チ、座敷わらしダンジョンへ
地竜ズムの巣。
フェルに挨拶しに来たその日に、フェルが依頼を出したらしい。
「それで確認は?」
「あ〜、それなんだが、ちっと面倒な事になっててな」
「面倒な事ですか?」
ジーラスさんの話しでは、ドラゴンの巣はカシムから南東へ馬車を急がせて二日、岩山の中腹にあったそうだ。
カシムの領地は大貴族領と比べれば小さいとはいえ、それなりの領地はある。その中で、数日で巣が発見出来たのは元から目撃などでの噂はあったようで、ジーラスさんたちは闇雲に探す前に噂を信じて、そちらへと向かって巣を発見したが、ここで面倒な事が起きたらしい。
しかも、二つ。
「一つは既に他の冒険者たちが進入していた事だ」
目聡い冒険者がいるものだ。ただ、危険を考慮しているのかな?
「もう一つは、奴の巣はダンジョン化している」
ん?
ダンジョン化?
「地竜の場合、習性なのか地中に穴を掘って巣にするのだが、長い年月住み続けていた場合は巣が巨大になり。ダンジョンの様になる事を、ダンジョン化と言うんだ」
穴を掘って?
地竜って土竜ではないよね?
「それで先に潜ったと思われる冒険者たちは戻ってきましたか?」
「いや、こちらも少し潜ったが、戻ってくる気配は無かった。一応、規定通りに札は置いておいたが、もう一度潜った方が発見率は高いな」
ジーラスさんの言葉に何かを悩みだしたシラウエさん。
「わかりました、では、奥の方までの確認と場合により先に潜った者達の救出を追加依頼とします」
冒険者はボランティアじゃないてことか。
冒険者たちが命を掛けて魔物たちと戦ったりするのは、それに見合った報酬が得られるからだ。地龍ズムの巣に潜るのはそれだけ危険が大きい。
ドラゴンの巣は魔物が住み着きやすいそうだ。ドラゴンの餌になる事もあるが、そういった住み着く魔物はドラゴンと共生関係にあることが多く。
別に餌になるだけではないらしい。
それにしても、ダンジョンか良いな。行ってみたいな。
「よし、確約は取れた」
ジーラスさんたちが行ってしまう!!
「あ、あの!」
「ん、どうしたお嬢様」
「わたしも行きたい!一緒に行っても良いですか!」
「え、いや、それは流石にマズイだろう」
「どうしてですか!地竜ズムを倒したのは、わたしです!ならば、地竜ズムの巣に潜る権利位はあると思います!」
ジーラスさんたちは困り顔で、わたしを見ている。
「確かに、地竜ズムを倒したのはお嬢様だ。だが、ダンジョンは勝手が違うし、何よりも」
「何よりも?」
「後ろのお嬢さんが怖い」
は!
慌てて振り向けば、ニコニコ顔のルールルちゃん。
「お嬢様」
「は、はい!」
「私も参りますので」
ルールルちゃんの言葉が理解できませんでした。
ジーラスさんたちの困惑も強くなる。
「え、なに?」
「ですから、お嬢様がダンジョンに行かれるのでしたら、私もお供をいたします」
確かにルールルちゃんは鬼人族だけれど、花嫁修業を兼ねて雇われているんだよね?
「はい、花嫁修業です!ですから、強い魔物等との闘いは大事なのです。流石に地竜ズムとは無理なので無茶はしませんでしたが、その巣であれば花嫁修業には持って来いです!」
あれ?花嫁修業ってそんなんだっけ?
