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第126話 夕焼けに染まる街



ロロは、アン、ダリル、バロンと共に、ブルゴーの街を歩いていた。


今日の午後は聖女としての公務は無く、

久しぶりの余暇となった。


「よ、良かったんですか?キリカ様を巻いてきちゃって・・・」


アンが心配そうに尋ねる。


「それは・・・その・・・」


ロロが困ったような表情で答える。


「これでいいんだ」


ロロに変わり、バロンが答える。


「・・・バロン」


「たまには息抜きも必要って事っスよね!最近、キリカ様怖いっスから」


ダリルがそう言って笑う。

アンは仲間の能天気さにため息をついた。


「・・・まぁ、私も今はキリカ様の部下じゃなくてロロ様とグレイさんの部下だし。それならそれで良いですけど」


「・・・アンさん、ありがとう」


そう言ってロロはアンに礼を言う。


「そ、そんな!やめてください!」


アンは慌てて恐縮した。



「見えてきましたよ!」


ダリルが声を上げる。

彼の指さす先には小さな聖堂の様な場所が見えた。


ここは街外れの聖堂。

滅多に人が来ない、ブルゴーの街の外れの外れだ。


「うわぁ・・・綺麗」


アンが声を漏らす。

聖堂がある場所は高台になっており、

ブルゴーの街が一望できた。


「素敵ですよね。ここ、滅多に来られないけど・・・大好きな場所なんです」


ロロが言った。


「はい、本当に素敵です。こんなところがあるなんて知りませんでした!」


アンが答える。


「フフフ、ブルゴーは隠れた名所が多いんです」


ロロは満足そうに答えた。






「・・・ふぅ」


ロロは祈りを終え、立ち上がった。


「もう良いのか?」


すぐそばで様子を見ていたバロンが尋ねる。

アンとダリルは二人で警邏に行っている。

ここには二人きりだ。



「うん。神様に愚痴、たくさん聞いて貰っちゃった」


「・・・聖女とは思えんな」


バロンが笑う。


「・・・うん、そうだよね。私って本当に聖女失格だよ」


ロロが寂しそうな顔で笑う。


「・・・すまん、今のはそう言う意味では」


バロンが慌てて謝罪する。


「いいんだよ。そろそろ、潮時かなって思ってるし」


「潮時?」


「うん。教皇が居なくなった混乱もだいぶ落ち着いてきた。キリカとカリュアドさんが、次の聖女の育成にも着手してくれてるみたいだし、そろそろ私は罪を償うべきかな、って」


