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第105話 許可

 


 翌日、

 俺はロロの執務室を尋ねた。


「グレイさん!身体はもう大丈夫なんですか?」


 ロロは事務仕事を止め、

 俺に駆け寄る。


「ありがとう。俺が倒れてから、ロロが治してくれたと聞いたよ。その、すまなかった・・・」


 俺はそう言って謝罪する。


「そ、そんな!聖女として傷付いた方を癒すのは当然です!それにグレイさんは・・・私の騎士ですし・・・」


 ロロは顔を赤くしながらそんな事を言う。

 後半の方は声が小さくてよく聞こえなかった。


「そう言って貰うとありがたい。だが以後気を付ける」


 俺はそう言った。


「・・・フフフ、でもそれは無理だと思いますよ?」


 ロロが俺を見て、おかしそうに笑う。


「無理・・・って、どういう意味だ?」


 俺は尋ねる。


「だってグレイさん、なにかに夢中になると、何を言っても無駄なんですもん。だから必ずまた無茶はするし、きっと怪我だってたくさんするんです」


 そう言ってロロは笑う。


「・・・ぐ、確かにそうだが・・・しかし・・・」


 俺は言葉に詰まる。


「・・・だから何度でも治します。私がグレイさんの側で」


 そう言ったロロの顔は真っ赤だった。

 そのあまりの照れっぷりに、俺まで恥ずかしくなる。


 俺はロロの顔が見れず、ああ、とかうんとか。

 そんな言葉をもにょもにょと答えた。


 くそ、

 何故か知らないが最近ロロを前にすると、

 感情が上手くコントロール出来ない。

 俺は赤く火照った頬を叩いた。



 ・・・

 ・・

 ・



 なんとなく気恥しくなってしまったが、

 気を取り直して、

 俺はもう一つの要件をロロに伝えることにした。


 これはどちらかと言うと仕事上の相談だ。



「・・・そう言えば、こんな事があった直後で大変申し訳ないんだが・・・そのうちに図書館迷宮に行きたいと思っている」


 俺はロロに言う。


「図書館迷宮・・・ですか?」


 ロロが尋ねる。


「・・・ああ。出来れば雪で道が閉ざされる前に。実はゼメウスにそこに行ってみろと言われていてな。もちろん仕事があるからすぐにとは言わないが、近いうちに纏まった休みを貰えると助かる・・・」


 俺は言った。

 今の俺はロロの近衛騎士だ。

 仕事を放ってダンジョンに潜るわけにはいかない。


 ゴブリンの件が終息し、

 教皇が居なくなってまだ一か月だ。

 ロロの聖女としての仕事が落ち着くにはもう少し時間が掛かるだろう。


 冬まではもう少し猶予がある。




 だがロロから返ってきたのは、

 俺が意図したのと逆の答えだった。


「・・・・グレイさん、それは今すぐに行ってください」


 ロロは答えた。



「今すぐ?いや、だが俺には騎士としての仕事が・・・」


 俺は答える。


「・・・あのゼメウスがグレイさんに伝えた言葉です。何かしら意図があると思います。もしかしたら私たちの魔法に関する情報が得られるかも知れません・・・」



 ロロが私たちの魔法と言っているのは、

 もちろん時間魔法と生命魔法の事だ。


 ロロは禁忌に触れる生命魔法を、

 あれ以来一度も使用していない。



 ロロは真剣な表情でゆっくりと話し始めた。



「・・・私は禁忌を犯しました。この件が落ち着いたら、すべてを話して聖女を辞するつもりです。でもその前に自分が授かった力について知る責任があると考えています」


 ロロは悲しそうな表情で言った。



「それは・・・」


 俺は驚いた。


 それはロロの生命魔法により俺が甦ったあの日、

 ロロの口から語られた決意と同じものであった。


 教皇が失踪し、

 うやむやのうちに聖女を続ける事になったが、

 彼女の中でその決意は生きていたのだ。



 この一か月と言うもの、

 俺とロロはゼメウスの箱に関する話をしていなかった。



 人前で気軽に話せるような話でもなく、

 お互いに改めて話すようなタイミングも無かった。


 彼女は一人悩み続けていたのだと、

 俺は初めて気が付いた。




「・・・すまなかったな。ロロ」


 俺はロロに謝る。


「・・・あ、謝らないでください。だからこれは私からの仕事依頼だと思ってください。図書館迷宮に行って、ゼメウスとその魔法に関する情報手に入れてくる事、どうですか?」


