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第10話 ゴブリン殺し

 

 魔導士ギルドから出た俺は、

 フォレスの街の大通りを歩く。


「・・・はぁ、しんどかった」


 ラミアさんの素直な称賛が心に刺さる。

 もちろんギルドの規約に反することは一切していないが、

 なぜかズルをしたような気持ちになる。



 「ラミアさんにはいつか真実を伝えよう」


 俺はそう心に誓った。


 


 さて手段はともかく、

 生活資金は手に入れたぞ。


 ゴブリン狩りの報酬、25,000ゴールド。


 おおよそ荷物持ち(ポーター)の仕事8回分の報酬だ。


 うん、これは本当に嬉しい。

 生まれて初めて、魔導士として報酬を得たのだ。



 これで今夜の宿代に困ることは無くなった。

 

 揃えるべきものはたくさんがあるが、

 宿以外に早急になんとかする必要があるのは・・・・



「やっぱ服かな」



 俺は自分の着ている服を見る。

 袖はボロボロ、所々黒くなっている。

 これでは路上の物乞いと変わらない。

 

 俺は記憶にあった、街道沿いの服屋に向かう。


 



「いらっしゃ・・・いませ」



 俺の姿を見た瞬間、言葉を失う服屋の店員。


 当然だ。

 俺でもこんなやつ接客したくない。



「あ、えっと・・・適当に服を見繕ってもらえるか?費用はこれくらいで」



 俺は早々に店員に金の入った袋を渡す。

 店員は胡散臭そうな目でそれを受け取ると、

 中身を見て態度を変えた。



「承知いたしました。お客様のイメージを損なわぬよう、選ばせていただきます」


 いや、そこは損なってくれても構わないんだけどな。

 

 俺はそんな事を思いながら、

 店員の持ってきた服を試着もせずにまとめ買いした。


 ボロボロの服で服屋に居るのがなんとも恥ずかしかったのだ。

 

 ひとそろいの服を買い終わると、

 予想よりも持ち金が減っていることに気が付く。

 

 そういえば店員の進めるがままに靴やら、

 ベルトやら小物も次々買った気がする。

 残りは5,000ゴールドもない。


 予定ではその倍くらいは残しておきたかったが。

 致し方ないか。



「となると、今夜の宿もあそこにしておくか」


 俺は一人呟くと、

 慣れ親しんだ『夕暮れのポイズントード亭』にへと向かった。




「・・・なんだ、またあんたかい」


 女将さんは俺を見るなり不機嫌そうに言った。

 逆にこの人、機嫌がいい時あるのか。

 俺はそんな事を思った。


「はい、今日もこちらに泊めていただこうかと」


「物好きなやつだね。今夜は金を払ってもらうよ」


「勿論です」


 俺は頷いた。


「一泊、3,000ゴールド。浴室は無いから向こうの井戸を使っておくれ。食事は無いから素泊まりだよ。それでいいかい?」


 あれ?

 俺は違和感を感じて尋ねる。


「一泊3,000なのですか?1,000ゴールドではなく?」


 純粋な質問だったが、

 女将さんには値段交渉に聞こえようで、

 これみよがしに深いため息を吐いた。

 

「・・・うちは昔から3,000だよ。この辺りではこれ以上安い宿はない、揉めたくないからその値段が嫌なら帰っておくれ」


「あ、いえ。もちろん払います。お願いします」


 俺は慌てて金を渡す。

 

