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シャドウクラン

僕はギルドから貰ったクラン紹介の書類を手に持ち、クラン名シャドウの拠点を目指すことにした。


場所はギルド支部から東へ10キロ。

直ぐ近くで、大阪にあるクランタウンと呼ばれる数多くあるクラン密集地帯の一つであった。


近くには初心者用のダンジョンとして、地下5階層の初期レベルを上げる為のダンジョンがあるので、必然的にレベルの低い冒険者や出来たばかりのクランが拠点を置く場所の1つだと言えるだろう。


ダンジョンに出現するモンスターは、初心者用ダンジョンなのでそれほど強くはなく、次のダンジョンに向かう為の最初の登竜門とも呼べる物で、ここで本当に冒険者になるのか、それともモンスターに怖じけてリタイアするのか、もしくはモンスターに殺られて死んでいくかの別れ道でもあった。

ダンジョンには幾つか指示事項があり、ダンジョン核と呼ばれるダンジョンを形成している本体をギルドが危険と判断しない限り破壊してはならないという取り決めがあった。


それは冒険者のレベルを上げる為とモンスターから落ちる魔石を手に入れる為だった。

ダンジョン核を破壊しない限り、モンスターは倒しても出現し続ける。

それは最下層にいるボスを倒しても同じで、ダンジョン核が無事ならば復活するので、何度でも挑戦する事が出来るので、何度でもドロップアイテムや魔石を手に入れるチャンスがあった。



まずは、シャドウ・クランの拠点までどうやって行くか?

人の多い大都会から一刻も早く逃げ出したい。

人混みの中、僕は段々と具合が悪くなってくる。

早く移動しないと。

歩きか、電車で行くか、バスで行くか?

それともレンタルカーに乗って移動するか?


取り敢えず近場で安い電車を選び、大阪駅に行ってみた。

だが、入り口で既に多くの人々が行き交う光景を目にして、僕にはその中に突入する勇気はなかった。

入り口を見ただけで、吐き気に襲われそそくさと撤退した。


それならバスで行くか?

近くのバス停を見ると、ズラリと並んでいる人の列。

なんで、こんなに人が多いんだと言いたい。

まあ、ここが大阪の中心部だから、仕方ないのだろうけど、列に並んでもいつバスに乗れる事やら。

そう思っている間にも、更に列の後ろに人が並び、列が長くなっていく。


それならレンタルカーか?

レンタルカーを待つ人の列も出来ていたが、バスに並ぶ人程ではない。

それはそうだろう。

だってバスに比べるとレンタルカーの方が料金がかなり高め。


たった数千円だけど、手持ちの少ない僕は、ちょっとでも節約したい。

だけど運動不足気味の僕はたった10キロでも歩きたくないから、考えた挙げ句、レンタルカーに乗り込む事にした。

初めての場所だから、迷うかも知れないし、何より早く拠点に行って、クランメンバーと早くダンジョンに行きたいと、自分自身を納得させる為に、言い訳のように心の中で言い聞かせた。


