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第116話 消失


俺は再び書架と向かい合っていた。


探しているのが、

ただの本ではなく、

『ゼメウスの箱』に関するものだと思えば、

また探し方も違ってくる。



これまでの事を考えると、

ゼメウスの箱を見つけるには箱の色に合致する適性と、

箱が求める何かを示し、

箱に選ばれる必要があった。


恐らくここでも、

そう言った条件が必要なのは間違いない。

ゼメウスはそう言った謎かけを好み、

多用するところがある。


だがそれが何かは、今の段階では分からなかった。




「あと一歩・・・な気がするんだがな・・・」


俺は頭を悩ませる。


残るヒントと言えば、

『永遠の挑戦者』に至ったと思われるSクラス魔導士だけだ。


「一体、どうすれば・・・」


俺は呟く。


「・・・真の強者だけが読むことが出来る・・・でしたでしょうか?」


そう言って後ろから声を掛けてきたのはセブンだ。


手には書架から取り出した魔導書の一冊。

彼女は今や本探しを手伝ってくれていた。


「・・・真の強者、それが意味する事は何なのでしょう」


俺はセブンに尋ねる。


「・・・私には到底、想像がつきません」


セブンが答える。





リエルとの会話により、

きっかけが掴めたと思ったが、

探索は再び暗礁に乗り上げた。



長い沈黙が俺たちを包む。


暗い迷宮の中、

しかも地下だからか、

ここは少し肌寒い。


本棚を探していると、

セブンが寒そうにしているのが見えた。


「・・・大丈夫ですか?」


俺は尋ねる。


「も、申し訳ありません、ありがとうございます」


セブンが恥ずかしそうに言う。


「ここは寒いですからね。無理せずリエルの所に居てくださいね」


俺は言う。

その言葉に、セブンは嬉しそうに頷いた。






「・・・ここで息絶えていた魔導士は、さぞ無念だったでしょうね」


不意にセブンがそんな事を言う。


「・・・無念?」


「ええ、彼が知っていたかは分かりませんが。もう少しでかのゼメウスの叡知、『ゼメウスの箱』に手が届いていたらと思うと・・・」


「そうですね・・・」


俺は答える。

『ゼメウスの箱』の発見は、

すべての魔導士の悲願だ。



「・・・三年もの長い時間。その魔導士は一人で何をしていたのでしょう。今となっては想像もつきませんが・・・」


セブンが呟くように言う。



「・・・一人、で・・・?」


俺はセブンの何気ない一言が気になり、

問い直した。


「・・・そうではないのですか?見つかった時の状況も含めて、てっきり一人で探索していたのだと思っていたのですが・・・」


セブンは答える。


なるほど。


俺には無理だったが、

確かにSクラス魔導士ほどの実力があれば、

一人で迷宮に潜ることも可能であろう。


彼女の推測ももっともだと思った。



「一人・・・」


俺は呟く。


安全地帯や魔法転送装置(ゲート)が無いダンジョンの構造。

単独では休息も録にとれない。


この図書館迷宮に一人で挑むのは無謀。

クロエラやティムにはそう言われた。


恐らくこの迷宮に単独で挑む魔導士は少ないだろう。


かつて多くの魔導士が『永遠の挑戦者』を探したが、

それが見つからなかった理由。



それはもしかしたら・・・


俺は顔を上げ、セブンの顔を見た。


「セブンさん、お願いがあります・・・」


俺がそう言うと、

彼女は不思議そうに俺の顔を見つめた。



「・・・お願い、とは?」


「リエルを連れ、俺から、いや、この階層から離れてみていただけませんか・・・?」


俺はセブンにそう言った。




・・・

・・




静寂。

図書館迷宮にはそれが満ちている。


ひとりで居ると、

なお更にそれを強く感じた。


リエルには俺の仮説を説明し、

一つ上の階に向かって貰った。


「なるほど、面白い。ものは試し、じゃ」


俺の話を聞いたリエルはそう言った。

約束は一時間。

これを過ぎたら、

俺はリエルたちを迎えに行くことになっている。



あくまで可能性の一つ。

ただの試し。


それくらいの気持ちであった。





だが、先程までと同じ書架を前にして改めて目を凝らすと、

今度は先程までとは違う光景が浮かんでいた。


書架の一角で、

何かが光ってる。


あそこは先ほどまで、何度も探した棚だ。

その時はあの様な光は無かったと断言できる。


俺は心臓の鼓動が早まるのを感じた。


俺はふらふらとそれに近付き、

光の正体を見定める。


ぼんやりとした輝き。

それはやはり、本であった。


何千何百と言う本に並び、

一冊の本の背表紙が輝いている。


そこに書かれた本のタイトルこそは、

『永遠の挑戦者』。


幾人もの強者が求め、

そして俺がゼメウスに探すように言われた、

幻の本であった。



「本当に・・・、あった・・・」



俺は今なお半信半疑で、

その本を恐る恐る手に取る。


他の魔導書、

いやそれ以上に濃密な魔力を感じる。


やがて背表紙の光は小さくなり、

俺の手の中でその本はただの本と変わらない状態になった。


それはまるで、

俺が本を開くのを待ち構えている様にも思え、

余りにも出来すぎた流れに俺は警戒を強める。


どうしようリエルたちを迎えに行った方がいいだろうか。

俺はそんな事を考える。



だが。



「・・・本好きが、こんな不思議な本を前にして、開かないわけないだろ・・・」



俺は好奇心に負け、

その最初の一頁をめくる。


その時に感じたのは激しい魔力。

その中に微かに懐かしい気配がした。



―――――――待っていたぞ。



どこかで誰かが、そう言ったような気がした。



・・・

・・





「グレイめ、遅すぎるわ。失敗したなら失敗したで、早く呼びに来んかっ」


リエルはそう言ってプリプリしている。

グレイから指定された時間は一時間。


その刻限はとうに過ぎていた。


「心配なら、素直にそう仰れば良いのに・・・」


セブンが呟く。


「・・・ん、なんじゃセブン?なにか言ったか」


「なんでもありません」


そう言ってセブンはリエルの追及を誤魔化した。


「ですが、確かにおかしいですね・・・」


セブンは呟く。


15階層に再び戻った時、

グレイの魔力を感じなかった。


だから少しだけリエルの気持ちは理解できる。

セブンもまた、グレイの安否を案じていた。



リエルとセブンが例の書架にたどり着き、

辺りを見回すとグレイの姿が無かった。


「なんじゃ、本を見つけてさっそく夢中になって読んでおるのか?」


リエルが言う。


「私、あちらを見て参ります」


セブンがリエルに声を掛け、

グレイを探しにいく。


だが、グレイの姿はどこにも見つからなかった。



「どこに行ったのじゃ!悪趣味なイタズラは止めよ!」


さすがにリエルもイラつき出し、大声を出す。

だがグレイからの反応は無く、

書架の敷き詰められたホールにリエルの声だけが木霊した。


リエルはチッと舌打ちをする。


「・・・リエル様」


そんなリエルにセブンが声を掛けた。


「・・・居たか?」


リエルが尋ねる。


「いえ、どちらにも・・・」


セブンが焦った顔で呟く。

そこでリエルも、事の重大さに勘付く。


「・・・ま、まさか・・・」


リエルも表情が変わる。

グレイの姿は忽然と姿を消していた。


それはかつて、

『永遠の挑戦者』に至ったと思われるSクラス魔導士を彷彿とさせる消失であった。



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