ジーラスさんたちを見れば、何か思いつく事があるのか。溜息をついている。
「鬼人族はより強くが基本だ、女は自分よりも弱い男には嫁がないし。男も弱い女には見向きもしない」
「はぁ、つまり、ダンジョンに行ってもいいの?」
「はい、領主さまもセルルカさんも慣れない勉強だけさせていても可哀想だと、お嬢様が多少であれば危険をする事を認めると言われていました。ただ、私の判断で危険すぎると感じた時は素直に従って帰ってもらいます」
まさかセルルカさんはまだしも、フェルが、わたしが危険を犯すことを容認するなんて思っていませんでした。
「いいの?」
「はい」
ニッコリと微笑むルールルちゃん。
「いや、いやいや、ちょっとまて!そっちで話を進めるんじゃねぇよ!」
「でも、役に立ちますよ?」
「あ〜、そうかも知れんが、だがな」
あれ?
「もしかして実力疑っています?」
「そうじゃねえが、地竜ズムを倒したのは聴いているし」
うん、ヤッパリ疑っているね。
「「それならコレはどうかな?」」
正面に一人と、もう一人。
ジーラスさんたちの後ろに立つわたし。
襲撃者を驚かせた方法で、ジーラスさんたちを固まらせてやりました。
カシムにフェルたちと来てから、始めてのカシムの外への外出にウキウキしながらの旅です。
旅でした。
殺風景です。
「岩や荒れた土地しかありません、荒野ですね」
「地竜ズムがやたらと荒らしたからな。しかも、その重量で大地も踏み固めてしまい、雑草さえ生えにくい土にしてしまった」
これが元に戻るのは、かなりの時間が掛かるらしいです。
「見えて来たぞ、あの岩山だ」
地竜ズムが造った道を馬車で進み岩山の中腹にある穴の前に着きます。
地竜ズムの巣穴は大きさ三メートルといった所でしょうか。全長十メートルほどの地竜ズムにしては小さな感じですが、中は場所によってはかなり広い空間もあるそうです。
「やはり出てきた様子はないか」
ジーラスさんは入り口の地面を見て首を振る。
「地面を見てわかるの?」
「あぁ、足跡で判断する。入っていったのは四人、どいつもこいつもスパイク付きの靴を履いているから、一般人じゃない。冒険者だ」
スパイク付きの靴だったから、進入したのがわかったらしい。
ただ、何時入ったのかはわからないし、別の出口の有無もわからないらしく。発見時に入っていくにはリスクが高過ぎると判断したようだ。
それが冷静に出来るのもベテラン冒険者ならではだろうね。
人情的に冷たいと言えるけれどさ。
「よし、準備を整えろ」
ジーラスさんの一言で、キルキスさんたちは入るための準備を整える。
ジーラスさんのパーティは六人だが、今回は馬車を連れて来ている為。弓を得意とする一人が残るらしい。
通常、冒険者はダンジョンに挑む場合は馬車を使わない。ただ、今回はわたしとルールルちゃんが居ることもあるが救出の依頼もある為。馬車での移動と成ったらしい。
ルールルちゃんはわたしを世話する侍女の服から自前の革鎧に着替え。
わたしもセルルカさんが用意してくれていた。厚手の服に着替える。
この服、見た目は野暮ったいワンピースですが、腕や胸、スカートが厚手の布で作られ、しかも、糸状にした金属で動きを阻害しないように補強されているそうです。
これを貰って屋敷を出る時に、フェルに抱き締められ。セルルカさんにクドクドと注意を受けましたが、一応は送り出してくれました。
靴もスパイク付きに履き替え、刀を背に背負います。
「どうしました?」
「いやこの辺では珍しい武器だと思ってな、良かったら見せて貰っていいか?」
ジーラスさんに刀を貸し!ジーラスさんは刀を抜いて確認する。
「エデンベル方面の武器に似ているが、アレよりも細いか。それに、刃と背の金属が違うのか?む、どうしてそんな事を」
何かを悩んでいたジーラスさんだったが、いい剣だなと言って返してきた。
剣じゃなく刀だよと言い返そうとも思ったが、ジーラスさんが直ぐにキルキスさんに声を掛けたので止めた。
「さ、行くぞ」
ジーラスさんを先頭に皆さんの背を見ながら、わたしは初めての冒険とダンジョンに挑みます。