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第122話 絶望

もうじきブクマ500ですわ。。

書き始めて三ヶ月になりますけど、

ホントにありがとうございます。


これだけの方に読んでいただいた事が本当に嬉しいです。

夏も終わりますが、

年内には完結させます!

引き続きお願いいたします。






それからどれくらいの時間が経ったのだろう。

俺の時間感覚は既に正常とは程遠いものとなっていた。



いや、そもそもこの世界には時間なんて概念はない。

数えられるのは、

何度このベッドで目覚めたかくらいだろう。



数を数える事を早い段階で止めていたのが功を奏したのか、

俺は自らの死の回数に押しつぶされるような事はなかった。

だが目覚めた時見える天井を俺はもう何度も何度も見ていた。



自分の命に対する執着は次第に薄れ、

いつしか自分の死すらもただの事象として客観的にとらえるようになっていた。


狂っている。

俺は自分の変化をそう感じていた。


なるべく考えない様に。

そう意識しても戦闘中のふとした閃きにより、

否が応でも自らの死の経験を痛感してしまう。



―――――あぁ、この攻撃は30回前に俺を殺した魔法だな。



そんな狂気的な経験則が戦闘の至る所に。

何度も何度も同じ本の同じ頁をめくるが如く。

俺は何度もゼメウスに挑み続けた。





「良い顔だ。まるで骸だな」


戦闘中にゼメウスが言う。

もはや俺はそれには答えなかった。


「・・・言葉も忘れたか?だがまだ絶望に支配されてはいないな。それでこそ、武人だ」


ゼメウスがそう言って手ををかざすと、

俺の命は簡単に奪われる。


次だ。

次。


まだ命がある内から、俺はそんな事を考える。

命は何度でも繰り返すが、

俺の感情はすでに死につつあった。


だが、その大きすぎる代償の積み重ねが、

俺とゼメウスの戦いの様相を徐々に変化させ始めた。



・・・

・・



「・・・くっ」


俺は身を翻し、ゼメウスが生み出す炎の渦を回避する。

同時に放たれていた風の刃を、

自らの炎魔法で相殺する。


俺に向け放たれ続ける魔法の嵐の中。

必死で転がり込んだ先に、

一瞬の空白地帯が生まれた。


それはゼメウスすらも気が付かないような、

魔法と魔法の境界。



だが俺はついにゼメウスの隙を見つけた。


「っ!」


ゼメウスは大魔法の発動直後で、

硬直している。

魔法障壁もすでに消費済みだ。

新たに障壁を貼り直さない限り、

防御の手段はない。


ここしかない。


残存魔力はここまでの攻防で既に空。

俺は全身から魔力をかき集め、魔法を放つ。


<フレイムボム改>


圧縮した爆破魔法が、

大爆発を引き起こす。


回避することも出来ない距離。

ゼメウスは俺の魔法により吹き飛ぶ。


同時に俺も自らの魔法により、

大きく後方に吹き飛ばされた。


「・・・ぐっ・・・」


受け身も取れず背中から地面に叩き付けられたが、

俺はすぐに体勢を整える。



「当たった・・・?」


俺は同じく吹き飛んだゼメウスを視線で追う。

ゼメウスは初めて、その身体を地面に倒していた。


俺はその姿を見て驚く。

数百回にも及ぶであろう、死に戻り。

その末に遂にゼメウスに攻撃を直撃させたのだ。




吹き飛ばされたゼメウスが、

ゆっくりと立ち上がる。


そしてゆっくりと俺に近付いて来る。

口元から流れる血を親指で拭い、

低く重たい声で言った。


「・・・狂気、だな」


「・・・」


「・・・貴様、俺の動作をあらかじめ知っているな?そうとしか思えん場面がいくつかあった」


「・・・だから?」


「それを狂気だと言ったのだ。まさかとは思うが貴様。我の攻撃を覚えるために繰り返しているな?この本の特性をそのように使う者が現れるとは想像もしていなかった」


ゼメウスは言う。


「・・・へぇ。先人たちは馬鹿正直にあんたに挑んだのか?」


俺は吐き捨てる様に答えた。


「そうだ。しかし、それこそが強者の矜持と言うものだ。貴様にはそれがない」


ゼメウスは苛立たし気に言った。

それを見て、俺はふっと笑みを浮かべる。


「何がおかしい?」


ゼメウスが反応する。


「・・・いやなに。あんた本当に俺の知っているゼメウスなのかな、と思っただけだ」


「何度も言わせるな。俺はお前など知らん」



