第100話 近衛の仕事
「それで近衛の騎士と言うのは何をすればいいんです?」
俺はキリカに尋ねた。
「まずはロロ様の身辺警護を。無論、我らも目は離しませんが・・・おそらく騎士たちがロロ様の近くに居るとストレスになりますので」
キリカが寂しそうに言う。
たしかに厳つい騎士たちが四六時中側にいれば、
それなりに圧を感じる事だろう。
「分かりました。努力します」
俺は答えた。
「・・・多少強引にはなってしまいましたが・・・グレイ殿の協力、感謝いたします」
キリカが頭を下げる。
「・・・多少?」
俺は呟いた。
「う・・・いや、あの時は何故か分かりませんが、私も熱くなっていたと言うか・・・まさか騎士長たちもあそこまで本気を出すとは思っても居なかったのです・・・」
キリカが申し訳なさそうに答える。
その姿はいつものキリカだ。
俺はため息をついた。
「・・・分かりましたよ。正直、ロロのあの嬉しそうな顔を見たら今更断ることも出来ないですしね」
俺の言葉にキリカが顔を上げる。
「ありがとうございます!あの・・・給金の方はご期待ください。カリュアド様の計らいで聖女の騎士の名に恥じない様に、とのことです」
俺はその言葉にピクリと反応する。
「・・・期待・・・させて貰いますよ」
俺は呟いた。
俺には多額の借金があるのだ。
金が貰えると言うのであればそれほどありがたい事はない。
「それから、一つ頼みたい事があるのですが・・・」
俺はキリカに言う。
「頼み、ですか?」
キリカが首をかしげる。
「・・・はい。図書館迷宮へ入るための手続きをお願したいのです」
俺は言った。
「図書館迷宮ですか・・・たしかにあそこに入るには特別な許可が必要ですが・・・まぁグレイ殿なら大丈夫でしょう。少々お待ちください」
キリカは答えた。
これでいい。
借金返済と、図書館迷宮への挑戦許可。
半ば強制の騎士任命だったが、
その仕事を頑張る意味も出来た。
俺はキリカに礼を言い、
部屋を後にした。
・・・
・・
・
「グレイさん、今日からよろしくお願いいたします」
そう言ってロロが頭を下げる。
「よろしく、ロロ。でも頭を下げるのは止してくれ。今は俺がロロに仕える立場なんだからな」
俺は答えた。
「そ、そんな!仕えるだなんて・・・グレイさんが側にいてくれると言うだけで、私は安心です」
ロロはそう言って笑う。
「身辺警護、頑張るよ。何かして欲しいことがあったら気軽に言ってくれ」
俺はそう言うと、ロロはやたら感動している様子だった。
「それで、今日はどうするんだ?」
俺は尋ねる。
「は、はい。ブルゴー近くの村にお祈りに行く予定です」
ロロは答えた。
「村、遠征か・・・」
「はい。ゴブリン発生の被害があったようで、その慰問に・・・街を出ますので警護をお願いいたします。グレイさん」
「勿論だ」
俺はそれを了承した。
午後。
俺は大聖堂の門の前で、
ロロの準備が出来るのを待っていた。
すると聖堂の方から、
見覚えのある顔が歩いて来るのが見えた。
それはキリカ隊に居た、
アン、ダリル、そしてバロンの三人であった。
「あ、あの・・・私たちキリカ様の指示で来ました」
「道中の警護、お手伝いさせていただきます」
アンとダリルが、恐縮しながら言う。
「ククク、主。我らの道が再び重なりましたな」
バロンはいつも通りだ。
「良かった、一人で不安だったんだ。助かるよ」
俺は正直に答える。
その言葉にアンとダリルはホッとした様子だった。
「お待たせしました!・・・ってあれ?バロン」
「ククク、ロロよ。俺も行くぞ」
二人が話す。
ロロとバロンは幼馴染。
そしてアンとダリルはロロと同世代だ。
年の離れた厳つい騎士が護衛に付くよりは気軽だろう。
「・・・せっかくグレイさんと二人きりだと思ったのに・・・」
出発の間際、ロロがそんな事を呟いたのを俺だけが聞いていた。
