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魔法剣士の絶望

師匠が死んだとき。信じられなかったが、昨日の会話はそういうことだったのだ。と納得もできた。ずぼらなあの人らしからず。遺言や形見分けの書類まで準備してあるのは、少し可笑しく思ったが。あの人なりの配慮だったのだろう。未来が見える魔眼を持っていたのだし。僕に与えられた形見はは、剣だった。透き通るような刃で、魔力の馴染みが恐ろしいほどに良い。アリアリアの話によれば、かなり珍しい鉱石を使っており、この純度ならば国宝とされていてもおかしくないと言っていた。実用一辺倒、なんの装飾もない鞘や柄では勿体無いとも言っていたが、どう使って欲しいかの表れだろうと思う。装飾なら魔王を倒したあとでいくらでもできるし。


問題はその後である。魔王に近づくにつれて、僕はリーシャ以外の仲間から距離をおかれるようになった。いや、リーシャは変わらない、でも彼女以外皆いつも勇者の周りにくっついている。雑用や偵察を僕だけがこなすことも多くなった。偵察なんかはマリーの方が得意だと思うのだけど、勇者から離れたくないらしい。確かに、勇者の顔は整っているし、性格も良い、カリスマもある。劣等感など抱くことすら烏滸がましいと思えるほど優れている。が、最近は少し傲慢な態度が目立つように思える。実は勇者の滞在、というのは頻繁にあったり、長期に渡ると街の上層部からは喜ばれないものだ。何故なら、滞在費は街の町会所の負担だから。勿論その手の費用の積立てはあるのだが、長引けば本来であれば貧しい人の救済に用いられる予算や、必要な工事の予算を圧迫する。何より、滞在が長引く、ということは仕事が進んでいないということになる。難しい仕事ならば仕方ないが、遊び呆けているのだから不満も貯まる。


「疲れてる…のかな」


敵の偵察を終えて、宿に戻りながらこんなことを考えてしまう程には。疲れているのかもしれない。


「あ…、ヒース兄さん」


宿屋の前でリーシャが佇んでいた


「どうしたんだ?寒いだろ?部屋に戻ろうぜ?」


春先とはいえまだ寒い、リーシャの服装を見れば上着も着ていない。


「えっと…、そうだ、酒場、何処か酒場にいきませんか?」


「あ、悪い、携帯食料で済ませてるからお腹減ってないんだ、それに財布、部屋だし」


味はクソ不味く、量も少ないくせに何故か満足感だけはある謎の食べ物として有名で、冒険者の友として売られている食品で、遠征や火が使えない時などに役に立つのだ。今回もそれで済ませている。


「奢りますから!!兎に角、私が食べたいんです!!」


いや、年下の女の子相手にそれはダメだろ。と思う。


「まあ、財布くらいは取りに行かせてよ」


そう言って、宿屋に入ると、店主に疎ましげな目で見られる。


「お連れ様になんとか言ってくれないか?仲が良いのは結構だし、そういう行為を禁止はしていないが、さすがにここまで続くと迷惑だ」


耳を澄ますと、…そういうことか。お盛ん、とでも言うべきかな、数人分の声、ショックはそこまででもなかった。アーリィとは結婚の約束までしてたクセに、なんだか、今の状況が予想ができていたような気持ちだ。


「…成る程ね…ごめんな、リーシャ」


「ヒース兄さん…」


泣きそうな目で見てくるリーシャの頭を撫でる。


「じゃあ、ご飯でも食べに行こうか、ちょっと困ってる所をお手伝いして、仲良くなった人がやってる食事処があってね。高級なところだから遠慮してたんだけど、お代はいらないから一回食べに来てくれって言われてたんだ。ほら、高いところってさ、ペアとか複数人で行く人が多いじゃない?いくらお礼とはいえ、一人は行きづらかったし、丁度良いからさ」


「でも、兄さんは」


僕のために泣いてくれる、幼馴染みは。やっぱりアーリィの事を気にするみたいだ。


「ありがとう、でもさ、良いんだよ。結局、口約束だし。そもそもあのまま村で生活していても認められたかは怪しいしね、だから、師匠の所に行ったってのもあるんだけど…、まぁ、そのお陰で、どこでも生きて行けるようになったからさ」


魔法使いとしての才能を見いだされ、更には知り合いの剣士に剣を習い、ここまで来た。そういえば、僕、勇者の指導係としての側面もあったらしいんだけど。どうなんだろう?なにもしていない気がする。


「だからさ、泣かないで、縁がなかっただけだよ」


リーシャを慰めながら、胸の中のどす黒い気持ちや、絶望を切り捨てる。結局、過ぎた望みだったのだ。

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