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シャドウクラン 歓迎会

「たっだいま〜、おばちゃん、帰ったよ」


玄関から明るく元気な女性の声が聞こえてくる。


「武田さん、帰って来たみたいですよ。

武田さん!武田さん起きて下さい」


そう言って、おばちゃんは僕を揺すって起こしてくれた。

いつの間に眠ったのだろうか?

おばちゃんと一緒に昼食を取るまでは覚えていたが、その後の記憶が無かった。

目を覚ますとそこはソファーの上。

ふわふわのソファーの上で横になり、あまりにも気持ちの良さに眠ってしまったようだ。


おばちゃんが眠った僕に掛けてくれのだろうか、毛布が1枚掛けられていた。


眠い目を擦りながら、そのままソファーに座り辺りを見回すが、もうおばちゃんの姿は無かった。

玄関に迎えに行ったのだろうか?

すると突然、玄関から、


「えっ!入団希望者!?」


そう叫んだと思ったら、


『ドタドタドタドタ』


誰かが廊下を走って来る音がする。

ヤバイ、寝て待っていたなんてバレたら、あまりにも失礼過ぎる。

もう、おばちゃんが話したかも知れないが、慌ててソファーから立ち上がり毛布を片付け、そして自分の身嗜みをチェックした。


そして客室のドアが勢いよく『バァン』と開かれた。


「こんにわ〜!

入団希望者だって、あら、意外と可愛いいじゃない?」


ドアから現れたのは、軽装備を身に着け血塗れ土塗れのショートカットの女性、背は低く身長150センチくらいか、見た目は幼く見えるけど、年齢は見た目で判断付きにくい。

年齢を女性に聞くのも何だし…。


「私はね、このシャドウクランの団長の田中 舞香まいかだよ。

まあ良いかと言って流さないでね」


えっ、この人が団長さん?

全然、団長には見えなかった。

団長と言うよりもマネージャーさんにしか見えなかった。

それにいきなり、まあいいかと自分の名前でダジャレ言うか?

初対面の挨拶なのにダジャレをぶっ込んで来るなんて、緊張している事もあって笑えないし。

ここは笑っていた方が良いのか?


そう思っていたら、団長さんの後ろから、


「笑え!」


とドスの効いた声が…。

声のした方を見ると、


『うっ』


僕は見た瞬間、身体が硬直してしまい、何も言えなかった。

モヒカン頭の見た感じヤンキー。

僕の頭の中で警告音が鳴り響いていた。

絶対関わりたくない人物だと言える。

学校でも不良達に合わないように、当たり障りのない生活を送り、絡まれないように、イジメられないように努力して来たのに、ここに来て会うなんて、今までのツケが回ってきたのかと言いたくなる。


「挨拶は〜!」


直ぐ様、怒鳴り声が部屋中に響き渡る。


「ひぃぃぃぃぃ」


恐い、恐すぎる。

こんな所、絶対居られない。

直ぐにでも逃げ出したい気持ちに駆られる。

だが、その気持ちを止めてくれたのは団長だった。


「ちょっと伸ちゃ〜ん。

恐がっているじゃないの。

大丈夫だよ、見た目は恐いかも知れないけど、優しいから恐がらないで。

舞香ちゃんがナデナデしてあげるから。

はい、恐くない。ナデナデ、ナデナデ」


そう言いながら団長の舞香さんは、僕の頭をナデナデしてくれた。

何だか子供っぽいけど、安心できる優しさがあった。

その姿を見ていたモヒカンは後ろで


『チェッ』


と舌打ち、明らかに僕に対して敵意を見せていた。

そしてその後ろから大きな熊が、ぬうっと現れた。

いや、熊じゃなかった。

熊のように大きな存在感。

しかし動きは鈍い、体格の良い人物だった。


「亮ちゃんも来たね。

それじゃ、改めて自己紹介ね。

私がシャドウクランの団長の舞香だよ。

そしてこの恐い人が伸ちゃん」


「新井 伸一だ。これから、よ、ろ、し、く、な」


僕に対してふてぶてしい態度を取るモヒカン。

何か嫌われるような事をしたのだろうか?

これから、この人と上手くやれるだろうか?

上手くやれないような気がする。

僕の中でこの人がクランでやっていく為の障害となっていた。


「そして喋るのが苦手なウドの大木の亮ちゃん」


「川井 亮二っす。よろしくっす」


喋らないのは、僕も同類だと思うけど、この人は存在感が有り過ぎる。

体格はまるで相撲の関取のように大きい。

イメージとしては、皆を守る盾役となって、モンスターの攻撃を防いでいるというイメージしかわかないが、僕と違って体格的にもかなり強そうだ。


「この同級生3人組でクランやってま〜〜す。」


たったの3人!?

ギルドから貰った資料にはメンバーは6人と書いてあったが、他の3人はどうしたのだろうか?

