魔力を全力で放った。


俺の両手から生まれたのは黒い炎。


その炎は蛇のようにのたうち回りながら、

硬直状態のゼメウスの身体を包んだ。


黒い炎の渦が高く天まで伸び、

喰らい合う幾匹もの蛇のように、

炎が重なりあう。



「・・・これが・・・これがどうしたぁ!!!」



硬直状態が終わったゼメウスが、

眼を見開き、激高する。

初めて見る、荒ぶるゼメウスの姿。


ゼメウスも魔力を集束し、

それを一気に解き放つ。



<アイスストリーム>


放たれる氷の魔法。


黒い炎はゼメウスの魔法の冷気により霧散し、

ゼメウスの身体が一瞬だけ炎から解放される。



だが次の瞬間―――――――


再びゼメウスは黒い炎へと包まれた。


「お、おおおおおおおお!!!!」


予期せぬ出来事に、ゼメウスが声を上げる。


上手くいった。

俺はその光景を見て確信する。



「これは・・・まさか・・・」


リエルがその魔法を見て呟くのが聞こえた。




だが俺はゼメウスから目を離せない。


「ああああああああ!!!!」


ゼメウスは何度も冷気の魔法を放ち、

炎を消そうとするが俺の黒い炎は消えることなくゼメウスを焼き続けた。


それは無限の炎。

俺の魔力を喰らい続ける限り消えることの無い、

炎の牢獄だ。

相手を焼き尽くすまで、消える事はない。



だが―――――

俺はその炎に焼かれるゼメウスを見ながらも本能的に感じていた。

これではゼメウスを倒し切れない。



黒い炎はゼメウスを解放せず、その身を焼き続ける。

炎の蛇が何度も何度もゼメウスに喰らいつく。



だが最強の魔導士は、肉体と精神の力だけでそれに耐えていた。


「これしきの・・・炎では・・・俺が・・・俺は―――――」


ゼメウスが言い終わる前に、

俺は彼の目の前に飛び込んでいた。


そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()を集束し、

右拳に圧縮した白魔法を纏う。



「ああああああああああ!!!!!」


そしてゼメウスを焼き続ける黒い炎ごと、

俺はその拳を撃ち抜い


ゼメウスは吹き飛び、

闘技場の外壁へと叩き付けられる。


轟音と共に外壁が崩れ、

土煙が舞い上がった。




「ハァ、ハァ・・・・」


俺は肩で呼吸をしながら、

今にも倒れそうな両足を必死で抑え込む。


「どう・・・だ・・・・」



そうは言ったが、俺もとうに限界だった。

立っているのでさえやっとの状態。

これ以上の戦闘は無理だ。


俺は半ば願うような気持ちで、

ゼメウスが吹き飛んだ先を見る。



そしてそこに一陣の風が吹き、

土煙が晴れた先にいたのは――――




「・・・なっ・・・」



俺は我が目を疑う。

そこには鎧姿のゼメウスが立っていた。



「そんな・・・」


俺は全身から力が抜けるのを感じた。

これで倒せないならば、俺になす術はない。


再び絶望し倒れそうになる俺を、

後ろから支えたのはリエルだった。



「・・・よく見ろ馬鹿者」


リエルが言う。


「え?」


俺は尋ねた。



その瞬間、ゼメウスの身体がフラリと揺れ、

その場に力なく倒れこんだ。


ドシャリ、と鎧が落ちる音が闘技場に響いた。



俺は訳が分からず、茫然とする。


「俺、俺は・・・」


「・・・お主の勝ちじゃ。よう頑張ったの」


そう言ってリエルは俺の頭を撫でた。



ゼメウスに勝利!



ここでお知らせです。

今週(10/7~11)は平日更新を停止いたします。

10/12にまとめてドカッと更新しますので、

まとめてドカッとブクマ&評価などお願いします。


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