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第113話 助太刀


「そ、それより!グレイ!お主の方こそ、こんなところで何をしているのじゃ!」


リエルが尋ねる。

無理やり話題を変えようとしているのが見え見えだ。



「・・・探し物だ」


俺はため息をついて答えた。


「・・・探し物、ですか?」


セブンが尋ねる。


「こんなところで何を探している?ここには本と魔物以外は無いぞ?」


リエルが言う。


「・・・まさにその本を探しているんだ」


「なんの本だ?」


リエルが尋ねる。

俺と同じく本好きのリエルは興味がある様だ。



「・・・『永遠の挑戦者』と言う本なんだが、知っているか?」


俺は尋ねる。

その言葉にリエルがピクリと反応した。


「なんじゃ、また懐かしい本を探しているな」


リエルは答えた。


「知ってるのか!?もしかして、読んだことが?」


俺は慌てて尋ねる。

そうだ、リエルなら知っていてもおかしくない。



「あー、待て待て。私も読んだことがあるわけでは無い。ただ噂を耳にしたことがあるだけじゃ」


リエルが言う。


「噂?」


俺は尋ねる。


「うむ。真の強者にしか読めないとかなんとかそんな感じじゃ」


リエルが答える。

クロエラから聞いたのと同じ情報だ。


「どうして、その本を探しているのですか??」


セブンが尋ねた。


「・・・ゼメウスが俺に読んでみろ、と言っていたんだ」


その言葉にリエルがニヤリと反応した。


「・・・ほう、面白い。詳しく聞かせてみせよ。ついでにお主が私たちと別れてからの事もすべて、な」




・・・

・・



「・・・まさか生命魔法とは。ゼメウスのやつ、とんでもない魔法を生み出したもんじゃの・・・」


リエルが言う。

俺はリエルに西の大陸のラスコから、

ゴブリン討伐、

そして図書館迷宮に至るまでの経緯を洗いざらい話した。


リエルは『白の箱』と、

中に込められた生命魔法に一際驚いている様だった。



「・・・大変だったよ。本当に」


俺は答える。


「しかし時間を操るだけでは飽き足らず、まさか死から甦るとはな。お主、どんどん化け物じみてくるな?」


リエルが嬉しそうに笑う。


「止めてくれ・・・」


俺はため息をついた。


「それでその『永遠の挑戦者』という本を・・・」


セブンが言う。


「ええ。どうやら15階層にその手掛かりがあるらしいと言う事が分かったのですが・・・」


「15階層か。10階を過ぎれば、それなりに魔物も強くなる。グレイ、お主単独ではまだ難しかろうな」


リエルが言う。


「ああ。一度はそれで挫折を。それで仲間を募り再挑戦したのだが・・・」


そう言って俺は別れたガブたちの事を思い出す。

無事に外に出れたのだろうか。


「ハズレを引いた、か」


リエルの言葉に俺は頷いた。


実際、俺は途方に暮れていた。

今から街に戻り仲間を募集したとしても、

ガブたち以外に応募があるかも怪しい。

そうなると更に時間が掛かる。

下手をすれば再挑戦すら出来ないかもしれない。


そう思い暗い顔をする俺を見て、

リエルが言った。



「・・・ふむ。15階か。三人いれば、ここからなら一日もあればいけるかの」


リエルが言う。


「え?」


俺は尋ねる。


「最短路を行けば、7時間ほどで到達できるかと」


セブンさんが答えた。


「・・・二人とも?」


俺は再度尋ねた。


「何をしてる?もう毒素は消えたじゃろ?その15階層まで行きたいのであれば早くせんか」


リエルが言う。


「まさか、着いてきてくれるのか?」


俺は尋ねる。


「ふん、暇つぶしじゃ。不出来な弟子を再度鍛えてやろうと思っての」


リエルが答えた。


「・・・リエル様は素直ではないので。本心ではグレイさんと一緒に探索がしたい、と言っております」


セブンが言う。


「セブン!お主いい加減にせんかっ!」


リエルが叫んだ。


俺は二人に感謝する。


この人たちが一緒なら、

踏破できないダンジョンなんて存在しないのではないか。

そう思えた。




・・・

・・



リエルとセブンはとにかく強かった。

魔物を物ともせずダンジョンを進んでいく。



近接特化のセブンさん。

砲台役のリエル。


二人の役割のバランスは完璧で、

俺が魔法を放つ前に戦いが終わってる、

なんて状況もざらにあった。


俺は改めて<深き紅の淵>と、

その従者の実力に、感嘆の声を漏らすのであった。