モンスターにやられて死んだのだろうか、それとも逃げ出したのだろうか?

僕もこのモヒカンが居なければ続けられそうだけど、長く入団する自信がない。

それに驚いた事に3人が同級生だなんて、後ろにいる男性達は僕よりも年上、25〜6才に見えるが団長は僕と同じか年下にしか見えない。


「それで、貴方は?」


「あっ、すいません。

僕の名前は武田 陽翔といいます。

冒険者になったばかりですが、よろしくお願いします」


「はい、拍手」

『パチパチパチパチ』

「伸ちゃんも、拍手」

「チェッ」

「それじゃ、呼び方はハルくんで良いかな。

皆、なかなか長続きしないから、ハルくんにはずっといて欲しいな。

だから今日の晩御飯は歓迎会にしたいと思います。

準備よろしくね、おばちゃん」


「はいはい、分かりましたよ。

それより着替えたらどうですか?」


他の男性2人は着替えて来ているのに、団長は玄関から慌てて来たのかダンジョンに潜ったままの格好で部屋に入っていた。


「はっ、忘れてた。

舞香ちゃんは着替えてくるから、ハルくんは、ゆっくりしていてね。

決して覗いたらダメだぞ」


絶対に覗きませんよ。

ほら、後ろの恐いモヒカンが睨みを効かせているから…。

そして、最悪な事に団長の舞香さんが出て行き、家政婦のおばちゃんも夕食の支度の為に出て行き、この部屋には僕を入れて男3人。


非常に気まずい。

元々、僕は喋るのが苦手だし、亮二さんは僕と同類、伸一さんは恐くて目も合わせられない。

そんな中、突然、伸一さんが怒り出す。


「おい、てめぇ、姫に色目を使いやがったな!」


「えっ!?」


そう言いながら、僕に向かって顔を近づいてくる。

何の根拠もない言いがかりをつけられる。

つい顔を背けてしまう。

これじゃヤンキーそのものじゃないか、僕が何をしたって言うんだ。


「僕は何もやってませんよ、それに姫って誰の事ですか?」


「あぁぁぁぁ、姫とは舞香の事だよ!

姫に色目を使いやがって、チヤホヤされたからと言って、いい気になってるんじゃねぇぞ!

てめぇは、ただの下っ端なんだ。

姫に声を掛けようなんて10年、いや100年早いんだよ!

てめぇは、ただの駒。

姫の盾になって死ね、姫の為に死ね、姫の代わりに死ね。

これが俺達の教訓だ。なぁ亮。」


「死ぬ事はないと思うけど、姫が死んだら君に責任とってもらうよ」


「亮、姫が死んだら俺達も生きている意味がないだろう。

だから、姫を死なないようにしてるんだろう」


「そうだね、万が一という事も有るからね。

姫が死んだら全員自害する」


何なんだ、このクランは?

シャドウクランって、アサシンとか影から突然現れて一撃で倒すみたいな事をイメージしていたけど、これじゃまるで団長の舞香さんを守る影だからシャドウか?

団長を守る為に死を選ぶか、団長が死んで一緒に死ぬか、どちらにしても死ぬのは嫌だ。

このクランは駄目だな。

しかし、お試し期間は一週間ある。

来て早々、やっぱり入るの辞めますでは通じないだろうし、何より団長だってあんなに喜んでいたし、だいたい3人ちゃんと生き残ってるから、死ぬような事はないと思うけど…、戦い方を見てから決めるか?



