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第124話 束縛


ゼメウスには新たな人生を授けて貰った。

それに対して俺が感謝をするのは当然のことだ。

更に言えるゼメウスは世界で最も偉大な魔導士であると同時に、

俺の魔法の師でもある。


そんな俺が、無意識のうちに彼を神格化するのもやむを得ないことだろう。


だが問題は俺がリエルの言葉により、初めてその事実に気が付いた、と言う事だ。



――----相手を正確に理解できぬままでは勝てぬものも勝てんぞ。



そう言われて考える。


果たして俺は闘技場に居るあのゼメウスに、

本当にちゃんと勝つつもりで挑んでいたのだろうか。


百歩譲ってそう思っていたとしても、

ゼメウスに勝つためには、

自分のすべてを投げ打って当然だと思っていたのは間違いない。

だからこそ、自分の命を代償として支払うような決断をした。

命を失う重さは自分こそが一番分かっているハズなのに。



「ふん、言われてようやく気が付いたようじゃの」


リエルが言う。


「・・・」


俺は頷き答えた。

今ならリエルが俺の行動を無謀だと一蹴した理由も理解出来る。


「・・・ようやくまともな顔になってきたな。魔導士はそうでなくてはならん」


そう言ってリエルが笑う。


「顔?」


俺は自らの頬に触れ尋ねた。


「先ほどまでのお主は敗者の顔をしておった。敵を打ち負かすことを諦めた負け犬の顔じゃ」


リエルが言う。


「・・・まぁ反論も出来ないけどな」


俺はそう言って笑う。

そこで笑う元気が戻ってきたことに気が付が付いた







「最終的にゼメウスを倒すのであれば、やはり時間魔法しかないじゃろう。なぜか奴は、その魔法を知らない様子だったのじゃろ?」


リエルが言う。


「ああ。たしかにゼメウスは俺の時間魔法を未知の魔法と認識しているようだった。しかしリエル。結局、時間魔法はゼメウスには効かなかったんだ。ゼメウスは俺が停止した時間の中を余裕で動くことが出来る。何度も試したから間違いない」


俺は答えた。


「・・・馬鹿者。時間魔法はいわばこの世の理に干渉する魔法じゃ。そこにゼメウスの事など関係ない。ゼメウスがお主の魔法の中で動けた理由はただ一つ。グレイ、お主の時間魔法が未熟なだけじゃ」


リエルははっきりと言った。


「・・・未熟?」


俺は尋ねた。


「・・・そうじゃ。お主が得た力を、禁忌に触れる魔法の力を侮るではない。それは数多の魔導士が至れなかった未踏の力じゃ。術者の力と想像力で、魔法はどこまでも進化する。それを努々忘れるな」


