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初心者ダンジョン 4

このまま誰か来るのを待つか?

いや駄目だ!

待合室にいた冒険者達は、いつ来るか分からない。

ここに居てはモンスターの餌食になるのを待つだけじゃないか!

いつ来るか分からない冒険者に期待するより、今、出来る事をするべきではないだろうか?

待っていては駄目だ。自分から動かないと。


何の為に冒険者になろうと思ったんだ?

まだ冒険者と呼べる事を一切してないじゃないか。

やり残した事が沢山あるだろう。

金持ちになる事、ハーレムを作る事、その前に彼女も居ない僕だから、せめて異性とデートをしてみたい。

僕の夢、やりたい事は、いっぱいある。

こんな所で死ぬ訳にはいかない。

生きて地上に帰らないと…。


幸いにも今ならまだモンスター除けが効いている。

この鼻につくような刺激臭のお陰様で、モンスターは近づいて来る気配さえない。

なら、逃げるなら今だ。


それに入口から、そんなに奥まで進んでいなかった事も幸いした。

入口からどう曲がって、ここまで来たのか、見えなくても感覚で覚えていた。

あとはそれを逆に進めば良いだけ。


僕はすり足、手探りで壁際まで近づき、壁に手をあてた。

あとは見えなくても壁沿いを伝って歩けば戻れるはず。


暗闇の中、いつモンスターから襲われるか分からない恐怖の中、ゆっくりと進んで行く。

急いで進みたかったが、通路の端は凸凹した石が散乱、気を抜くと石につまずき転びそうになる。

慎重に歩かないと転んで怪我でもして動けなくなったら、どうしょうもない。


心の中で、『焦らずゆっくりと』と呟きながら一歩、また一歩と進んで行く。


あとは暗闇の恐怖との戦いだった。

僕の1番苦手な幽霊の事はどうでも良かった。

幽霊なんて所詮、僕に危害を加えることが出来ないまぼろしと同じ。

だがモンスターは違う。

今、モンスターに襲われたら、間違いなく僕は死に、僕の苦手な幽霊の仲間となってしまうだろう。

モンスター除けが、どのくらい効くのか?

入口にたどり着くまで効果は続くのか?


そんな不安からなのか暗闇の中、巨大なネズミが突然襲ってくるような気がしてならなかった。

後ろのリュックに付けられているネズミは手の感覚で、体長50センチほど。


だけど僕が暗闇の中に見えるネズミは、とても大きく、4本足を付けている普通の時でも高さは、僕と変わらないくらい。

体長は5メートルを超えるのではないか?

2本足で立ったら、間違いなくダンジョンの天井に当たるほど巨大だ。


そんな巨大なネズミが僕を暗闇の先で見つめていた。

幻覚だろうか?

自分が怖いと思うから、そう見えるだけだ。

本当は居ない。居ないはず。そんな巨大なネズミ居るはずない。


自分自身に暗示を、かけるように呟き進んでいた。

どのくらい経ったのだろうか?

僕の頬に汗が滴り落ちる。

誰かが暗闇の中、僕を見ているような気がする。

気の所為か、それともモンスターだろうか?

モンスター除けが切れた瞬間、僕に襲いかかろうと虎視眈々と狙っているのかも知れない。


誰がモンスターなんかに食われるものか!

絶対に最後の最後まで諦めずに逃げてやる。

少しでも入口に近づけるように一歩、また一歩と止まる事なく進んでいる。


だが、自分が思っているよりも思うように進めていない現状だった。

それは恐怖からなのか身体の感覚が無いんだ。

まるで自分の身体じゃないようだ。

おまけに痙攣でも起こしたかのように、身体全体が震えていた。


震えを止めようしたが、抑えのきかない震えは止める事が出来ない。

仕方なく震える身体を無理やり動かし、入口へと向う。

まだモンスターは襲って来ないが、何処にモンスターがいるか分からない。

冒険者も来る気配も無いし、やはり入口に向かって動いて正解だったと思いたい。


このまま逃げ切ることが出来れば…。


長い…、とても長い…、入口から来る時はそこまで時間はかかっていなかったが、戻るとなると時間がかかり過ぎではないか?