 ロロは笑いながらそう言った。



 だが俺は、

 その笑顔が強がりなのだと気が付く。


 この子は、こうなのだ。

 いつも俺の事を気遣ってくれる。



「・・・分かった。その依頼、必ず達成して見せる」



 俺はロロに力強く答えた。



 ・・・

 ・・

 ・



「そう言う事なら、お任せください!」


 アンが珍しく大声で答える。


「良いのか?」


 俺は尋ねた。


「実際、今のブルゴーなら大した危険もありませんし、俺たちだけでも大丈夫っすよ」


 ダリルが言う。


 何故だかは分からないが、

 二人は燃えていた。


「どういうことだ・・・これ?」


 俺はバロンに小声で尋ねる。


「・・・ククク、主の忠実なる僕が増えた、と言う事です。主の覇道は留まることを知りませんな」


「し、僕?なんだ、どういうことだ」


 俺は戸惑う。

 バロンの説明は余計に俺を混乱させた。


「・・・隊長だから自由に休めないなんて古いですよ。聖魔騎士団は結構健全な職場ですし、むしろ有能な上司ほど現場は部下に任せるもんです」


 アンが言った。


「・・・そ、そういうものか?」


 俺は尋ねる。


「隊長の不在、俺たちが守って見せますよ!」


 ダリルが言う。


 俺は二人の言葉を聞いて、安堵する。

 たしかに彼らになら任せても大丈夫だろう。


「すまん・・・恩に着る」


 そうして俺は図書館迷宮に入るため、

 ブルゴーを出立するのであった。



 ・・・

 ・・

 ・



「いいのですか?」


 キリカが尋ねた。


「・・・何がですか?」


 ロロが尋ねる。


「グレイ殿の事です。寂しさが顔に現れていますよ?本人も先を急いでいる様子はありませんでしたし、もう少し・・・」


「だ、大丈夫です・・・!」


 キリカの指摘に、

 ロロは恥ずかしそうに顔を背ける。


 その顔を見てキリカは心臓がドクンと跳ね上がる。


 ただ軽い冗談のつもりで、

 ロロをからかったつもりだった。


 だが、想い人に対し純粋な気持ちを抱くロロを前に、

 キリカは表現しようのない感情が、

 自分の内側に生まれるのを感じた。



「ロロ様・・・」


 キリカは呟く。


 そして背中を向けるロロに手を伸ばす。

 この少女に触れたい、

 心に寄り添いたいと言う感情が、

 我慢できないほどにあふれ出す。





「・・・キリカ?」


 ロロに名前を呼ばれて、

 キリカはハッとする。


「どうしたんです?大丈夫?」


 ロロが心配そうに顔を覗き込む。

 キリカは慌てて目を逸らした。


「だ、大丈夫です・・・失礼いたしました。私は仕事に戻りますので、これで」


 キリカはそう言って、

 ロロの部屋を出て行った。


 キリカのその姿を、

 ロロは不思議そうに見送った。

 




 それからキリカは

 洗面所へと駆け込み、

 冷水で顔を洗った。


 まるで自身の劣情を洗い流すように、

 何度も顔を洗い流した。


 そして鏡を見る。


 そこに移った自分に問いかける。



「お前は・・・何をしようとしていた・・・?ロロ様に、どんな感情を・・・」


 キリカは自分に問いかける。



 鏡の中のキリカは、

 眼の下に疲労の後がくっきりと表れていた。




「私は・・・私は・・・」




 キリカは抑えきれない感情に、

 自らの身体を強く抱きしめた。


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