名も無きダンジョン2
主人公の名字を水無月から武田に変更しました。
作者の思いつき、都合などで度々、変更があると思いますがご了承下さい。
僕と遥、取り残された二人。
野球場の広さしかない一階層。
雑草は生い茂っているが、高さは膝までしかない。
討伐対象である兎どころか、動物の気配さえしない。
話では兎が10匹いるはずなんだが…。
何処かで動いていれば、草が揺れて分かりそうなものだけど、草さえ動かない。
何処かで身を潜めて僕達の様子を伺っているのか?
それともこの階層に兎どころか生き物なんて居ないのではないのか。
疑問に思えてくる。
そして疑問に思うのが、密閉されたダンジョン内なのに、僅かだが風が吹いていた。
その所為で最初、兎を見つけたと思ったのに、草が風で揺れているだけだった。
「何処に居るんだよ、兎は!」
「そうカリカリしないの。
兎だって生きてるんだから、私達を警戒して隠れてるんじゃないのかな」
「こんな見通しの良い平原で何処に隠れるって言うんだ?」
「ん〜、そうね、兎だから土を掘って穴蔵に隠れてるんじゃないのかな」
確かに!
そう言われれば遥の言うとおり、兎は地面に穴を掘って巣穴にする事が多い。
モンスターと言っても兎だから地面に巣穴を掘って隠れているのに違いない。
「よし、それじゃ二手に別れよう。
僕は右回りに回るから、遥は左回りでお願い」
「オッケー」
僕は遥と別れて右回りに回り始めた。
草はそんなに生い茂っている訳でも無かったので、地面に穴が空いていないか?兎の姿はないか?注意深く見ながら進んで行った。
しかし見つからない。
遥の方を見ても、遥が辺りをキョロキョロしながら進んでいる所を見ると兎は見つかっていないようだ。
本当に居るんだろうか?
オロチメンバーの人達に騙されているだけではないか?
そう思い始めた頃、突然、背中に衝撃が走る。
「ぶへっ」
何が起きたのか、最初、全く分からなかった。
そういえば前にもこんな事があったな。
僕は地面に仰向けになって倒れていた。
直ぐに起き上がろうとするが、背中に激痛が走り起き上がる事が出来ない。
もしかして背骨が折れた?
そんな感覚さえ感じる。
背骨なんて折った事無いから分からないけど…。
まずは現状確認だ。
何かに攻撃されたのは間違いないが、ここに居るのは僕と遥と兎だけのはず。
だから多分…。
恐る恐る確認すると、やっぱり兎だね。
というか、兎って4本足で歩くんじゃなかったっけ。
だけど目の前にいる兎は2本足で立ち上がり、ステップを踏みながらダンス…、いや、いつでも攻撃出来るように威嚇しているように見える。
見た目は兎なのに、やはりモンスターなのか?
それにこの痛み。
普通の兎に攻撃されても、ここまでの痛みはあり得ないだろう。
逃げなくては。
そう思うが動こうとすると激痛が走り、動けない。
助けを呼ぼうにも痛みの所為か、声が出ない。
このまま殺られるだけなのか?
兎が4本足で左右にステップを踏みながら近づいてくる。
動く時は4本足か〜い。
と、ツッコミたくなるたけど、今はそれどころではない。
身の危険を感じていた。
『やめろ!来るな!あっち行け!』
心の中で叫ぶが兎に届く訳なかった。
段々と近いてきて、大きくジャンプして僕に襲いかかろうとした瞬間だった。
目の前を大きな影が横切ったと思ったら、次の瞬間には兎の身体は真二つに分かれ、地面へと落ちた。
「何やってるのよ!高が兎くらいで」
そこに現れたのは遥だった。
格好いい〜。
窮地を救うナイト。
惚れてしまいそうになるが、成りたいのは逆の立場。
僕が颯爽と現れて窮地の女性を救い、その姿を見て女性が僕に惚れる。
そんな事を夢いていたが、今の僕は弱い。
兎にさえ勝てなくて、遥に助けて貰うなんて情けない。
そんなことを考えていると、遥が、
「返事くらいしたらどうなのよ!」
と言いながら、僕を蹴り上げる遥。
『グフッ』
更なる激痛が身体に走る。
兎の攻撃で喋れないのに、この仕打ち。
あんまりじゃないか。
それどころか、兎の攻撃より遥の蹴りの方が痛いような気がしてきた。
手加減という言葉を知らないのだろうか?
全く、も〜う。
僕が痛みに耐え、冷や汗をかいているに遥は僕を揺すって起こそうとする。
「ちょっと〜、何か言ったらどうなのよ」
喋れないから、動かさないでといえない。
だから痛みに耐えながら、なんとかジェスチャーで伝える。
その思いが伝わったのか、
「ああ、動けないのね」
はい、あなたの蹴りのおまけ付きで。
「それならそうと言ってくれれば良いのに」
だから、喋れないって伝えているだろう。
「暫く安静にしていれば大丈夫?」
大丈夫だから、痛みが引くまで放って置いてくれ。
そして、僕が何も言わないから遥は僕を蹴ろうと構えた。
僕は慌ててジェスチャーで蹴るなと伝えた。
「冗談よ、冗談。
痛みが引くまで休憩しましょう。
その間に兎を解体してしまうから」
ようやく安心して安静に出来ると思ったら、次はスプラッター映画の始まりだった。
僕が動けないのをいい事に、目の前で兎の解体を始めた遥。
冒険者になる為には、モンスターを解体しないといけないことは分かってはいるが、いきなりは止めてほしい。
まるで僕に見せつけるように目の前で解体している。
嫌がらせか?
身体を動かせない僕は、目を瞑る事しか出来ない。
だが、目を瞑ると兎のモンスターが襲いかかってきそうで怖いし、目を開けたら開けたで兎と目があって怖いし、僕は遥の解体する様子を目を開けたり瞑ったりしながら見るしかなかった。
そして解体し終わる頃には痛みも引き、どうやら骨に異常はないようだった。
立ち上がり身体の動きを確認してみたが大丈夫そうだ。
これでまた探索が出来ると思っていたら、その必要はなかった。
僕と遥の周りを取り囲むように兎が集まっていた。
いつも読んでくれてありがとうございます。
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