そう言ってゼメウスは右手の魔法を開放する。

反応するよりも早く地面から氷の刃が生み出され、

俺の腹を貫いた。


「ぐはっ・・・」


意識が落ちて行く。

何度も繰り返した感覚。


ああ、今回はここまでだ。


「・・・一つでも予想外があればこの様か」


ゼメウスが言う。


俺は落ちて行く意識に身を任せ、

暗闇へと沈んでいった。



・・・

・・


俺が目を覚ましたのは、

ベッドの上であった。


周りは石造りの部屋。


置いてあるものは少なく、

一つある小窓から差し込む木漏れ日が、

部屋をぼんやりと照らしていた。


俺は立ち上がり、記憶を整理する。


いつもと同じ目覚め。

だが今回は決定的に違うところがある。



「・・・遂に、ついにゼメウスに攻撃を当てた・・・」


俺は目を閉じ、拳を握りしめ、喜びを噛み締める。

封じ込めていた感情が一気にあふれ出す。


長い長い試行錯誤。

自らの命を代償に、俺は遂にたどり着いた。


ようやくここから出られる。

そう思った



だが。


「・・・後は、後は同じように隙を作って、それで・・・」




それで――――?


俺はそこで思考を停止させる。


「それで・・・どうするんだ・・・?」


俺は考える。

そもそも先ほどの状況を作り出すためには、

莫大な集中力と、魔力が必要となる。


たどり着いた時にはほぼ魔力の残はゼロに近かった。

これは先を読めたとしても、さほど変わらないだろう。


そして、そこから一瞬の隙を突いて、

ゼメウスに対し致命傷となる一撃を与えなくてはいけない。

それは到底不可能な事の様に思えた。




「・・・う、そだ・・・そんな・・・」


俺は自分の考えを必死で否定する。

何か手段があるはずだと必死で思考を巡らせる。


これまでは夢中だった。

ゼメウスの攻撃パターンを覚え、

必死で隙を探した。


それが外に脱出できる手段だと信じていたから。

それが希望だと思うことが出来たから。


だがここに来てようやく、

自らのたどり着いた先が絶望の淵であったことに気が付く。


切り札である時間魔法が通用しないことは、

先の戦いで確認済みだ。

そうなれば俺にはゼメウスにダメージを与える手段がない。


たったそれだけのこと。

だがそれは俺の希望を打ち砕くには十分な事由だった。


今から他のルートを探すことは考えられなかった。

一度取り戻した感情の渦が、

もはやもう一度無限ループの中に戻ることを全力で拒否していた。


「・・・あ・・・あ・・・」



俺は全身から脱力し、遂に絶望する。

手足が震え、寒くもないのに歯が音を立てて鳴る。



―――――ゼメウスには勝てない。



その想いが心を支配し、思わず涙が零れる。

息をしているはずなのに、酸素が身体に入ってこない。



そして初めてここに来た時にゼメウスに言われた言葉が頭をよぎる。



――――――もし俺に対し負けを認めるような発言をすれば、その時点で終わりだ。



それはこの本の中における、もう一つのルール。

もしこの想いを口にすれば、どうなるのだろう。

俺は過去に『永遠の挑戦者』に至ったと言われる、Sクラス魔導士のことを思いだしていた。

彼は外に出た。

戦闘の傷跡を身体中に残し、息絶えた状態で。


それを考えると待つのは恐らく、死。

だが少なくも、この無限の地獄からは解放される。

あの大魔導の身も毛もよだつような大魔法を喰らう事はなくなるのだ。


解放。

その言葉が俺の脳裏にめぐる。


何度も何度も死に戻ったことにより、

俺の精神はとうに限界を迎えていた。



「俺は・・・ゼメウスに・・・」



もはや仲間の顔も言葉も頭には浮かばない。


楽になりたい。

その想いだけが俺の口と声帯を動かした。



その時。



「・・・なんじゃ、しばらく見ないうちに良い顔になったな」



誰も居ないはずの石造りの部屋に、

声が響く。


この声は誰だったか。

俺は記憶を必死で呼び起こす。



「・・・絶望に支配されおって。魔導士なら絶望すらも魔力の糧にせんか」


俺が顔を上げた先に居たのは、金髪の少女。


俺の魔力の師にして、最強の魔導士。

<深き紅の淵>であった。



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[一言] あ、愛染隊長!!
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