まあ、周りが見えないから壁際をゆっくりと歩くしかないからかも知れないが…、だがゴールは近づいていた。


次の角を曲がれば、あとは直線。

待合室の明かりが見えるはずだ。


だが、あと少しという所で必ずモンスターは襲ってくる。

弱った獲物を逃がすまいと周りからネズミが集まって来る音が複数聞こえてくる。


「チュウ、チュウ」「チュッ、チュウ」「チュウ、チュッ」『ガサガサ』『タッ、タッ、タッ』『タ、タ、タ、タ、タ、タ』


ダンジョンだから反響している所為もあるだろうけど、ここで複数のネズミに襲われたらひとたまりもない。

この位置で襲われても待合室からは見えないから助けも呼べないし、遠すぎて異変に気付いてもらえない。


待合室にいる人達から見れば僕は見知らぬ人だから助ける義務なんて無いだろうけど、僅かな望みをかけて助けを求める為にも待合室から見える直線の道まで行く必要がある。

それはあと少し、目の前の位置まで来ていた。


ここで襲われるよりかはマシか…。


僕は勇気を振り絞り、天に運を任せ走り出していた。

生きる為に出来る事、その可能性にかけていた。


見える所まで行けば、なんとかなる。

そして叫んで助けを呼べば、待合室の誰かが気付いて助けてくれる。

そう思いたかった。


僕は生きる為に必死だった。

だけど、こんな時に限って石に躓き転ぶ。

派手に1回転回り、身体中、土まみれ。

怪我した所は?

痛みはあるが大丈夫、まだ走れる。

今は痛みなんて気にしている場合じゃない、逃げなくては…。

いつの間にか身体中の震えは止まっていた。


急いで立ち上がり、また必死に走り出していた。

何度も転びそうになりながらも、生きる為に止まる事は出来なかった。

そして角を曲がると、遠くに明かりが見えていた。

真っ暗闇から解放され、周りの通路が薄っすらと見えた瞬間だった。


『ドーーーン』


背中に衝撃が走り、大きく前へと吹き飛ばされた。

一瞬、何が起きたのか分からなかった。

今、分かるのは地面にうつ伏せになり倒れている事。


『ペッ、ペッ、ペッ』


土を食べてしまった。

後ろを振り向くと正体が分かった。

暗闇の中に光る赤い目が、幾つも輝いていた。


「うっ、わぁーーーー!」


僕は叫んでいた。

四つん這いになり、そして立ち上がり光の方へと走り出していた。

さっきの衝撃はネズミの突進によって僕は飛ばされたようだ。

背中にリュックを背負っていたのが幸いして、リュックがネズミの突進を和らげてくれたようだ。


でも和らげてあの威力。

もし直撃していたら、僕の背中の痛みに悶絶して動けなくなり、ネズミ達に間違いなく襲われていただろう。


「助けてーーーーーーーー!」


走りながら叫んでいた。

直ぐ後ろにはネズミ達の声、足音が近づいて来る。


誰も気付いていないのか?

待合室から出て来る気配さえ見えない。

待合室まで直線距離で約200メートルを全力疾走で走っている。

それでも僕の足よりネズミの足の方が断然早いだろう。

何度もネズミが突進して来る。

ネズミは僕を倒しに来ているが、わざとではないが、僕が疲れからか少しよろけながら走ってる所為で、僕に当らず僕の横を通り過ぎていく。


そんなに何度も躱しきれないというか、当たらないのが不思議なくらいだった。

誰か助けて…、息が苦しい…、日頃から運動しておけば良かったと今更ながらに後悔する。

僕は最後の力を振り絞り助けを求める。


「助けてーーーー!!」


聞こえないのか、聞こえない振りをしているのか、助けに来る気配はなかった。

次の瞬間、ついに背中に衝撃が走り倒されてしまった。

痛みよりも先に後ろを振り向くと、十数匹のネズミが一斉に僕に襲いかかる瞬間だった。


ああ、終わった。

過去の思い出が走馬灯のように通り過ぎていく。

そして、まるでスローモーションのようにネズミ達が僕の上に飛んでくる。

痛いのは嫌だな、死ぬなら一瞬にしてくれ。

いろいろやりたい事あったんだけどな、短い人生だった。

さようなら父さん、母さん。今まで育ててくれてありがとう。

僕が生きる事を諦めた時、赤い火の玉が3つ僕の上を通過してネズミに向かって飛んでいった。


そしてネズミに当たった瞬間、大爆発を起こした。


『ドッドッドーーーーーーーーーーーーーン』


思わず、炎の衝撃と熱量に目を瞑り顔をそむけ、そして近距離での爆発音の為、耳が暫く『キーーーーーーン』という音で聴力を失っていた。



暫く経ち目を開けると、『生きている…。』


ネズミ達は爆発と共に消えていた。

洞窟内も焼け焦がれていたが、ダンジョンの自動修復のお陰か焦げたシミは次第に消えて無くなっていった。


助かった。

それにしても誰が助けてくれたのだろうか?

