第99話 邂逅
<風精霊の槍>
緑色の光と同時に、
風が渦巻き刃となる。
幾本もの風の槍は、
一人の男を目掛け放たれた。
「・・・無駄だ」
そう言って男が右手をかざすと、
風の槍は男の正面で霧散する。
「なっ・・・魔法が・・・」
魔法を放った魔導士が驚く。
「死ね」
男が呟き魔力を放つ。
「ぐっ、ぎゃああ!!!」
その瞬間、
魔導士の身体は内部から爆散した。
そして、辺りに静寂が広がる。
ここは南の大陸。
エルフの里の奥深く。
ここにはエルフの里の国宝である、
ゼメウスの『緑の箱』が保管されている神殿。
エルフの戦士たちが強固に守護しているはずの神殿は、
圧倒的悪意に包まれていた。
「相も変わらず凶悪な魔法を使うな・・・白蝶・・・」
後ろからその戦いを見ていた老人が嫌悪を口にした。
「・・・」
男は老人の言葉には答えなかった。
老人は苦虫を噛み潰したような顔で男を見つめる。
その時、後ろから一人の騎士が老人に声を掛ける。
「教皇様・・・、地下の隠し部屋に『箱』が見つかりました。」
老人、教皇オーパスは騎士に頷く。
「エルフどもは見つけ次第、殺せ。やつらの精霊魔法は厄介だからな」
「御意」
声を掛けられた騎士は闇の中へと消える。
「・・・『円卓』。あのようなものを生み出した貴様が俺に何か言う立場にあるのか」
白蝶は呟いた。
「フフフ、勘違いするな。あれは贈り物だ。魔力の神からの、な・・・」
そう言って教皇は笑う。
そして教皇は部屋を出て、どこかに消えていった。
「・・・随分と都合の良い神ですね・・・彼の妄想の産物でしょうか・・・」
教皇の消えた部屋で、
誰かが『白蝶』に話しかけた。
気が付くと、部屋の隅に白づくめの女が立っていた。
「・・・『緑の箱』を手に入れ次第、帰還する。脱出路を確保しておけ」
白蝶は白づくめの女に指示を出す。
「仰せのままに・・・しかし、既に我らを邪魔できるようなものは全員、死んでおりますわ。白蝶様」
そう言って白づくめの女は笑う。
「・・・貴様は、前任者よりも優秀なようだな」
白蝶は答える。
「それは、死にたくありませんので・・・」
そう言って白づくめの女は笑う。
そして笑い声だけを残したまま、
いつのまにか白づくめの女は姿を消していた。
「間もなくだ。間もなく『緑の箱』と大魔導ゼメウスの力が我が手に・・・・」
白蝶は呟いた。
「・・・魔力の神よ、どうかご加護を・・・」
そう言って白蝶は、
部屋を出て『緑の箱』の元へ向かおうとする。
だが、そこに一つの人影が立ちはだかる。
「・・・貴様は」
白蝶は吐き捨てるように言う。
「・・・誰でもない。でも貴方を殺す」
そう言って人影は、
自身の身の丈ほどもある大剣を構えた。
「貴様に殺されるような覚えはないが。まぁだが良い」
そう言って白蝶も腰を落とし構えた。
その瞬間、人影は大地を蹴り白蝶へと斬りかかる。
大剣の重量を活かした、脳天目掛けた打ち下ろし。
人影は躊躇の欠片もなく振りぬいた。
白蝶はその斬撃を、皮一枚で避ける。
避けられた大剣はそのまま地面を叩き、
二人の脚元を破壊する。
「・・・ッ!」
白蝶は右手に魔力を集束し、魔法を放つ。
人影は身を翻し、その魔法を避けた。
その回避は傍から見ると過剰なほどに思えた。
「・・・どうやら私の魔法の事を知っているようだな。」
白蝶は呟く。
「・・・触れたら死ぬ。触れなくても死ぬ。あの時もそうだった」
人影は答える。
「・・・あの時?そうか。貴様の魔力の反応、覚えがあるぞ?」
白蝶が答える。
「そう、貴方に滅ぼされた」
「復讐者と言う訳か」
「そう」
「・・・どのみち『箱』はやつらが回収する。相手になろう」
「・・・箱」
人影は呟いた。
「・・・喜べ、私が人間である内の最後の対戦相手が貴様だ。常識を超えた魔法の力を、私は間もなく手に入れるのだ・・・」
そう言って白蝶は口元だけで笑った。
「・・・残念だけど」
そう言って人影は再び大剣を構えた。
「私は既に知っている。常識を越えた力を持った存在を」
「・・・なに?」
「だから怖くはない。そして貴方はその力を手に入れる事が出来ない。私に倒されるから」
そして人影は、
再び大地を蹴って白蝶に襲い掛かった。
「・・・神に逆らう者が」
そう言って白蝶は、
再び魔力を解き放った。
次章の幕間のため短めです。




