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第106話 登録証


ブルゴーを出立して六日。


俺は東の大陸最北の街テジョンに到着していた。


広大な丘陵地帯に広がる豊かな土地。

テジョンはブルゴーに勝る大都市である。


丘を下った先には海が広がっており、

その海を越えた先には北の大陸がある。


農業と漁業二つの産業に支えられ、

この街はとても豊かだ。


そしてこのテジョンのほど近くに、

図書館迷宮はある。





「さて、新しい街に来るのは久しぶりだな・・・」


俺は呟く。


ここ最近は騎士として過ごす時間が長かったので、

こうした新しい場所と言うのは新鮮だ。



「宿を取る必要があるが、情報も無いしまずはギルドかな・・・」



俺はそう言ってテジョンのギルドを探した。





「ようこそお越しいただきました。魔力の使徒よ」


シスターに迎えられて俺はギルドの中に入る。

そこで俺は違和感を感じた。


これまでの東の大陸のギルドに比べ、

ギルド内にいる魔導士の数が圧倒的に多い。



「随分賑わっているんですね・・・?」


俺はシスターに尋ねる。


「ええ。テジョンのギルドには図書館迷宮に入るために世界中から魔導士が集まってくるのです」


シスターは答えた。


「なるほど、そういうことか。あれ、でも図書館迷宮に入るのには特別な許可が必要と聞きましたが・・・」


俺は尋ねる。


「はい。なのでここに居る魔導士さん達は皆さん一流以上の実力の持ち主です。」


シスターが胸を張って答えた。

俺はふむふむなるほどと、

シスターに答える。



「・・・貴方も図書館迷宮の探索がご希望ですか?今は冬季前の駆け込みで混雑していて・・・手続きにそれなりの時間がかかるのですが・・・」


シスターは申し訳なさそうに言う。


「あ、許可ならあります。これ・・・」


俺は出立前にキリカから受け取った書状をシスターに渡した。


シスターは俺からそれを受け取ると、

中身に目を通し始めた。



「・・・わっ、この許可証、騎士長直々のものですね。これなら明日からでも図書館迷宮に入っていただけますよ!」


シスターが言う。

承印を押してくれたのはボロミアだ。



さっそく力になってくれたな。

俺はそんな事を思う。



「とは言え、簡単な手続きは必要なので少々お待ちいただけますか?」


シスターが言う。

俺はもちろんそれを了承した。


「あ、そうだ。良ければお待ちの時間に、登録証の更新をされませんか?今ならちょうど待ち時間なしでご案内出来るので」


シスターが言う。


登録証か。

ラスコの街で更新して以来、

何もしていなかったな。



「では、お願いします」


俺はシスターの提案を受け入れ、

別室へと案内される。




別室では、

ギルド職員の男性が俺を案内してくれた。


「はい、大丈夫っすよ~。こっちっす~」


「・・・」


なんとも言えない、軽い口調の男だった。




俺は暗い小部屋に案内される。

真ん中には水晶が一つ。

魔力測定器(ラクリマ)だ。



俺はその水晶にそっと触れた。



「はい、じゃあリラックスしてください~、深呼吸して~、はい魔力流して~」



軽い男の指示で、

俺は水晶に魔力を流す。



うん、彼のお陰で上手く集中出来なかったのが幸いしたか、

以前の様に変な夢を見る事も無かった。



「あざっした~、しょうしょっ席でお待ちくださ~」


軽い男に促され、

俺はギルドのメインフロアへと戻った。





「お待たせしましたって、どうしたんですか?渋い顔して」


戻ってしたシスターが開口一番に俺に尋ねる。


「いや、近頃の若者はあれだな、と思いまして」


俺は答える。


「仰っている意味が・・・。あ、こちらお待たせしました」


そう言ってシスターは別の書面と、

俺の登録証を渡してくれる。


「これを見せれば、図書館迷宮に入ることが出来ます。あとは向こうでも色々と案内があると思いますので」


シスターは言う。


「ありがとうございます」


俺は答えた。




「あ、それから・・・」


席を立とうとする俺に、

シスターが声を掛ける。


「その図書館迷宮の中ではご注意ください。魔物以外にも・・・」


その顔は真剣だった。


「魔物以外?どういうことです・・・?」


俺は尋ねる。


「それが・・・近頃、怪しい二人組が図書館迷宮に居ると報告が入っていまして」


「怪しい?」


「はい、ほとんど装備も揃えずに迷宮に入ったきり、二週間以上も中に留まっているとか・・・」


「それは・・・すごいですね」


俺は答える。

以前にもダンジョンには入ったことがあるが、

あんな閉鎖空間に入れるのは二日が限界だ。



「はい、なので十分にご注意ください」


シスターの忠告に頷き、

俺はギルドを後にした。




・・・

・・




その晩、俺は宿の一室で図書館迷宮に入る準備をしていた。


『雪原のファングラビット亭』


テジョン一番の大型の宿屋である。




ゼメウスが何を意図して俺を図書館迷宮に誘ったのかは分からない。


だが、俺は目の前の冒険に胸を高鳴らせていた。


その理由は分かっている。

好奇心と、期待感だ。




図書館迷宮は、

世界でも類を見ない異質なダンジョンだ。


その原型は数百年前に存在したひとつの図書館。

世界各地からあらゆる魔導書が集められたその図書館は、

蔵書数の増加と共に、地下へ地下へと増築された。


夥しい数の魔導書たちは、

それぞれが微量の魔力を発しており、

それが長い年月を掛け滞留した結果、

図書館には魔物が生まれるようになった。



魔物が跋扈する様になった図書館は、

いつしか無人となり、

そして更に長い時の流れが、

図書館をダンジョンへと変容させたのだ。


つまり世界で唯一の人工ダンジョン。

それが図書館迷宮である。


これまでの公式な記録では、

図書館迷宮を踏破した者は存在しない。


そしてその中には魔導書だけでは無く、

ありとあらゆる書籍が集められていると言う。


本好きの俺にとって、

こんなにも心躍るダンジョンがあるだろうか。

俺はワクワクが抑えられず、

思わず顔を緩めた。





ダンジョンに入る支度を終え、

寝る準備をしていると、

ふと自分の登録証が目に入った。


「・・・そういえば、更新したんだったな・・・」


普段あまり目にしないため、

存在自体を忘れていた。



俺は登録証を手に取り、

魔力を集束する。


<ステータス>


登録証を起動するための魔法。




俺の魔力に反応し、

登録証にゆっくりと文字が浮かび上がる。





「え。なんだ、これ・・・・?」



俺は、

そこに表示された情報に驚かされる。


名前:グレイ

ランク:B

称号:小鬼の(ナイト・オブ)騎士・ゴブリン

魔力総量:A⁺

魔力出力量:A

魔力濃度:S


いつのまにか称号が小鬼の(ナイト・オブ)騎士・ゴブリンに変わっている。

魔力の能力値が軒並みレベルアップしている。


いつもであればそんなところに目が行くが、

今日はそこにツッコミを入れる余裕すら無かった。


なぜならば、

俺の登録証には今までに見たことが無い様な、

赤い文字が浮かびあがっていたからだ。



『生命を弄びし者』



その明らかに異質な文字に、

俺は全身に鳥肌が立つのを感じた。


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