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With Bluesky  作者: 白都里 優侑
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カナラスの異変

その日は春だというのにまるでうだるような暑さの中を深い蒼色の鎧甲冑を身につけた栗毛の20歳そこそこの腰に剣を提げた青年と魔道士と思わしき緑色の衣装を身に纏った、栗毛の青年とほぼ年齢差がなさそうな金髪の青年が人気のない街道を汗を時々拭いつつ歩いていた。


 目指す目的地カナラスと呼ばれる山岳地帯の小さな町のはずれにある湖の近くで猟奇事件が頻繁に起こり始めている事に町民が頭を悩ませた結果、カナラスを含む大小の町を管轄下においているラディエン国が設立した調査隊に事件の調査依頼をし、その調査隊に所属している剣士と魔術師の彼らがカナラスへと向かっている途中である。


「それにしても暑いな」

 

 栗毛の青年が呟く。


「そうだね~カナラスまではもう少しで着くはずなんだけど」


 金髪の青年は暑さを感じていないかのような笑顔で返事をすると手にしていた地図を広げて確認する。


「あー!もう!鎧、外してえ!ほんとにもう少しで着くのか?さっきももう少しで着くって言ってただろ!?」


 栗毛の青年は気力で重い鎧をつけて歩いているからかイライラし始めて八つ当たり気味になりだした。


「ジェイス、鎧が重いのは分かるけどちょっと落ち着こうよ。あ、ほら遠くに町の入り口が見えてきた」


「やっぱり馬で来るべきだったんだよな…」


 金髪の青年リドルはため息をつきながらジェイスを諭す。


「経費削減は調査の基本だよ!隊長にも言われてるし、‘可愛いんだけどキレたら怖い’ヴェンツェルさんに何言われるか…考えただけでもゾッとするんだけど」


 リドルは暑いにも関わらず寒い時期に両腕を擦る仕草をしてみせた。


「ヴェンツェルさんに大目玉食らうよりはこっちの方がマシか…」


 彼らが口にするヴェンツェルという調査経費の出納管理をしている人物はジェイスとリドルより5歳ほど年上の女性だが、黒髪で目鼻立ちがくっきりとした年齢より若く見られて可愛らしい容姿ではあるものの少しでも経費の使用を誤魔化そうものなら重箱の隅をつつくが如く事細かに説明を求められ、納得のいかない説明をすれば言葉のナイフでばっさりと斬られてしまう。ある意味影の元締めだと噂する者もいるほどである。