・・・
・・
・
「平和だな・・・」
馬車に揺られながら、
俺は呟いた。
「本当、ですね」
俺の言葉をロロがニコニコしながら肯定する。
「正直、東の大陸にきてすぐにアレだったからな」
俺は言った。
「この辺りは聖魔の騎士が日々、警邏していますから。ゴブリンさえいなければこんなものですよ」
答えたのはアンだ。
「騎士の皆さんが、頑張っていただいているおかげですね・・・」
ロロが答える。
その言葉にアンは嬉しそうに頷いた。
「しかし意外でした。ゴブリン殺戮者、いえグレイさんがこんなに穏やかな方とは・・・」
アンが俺に言う。
「どんな人物像だったんだ、俺は・・・」
俺はため息をついた。
「噂ではゴブリンを使役し、最後には同族殺しを命じたとか」
「ゴブリンへの執念から、地獄の底から甦ったとも言われています」
アンとダリルが言う。
うん、事実ではないが、
半分くらいは真実が含まれているな。
俺は噂の出所と思われる二人を見る。
ロロとバロンは気まずそうに視線を逸らした。
「とにかく・・・俺は戦闘狂ではない。ゴブリンの件は・・・誤解と偶然の積み重ねだ。仲間として、よろしく頼む」
俺はそう言った。
そんな俺を、ロロは嬉しそうにニコニコしながら見ていた。
「騎士の方々、魔物です」
御者が俺たちに声を掛ける。
「現れたわね」
アンが立ち上がる。
「よし、運動不足にちょうどいいな」
ダリルが両手斧に手をかけた。
俺も立ち上がる。
すると、バロンが手で俺を制した。
「主、ここは我らが。ロロの側にいてください」
バロンが言う。
「しかし・・・」
俺は躊躇する。
「大丈夫ですよ。バロンたちに任せましょう」
そう言ってロロが俺に言う。
「分かった。頼むぞ」
俺がそう言うと、
バロンたちは一斉に馬車を飛び出していった。
「ファイアウルフ!」
アンが叫ぶ。
見ると馬車の周辺に、
数頭の狼型の魔物がいた。
「来い・・・獣ども・・・」
そう言ってバロンが両手にダガーを構える。
狼たちはアン達を囲み、
グルルと喉を鳴らす。
<エアニードル>
アンが魔法を放つ。
風の棘が、
狼の一等に突き刺さる。
狼はキャンと高い声で吠えた。
その鳴き声をきっかけに、
狼たちがアン達に一斉に襲い掛かる。
「うおおおおおお!!!」
そう言ってダリルが両手斧を振り回す。
その刃に触れた狼は両断され、
吹き飛んでいく。
狼たちはダリルから距離を取り、
魔力を集束し出した。
「ギャオン!!!」
狼たちは咆哮と同時に、
いくつもの火球をダリルに向け放つ。
「ぐっ!」
ダリルは火球を喰らい、
両手斧を振り回すのを止める。
その隙を突いて、
別の狼がダリルに向け飛びかかった。
「ハッ!」
その狼の首を目掛け、バロンがダガーを振りぬく。
スピードの乗った刃は、狼の首を一撃で跳ね飛ばした。
再び狼たちがグルルと唸り声をあげて、
威嚇する。
<エアボム>
アンが狼の群れの中心に風を爆発させると、
狼たちはキャンキャンと鳴きながら散っていった。
辺りに静寂が戻る。
「ふぅ・・・これで大丈夫かしらね」
アンが額の汗をぬぐう。
「おおお!まだ足りないぞ!」
ダリルはまだ戦闘の熱が冷めやらぬ感じだ。
「やるな・・・」
俺は素直に称賛した。
「聖魔の騎士ですからね。これくらいは」
アンがはにかんだ様子で答える。
「すごいです、皆さん!」
ロロがそんな三人に拍手を送る。
俺は三人に頼もしさを感じた。
うん、これなら大丈夫だ。
そして俺たちは再び村に向け、
馬車を走らせる。
周囲を警戒し、少し速度を落としたため
到着が遅くなってしまったが、
俺たちは何とかその日のうちに、
目的地の村に到着することが出来たのだった。
第六章スタートです。
まだまだお付き合いいただいてる方、
本当にありがとうございます。
よろしくお願いいたします。




