古より続く忍者の末裔であり異世界に勇者として召喚された経験があり不都合な現実を幻に書き換える超能力を持っているだけの普通の高校生
頭空っぽにして勢いだけで書きました。
俺の名前は神条神之助。古より続く忍者の末裔であり異世界に勇者として召喚された経験があり不都合な現実を幻に書き換える超能力を持っているだけの普通の高校生である。
そんなどこからどう見ても普通の高校生である俺の日常を今、とてつもない異常が脅かそうとしてきていた。
「神之助くん……この前のスポーツテストの結果なんだけど……」
生徒指導室。
今日も元気に普通の生活を普通にエンジョイしていたはずの俺は、なぜか担任の先生からそこに呼び出しを受けていた。
生徒指導室への呼び出し。普通の高校生ではまず経験しない、異常事態だ。
「……先生。俺のスポーツテストになにかおかしなところがあったのですか?」
「いや、おかしなことがあったっていうかおかしなことしかないんだけど」
「それはおかしいですね。俺は普通にテストを受けたはずなのですが」
「…………うん。とりあえずここを見てくれるかな」
なにやら諦めたような顔でスポーツテストの結果集計のような紙の一部分を指し示される。
そこにはこう書かれていた。
立ち幅跳び。飛距離50m。
「……なにかおかしなことが?」
「いやおかしいでしょ! 人間が50mも飛べるはずないでしょうが!」
「おかしいですね。俺は普通の人間ですが跳べていますよ」
「もし本当に跳べていたとしたらあなたは人間じゃありません」
「なんと。では跳べなかったのでしょう。きっと50cmと書き間違えたのでしょうね」
「それは逆に跳べなさすぎなんだけど……」
「では5メートルにしておきましょう」
「ギリギリ跳べそうな気がしなくもないこともないかもしれないけど間違いなく世界進出できるわね。っていうか『しておきましょう』とか適当に決めないでください」
「記録が間違ってるならどうもこうもありませんよ」
俺のその言葉に先生は黙り込む。普通の正論でぐうの音も出ないのだろう。
「……おかしいのはこれだけじゃないのよ」
「おかしいですね。二箇所も書き間違えるなんて計測者はなにをしていたのでしょうか」
「二箇所じゃなくて端から端まで全部おかしいの!」
先生はそう言うと、スポーツテストの結果集計の欄を上から順に指し示し始める。
20mシャトルラン247回(上限)。
持久走8.4秒。
上体起こし2104回。
反復横跳び7684回。
「……なにかおかしなことが?」
「いやおかしいでしょ! 持久走8.4秒ってなによ! 50m走じゃないのよ!」
「きっと50m走の記録を間違えて書き込んでしまったのでしょう。50m走の方が持久走の記録ですよ」
「50m走の方は開始と同時にゴールにいたって書いてあるんだけど?」
「うちの学校の持久走は走り出す地点とゴールが同じなので当然では?」
「そうなんだけどそうじゃない!」
よくわからない先生だ。
「ではきっとそこも書き間違えたのでしょう。他は限りなく普通の記録のはずです」
「ねぇ、それちゃんと上体起こしと反復横跳びの記録見てから言ってる?」
「なにかおかしなことが?」
「…………」
なぜか先生が大きくため息をつく。
「先生。ため息をつくと幸せが逃げていきますよ」
「誰のせいだと……はあ。で、この上体起こしと反復横跳びはなに?」
「なにかおかし」
「おかしいから。普通は四桁どころか三桁もいかないから」
「あぁ、それですか。上体起こしはなんか気合でいけました。あと、うちの家系は普通の忍者ですので、反復横跳びはちょっとだけ得意なんですよ」
「は? 忍者?」
「普通の忍者です。ありふれてますよね」
「神之助くんなんでも普通ってつければいいとか思ってない? 忍者ってだけで普通じゃないからね?」
「なるほど。では今日で忍者はやめようと思います。これで今日から正真正銘の普通の高校生ですね」
俺の名前は神条神之助。異世界に勇者として召喚された経験があり不都合な現実を幻に書き換える超能力を持っており古より続く忍者の末裔だった過去を持つだけの極々普通の高校生である。
「……もうなんか、あなたになにを言っても無駄な気がしてきたわ」
「先生。この世界に無駄なことなどありませんよ。無駄だと思えたことでもいつか必ずなにかの力になるはずです」
「なんでこの場面で無駄に良いセリフ吐くの?」
無駄に良いセリフか。しかしこの世界に無駄なことなどないので、つまりただの良いセリフってことだな。照れるぜ。
「……最後。これ、見てくれるかしら」
スポーツテストの残りの項目を先生は指し示す。
握力。神之助くんが握力計を持つと壊れるので測定できません。
ソフトボール投げ。投げたと同時に消えるのでわかりませんでした。
「なにこれ?」
「見ての通りだと思いますが」
「握力計壊さないでくれる?」
「違います。俺が持ったやつどうしてか全部壊れてるんですよ」
「ボールが消えるってなに?」
「なんか摩擦で溶けました」
「衝撃波やばそうだけど?」
「それなら俺の普通の超能力で衝撃波が発生しないよう現実を幻に書き換えたので大丈夫です」
「………………」
先生は息を吐くと、とても清々しい顔で窓の外を見た。
「……良い天気ね」
「そうですね。普通に良い天気だと思います」
「あなたは普通じゃないけどね」
「おかしいですね。俺は異世界に勇者として召喚された経験があり不都合な現実を幻に書き換える超能力を持っており古より続く忍者の末裔だった過去を持つだけの極々普通の高校生なのですが」
「…………良い天気ね」
「先生。同じこと言ってますよ」
「現実逃避くらいさせてくれる?」
どうやら先生は色々と疲れていたようだ。俺のことをおかしいおかしいと言っていたのもそのせいだろう。
そう、なんて言ったって俺は。
異世界に勇者として召喚された経験があり不都合な現実を幻に書き換える超能力を持っており古より続く忍者の末裔だった過去を持つだけの極々普通の高校生なのだから、おかしいはずがないのである。