惚れた方が負け、とはよく言ったもんだ
抜けてるところはあるし、目を離したらすぐにいなくなるし、掃除と洗濯は出来るけれど、料理の腕は食材が可哀想だと思ってしまうくらいだ。
それなのにお菓子作りだけは得意で、困っている人がいたらなりふり構わずに走り出してしまう。
リードか何かつけておいた方がいいんじゃないの、なんて笑いながら言われたこともあるけれど、冗談ではなく本当にそうした方がいいかも、なんて最近はちょっと思ったりしてる。
決して悪気があってやってるわけじゃない。
彼女はいつも本気で真剣なのだけれど、それが空回りしてしまうことも多々あり、トラブルメーカーとして扱われてしまうことも多かった。
「よく付き合ってられんな」「俺には無理だわ」口の悪い友人からよく言われる言葉も、当然、耳にタコだ。
時々、俺もぐったりしてしまうというか、何で付き合ってるんだろう、と考えてしまう時もある。
彼女には申し訳ないけれど、これは素直な気持ちだ。
でも、その度に、彼女が太陽みたいに笑っている姿や、俺と喧嘩した時に大声で泣きじゃくる姿。
朝起きた時に見る猫みたいに丸まって、俺にくっ付いて寝てる姿とか、出来ないなりに努力してご飯を作ろうとしている姿とか、日常の中に散らばっている彼女が頭を巡って――ああ、それでも好きだな、と再確認する。
今も、ほら。
俺がそんな風に思考を回してぼーっとしている隙をついて、頬にキスをしてくる姿だって、イタズラが成功した子供みたいに笑う姿に、心臓がぎゅっと締め付けられている。
柔らかな唇の当たった頬を撫でながら、なんだかんだで俺は、彼女には敵わないと思う。
惚れた方が負け、とはよく言ったもんだよ、本当にね。