第八話
母が亡くなってから二、三週間経った頃――――。
俺は受験なんてどうでもよくなって昼夜を問わず、ネットゲームにのめり込んだ。
それこそ、このままゲーム廃人になったって構わないとすら思っていた。これは本音だ。
それにゲームにのめり込んでいればゲーム内での友達が出来て一人じゃないし、何よりも現実のことを忘れられる。
一度、ゲームから現実に戻れば、苦しい現実と向き合わなくてはならない。
そして、俺は現実に戻る度に無知無能な自分を責めた。
もし、何か、何か別な行動を出来ていれば―――――
一時間でも早く病院に着いていれば――――
母は助かったかもしれない。
そんな思いを抱えて日々、生活していた。
だからあの時、俺はゲームを逃げ場にして必死に逃げたのだ。
時は再び、流れ、三月上旬、高校への入学受験が開催された。
まぁ、今までの流れから言うまでも無いが……俺はこの時を勉強せずに迎えた。
いわゆる……ノー勉受験っていうやつだ。
ちなみに、試験中ですら頭がバカな俺は、問題を適当に解きつつ「ボスキャラを効率的に狩る方法」を考えていたほどで完全に「不合格上等!」状態だった。
そして、試験日から二、三週間が経ち、高校の合格発表が行われた。
その結果には正直、ビビッた……、
合格していたのだ――――。
父は「お母さんのおかげだな」と言っていたが……受験をした本人としては不合格の間違いではないかと何回も確認してしまう程だった。
こうして四月に入って、高校生活が始まった。
俺が配置されたクラスの同級生たちは新しい生活に沸き立つ連中が多かったが、俺から言わせればここは地獄だった。
現実に引き戻す……というより、日陰に居る俺を無理やり日向に立たせるような場所だったと言える。
高校生になったとは言ってもほぼ身が入らない生活だ。だから、俺は帰宅部になろうとしたが、学校側がそれを良しとしなかった。俺の進学した高校は『文武両道』をモチーフに掲げていた高校だけに、外面を考えれば当然のことだった。
まぁ、学校も今のご時世、ネームバリューが無ければ新入生が激減して廃校になる可能性だってあるわけだから知名度を得たいのもわからなくは無いが、正直、俺は「仮にどっかの部活に入っても何も成せないと思うんだけどな?」と思っていた。
結局、生徒指導の先生までもが俺を説得し、俺は渋々、卓球部に入部することになった。
それからはというと――――。
朝、学校に行ってから適当に授業を聞いて、放課後になったら部活に顔を出し、上級生や同級生の機嫌を損ねないように接して……ただただ過ぎていくだけの生活を過ごし続けた。
正直に言おう――――。
くだらないし、面白くも無い。そして、生きている意味すら分からなかった。
だが、そんな生活をダラダラと送っていた高校一年、夏のある日からちょっとした変化が起きた。
学校の昼休み時間に一人、机の下でゲームを忍ばせ遊んでいるとクラスメイトでもあり、同じ卓球部員でもある荒堅 剛志が俺に話しかけてきたのだ。
「大輔、ゲームやってるんだったら……一緒にやらねぇか?」
「あ? ああ、いいけど……」
剛志の手には、俺が今やっている同型のゲーム機と同じソフトが握られていた。
ちなみに、この剛志は同級生の卓球部員の中で一番、卓球がうまい奴だった。
俺から言わせれば、剛志は”陽の当たる所に居る奴”というイメージで俺とは不釣合いな奴だった。
なのに、一緒にゲームをしようというのだ。
だから、変に勘ぐってしまう。
例えば……俺を何かに利用する気があるとか、顧問が「気に掛けてやれ」とでも言って、無理に来させているんじゃないだろうかとか……。
最初は、少し警戒しながら一緒にゲームをしていたが、剛志はゲームをしながら笑ったり、悔しがったりするものだから、表裏が分かりづらかった。
こうしてその日の昼休みはあっという間に終わっていった。
なんというか、この時、同級生とゲームをするというのも悪くないのかもしれない……と思った俺なのだった。