ロロが言う。


「・・・罪か」


バロンは考える。

それがあの生命魔法を意味するという事は理解していた。

ロロの考えは否定するつもりはないが、

バロンは自分の中にもやもやした感情が生まれるのを感じた。



「・・・こうは思わないか?その力は禁忌なんかじゃなく、魔力の神がロロに与えたものなんだ、と」


「魔力の神が・・・?」


「そうだ。実際、聖女が禁忌魔法を会得する、なんて話が出来過ぎている」


「私が・・・」


「主との出会いも含め、すべてが偶然では片付かない。何か運命的な力が働いている、俺たちを動かしている。そう思うんだ」


バロンは呟いた。




「・・・仮に魔力の神様が私にこの力をくれたんだとして、私はどうすればいいのかな?」


ロロは尋ねた。


「・・・それは分からない。だが、大いなる力には大いなる役割があるはずだ。それが自分で手に入れたものだろうと、他からもたらされたものだろうと」


そう言うとバロンは立ち上がる。


「見ていろ」


そのままバロンは目を瞑り、右手を前に突き出した。

そしてそのまま深く集中をしている様で、ブツブツと何かを呟いていた。


「・・・?」


ロロはその姿を見つめていた。

一体なんだと言うのだろう。


そう思い、バロンに声を掛けようとした時――――



「<ファイア>」



バロンが口を開き、魔法を発動した。

バロンの掌に一瞬だけ炎が生まれ、そのまま消える。


「・・・ッ!くっ」


バロンは火が消えると脱力し、

その場にうずくまった。



「バロン・・・今のって・・・」


ロロは目の前の光景に驚いた。

バロンが使ったのは紛れもなく黒魔法。

白魔法の適性を持つバロンではありえない事であった。


「・・・まだ、これだけで限界だ・・・だが・・・出来るようにはなった」


バロンが答える。

その方は大きく上下しており、

呼吸が激しくなっている。


「そんな・・・」


こんなことが出来るのはグレイだけだと、

彼が特別な魔導士なのだと思っていた。


「・・・分かったか?主と出会い、俺も変わった。・・・この力には何か意味がある、俺はそう信じている」


バロンが答えた。


「力に、意味が・・・」


ロロは自らの手をじっと見つめる。

自身の中に宿る生命魔法。


今までは禁忌に触れる魔法と、

その存在を頭に浮かべる事すら忌避していた。



「バロン・・・ありがとう。少し考えてみるね」


ロロは顔を上げ、呟く。



「・・・ふん。これも運命の導きに過ぎん」


バロンは恥ずかしそうに答え、顔を背けた。

彼はいつもこうなのだ。

正面から人に感謝されるのを異常に恥ずかしがる。

このカッコつけた物言いも、ただの照れ隠しなのだろう。


ロロは自分の方を見ない、

大切な幼馴染を見て、

ふっと笑みを浮かべた。



・・・

・・



大聖堂への帰り道。

ブルゴーの街は夕日に染まっていた。

白い建物が赤く染まり、

とても美しく輝いていた。


良い日だった。

ロロはそんな事を思い、

満足する。


最近はゆっくりできる様な時間も減っていたから。


四人の騎士が談笑しながら歩いていると、

一人の女性が一行の前に現れた。


それは大聖堂の侍女の一人。

最近頻繁にロロに近付いて来る例の彼女だった。


ニコニコと満面の笑みで、

こちらを見ている。



「ロロ様・・・」


名前を呼ばれ、

ロロがその侍女に気が付く。


「貴女は・・・」


侍女は後ろに手を回し、

フラフラと一向に近付いて来る。



「ロロ様、どうして・・・どうしてですか・・・」


侍女はブツブツと何かを呟いている。


「えっと・・・どうしたんですか?こんなところで。そろそろ閉門の時間ですよ??帰らないと・・・」


ロロは戸惑いながらも優しく諭すように尋ねた。

だが侍女から答えはない。

そのままフラフラと距離を詰める侍女。


アンはふと侍女の表情に気が付き、

全身に鳥肌が立った。

よく見るとその侍女は、

笑顔を浮かべながら大粒の涙を流していた。


その異様さに、アンの身体が硬直する。



「ロロ様、なんで・・・なんで・・・そんなに素敵なんですか・・・可愛いんですか・・・私は・・・私の・・・」


「なにを・・・?」


異様な雰囲気に気が付き、

バロン達が身構えた時にはもう遅かった。


「わだじのものになれえ!!!!!!!」


侍女はそう言ってロロ目掛けて飛び出してきた。

隠していた右手に持っているのは、小さなナイフ。


「・・・ッ!」


ロロは突然の出来事に反応が遅れる。


「ロロッ!!」


その時、バロンがロロの目の前に飛び出してきて、

侍女の身体を受け止めた。


「確保ッ!」


バロンが声を掛ける。

だがその前にアンとダリルは既に彼女の手を掴み、

ナイフを奪い、身体を拘束していた。


「はなせぇ!!ロロ様にたかる、虫ケラどもがぁ!!ああああああああああ」


眼を見開き、涎をまき散らしながら叫ぶ侍女。

そこにロロが知る彼女の淑やかな雰囲気は微塵も残っていなかった。

ロロは訳が分からず、ただ狼狽する。



だがその時――――



「バロン!!!」


アンが叫んだ。



ロロはハッとして、

バロンの姿を見る。


そうだ。

彼は自分を庇ってくれたのだ。


バロンはその場にうずくまり、

肩で息をしていた。


そして彼が居る地面には、

夥しい量の血だまりが出来ていた。


夕日がそれを照らし、

さらに濃く鮮やかに見せている。


「バロン?・・・そんな・・・」


ロロは口元を押さえ、震える。


「ロ、ロ・・・」


バロンは一瞬顔を上げ、

ロロの方を見た。


だがバロンはそのまま、

彼自身の血の海の中に力なく倒れこんだ。



「いやあああああああああああ!!!!」


夕暮れのブルゴーに、

ロロの悲鳴が響いた。


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