第十三話
切り札になるもの――――。
俺は梅沢先生にそう言われて以来、ずっと悩んでいた。
自分がなぜ、S大学に進学したいのか、なぜ、ここで無ければダメなのか……
確実に言い切れる根拠を探していた。
そんなある日の休日、俺は深夜まで作業していて朝遅く目覚め、リビングで朝食を摂っていた時、何気なく付けたテレビ番組で気になる報道をしていた。
その報道テロップは『児童虐待により、男児が死亡』というものだった。
その内容をざっくり説明するとネグレクト……すなわち、育児放棄によって幼稚園に通う男児が満足な食事を与えられず、不衛生な家の中で遺体となり、発見されたというものだった。
その報道を見た時、俺は心を痛めた。
まだ、この世に命を受けて四、五年の子どもの命が無くなった――――
まして、その男の子は助けすら求めていた。
でも、その命を助けの手が差し伸べられる事はなかった。
「そんな事が許されていいはずが無い!」
俺はやるせない思いから気付いたときには涙を流していた。
だが、それと同時に”ある事”を思い出した。
そういえば、社会福祉には子どもに関連する職種があったはず――――
俺は早々に朝食を流し込み、自分のパソコンでその専門職、そして児童虐待のデータを徹底的に調べたのだった。
その結果、出てきたのは児童福祉司と児童指導員、スクールソーシャルワーカーだった。
これなら切り札になる――――
誰かを守るために……。
そんなアバウトな考えが今、確実に固まった。
「俺は子どもを守りたい」
そう心で決意したのだった。
――――――――――
その日の翌日、梅沢先生に会うため進路室に訪れていた。
もちろん、その理由は”切り札”の件だ。
「先生、コレ……切り札になりませんか?」
「ん……?」
俺は調べた上げた紙束と新聞記事を梅沢先生に渡した。
それを見ながらしばらく間、梅沢先生は黙った。
「よし……コレなら行けるな。とりあえず、これで志望動機を書いてみろ」
「はい!」
それから俺はひたすら、志望動機を書いた。
もちろん、俺の語彙力ではすぐ書けるわけもなくトライアンドエラーを繰り返した。
だが、梅沢先生は俺を見捨てず、指導を続け、俺もそれに答えるように春、夏の長期休暇を志望動機の作成につぎ込んだ。
そして――――
「よし、コレでいいだろう! 三賀、よくやった!」
志望動機は願書の締め切り寸前で完成したのだった。
――――――――――
だが……内心、俺はこの時点で既に焦っていた。
自分でこんな事を言うのもおかしい居のだが、俺はアガリ症だった。
要は、面接なんていうものは”大”がつくほど苦手なのだ。
試験日まではあと一ヶ月あるか、ないかなのだ。
故に焦らずにはいられなかった。
しかし、梅沢先生は至って冷静で俺にこう説いた。
「三賀、アガリ症なのはわかるが……実際、入試対策はもう終わったようなもんなんだぞ?」
「え……。でも、質問に対する答えとか暗記しないとダメじゃないですか……」
「まぁ、普通はそう考える生徒が多いが、練習はさほど要らないと思うぞ? 自分の特徴や入りたいという動機は三賀が今まで散々、やってきた志望動機に入っているわけだからな」
「そういうもの……ですかね?」
「そういうものだ。特に三賀の場合は期間を集中的にやっているからな。まぁ、だからと言って面接練習をせずに本番と言うわけにはいかないが……志望動機の中から答えのピースを出せれば、面接なんて問題ないはずだ。心配なら一日、三回志望動機を暗証するだけでも違うと思うぞ」
そう梅沢先生は問題なんて無いよ!という感じで非常に軽かった。
それから俺と梅沢先生は時間の合間、合間を縫って面接練習を定期的に……それもザックリと行ったのだった。




