第七話
母の死――――。
それは俺にとってあまりにも受け入れがたいものだった。
俺は誰の言葉も信じなかった。母が死んだ? そんなことありえない――――。
だって、俺の母さんなんだぞ?
そう心に言い聞かせていた。でも、翌日に亡き母を見た時、それが事実だと受け入れるしかなかった。
その時、俺の目からは大粒の涙が溢れた。
母に覆いかぶさり必死に揺さぶってとにかく泣きじゃくった。
「こんなの嘘、だよね……? 嘘だ……! ねぇ! 起きてよ!」
俺は動かなくなった母を抱きかかえてギュッと抱きしめた。
だが、母の体は驚くほど冷たく、それはもう昨日感じた母の体温は一切、感じなかった。
その冷たくなった母の体温を感じた瞬間から俺の涙はもう止まらなかった。
受け入れなくてはならない現実と未来への不安、絶望。
そして、やり場の無い感情と意味もなく「なんで死んじゃったんだ」という悲しさ、つらさ……そんな思いをぶつけるように母にしがみついて泣いた。
あの時、あまりにもずっと泣き続けていたこともあって途中、誰かが俺を母から引き剥がそうとしたが、俺は母の体を離さなかった。
なぜなら、その寝顔は点滴室で俺に見せたような優しい笑顔で……今にでも「ごめん、ごめん! 死んだなんて嘘でした!」と軽く言いながら起き出しそうな表情だったのだ――――。
だから、俺は……離れられなかったし、涙も声も止まらなかった。
「ねぇ……早く起きてくれよ……」と……。
その数日後、父が喪主となって葬式や告別式が執り行われた。
その間の記憶で強く残っている事は一つだけしかない。
それは同級生から掛けられた言葉だ。
その言葉とは、葬式の時に上辺上の友人が数人、出席してくれて……その時、俺に言った言葉だ。
「大丈夫? 辛かったね……」
まぁ……普通に考えれば、友人を気遣う素晴らしい掛け言葉だったし……もちろん、その言葉に対して「ありがとう」ととも言ったさ……
でも、俺の心はその時点で冷静ではなかった。
俺の心の内では憎悪……いや、嫉妬で満ちていたんだと思う。
(大丈夫? 辛かったね?だと……? お前ら、何様のつもりだよ? 貴様には母親も父親も居るだろうが! 知った風に言うんじゃねぇよ!!)
そう心の中で叫んでいた。
俺の何が分かるっていうんだ……!
そんな感情を抱いていたこともあって強く、強く記憶に残っていたのだ。
こうして母の葬儀や告別式を含む初七日は終わったのだった。そして、同時に俺は人生の方向性を見失った――――。