 そうこうしているうちに遠くに見えていた町の入り口に辿り着いた。少し離れた場所が出店が立ち並ぶ商店街らしく、昼過ぎでも人出で賑わいを見せている。


「やっと着いたな」


「そうだね。僕はもうクタクタだよ」


 と、リドルの姿からはそういう風には見えないジェイスは、


「まだ町一つ向こうまで行けるように見えるぜ?」


と冗談めかして言ってみた。


「それじゃあ…」


 リドルは懐から本部と連絡を取るための水晶玉を掌に乗せるように取り出して地面に置いて片手で掴み上げようとする仕草をするが、持ち上げられない様子を見せた。


「そ、それ本気でやってるのか!?さっき水晶玉持ってたよな?」


 目の前の光景に目を疑うばかりのジェイスはリドルがふざけているように見えてならなかった。


「掌に乗せるのはできるけど、極端に握力が弱くなるんだよ。僕もなぜかは分からないけど」


足下の水晶玉を拾い上げたジェイスはリドルにそれを手渡す。


「疲れてる時はすぐ俺に言うんだぞ。何かあってからじゃ遅いんだからな」


「うん。この状態も少し休んだら治まるんだけどね…今みたいにクタクタにならないように僕ももっと体力つけないと」


手渡された水晶玉を懐に収めるとリドルは微笑んだ。


「とりあえず早く挨拶に行って休んだ方がいいかもな。万が一町長と食事する事にでもなったら…いや、何でもない…」


「何を想像したのかは、あらかた予想がつくけど詳しくは聞かないよ」


 リドルは苦笑いする。二人は調査隊本部を出発する前にヴェンツェルから聞いていた、‘町の入り口から向かって右奥にある緑色の屋根の家’が町長の家である。

その家を目指して再び歩き出す。


 町の入り口から左右に商店が立ち並ぶ昼過ぎの、人を掻き分ける程ではないが混雑した道を歩く。

少し歩くと商店街を抜け、前後左右に分かれる道がある広場に出た。

迷うことなく、右の道を選択して更に歩き続ける二人は静かで平和そうに見えるこの町で事件が起こっているなどまるで嘘のように思えた。


 閑静な住宅街を歩き続けた先に緑色の屋根の家が視界に飛び込んできて目的地に辿り着いた。

リドルが3回ノックして少し間が空いた後に初老の品の良さそうな女性がドアを開け、


「依頼を頂いた国の調査隊から派遣されて来ました、リドル・アルディードとジェイス・グランディムです」


 リドルが一言告げると、


「お待ちしていました。さ、どうぞ中へ」


 家の中に通されリビングに案内されると白髪混じりの男性と若い女性三人が長テーブルを囲んで何やら話をしていたようだったが、初老の男性は二人の姿を見るや否や立ち上がって居ても立ってもいられないという風に近づき言った。


「お待ちしていました。カナラス町長のライナー・グレインです。それから…」


 自分の隣に座っているのが長女のクレア、自分の向かいに座っているのが次女のエレナ、その隣が三女のアリシアだと紹介するとジェイスとリドルも自己紹介した。

 クレアは濃い茶色のロングヘアーで顔立ちの整った美人で見た感じは控えめに見え、エレナもロングヘアーだがクレアと似て控えめな中にもしっかりしていそうな雰囲気を醸しだしている。アリシアは二人の姉のように美人というよりも愛らしい容姿で肩までの明るい茶色のミディアムヘアーである。


「こちらにかけて下さい」


 町長に促されて席についた二人と町長は改めて本題の話に入る。


「依頼した話の事ですが、何せエレナの友人も犠牲に遭いましたので早急に解明に取り掛かっていただきたい」


 町長の言葉に疑問を抱いたジェイスが尋ねる。


「エレナさんのご友人犠牲になったとは聞いていませんが、一体何があったのですか?」


「エレナの友人が結婚間近で、夫になる予定だった婚約者と森の中を歩いているところに婚約者を目の前で何者かに襲われて殺されてしまいましてね、彼女も犠牲者同然です」


「それで、エレナさんのご友人は無事だったのですか?」


 リドルが尋ねるとエレナがそれに反応するかのように口を開いた。


「セリスは怪我はしてませんが、抜け殻のようになってしまって…私、もう見ていられないんです」


 エレナはリドルに助けを求めるような表情で言った。


 そんな顔で言われてはリドルも放っておく訳にはいかず、依頼云々よりもこれ以上犠牲者を増やしてはならないと思っていた。


「依頼の詳しい概要は分かりました。本部にもこの事を報告しなければならないので一旦、失礼します」


 ジェイスが一言言った直後にアリシアが立ち上がり、


「私に考えがあるの!協力して下さい!」


「アリシア、本当にやるつもりなの?」


 クレアが不安げに訊いた。


「調査隊の人にしか頼めないでしょ?剣を持つ人も、魔法を使える人もこの町にはいないんだから」


「アリシア、落ち着きなさい。お二人とも移動でお疲れなんだ。その話はまた後で改めて聞いてもらおう」


 町長はアリシアに言うと彼女は閉口せざるをえなかった。


「それでは、夜に改めて伺います」


 ジェイスが一言町長に言い残してリドルと共に町長宅を後にした。


「宿の部屋が空いてるといいんだが。本部への報告はそれからでもいいよな…って、顔色が随分悪いぞ?大丈夫か」


「大丈夫って言いたいところだけど、これ以上我慢すると僕の中から色々出てくるかも…」


 と、言い出す始末のリドルに焦りを隠せないジェイスはすかさずリドルに肩を貸し、


「道の往来で色々出すのは止めてくれよー!」


 その状態で宿屋を探し回る羽目になったが、町の住人に訊いて宿屋の場所を教えてもらい何とか部屋をとる事ができた。


「お前の中から色々出ずに済んでよかったよ」


 リドルをベッドに横たわらせてジェイスは呟いた。


「ありがとうジェイス。少し休ませてもらうよ」


 そう言ってリドルは寝息を立て始めた。部屋にはもう一つベッドがあり、鎧を外して腰を下ろした。

 身軽になったその体をベッドに預けるとアリシアの言葉を思い出す。


(協力してくれって言ってたけど、一体何なんだ?それに自警団すらないのか、この町は…国に直訴して自警団の一個団体を配置するようにしてもらうべきだな)



 











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