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街の女探偵シリーズ

流星

作者: 春嵐

紅蓮という女性探偵の話です。

作中に登場する権利書や歓楽街などは、「孤独」をご覧ください。


紅蓮…街の女探偵のひとり。戦闘や運転が得意な突撃タイプ

烈火…街の女探偵のひとり。戦略に秀でるが、特定の個人を相手にして何かをするのが苦手な軍師タイプ

身長高いの…街の女探偵のひとり。通り名は十六夜。交渉や戦術予測が得意なバランスタイプ

 夜。 

 街から少し離れた幹線道路を飛ばしていた。

 この街の幹線道路は、街を横断する部分と、他の街と繋がるための部分に分かれる。いま走っているのは、街ではない部分。うまく環状になっていて、幹線道路だけでこの街の外縁をぐるっと一周できる。大きく三つに分かれる。文字通り山やトンネルのある山沿い部分、草原のある平坦な部分。そして海の部分。いま、草原部分に入ったところ。街をぐるっと一周囲んでいるのだ。他の街へつながる部分は、海、山、草原の各部分に一本、都市から繋がるのは山の部分で、ここは夜でも車の往来がある。海と草原の方は、ほとんど誰も使わない。都市から高速道路を使ったり直通の道路を使ったりするほうが、圧倒的に速いのだ。景色が好きな物好きしか走らない。

 この道路も、知事の公共事業乱発によるものだった。新しいコンクリート素材を誘致して何か特別な工事をしたらしく、維持費がほとんど掛かっていないという奇跡をこの街にもたらしている。もっとも、紅蓮自身も最近までそれを知らなかった。権利書を返した折、歓楽街の猫に教えてもらった。

 歓楽街には、個別のコミュニティが存在している。警察ではない方向から、歓楽街を統治している。そのなかに、走りと人追いを専門とする人間たちがいた。猫と呼ばれている。ときどき一緒に仕事をしたり、仕事上対立してやりあったりする。直近では、幹線道路でやりあっている。避けられない自然現象で私が勝ったけど、なかなかに良い走りをしていた。そのお礼に、コンクリート素材のことを教えてもらったのだ。

 アクセル。踏み込む。夜が深く、走っている車は対向車線にも自分の前後にもいない。

 直近で警察の弱みをひとつ握ったため、速度超過を許してもらえる無敵状態になったのだ。もちろん、速度違反の車を取り締まるという大義名分はあるが。いつもは無法地帯の峠の方でアクセルを踏みまくっていたが、山側は土地絡みのごたごたで走れなくなっている。

 もっとも、その交渉自体に紅蓮自身も立ち会っていた。選挙に絡んだ土地の奪い合いで、そのときも自分は車を飛ばしていた。

 紅蓮。車体がワインレッドだから紅蓮だと思われているが、実際は違う。呼ばれる分には、由来など、どうでもいい。

 シートに深く腰掛ける。アクセルを少し緩め、惰性で流す。少し、雰囲気が違う。周りの景色を注視する。夜だが、星と月の灯りで充分景色は見える。ハイビーム。対向車線含め、自分の前後に車はいない。

 左側。

 路肩。

 平たい草原に、何か大きなものがある。

 少し行って、ブレーキをかけて路肩に止める。

 エンジンを切り、アタッシュから銃を取り出す。ゴム弾が出る特注品。当たると痛いだけの代物。これも赤く塗られていた。趣味ではない。寝て起きたら、烈火が勝手に装飾していたのだ。

 近付く。どうやら、グライダーらしい。銃をベルトの後ろに挿す。必要なさそうだ。

 コクピット。全長のわりにコクピットの座高は小さく、しゃがんで見てみる。

 誰かが、座っていた。インカムをしている。首がだらっとしていて、だらしなく上を見ているような状態。寝ているのだろうか。

「もしもーし」

 コクピットを叩く。

「はっ」

 男性がびっくりしてこちらを見る。

 紅蓮もびっくりして男性を見返す。コクピットが開かれる。

「えっ、えへへ」

「私は警察委託の走り屋です。ここは幹線道路なんですが、どうしたんですか?」

「へぇ、委託の走り屋」

「夜中に道路を走って、異常が無いか確認する仕事です。で、いまあなたという異常を発見したわけですが」

「えっと、えへへ」

「えへへじゃねぇよ」

「いやね、星がとっても綺麗だったから」

 星、ねぇ。

「あなたも綺麗ですね」

 お世辞だ。だが、ある程度は本気で言っているかもしれない。一応照れておくか。

「えへへ。そう?」

 直情径行を装うのは、得意だった。自分で言うのもなんだが、根が真っ直ぐなほうなのだ。仕事上、嘘も思考も得意だが、相手を探るときは自分を隠さない方が良い。仕事仲間には、喋るだけで相手の情報を好きなだけ引き出す身長高いのがいる。