「フン。部屋は昨日の部屋を使いな」


 そう言うと女将さんは奥に引っ込んでしまった。

 俺は一人受付前に取り残された。






 夕食は近くの酒場で済ませ、

 俺は早々に『夕暮れのポイズントード亭』に戻ってきた。

 これでほとんど文無しの状態に戻ってしまった。

 明日もまた頑張って働かねば。



 だが衝撃だったのは、宿屋の値段だ。



 どうやら『僕』は長い間、

 定価よりも安い金額でこの『夕暮れのポイズントード亭』に

 宿泊してたらしい。


 女将さんは何も言わずに『僕』に優しくしてくれていたのだ。

 灰色と知りながら。


 そのことに初めて気が付いた俺は、

 なんだかとても不思議な気持ちになった。


 今すぐ女将さんに感謝を伝えたいが、

『僕』からお礼を言うことがはもう出来ない。


 どうしたものか。

 俺はその晩、

 睡魔に勝てなくなるまで頭を悩ませた。



 ・・・

 ・・

 ・



 翌日から俺は、

 朝一番で魔導士ギルドに向かっては、岩山のゴブリン討伐の仕事を受注し続けた。


 ラミアさんの言っていた通り、

 ニーズがあるのは間違いないようで、

 岩山のゴブリン討伐の依頼書は毎日掲示板に貼られていた。


 だが俺以外の魔導士が受注する様子はない。

 俺は一心不乱にゴブリンを狩り続けた。


 毎日2~30匹のゴブリンを討伐し、街に戻る。


 少し金に余裕が生まれると、効率を上げるため、

 街の市場でコカトリスの肉を仕入れてから岩山に向かうようになった。



 ギルドの図書館で調べた結果、

 ゴブリンの大好物はこのコカトリスの肉だと書いてあったからだ。

 コストはかかるが現地で大ネズミを調達するよりよっぽど早い。


 その作戦は功を奏し、

 ゴブリンの()()()は激増する。


 俺は連日、

 30頭近いゴブリンを狩っては魔石を納品する事を繰り返した。


 西の都への移動費を貯めるために、

 淡々とその作業をこなす。


 また節約と、女将さんへの感謝の気持ちを理由に、

『夕暮れのポイズントード亭』に泊まり続けた。


 だがそれに反して、当初の目標であった、

 魔法戦闘のスキルはまるで向上していなかった。


 俺は自分自身に言い訳をしながら、

 ゴブリンを岩山から落とし続けた。


 貯まっていくお金に俺は笑いが止まらない。

 今やゴブリンがお金に見えてきた。

 俺は金の亡者となった。



 ・・・

 ・・

 ・


 いつものようにゴブリン討伐を終えて、

 魔導士ギルドに入ると、俺は周囲の視線に気が付いた。


 こちらを見て、ヒソヒソと囁きあう。

 俺が視線を向けると慌てたように、

 囁きを止める。


 それが一人や二人ではなく、

 何度も何人も。


 確実に俺のことを話している。

 うーん、一体どうしたと言うのだ。


「お疲れ様です」


 俺はラミアさんに話しかける。

 ギルドの受付はもちろん専属ではないのだが、

 俺は気安さからラミアさんを見つけた時はラミアさんにお願いすることにしている。



「あ、グレイさん!・・・えっとお疲れ様です」



 心なしか、ラミアさんの態度も余所余所しい。

 いつものように大量のゴブリンの魔石を机の上に出すと、

 彼女は引きつったような笑顔を見せた。


「あの、これで全部です・・・」


「え、あ!はい!承知しました」


 ラミアさんは慌てて魔石を持ってギルドの奥へと向かう。

 うーん、本当にどうしたのだろうか。


「はい、こちらが本日の報酬です。お疲れ様でした」


 ラミアさんは極めて事務的に手続きを終えた。

 いつもなら雑談の一つや二つあるはずだが、

 彼女はそわそわとしている。


 いや、待てよ。

 そういえば少し前からラミアさんはこんな感じだった気がする。

 彼女と雑談をしなくなってから、今日で何日くらいだ。

 俺はラミアさんの変化が今日だけで無いことに気が付く。



「あの、何かあったのですか・・・?」


 俺はラミアさんに尋ねる。

 彼女は驚いたように、俺の顔を見る。


「え、あの?何かって言うのは?」


 彼女は引きつった笑顔のまま、俺に答える。


「あ、いえ。そのラミアさんに避けられている気が・・・、それから魔導士ギルドの中でどうも噂されている気がして。気のせいならいいのですが」


 俺の言葉に、ラミアさんは考え込む。

 そして周囲の様子を伺うと、俺に小さな声で囁いた。


「ち、ちょっと奥へ来てください」


 俺はラミアさんに連れられて、ギルドの小部屋に入る。



「どうしたんですか?こんな小部屋で。俺、本当にヤバいことでもしましたか?」


 ラミアさんは驚く。


「もしかしてグレイさん、気が付いてなかったんですか?その、グレイさんが周りの方々になんと言われてているか・・・」


 どういうことだろう。

 俺は首を横に振った。


「あの、私が言っているワケではないんですけど・・・」


 ラミアさんは俺に状況を教えてくれた。



 皆がやりたがらないゴブリン討伐の仕事を、

 朝一番に受注する魔導士。

 うすら笑いを浮かべコカトリスの肉を片手に岩山に向かい、

 毎日大量のゴブリンを討伐して帰ってくる。


 他の依頼には眼もくれず、

 一心不乱にゴブリンを狩る姿に周囲は恐怖し、

 ゴブリンに取りつかれているだの、

 ゴブリンをこの世から殲滅する男だの呼ばれているらしい。




「私が言えば良かったんですけど・・・その、グレイさんがあまりにも楽しそうだったので」




 ラミアさんに非は無い。

 舞い上がっていた自分の責任だ。

 それにうすら笑いを浮かべてゴブリンを狩り続ける男など怖くて仕方がないだろう。

 完全に危ない人だ。



「そ、それからもう一つ・・・」


「ま、まだあるんですか・・・」


 俺は頭を抱える。


「あの、グレイさんこちらに来てから登録証を更新しましたか?そう言ったお話を聞いていなかったもので」


 俺は首を横に振る。

 たしかに最初にラミアさんから登録証を受け取った時に、

 定期的に更新するようにと言われた気がする。


「していないですね。それが何か?」


「ちょ、ちょっと更新させてください!」


 ラミアさんは俺から登録証を受け取ると、

 部屋から出ていった。


 時間を置かず彼女は部屋に戻ってきて、

 俺に登録証を渡す。


「どうぞ、ご自身でご確認ください」


 ラミアさんに言われ俺は登録証に魔力を流す。


「<ステータス>」


 そこには衝撃の内容が書かれていた。



 名前:グレイ

 ランク:E

 称号:<ゴブリン殺し>

 魔力総量:C

 魔力出力量:C

 魔力濃度:A



 名前やランク魔力に関する事は同じ内容だが、

 一つだけ項目が増えている。


 称号。

<紅の風>や、<氷の女帝>などといったいわゆる二つ名だ。

 これは実は個人の功績や評判により、

 魔導士ギルドによって決められる。


 本来は目立った活躍や突出した名声を評して名付けられるものだが、俺のこれは・・・。



「ゴ、<ゴブリン殺し>ですか・・・」


「はい。グレイさんは今やこの街で、その名前で有名です」


 俺は肩を落とす。

 まさかこんな事になるとは。

 俺は自身の行いを反省した。

 まさに自業自得だ。


 こうして俺は初めての二つ名を手に入れ、

<ゴブリン殺し>として有名人となった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 当たり前だ。大量のゴブリンしか殺してないんだから。普通はいろんなことをするがな
2019/11/27 03:45 退会済み
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