待つこと20分、ようやくレンタルカーに乗ることが出来た。

行き先をPC携帯で指示し、後は着くのを待つだけ。

タクシーと違って僕に話しかけてこないので移動は一人のんびりと外の様子を眺めながら移動する。

周りを見ていると、人混みの多い大都会から、ほんの少し行っただけで、住宅街へと変わってきた。

それと共に人混みも疎らになり、本当に人が住んでいるのか疑いたくなりそうになるくらい、建物はあるのに人が居ない。

大阪の近くにもダンジョンは、幾つか存在している。

流石に一般の人はその近くに住もうとは思わない。

特に数年前の大災害を受けた人は、モンスターの恐怖を忘れることはないだろう。


なのでダンジョンの近くに住む人は、余程の変人か、お金が無く仕方なく家賃の少ない地域だから住む人か、ダンジョンにいち早く行けるように、冒険者が住むくらいだ。


周りの景色を見ながら一人でいろいろ考えていたら、急にレンタルカーが止まり、ドアが開いた。


「えっ、着いたの?」


PC携帯で場所を確認するが、目的地で間違いないようだ。

レンタルカーを待っていた時間は20分、乗っていたのは、たったの10分。

道がそんなに混んでいなかった所為もあるけど乗っている時間が早かった。

まあ、10キロだから...。

歩いても良かったんじゃないかと、ちょっとだけ後悔した。


そして僕はレンタルカーを降りた。

降りた場所はバス停で、バス停名には第4クランタウンと書かれていた。

クランタウンは、クランが集まって出来た住宅地、ダンジョンの近くには必ずと言っていいほど絶対ある。

その数多くあるクランタウンの場所を覚えていないと、違うクランタウンに間違えて行ってしまうかも知れない。

僕は念の為にPC携帯の地図にマッピングし、ちゃんと帰れるようにしておいた。


そこからギルドで貰った紹介状の地図を頼りに住宅街へと入っていった。

住宅地だけあって似たような建物が並び、道路は複数に絡み合い、まるで迷路のようにいりくんでいた。


ギルドから貰った地図と同時にPC携帯もマッピングしているので、自分が通った道が表示され、地図と見比べながら道があっているか確認しながら、


『これがなければ完璧に迷ってるな』


そう思いながら目的地を目指して進んでいく。

次の角を曲がれば見えるはず…。


角を曲がると、そこには平屋一軒家があった。

ギルドから貰った情報によると平屋一軒家で6LDKで床延べ面積100坪とかなり大きい。

庭100坪も付いているので、建物も合わせると200坪と大きすぎる。

相当なお金持ちか、ダンジョンでお金を稼ぎまくっているかは分からないが、このクランに入れば食いっぱぐれることは無さそうだと思った。


外観は敷地の周りを漆喰色の高い塀で囲まれ、中が見えないようになっている。

見えているのは壁とその内側を取り囲んでいる高くて大きい木、あと見えているのは、家の屋根くらいだった。

壁は頑丈そうで、もし万が一、ダンジョンが近くにあるので、モンスターが溢れたとしても小さな砦として敷地内には入れないように万全を期しているようだ。


壁伝いに玄関へ向かうと、入り口は、また頑丈な鉄格子のスライド式のドアが付いている。

入り口には高電圧注意の文字が…。

不審者やモンスターが触れると、高電圧が流れるというのか?


僕は玄関横に付いてあったインターホンを押し、中の様子を伺いながら返事があるのを待っていた。



「は~い、どちら様?」


インターホンから返事があったのは、声からして年配の女性のように思えた。


「すいません、武田と言います。ギルドの紹介を受けて来たのですが」


ギルドからの紹介?何の?自分でも言葉足らずのような気がしていたが、年配の女性は僕の言葉の意味を汲み取ったのか、


「ああ、はいはい、入団希望者ね。

直ぐに玄関開けるから待っていてね」


そう言って、奥の家の玄関から出てきたのは、やはり年配の女性。

見た目から40才前後くらいだろうか?

私服姿にエプロンを付けた姿で近づいて来た。


普通のおばちゃんかとも思ったが、僕は考え直した。

こんな危険区域にあるクランの住宅に、普通のおばちゃんが居る訳ないじゃないか。

僕には分かる。

僕の姿を観察するように鋭い眼差しで見ている事、そして無駄のない動き、ただ者ではない。

もしかしたら、この人がここの団長なのか、もしくはベテランの冒険者なのか。


そうだ、きっとそうだ。

既に僕は試されているんだ。

絶対に粗相そそうはしてはいけない。

緊張した赴きで、おばちゃんが来るのを待っていた。


「今、開けますね」


おばちゃんが内側で何か操作をしていると、鉄格子の扉が勝手に開いた。

驚く事ではないが、自動式なのだろう。


「中へどうぞ」


「お邪魔します」


僕は失礼のないように、おばちゃんの後を付いて行った。

敷地に入った瞬間、ドアが『ガチャン』と凄まじい音を立てて閉まった。

閉まっただけにシマッタ、もしかして罠か?

音がした鉄格子の玄関を見ていると後ろから声が、


「どうしたの?早くいらっしゃい」


おばちゃんの声がして振り向くと、これまたシマッタ。

おばちゃんは既に家の玄関の前まで来ていた。


『いつの間に…』


そう思いたくなる。

これは試練なんだ。

家の玄関まで約10メートル。

おばちゃんが辿ったルートを通らないと、きっと罠が仕掛けられている。

だからその為にも逃がさないように先に玄関を閉め、強制的に試練を受けさせようと言うのか?

言わなくても僕には分かる。

そっちがそういう事なら、僕だってこんな罠に引っ掛からずクリアして見せる。


最初の失敗は、玄関の閉まる音にビックリして、そちらの方を見たことだな。

その時、ちゃんとおばちゃんの足取りが掴めていたら…。

悔やんでも仕方ない。

これは減点になるのだろうか?

点数を稼ぐ為にも罠には絶対に引っ掛からないようにしないと。


僕は摺り足で罠がないか確認し、何か違和感があれば進む方向を変え家の玄関を目指していた。


「なんだか変な歩き方ね、ホホホホホホホホ」


おばちゃんは笑っていたが、歩き方などどうでもいい。

どうせ僕は冒険者になったばかり。

見た目を気にするより罠さえ掛からなければ良いのさ。

長い…、たった10メートルなのに、気分的に100メートルは進んでいるのに思える。

慎重に、慎重に…、そして漸く家の玄関までたどり着いたが油断はしない。

わざと途中に罠を仕掛けず、着いたと思ったら罠に引っ掛かる。

僕ならそうする。

そうした方が着いたと思った瞬間、罠に引っ掛かるとダメージが大きいからだ。


だから僕は着いたからといって油断はしない。

そしてやっとおばちゃんの所までたどり着いた。


「歩くのが遅いわね、もう少し早く歩く練習しないと冒険者としてやっていけないんじゃないの?」


「はい、すいません」


歩くのが遅いって罠にはかからなかったけど時間がかかりすぎると言うことですか?

冒険者になったばかりだと言っても、このくらいは出来るだろうと言いたいのですか?