「今日は星空も綺麗だし、得したなあ」

 綺麗なものを見ているということで、何かを隠している。

 周囲を見回す。

「どうやってここへ?」

「幹線道路で降りて、惰性で横の草原に入ったんです」

 上手い、のだろう。草原に入っているわけだし。ガードレールの隙間をグライダーが通ったのは、ちょっと信じられないが。

「とりあえず、警察に連絡しますね」

 幹線道路は、道路管理会社や街ではなく警察が管理していた。新素材絡みの利権があるからだ。

「私を綺麗だと言ってくれたことに免じて違反は切られないですが、以降は道路侵入の際、コントロールに連絡してください」

「あっ、流れ星」

「えっ、どこどこ?」

「ほら、そこそこ」 

 見えない。嘘か。警察には連絡してほしくないわけだ。

「それにしても、ここの道路すごいですね。しっかりと着地できた。さすが特許待ちだけある」

「そうですか、道路の素材目当てですか」

「えっ」

「えっ」

「え、えへへ」

「えへへじゃねぇよ。企業の回し者か」

 仕事になるかもしれない。

「いや待って待って待って。違うんです。企業の人間というか、この新素材を使わせてもらいたいと思ってたんです」

 怪しい。

「怪しいものじゃないんですホントに」

 仕方ない。後ろ越しに差していた銃に手を掛けた。このままグライダーが飛び立つと逃げられてしまう。

「十秒以内に名前と所属、誰から頼まれたかを言いなさい」

「えっ、えへへ」

「どうした」

「あっ、見てほら流れ星。流れ星ですよ」

「残り五秒」

「えっと、えっと」

「時間です」

 銃を取り出す。トリガーに手を掛ける。発砲。高い破裂音。普通の銃と違って、火薬ではない。後付けの音声だった。

「わああごめんなさいごめんなさい」

「はい、これであなたは逃げられません。あれ」

 驚いた。このグライダー、ゴム弾とはいえ至近距離で銃撃されても傷が付かない。一応、法に触れるレベルの改造は施しているのだ。ゴム弾で、ぎりぎり骨にひびが入らない程度の威力。それにしても、至近距離で撃ってるのに擦り傷ひとつ付かないとは。

「あ、ばれちゃいました?」

「なにこのグライダー」

「新素材です。あなたの銃も特注品ですね」

「ちょっとそれ乗せて」

「だめですよ。俺の専用機なんですから。一人乗りですし」

「えぇ乗りたい乗りたい」

 諦めたように、首を振った。

「いいですよ」

「やった」

「次会うときまでに二人乗りにしておきます」

「なんだよそれ」

「今更信じてもらえないでしょうが、私は内閣官房秘書で次の総理大臣付です。ぎりぎり官僚」

「ほお。お偉いさん」

「そんなこと言わないでくださいよ。ここの道路に特許申請中の新素材が使われていると聞いたので、これまた新規設計のグライダーで偵察に来たってわけです」

「だから警察は困ると」

「だって、呼ばれたら新規設計なのがバレるかもしれないし、それに私はなんとでも言い訳できるけどあなたは巻き込まれちゃうし」

 私のためだってか。

「冗談言ってんじゃないよ。この前の土地交渉で権利書を最終的に手にしたのは私達だ」

「あれ、もしかして、この街の女探偵」

 どうやら、本当に政の人間らしい。土地交渉の事を知っているのは、知事、歓楽街の顔役と猫、それに中央の役人。

「三人いると聞いていたんですが、三人目はあなただったんですか」

「二人に会ったことがあるのか」

「交渉するためにここへ来たときに。ボディガードが瞬殺されたうえに不思議な聞かれ方してるうちに、情報ぜんぶ喋っちゃってました。それはもう凄い尋問術でしたね」

 交渉に来た中央の役人、ってことか。烈火が反応しなかったということは、相当のやり手ではあるんだろう。

「まぁいいや、敵じゃないならそれで。もう行きな」

「そうします。いやぁ、あなたに会えてよかったですよ」

「二人乗りの改造忘れんなよ」

 中の機材の写真撮ってやる。きっと企業秘密の塊のはずだ。

 グライダーが、少しずつ前に進んでいく。

 風。

 何かが、おかしい。

 音。

 音が、しない。

 風だけ。

 いったい、どうやって前に進んでいるのか。そのまま飛び立っていくグライダーを、ただただ見つめていた。

 夜が、明けはじめている。グライダーは、そのオレンジの中に、すうっと消えていった。

紅蓮をフィーチャリングして、「孤独」において出現しなかった中央の役人を際立たせてみました。もしかしたら、今後この役人出てくるかも。


本当は烈火の過去(この街に流れ着いてから)について書きたかったんですが、ちょっと長くなりそうだったので先に紅蓮で小編を書きました。


私は運転免許持ってないので、運転に関する用語などは曖昧かもしれません。なにかあればご指摘などお願いします。


感想など、お待ちしております。

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