ギルドへ
「いつまで寝てるの!起、き、ろ!」
僕を起こそうとする声が聞こえる。
誰だ、人がのんびりと眠っているのに邪魔する奴は。
芝生のベッドは、意外にもふわふわで触り心地が良く、まるで高級ベッドのように僕を包み込み快適な睡眠へと誘っていた。
草原の匂い、そして、その匂いを運ぶかのように、そよ風が吹き、とても心地が良かった。
ここなら、何時間でも寝れそうな気がしていた。
だが、その気分を覆すかのように、僕の睡眠を邪魔する奴がいる。
でも、居心地が良いだけに睡魔には勝てない。
耳元で誰か叫んでいたが、僕の耳には届かない。
「早く起きろ!」
誰かが僕が起きないからといって、身体を揺すっている。
くすぐったいではないか。
そんな事しても起きませんよ。
段々と揺さぶりが大きくなり、眠っている事ができなくなってきた。
少しずつだが、僕の頭の細胞も活発に動き始めていたが、それでもまだ眠い。
「あとちょっとだけ眠らせて」
「何言っているの?
早く準備して!
今日はクランを探しにギルドに行くんでしょう」
その言葉に夢の中から段々と現実に戻されていく。
次の瞬間、僕は目を開き慌てて飛び起きた。
そうだった。
今日はギルドに行く約束をしていたんだった。
慌てて飛び起きた所為か、折角、治りかけていた火傷がヒリヒリと痛みがブリ返して来た。
だが、昨日ほどの痛みはなかった。
これなら十分動く事が可能だろう。
それにしてもいつの間に眠ってしまったのだろうか?
食べ物に薬を入れられたか、睡魔の魔法をかけられた?
それにしては、何も取られていない…、というか取られる物がないな。
多分、疲れていた事もあっただろうけど、芝生が案外、気持ち良くて爆睡してしまったのだろう。
そういえば、暗視スキルを発動させていたがどうなっただろうか?
暗視スキルのレベルを確認すると、なんとレベル2に上がっていた。
「やった〜〜!暗視スキルがレベル2に上がった」
「なにレベル2に上がったくらいで、喜んでいるの?」
横に座って声をかけたのは、遥だった。
さっきから僕を起こしていたのは、どうやら遥のだったようだ。
「だってレベル2だよ。これでやっとダンジョンに潜れる」
「何言っているの?まだまだよ」
「えっ!?」
「暗視スキルのレベル2なんて、まだ暗くて何かがあるなくらいにしか見えないわよ」
「なら、遥のレベルは、いくつなんだ?」
「私のレベルは4、これでもまだ赤外線カメラで見たくらいで、それでもぼんやりとしか見えないわ。
レベル10になれば、やっと昼間と変わらないくらいに見えるらしいけど」
「ん〜〜、先は長いな」
考えれば1日でレベル2に上がったんだから、それなりに上がるのは早いようだ。
だけど2から3に上がるにはレベル2に上がった経験値の2乗、3から4に上がるには4乗の経験値が必要と言われるから、レベルは上がりにくくなるだろう。
それもまた人によって変わってくるから一概にはいえないけど。
だけど暗視スキルを上げないとダンジョンに潜れない。
イコール自分のレベルが1のままだという事だ。
ダンジョン外でも、稀にモンスターは現れるが直ぐに、その地区の担当のクランが討伐してしまう。
被害が広がらないように責任を果たしていると言えるが、早く討伐しないと被害が拡大した場合、地区担当のクランの所為になる為、ギルドや一般市民からの信頼度が低下し、依頼やクエストが少なくなる可能性がある。
それもこれもクランにもランク付けがある為である。
ランクが上がれば、その分、依頼やクエストが多くなり収入も増えるが、逆にランクが下がれば依頼が減り収入が減る。
だからクランは一般市民といざこざを起こさないように、依頼やクエストは確実にこなす必要が出て来る。
クランが炊き出しで市民に振る舞っているのも、好印象を見せる為とも言えるだろう。
だから早くダンジョンに入りレベルを上げないと、僕の入れるクランは、出来たばかりのクランや評価の低いクラン等と限られてしまう。
何より冒険者として同じスタートラインに立っていたのに、何も出来ずに一人だけ出遅れているような気がして、気持ちだけが焦っていた。
僕は、急いで出発準備に取り掛かった。
といっても着替えもないし、昨日の格好のまま。
公園の水道で顔洗い、なんとか目が覚め脳が活発に動いてくる。
気合いを入れる為、両頬に両手で『パン、パン』と2回叩く。
「よし、今日も1日頑張るか」
元の場所に戻ってくると、既にテントは片付けられ、出発の準備は整っているようだ。
それにしてもテントを片付けるの早くないか?
