第十一話
現実にぶち当たってからどれだけの時間が経っただろう。俺は昼夜を問わず、悩んでいた。
最初は父や剛志に相談しようと思ったけれど……でも、それは他人の意見を聞く行為であってその意見に俺が流されないとは言い切れない。
それに「これは俺が決断しなければ意味がない」そう、思っていた。
まぁ、でも……その様子に父や剛志は気づいていたようで……何事もないように接してくれていた事を俺は知っていた。
そして、遂に明日、最終進路調査票の提出締切日がやってきた。
確か、父に話をしたのは夕暮れ時の夕食前だったと思う、俺は父に頭を下げながら自分が決めた固い意志を思いのまま伝えた。
「父さん、進路の事なんだけど……俺、大学に進学したい! 進学して必死に勉強して……資格取って……誰かのために役に立てる仕事に就きたいんだ!」
その時の父の目は一直線に俺を見ていた。
「わかった。お前がやりたい事をやってみろ! だけど……途中で投げ出すんじゃないぞ? わかったな?」
「うん……約束する!」
この瞬間、俺は大学に進学する意志を確実に固めたのだった。
そして、翌日――――
最終進路調査票を提出したのだが、放課後、担任の江藤に「進路の事で今から話できるか?」と呼び止められ、話をすることになった。
まぁ……俺としては予期していたことだ。
前に言ったとおり……今のご時世、生徒数が少ないため学校側はネームバリューが大切なのだ。
今は高校二年の秋半ば……。
つまり、進学組に入るにしては遅すぎると言うことだ。
ましてや、優秀な生徒ならともかく……成績もせいぜい五教科で300オーバーちょいのヘナチョコだ。
要は高校側としては、進学率を低くしたくは無いのだ。
「今から進学に変えても相当、難しいと思うぞ?」
「そうかもしれませんが、俺の意志に変わりはありません」
「だけどな……」
そんな押し問答がその日は永遠に続いたのだった。
それから学校側の意図など知ったものか! と弾き返しながら勉強に励んだ。
何せ、センター試験や一般なら、猶予はあと一年有るか無いかだ。
しかし、中間試験の点数は芳しくなく不安が過ぎった。
そんな時、担任からクラスの全員へ重要なお便りが渡された。
その題名は『三者面談のご案内』だった――――。
時は経ち、三者面談の当日――――。
父は会社を途中で抜け出し、スーツのまま高校へと現れた。
父にとってはこれが二回目の三者面談だったのだが、緊張した面持ちで担任の江藤と向かい合う形で話が始まった。
最初は授業の様子とかを話しながら至って和やかだったが、成績の話から徐々にトーンを落として行き、担任が一番、話したかったであろう「進路の話」を切り出してきた。
「それで、ですね……お父様の方は息子さんが進路希望を進学に変更なされた事は知っていらっしゃいますか?」
「ええ……息子から聞いています」
「お父様や息子さん……大輔君が居る前で大変、失礼なのですが……」
担任の江藤は前置きを置いて申し訳なさそうに話し出した。
「ハッキリ申し上げて……今の時期からですね、進学に変更してもどこにも受からないと思います」
「え…………」
父も一瞬、呆然としたが父はこう言い返した。
「確かに……一般的にはそうかもしれないですが、私は息子を応援したいと思ってます」
父は担任の口からそう断言されても俺の意志を尊重してくれたのだった。
結局、江藤は父……いや、保護者にそう言われた以上、引き下がるしかなかったようで三者面談は暗い雰囲気のまま終わったのだった。