どうせ僕は普段から運動してないから、確かに普通よりかは体力がないかも知れないけど厳し過ぎでは有りませんか?


それともまさか罠に引っ掛からなかった所為?

罠に引っ掛かった所で、冒険者とは普段から周りに気を配らないとダンジョンに行った時に罠に引っ掛かかって死ぬ事もあると、先輩冒険者としてウンチクを言いたかったのではないのか?


これまたシマッタということか?

わざと罠に引っ掛かかった方が良かったか?

今更ながらもう遅いが…。


おばちゃんに家の中へと通されるが玄関もかなり広い。

玄関の直ぐ脇には物置部屋があるみたいで、武器や防具が置かれているのが見えた。

玄関が広いのは、ダンジョンに潜る為に装備や必要な道具を抱えて行く。

帰りは帰りでダンジョンで手に入れたドロップ品等を抱えて帰って来るので、広くないと荷物が邪魔で動けないからか。


「どうぞ」


そう言って、おばちゃんにスリッパを出される。

自宅でスリッパ?

今まで自宅でスリッパなど使った事なかった。

スリッパを使う、それだけで場違いなお金持ちの家に来た気分になる。


「お邪魔します」


スリッパを履き移動するが、何があるか分からない。

罠や監視カメラなどを気にして、周りをキョロキョロしながら移動していると、


「珍しい物、何か有りましたか?」


と、おばちゃんに声をかけられた。


「い、いえ、そういう訳ではないんですが…」


「この辺では大きい家ですからね、家の中が気になる人が結構いらっしゃんですよ」


「そうなんですか」


突然、声をかけられたので焦ってしまって、曖昧な返事をしてしまった。

試験中なのにもっと話を振らないといけないのかと考えている内に、1つの部屋に通される。


どうやら客間のようで、テーブルとソファーが並べて置かれていた。

部屋の端には観葉植物が転々と置かれ、大きなガラス張りのドアから庭がよく見渡せ、立派な日本庭園が作られていた。


見ただけでなんだか和んでしまう。

配置や形など計算されて置かれているのだろう。

大きな木、大きな岩、小さな滝も作られ池へと流れていた。

時折、『コン』と鹿威しの音が響き渡る。

1日中見ていても飽きることはないだろう。


「えっ〜と、お名前は?」


「あっ、すいません、自己紹介が遅れまして。

始めまして僕、武田 陽翔と言います。

まだ冒険者になったばかりでクランに入るのも今回が初めてなんですよ。

クランという組織が、まだよく分かってませんがギルド紹介所でシャドウクランの書類を見て、ここに入りたいと思って来ました」


「あら、そうなの。

でもギルドに入るかどうかは、取り敢えずお試し期間もある事だし、その間に決めたらどうかしら?」


確かにそうだ。

気に入るか、気に入らないか分からないのに入団してしまったら、抜ける時に面倒そうだから、お試し期間がある所を選んだのに、直ぐ入団してしまったら意味がない。

それに逆にクラン側から、「お前、使えねぇから、いらねぇや」と言われる可能性もある。

そして最後に衝撃的な言葉を口にする。


「そうそう私も自己紹介しなきゃね。

私はこの家の家政婦をしている蒔田まきた 小百合さゆりと言うわ。

皆からはおばちゃんと呼ばれているからおばちゃんと呼んで下さいね」


「えっ、家政婦!」


僕は驚きを隠せなかった。

僕の感では並の冒険者ではないと思っていたのに家政婦だなんて…、いや、これも騙されているかも知れない。


「本当は冒険者なんでしょ」


「まぁ、おばちゃんをからかってはいけませんよ。

見ての通り、ただの何処にでも居るようなおばちゃんですよ」


「元冒険者とか?」


「そんな訳ないでしょう。モンスターなんて倒せないし」


「でもテキパキと動きが鋭いんですけど」


「これでも何十年もやっている家政婦のベテランですからね。

家政婦でのレベルは高いかも知れませんね」


ん〜、どうやら僕の勘違いだったようだ。

僕みたいな素人には、まだまだ相手の強さなどわかるわけ無いか。

今まで何の為に苦労したのか…、というよりは、何もないのに自分の思い込みで、ただ疑っていただけのようだ。


「え〜っと、それでクランのメンバーの方は?」


「今、ダンジョンに行っているから、帰ってくるのは夕方になるわよ。

それまでどうする?待ってる?」


出直すという考えもあったが、時間潰しに何処に行こう?

大阪駅の方に行っても、またお金がかかるし、その辺りブラブラしているか、でも運動不足の僕はもう動きたくない。

冒険者になる奴が運動不足なんて、どうするんだと言われそうだけど、これから頑張るさ。

僕はメンバーが帰ってくるまで待つ事にした。


「お昼御飯、まだでしょう。

大した物無いけど、一緒に食べる?」


「…、頂きます」


ちょっとは考えたけど、この辺りで食物屋なんて知らないし、ご馳走になれば食費代が浮くし、食べないで待つという手もあるが、腹が減っては戦は出来ぬと言うし、遠慮なくご馳走になりメンバーが帰ってくるまで待っていた。


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