夕食まで、この居心地の悪い状態が続いていた。

団長も、着替えから戻って来たが、おばちゃんと料理の支度、買い物と大忙し。

大変だと思い手伝おうとしたら、「お客様はゆっくり座ってて」と言われるし、実際はこの部屋に居たくなかったから手伝おうと言ったのに、断られてしまった。


今、この部屋に3人の男が無言で、それぞれの時間を過ごしていた。

伸一さんは武器の手入れ、ただでさえ恐いのに武器を手入れしながら、ニヤつくのは止めて欲しい。

そのまま刺されるのではないかと、気が気ではなかった。


亮二さんは、椅子に腰掛け一人で本を読んでいる。


居づらい。

部屋から出るタインミングを逃した僕は仕方なくPC携帯を取り出し、この付近の事やダンジョンの事を調べる事にした。


時間をチラチラ気にしながら見ていたが、何故、こんな時は時間の進むのが遅いのだろう。

時間を確認するが、まだ10分しか経っていない。

台所からは良い匂いが漂ってきたが、僕の見積もりでは、あと一時間は夕食まで時間がかかるだろう。


我慢大会か?早くこの雰囲気から早く逃げ出したいが、逃げられない。

心の中で葛藤しながら、僕はPC携帯の画面を見ていた。



「夕食の準備出来たわよ。

皆、運ぶの手伝って」


団長の舞香さんの声で、やっとこの居心地の悪い場所から逃げ出す事が出来た。

と言っても、皆、テーブルに出来たばかりのおかずや皿、箸やスプーンなどを運んでいるので、何度もすれ違う。

だが、黙って座っているよりかは動いている方が随分と気持ちが楽になる。


食事が運び込まれ夕食の準備が整うと、いよいよ歓迎会が始まる。

こんな時、新人はよく一発芸をやらされるものだが、ここはそんな事はなく、団長の挨拶で歓迎会が始まった。


「今日は陽翔くんを歓迎すると言う事で、無礼講で朝まで飲み明かしましょう!」


なんと簡単な挨拶だろうか。

団員3人と家政婦、そして僕の5人で始まった歓迎会。 

皆、それぞれにビールを注いでいる。


「さあ、陽翔くんも、ビールどうぞ」


そう言って注ごうとする舞香さん、でも僕は高校を卒業したばかりの未成年、まだお酒を飲める年ではない。なので、


「ごめんなさい、僕、まだ未成年だから飲めないんです」


と僕が言うと、横から伸一さんが、


「おら〜、団長の盃が飲めね〜のかよ!!」


と絡んでくる。恐いよ。未成年だから仕様がないじゃないか。

伸一さんに気付かれないように団長に向かって、助けてというアピールをしてみたら、それを察してくれたのか、


「伸ちゃん、それは国の法律もだけど、ギルド規程に反するわよ。

ごめんね、気付かずに。それじゃ烏龍茶しかないけど、これでいいかしら?」


「はい、ありがとうございます」


「チェッ」


また伸一さんは不貞腐れている。

飲めない物は仕方ないじゃないか。


「俺の時は高校生の時には、既にタバコも酒も飲んでいたな」


「伸ちゃんと一緒にしないで! 

陽翔くんは真面目なんだよ。

それにタバコなんか吸ってると、息かれないように直ぐ切れてモンスターに殺られる確率が上がるから、絶対、吸わないようにね」


「ハイ」


「俺だって今は吸ってね〜し」


「それなら良し。

皆、グラスに飲み物、注いだかな。

それでは陽翔くんの仮入団を祝って乾杯」


「乾杯」 

「乾杯」

「かん、ば〜〜い」


歓迎会という名の飲み会が始まった。

未成年なのは僕だけなので、1人ジュースをチビチビ飲みながら料理を堪能する。

料理と言っても豪華な食事ではなく、ありきたりな唐揚げや野菜サラダ、刺し身、天ぷらなどがテーブルの上に並べられていた。

美味しいかどうかと言われると、不味くもなく美味しくもなく普通だ。


けれど舞香さんに「どう、料理は美味しい?」と聞かれると舞香さんと家政婦のおばちゃんが作った物だから普通とは言えず「とても美味しいです」と言っておいた。

すると舞香さんは喜んで次は手の込んだ料理を作ると言って張り切っていった。


お酒も料理も大分進み、皆、酔っ払って何を言っているのか分からなくなってきた。

ジュースしか飲めない僕はシラフで何を言っているか分からない言葉に、ただ相槌を打つだけだった。


「おい!聞いているか〜!」


と突然、伸一さんが怒鳴りつけた。


「はいはい、聞いてますよ」


僕は聞いているかのように、返事をしたが半分以上、何を言っているか分からなかった。


「おいお前、姫に手を出したらどうなるのか分かるだろうな」


酒を飲んでいる分、普段よりたちが悪い。

僕の襟を掴みにかかる。

団長の舞香さんに助けを求めようとしたら、舞香さんはいつの間にか撃沈して、テーブルに、もたれかかるように眠っていた。


『お〜い、舞香さ〜ん』


思わず泣きそうになる。

だって目の前には恐いモヒカンが…、仕様がない、亮二さんに助けを求めるか。


「亮二さ…」


途中まで呼んで、呼ぶのを止めた。

それは亮二さんも亮二さんで酒に酔っているのか目が座っていたからだ。


「亮二、お前からも言ってやれ!

姫に手を出したらどうなるのか」


「姫は僕達の宝だ。

誰にも渡さない。

もし姫に手を出したら消えてもらうしかない。」


「おっ、分かってるじゃね〜か。

もし姫に手を出したら殺すからな」


怖いです。二人ともとっても怖いです。

姫に手を出すなとは、もしかして三角関係と言うやつですかね

僕は舞香さんには手を出しませんよ、だって二人が怖いから。

それに半分以上はこのクラン、僕には合わないと思ってきました。

団長が僕に優しくしても、それを嫉妬深い二人、特に伸一さんが僕を殺すかも知れない。


モンスターに殺られる前に人間に殺られるかも知れない。

僕なら痕跡を無くす為にダンジョンで殺してモンスターの所為にすれば、絶対にバレない。

そう考えると伸一さんの前を歩きたくない。

いつ刺されるか分からないから、皆の後を付いて行かないとそう思った。




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