リエルは言った。


かつてデビルゴブリンと戦った際には、

火力不足を補おうとして時間加速の力を得た。

たしかに俺の力次第では時間魔法はまだまだ進化する可能性を秘めている。


「時間の流れに抗える者などおらん。いるとすれば、それはまさしく神に等しい存在じゃ」


リエルがそう言って笑った。


「時間魔法を・・・」


俺は右手を見る。

俺は自分の可能性と、この右手に宿る時間魔法を信じる決意を固めていた。



・・・

・・



「・・・ロロ、大丈夫か?」


バロンはそう言って幼馴染である聖女ロロの顔色を窺った。


「・・・うん、ありがとう。バロン、少し疲れちゃっただけだよ」


ロロは答える。

言葉とは裏腹に、

その顔色は良好とは言えなかった。


グレイが旅立ってから、間もなく一か月が経とうとしていた。

北の街テジョンに到着したという知らせは届いたが、

その後一向に音沙汰がない。


図書館迷宮は最上級レベルの難度を誇るダンジョン。

あのグレイと言えど何が起きるか分からない。

ロロとバロンはグレイの身を案じていた。


「主ならば必ず帰って来る」


バロンは何度もロロに言った。


だがロロの表情は晴れず、

眼の下のクマがその心労を物語っていた。



だが、ロロを悩ませているのは、

消息不明のグレイの事だけではなかった。


「ロロ様!こんな所で何をしているのですか!」


そう言って部屋に飛び込んできたのはキリカだ。


「キリカ・・・」


ロロが呟く。


「会食の後はすぐに外出が必要だと言ったでしょう?どうして私の言う事を聞いていただけないのですか?」


キリカが真剣な表情でロロに尋ねる。


「ご、ごめんなさい」


ロロは小さな声で謝った。


「・・・ロロ様。私はロロ様の事を心配しているのです。ロロ様にとって一番いい判断をしているつもりです」


キリカはもはや泣きそうな声で懇願する。

彼女がロロの事を一番に考え行動してくれていることはロロもよく理解していた。



「・・・キリカ様、ロロは・・・」


バロンが堪らずロロを擁護しようと口を開く。

だがその途端、キリカはバロンに対して厳しい視線を向けた。


「・・・バロン、私の前ではきちんと聖女様、と呼べ。お前とロロ様の関係はもちろん知っているが、騎士としてはけじめを付けろ」


元上司のあまりに厳しい物言いに、

バロンは思わず背筋を伸ばす。


「・・・キリカ!バロンは――――」


「ロロ様、これは騎士団の統制の問題です」


バロンを庇おうとするロロに、

キリカがぴしゃりと言った。


「・・・申し訳、ありません」


バロンはキリカに謝罪をした。

キリカはバロンの顔を見る。


「分かれば良い、今後はロロ様と話をするときは私に許可を取れ」


キリカは言った。


「・・・そんな・・・」


ロロは呟いた。

だがバロンはそれを視線で制した。


「では行きましょう。ロロ様」


そう言ってキリカはロロの手を掴む。

バロンはその後姿を、見守るほかになかった。





「ロロ様、今日もお美しいですね!」


大聖堂で働く侍女に声を掛けられる。

最近よく話しかけてくれる人だ。

ありがとう。

そう声を返す前にキリカが答える。


「公務中だ。仕事に戻れ」


冷たいその言い方に、

侍女は気分を害したような顔で、

その場を立ち去る。


「キリカ!いくら何でも今のは・・・」


ロロの言葉に、キリカは首を振る。


「あなたは聖女なのです。威厳を以て接せねばなりません」


キリカは答えた。




「・・・ロロ様」


そう言って廊下の先から現れたのは、

騎士長の一人カリュアドであった。


その姿を見るなり、

キリカが小さく舌打ちをしたのをロロは聞き逃さなかった。


「カリュアドさん・・・」


ロロが答える。


「カリュアド殿、ロロ様は公務中です」


キリカが答える。


「分かってますよ。この後は、私と、打ち合わせですからね」


カリュアドが言う。


「な・・・予定では・・・」


キリカが驚いた様子で答える。


「予定は変わったのだ、キリカ。君は下がると良い」


カリュアドが言う。


「それは致しかねます」


「ほう。騎士長の私の命令が聞けないと?」


「今の私は騎士兼ロロ様の公務のサポート役です。予定変更は私を通していただく必要があります」


「貴女の?すでにロロ様には了解をいただいておりますよ?ねぇ、ロロ様?」


カリュアドがにっこりと微笑んでロロに尋ねる。

ロロは午前中にカリュアドにそんな話をされたのを思い出した。


「え、ええ・・・確かにそんな話は・・・」


「そ、そんな・・・ロロ様・・・」


ロロの答えにキリカはショックを受けたような表情を浮かべる。


「分かりましたか?では、騎士の仕事に戻りなさい。」


カリュアドはキリカに言う。

キリカはまるで怨敵を見るかのような視線をカリュアドに送り、

その場を後にした。



「カリュアドさん・・・」


ロロは恐る恐る声を掛けた。


「・・・大丈夫です。最近キリカは貴女を独占しようとしているかのような振る舞いですからね。これくらいはいい薬でしょう」


カリュアドはそう言ってロロに微笑んだ。


「そう、ですね・・・」


ロロはそれに答える。

なぜかキリカが自分に過干渉するようになった事は気が付いていた。

公務中も公務の合間も、四六時中近くにいるようになり、

ロロに近付こうとする人間を男女問わずに遠ざけようとした。


サポートと言えば聞こえはいい、実際キリカには多くの場面で助けられている。

だが度を越したそれは今や束縛、と言っても良いレベルだった。


「ロロ様、気になることがあればいつでも言ってください。私はいつでもロロ様の味方ですよ」


カリュアドは言った。


束縛をしているのは、貴方も同じではないですか。

とは言わなかった。


キリカだけでなく、カリュアドもまたロロを独占しようと行動する場面が目立つようになっていた。


何かが起きている。

ロロは思った。

だが何が起きているかは分からなかった。


不安を胸中に、ロロは自らの想い人でもある騎士の事を思う。


早く帰ってきてください、グレイさん。

ロロは不安に耐えながらも、

毎日のようにそう願っているのであった。



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