聞いてみると、テントはワンタッチ式でボタンを押すと勝手に展開してテントができ、もう一度押すと勝手に収納してくれるらしい。
ただ家具や物は、自分で片付けないと収納出来ないらしく、「一緒に片付けられたら便利なのに」と遥は言っていたが、テントがワンタッチ式なんて、それだけでかなり便利だと思うけどな。
そして、遥からパンを貰った。
「これは?」
「ん?昨日の炊き出しの残りを貰っていたの。
お腹が空いたままじゃ、動けないでしょう」
「ありがとう」
ちゃっかりしているな、いつの間にパンを手に入れていたのだろうか?
ギルドに行く途中でコンビニでも探して、何か食べようと考えていた。
腹が減ったままでは、いい考えも浮かばないし、苛立ちさえ出てくる。
お陰で朝食代も浮いたし、朝食の心配をしなくても良くなったし、パンをかじりながら歩き始めた。
「って言うか、まさか、歩いてギルドまで行くつもり?」
「当たり前でしょう。
お金も無いし、ギルドまで歩いて20分。
冒険者なら歩けるでしょう」
この公園まで適当に彷徨って辿り着いたので、この公園がどの辺りにあるのか分からない。
だが、ギルドまで歩いて20分なら、そう遠くない。確かに歩いて行ける距離ではあるな。
ここは遥の意見を尊重して歩いて行くか。
そう言えば体裁は良いが、実際は僕も遥ほどではないが残りのお金が少なく、懐が寂しい状態。
少しでも節約して、ダンジョンで稼げるまで、なんとか凌ぎたいところではあった。
「身体を鍛える為には丁度良いか」
「そうそう、いつでも咄嗟に身体が動くようにしとかないとね」
僕は遥の隣に並んで歩いていた。
たが、遥の方が歩くのが早く、僕が遅れ気味になってしまう。
僕は、歩くのはそんなに遅くないはずなのに、遥の方がテクテクと駆けていくように歩いている。
「ちょっと、遥〜。
歩くのが早いよう」
「えっ、私、そんなに早く歩いていないけど…。
ハルトの方が遅いんじゃないの?」
「そんなはずないだろう。」
「私は普通に歩いているつもりなんだけどな」
そう言いながらも、また並んで歩くと僕が遅れてしまう。
競歩じゃないかと思うくらい早く歩かないと遥に追い付く事は出来ない。
もうここまでくれば走った方が早いか…。
これは明らかにおかしい。
ここまで歩くのに差が出るものだろうか?
「あっ」
「どうしたんだ、遥?」
「もしかしてレベルの差かも知れない。
私、レベル3になって素早さの数値も上がったから、普通に歩いているつもりだったけど、素早さが上がった分、早くなっているかも」
「で、素早さは幾つなんだ?」
「それはパートナーでも秘密よ。
そう簡単に自分の数値を相手に教えないわよ」
「なんだよ、ケチだな」
「ケチじゃない!
それで私の数値が知られたら、私に敵対する者が居たら相手の方が有利になるって思わない?
だから、自分の事は誰にもペラペラ喋るものじゃないわよ」
「なるほど、分かったよ」
遥にの考えはごもっともだった。
相手の数値が分かれば、戦い型も変わってくる。
素早さが低ければ、速さで翻弄する。
防御が弱ければ、接近戦で数を当てる。
そう数値が相手に知られてしまったら、弱点をつかれて不利になるだろう。
同じ新人冒険者なのにそこまで考えているとは、もしかして優秀な策略家ではないのかと思ってしまう。
そしてそれからは遥がゆっくり歩いてくれたので僕は急いで行かなくても良くはなったが、レベル差で遥に置いていかれている。
パートナーとして、まずは同じレベルになり同じ立場にならないと対等とは言えない。
今も遥が僕に歩調を合わせてくれているし、僕が足を引っ張っている形となってしまっている。
今の目標は遥と同じレベルにならないとな。
前半、急ぎ足で来た為、20分かかるのに15分でギルドについてしまった。
次に入るクランは、大体、決まっていたが、次こそは僕に合うクランであるように願った。
いつも読んで頂きありがとうございます。
文章がちょっと短くなりましたが、投稿させて頂きました。
どう繋げようかと思いながら書いてますが、今回、時間が足りなかったので誤字脱字が多いかも知れません。
見つけられたら、誤字脱字報告して頂けると助かります。