とにかく一人ではあんなに辛かった図書館迷宮が、

二人と一緒だと嘘のようにサクサクと進むことが出来た。


そして数時間後。

俺は再10階層へと至る、

ダンジョンの石扉の前にたどり着いていた。


俺はゴクリと喉を鳴らす。



「・・・さて、行くぞ」


リエルは躊躇もせずに、

その扉に魔力を伝導する。


ゴゴゴと音を立て、

開いていく石扉。


俺はリエル、

セブンの後に続き、

その扉の先に足を踏み入れた。




石扉の先は、これまでの図書館の延長の様な場所。

だがそこには一冊の本も無く、

部屋の中央には巨大な岩の塊が置かれていた。


「・・・ここは・・・」


俺は呟く。

本来であればこの部屋には、

主にあたる魔物が俺たちを待ち構えているはずだ。

だがその魔物の姿が見つからなかった。




「・・・ふむ。ここまで手を貸してやったがグレイよ。少しはお主の力も見せて貰おうかの」


リエルがそんな事を言う。


「俺の力?」


俺は尋ねる。


「そうじゃ。身に付けたと言う力を見せてみよ。セブンも良いな?手出し無用じゃぞ」


そう言ってリエルが笑う。

セブンさんもそれに頷いている。

どうやら俺に戦えと言っている様だ。



「しかし、肝心の主が居ないことには・・・」


俺は部屋に目をやる。


「なんじゃ、お主の目は節穴か?そこにおるじゃろ?」


リエルが言う。

その視線の先には、巨大な岩の塊があった。


「・・・まさか・・・」


俺は呟く。



それと同時に、岩の塊が震えだし、そして立ち上がった。

岩から両手足のようなものが生える。

その中心には顔の様なものが浮かび上がっていた。


「・・・ゴーレム・・・」


「ハハッ、かの有名な図書館迷宮のゴーレムじゃ!見事打ち勝ってみせよ!」


そう言ってリエルが飛び上がり、

戦線から離脱する。


俺は正面に聳え立つ、ゴーレムを迎え撃った。




・・・

・・



ゴーレムの動きは単調であった。


おそらく、

自らの射程範囲内に入った敵を認識し、

その対象を倒すまで攻撃を続けると言った機能であろう。


ゴーレムはリエルとセブンには見向きもせず、

ひたすらに俺を追い続けた。


俺はゴーレムの丸太の様な剛腕から繰り出される攻撃を回避しながら、

隙を見ては魔法を放っていた。



<フレイムボム改>


「オオオオオオオオオオオ!!!」


俺の魔法により、

ゴーレムが爆発に包まれる。


岩の身体がパラパラと壊れるが、

それだけである。


ゴーレムの身体は、

恐ろしく魔力耐性が高い鉱石出で出来ている様だった。


「ここのゴーレムは特別製じゃ!生半可な魔法はすべて弾かれるぞ!」


後ろからリエルの声が聞こえる。

だが俺はそれに答える余裕が無かった。

その理由は。


「オオオオオ!!!」


ゴーレムが稼働音と共に、

右手をこちらに向ける。


「・・・くっ!」


俺は攻撃に備え身を構える。


次の瞬間、

ゴーレムの右手が本体から切り離され、

そのまま俺に向かって飛んできた。



「がっ!」


俺はそれを身を投げ出して回避する。


ゴーレムの飛ぶパンチは、

そのまま後方の壁を粉々に砕いた。


「・・・なんて威力だよ・・・」


俺はゴーレムの性能の高さに絶句する。


「ほれ!よそ見しておる場合か!」


リエルの声にハッとする。


見ればゴーレムが巨体を震わせ、

俺に駆けて来ていた。


ただの体当たりであっても、

人間の身体を砕くには十分な威力であろう。



俺は咄嗟に魔力を集束させる。



<フレイムストリーム>



地面から炎の流れが生み出され、

そのまま渦となりゴーレムを包んだ。

豪火の勢いにゴーレムはその突進を止めた。



炎の渦では、

ゴーレムにダメージを付ける事はほとんど不可能。


だが、問題ない。

これは足止めだ。


俺はチラリとリエルの方を見る。

戦いが始まる前にリエルは言った。

身に付けた力を見せて見ろ、と。


それはつまりリエルとの修業の後に、

俺がどれだけ強くなったかを示せと言うことであった。




「・・・見せてやるよ・・・」


俺は左手に魔力を集束させた。


そしてその魔力を操作しその温度を下げていく。

これはゼメウスから授かった白魔法。

死生魔法だ。



普段はその特性から使用が憚られる魔法ではあるが、

図書館迷宮の中であれば、

見ているのはリエルとセブンだけ。



俺は魔力に自分のイメージを注ぎ込んでいく。


暗く、そして冷たい、どこまでも続く闇。

それは一度は命を落とした俺が迷い込んだ、