立ち上がろうとすると全身に痛みが走る。

身体を確認すると近距離で爆発した所為で僕自身にもダメージを受けていた。

服は黒く焼け、至る所に穴が空いている。

そこから見える身体を激痛の為、見る気にもなれないが、痛みから酷い事になっているだろう。


ネズミに襲われて死ぬよりかはマシか…。


痛みから、まだ自分が生きているという実感が湧いてくる。

取り敢えず傷の手当てをしないと…。


「確か…」


僕はリュックの中を探した。

僕の物では無いけど、僕が死んでいたら誰かに拾われるか放置されるかしかないし、僕を置いて行ったんだからこのくらいは使って良いよね。


「あった、あった」


リュックから小さな箱を取り出した。

20センチ四方の小さな箱、赤い十字のマークが付いている。

緊急救急箱だ。

回復魔法を持っている者がいれば1番早いが、もし居なかった場合に簡易的に機械が勝手に傷を判断して応急処置してくれる優れ物。


僕は横になり小さな箱のスイッチを押すと、下から動く為の足が6本と上から傷を修復する為のアームが4本、診断用のカメラのアームが1本出て来て、僕の身体を隅々まで検査する。

そして自動で応急処置を施していく。

横になっているだけで傷を消毒したり、傷が深い場合は糸で縫ったり、便利な世の中になった。


暫くすると緊急救急箱は元の四角い箱に戻る。

応急処置が終わったという合図だ。

全身を見てみると、火傷の為か殆どミイラかと思われるような包帯だらけとなっていた。

見た目はどうしようもないけど、応急処置は完璧。

痛みも大分マシになっていた。


動けるようになった僕は、待合室に向かって歩き出した。

ダンジョンから早く逃げ出したい気持ちもあったが、僕を助けた人にお礼を言いたかったからだ。



そして僕は待合室に着いたが、誰も僕を気にかけようとしない。

まあ、赤の他人だし、冒険者が怪我をして戻って来る事など日常茶飯事の事、生きて帰って来るだけ、まだマシな方かも知れない。


「あの〜」


聞こえないのか?

誰も振り向いてもくれない。


「あの〜!」


もう一度、出来るだけ大きな声を出して叫んだ。

すると話し声も止まり皆こちらを見た。


「先程、僕を助けてくれた方、いらっしゃいますか?

お礼を言いたいのですが…」


だが、誰も返事は帰って来なかった。

こんな大勢の中、恥ずかしくて言い出しにくいのか、それとも理由があるのか?

ここから魔法が放たれたのは間違いない。

一体誰が助けてくれたのだろうか?


少し待ってみたが助けてくれた人は申し出てはくれなかった。

だから、僕はその場で感謝の言葉は言った。


「先程、助けてくれた方。

危ない所を助けて頂きありがとうございます。

誰かは分かりませんが、この御恩は一生忘れません」


そう言って僕は待合室を抜け、地上へと戻った。

今日は危ない所を命拾いした。

まさかダンジョンで捨てられるとは思わなかった。

だけど舞香さんは、大丈夫だろうか?

気を失っているだけと言っていたが、僕の所為で舞香さんが…。

舞香さんに一言謝りたかった。

でも次にあったら殺すと伸一さんに言われているし、頭の中で葛藤している間に、いつの間にか僕は舞香さん達の家の前まで来ていた。


謝りたかったが会うことも出来ないし、仕方なく預かっていたリュックを玄関前に置き、その中に手紙を入れた。

舞香さんへの感謝と謝罪、そしてシャドウクランには入らない事を書いて、僕はその場から立ち去った。








読んで頂きありがとうございます。

まだ文章におかしい所は有りますが、訂正しながら試行錯誤しながら書いてます。

リュックをあせくる。と書いていたのですが、調べるとこれは方言らしく、かき混ぜる?いじくる?ニュアンスがちょっと違うので探すに落ち着きました。

言葉って難しいですね。


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