第十六話
そして、合格を勝ち取ってから二年と言う月日が流れた。
大学一年生のうちはマトモな研究や調べ物が出来なかったが、図書館に篭って参考書をとにかく漁り回った。そして、二年生に入っていよいよ子どもに纏わる講義が開講され、本格的に勉強へと熱が入った。
しかし、そんな俺には最近になって気になる事があった。
それは……聞こえてくる悪口の数々だ。
「あいつ、キモくない? それに何か臭くない?」
それに大学に行くために毎日、電車に乗るのだが……その中でも”言われる”ようになったのだ。
大学進学を期に俺は前を向くようになったのにも関わらず、そんな事を影でグチグチ言われたら溜まったものではなかった。
「なんなんだよ……俺の何が悪いんだよ!」
あの時は間接的とはいえ、結構塞ぎ込んだ。
だが、『子どものために自分の命を費やす』と言う目標が俺の折れかかった心を支えた。
「まだ、こんな所でくたばるわけには行かない……!」
俺はとにかく勉強に打ち込んだ。
そして、同年の秋には俺はそれ相応の成績を残し、実習に行けるだけの単位を揃えた。
依然として『例の悪口』はずっと、続いていた。
むしろ、酷くなっているくらいだ。
正直、気丈に振舞ってきた俺も限度が来ていた。
だけれど……勉強一筋で打ち込んできた俺には全くと言っていいほど交友関係というのは少なかったし、そんな事を相談できる人間は居なかった。
そのため、俺は心理相談室に行って相談することにした。
勉強の過程で心理系の疾患も知っていたため、もしかすると……心理的な疾患も有ると考えたからだ。
今までの経緯を相談士と話した結果……。
「もしかしたら、三賀君は対人恐怖症かもしれないね……?」
「え? 俺が、ですか?」
「うん。実際に”キモい”と言われるのは人の容姿の事だから他人がどう思うかは……私には分からないわ。ただ、ここで三十分、一緒に話しているけど臭くは無いわよ?」
「…………。」
相談士の見立て的には対人恐怖所による幻聴。あるいは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)だろうという事だった、でも、それは疾患的に見ればの話で、それが事実かどうかは心療内科で診察を受けて確認してほしいとのことだった。
「心療、内科か……」
俺はその事実に直面しながら帰路についたのだが……不思議な事が起こった。
その事実を突きつけられてから『例の悪口』が消えたのだ――――
正直、あの時は人に話すと変わるものなのか……?とびっくりしたものだが、それから二ヶ月、三ヶ月経ってもその声は聞こえなくなった。
だから、俺は心意性の幻聴……。
つまり、心理的負荷の掛け過ぎによる突発的な幻聴だと結論付けたのだった。