あの永遠ともいえる無の世界のイメージだった。


あんな暗闇に留まりたい魂は存在しない。

だから俺の呼びかけに、死生魔法により甦るのだ。

死を超越し俺の死生魔法への理解はさらに深まった。


そして、それに呼応するように、

俺の魔力はどんどん冷たくなっていく。

あまりの冷気に、

左手の感覚はとうに失われていた。



「オオオオオオオオオオ!!」



ゴーレムの雄たけびと同時に、

炎の渦が霧散した。



俺は魔力を地面へと落とし、

魔法を発動させた。



<死よ>



俺が魔力を落とした地面を中心に、

波紋のように魔力が広がる。




そして、

白い靄が地面から生まれ形を作っていく。



四足を持つ平たい巨体。

そこから伸びた、太い首。


それはまだ記憶にも新しい、

俺の命を脅かした腐竜の姿であった。


俺がかつてエシュゾで生み出した炎龍よりも、

白靄はより濃く、よりくっきりとした竜の輪郭を形作っていた。


「・・・ほう・・」


俺の後ろでリエルが呟くのが聞こえた。



「いけ」


「グギャアアアアア!!!!」

「オオオオオオオオオオ!!!」



俺の号令と同時に、

腐竜とゴーレムが同時に咆哮をあげた。


そして腐竜はその巨体を、

ゴーレムへと叩き付けた。


ゴーレムの固い身体が、

後方へと弾き飛ばされる。





俺は間髪入れず、

右手に魔力を集中させた。



「グギャアアアアア!!!!」



腐竜は尾を振るい、

ゴーレムの身体を打つ。


ゴーレムは何度も叩き付けられる尾を、

両の手でんだ。


「オオオオオオオオ!!!」


ゴーレムは雄たけびをあげ、

両の足を大地にしかと据え付けると、

白靄の腐竜の尾を引きちぎる。


「ギャアアアアアア!!!!」



腐竜はそれを嫌がるようにゴーレムに喰らいつくと、

そのままゴーレムの右腕を引きちぎる。


しかし腐竜の抵抗はそこで終わり。

腐竜の身体は白靄となって霧散していった。





「オオオオオオオオ!!」



ゴーレムが唸り声をあげている。

腐竜を倒した今、次の標的へと攻撃を開始しようとしていた。

そして、

ゴーレムは再び俺の姿を捕捉する。


残った左腕を構え、俺を目掛け左腕を発射した。


それと同時に俺は右手の魔力を開放した。



<時よ>



その瞬間、ゴーレムの動きが止まる。

放たれた左腕も空中で停滞する。

俺が以外の全てのものの動きが停止した。



「はぁああああああ」




両足を開き、全力で魔力を集束する。

右手に集まるのは、白魔法の魔力。

俺は時間停止の許す限り、

その魔力を圧縮していった。


ボロミア騎士長相手には、

中途半端な状態で放った白魔法。

だがそれはボロミア騎士長を倒すには十分な威力となった。


だから最後まで魔力を圧縮しきり、

完璧な状態で放てば、

ゴーレムの身体すら貫く矛になるだろう。

俺は確信し、ひたすらに魔力を濃縮していった。



そして、時間魔法の限界が訪れる。

同時に白魔法の圧縮も完了し、

その魔法は俺の拳を白く輝かせていた。



―――――バキン



何かが割れるような音がして、

再び時間が流れ出す。


既に避けていたゴーレムの左拳が、

壁を壊す轟音が聞こえた。


ゴーレムは突然懐に現れた俺を認識できていないようであった。



「・・・くらえ・・・」


俺は白魔法を右手に乗せ、

拳を放った。


限界まで強化された俺の拳は、

まるで白く輝く流星の様にゴーレムの身体に突き刺さる。



「あああああああ!!!」


雄たけびと共に拳を振り向くと、

ゴーレムの身体は粉々になり、

吹き飛んだ。



魔法の余韻に呼吸を荒くしていると、

後ろからパチパチと拍手が聞こえた。


見ればリエルとセブンが笑っていた。


「ハッハッハッ!素晴らしい成長じゃ、グレイよ。ひな鳥が若鳥くらいにはなったな」


「素晴らしいです、グレイさん」


俺は二人に褒められなんだか誇らしい気持ちになった。

こうして俺は図書館迷宮、10階層の主を単独で撃破することに成功した。



その時、

勝利に浸っていた俺に、

どこかから声が聞こえたような気がした。


いや、声ですらないかもしれない。

風の音、書架の軋み。

そんなか細い様な気配。



だがその声は確かに俺の耳に届いた。




――――――――待っていたぞ。




声は俺に語りかけている様に聞こえた。


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