ト、座敷わらしギルドへ
シラウエさんはサイクロプスと呼ばれる少数種族だそうです。一つ目小僧ではなかったです。
髪の毛に埋れていましたが、確かに角がありました。一つ目小僧は坊主で角はありません。
ちなみに、触らせてくれたのは、わたしが女の子だからだそうです。男性が触った場合、求愛もしくは決闘だそうです。
極端過ぎじゃないですか?
何でその二択なのですか?
そのシラウエさんは帝国冒険者ギルドでも古株らしいです。
そんな彼女が、ここカシムに帝国冒険者ギルドを設置する理由ですけれど。
「王国冒険者ギルドが断ったので、帝国冒険者ギルドを設置する事になったと?」
いいのかなそれ。
「仕方がないわ、ギルドの設置は急務なの」
地竜ズムが居なく成った事で、周囲の魔物達が元地竜ズムのテリトリーだったカシムの地に出て来だしているらしい。
「今は弱い魔物達だけみたいだけれど、そのうちに弱い魔物を追って強い魔物も姿を現すでしょうしね」
街道の安全確保は、今のカシムの最も力を注ぐ案件らしい。
地竜ズムが縄張りにしていた為に、カシムの地は荒れていて、早期に牧草地帯に戻すのは無理だとフェルたちは判断しているようだ。
だからって帝国冒険者ギルドは、わたしでも無いと思う。
「大丈夫よ、断って来たのは王国冒険者ギルドだからね。一筆も取ってあるわ」
一筆って、え、何かイヤな予感しかしませんね。
聴かない方が良さそうです。
「それで何処に開設するの?」
「教会の側の空き家よ。大きな空き家があったでしょう」
空き家だらけですけど?
商人さんたちが戻って来たとはいえ、村は空き家だらけだ。
「手入れとか初期投資とか大変そうだね」
「何を言っているの?帝国冒険者ギルドカシム支部の最大投資者はミィニアよ」
ほはぁ?
口に入れたクッキーを吹き出すところでした。わたしがギルドの最大投資者て?!
「なんで!?」
「なんでって、ミィニアが投資者してくれた地龍ズムの賞金からギルドに資金提供したからよ」
シラウエさんに、ミィニアお嬢様は、カシム支部の最大オーナーですから最優先で依頼を受けますよと言われた。
それなら自分で行くよ。
あ。
そうかギルドが出来るのか。
「ですが、コレで帝国冒険者ギルドも色々助かります」
何だか安心した様子のシラウエさんに理由を聴くと、王国側の領土は、このカシムで南北に分団され。更に小さな領地が多いので、初期投資の資金援助や設置条件で南北に作らなければ成らず。
とてもギルド負担では設置出来なかったらしい。
そこに降って湧いたのが、地龍ズムの討伐とカシムの街道の再開。オマケに、そのカシムからのギルド設置にかかる初期投資を領主が負担するという。
帝国冒険者ギルドは、早々に繋がりのある貴族に話を通し。責任者としてシラウエさんを送り込んで来たらしい。
コチラの貴族達も資金援助を盾に黙らせるようだ。
それって余計な恨み買わない?
「でも、それだけ資金援助するなら王国側のギルドが蹴ったのは?」
王国冒険者ギルドだって初期投資がないのなら、ギルドの開設はすると思うけど。
「それは支払いが帝国通貨だからよ」
「でも、帝国通貨って大陸中通用するよね」
「するわ、でも、王国冒険者ギルドがそのまま帝国通貨を使うわけには行かないのよ。建前にはなるけれど、あくまでも王国冒険者ギルドの最大投資者は王国、帝国通貨を使用しての王国内での設備投資は問題があるのよ」
両替やそこに掛かる費用など、細かい税金などが邪魔をするらしい。
外貨獲得のチャンスだと思うけれど、違うのかな?
「しかも」
まだ、何かあるの?!
「予想では、最初こそカシムからの依頼でも、持続する依頼の多くは周辺の帝国領からに成ると思われるわ」
あ、帝国の依頼を王国が受けまくるのは、確かに問題がありそうだ。
まって、それならさ。
「冒険者ってどうなるの?」
王国所属の冒険者が居れば、帝国所属の依頼もいるだろう。
彼ら彼女らの扱いは?
「ミィニアお嬢様、確かに冒険者ギルドはそれぞれの国に所属していますし、そこに登録している冒険者たちもその国に所属していはいますが、冒険者自体は自由に他国でも依頼が受けられます。当然、初期に登録が必要ですがそれだけです」
そうしないと護衛等の依頼に不具合が出るらしい。
「そ、だから、俺達もカシムに登録をし直すことにしたんだ」
ジーラスさんがニッといい笑顔を見せていた。
「う、ボロ」
ギルド予定の空き家は思ったよりもボロかった。
ギルド予定の協会付近は、広場に成っているため。風などの影響が大きいのか、他の場所の建物と比べて損傷が激しい。
「この辺はこんなものですよ、お嬢様」
わたしの呟きに応えたのは、フェルが新しく雇ったメイドのルールルちゃんだ。
ルールルちゃんは見た目は赤毛に赤い肌二つの小さな角が魅力的の鬼人族の二十歳くらいの女性だが、実際は四十だそうだ。鬼人族は人の倍は生きるらしく、結婚年齢は五十くらいらしい。
フェルの所に応募してきた理由は、もう直ぐ結婚適齢期だから花嫁修業だと聴いた。
鬼人族は、わたしの知っている鬼ではない。わたしが知る鬼は子をなさないし、人が変化する執念体だ。あと大酒飲みで、宴会好きで、声が大きく。
賭け事がヤッパリ好きだ。
「入りましょうか」
「はい」
ギルドの建物の既に修復は始まっていて、仮オープンのように依頼や登録の受け付けも始まっているようだが、冒険者たちの姿はない。
「こんにちは」
「いらっしゃいましぇ」
仮オープンしている受付に顔を出すと、出迎えたのは一つ目小僧だった。
シラウエさんではなく、本当に一つ目小僧。背丈も私より低い男の子です。
「あ、ミィニアお嬢様。よくぞお出で下さいました」
「約束通り見学に来ました」
次に出迎えてくれたのはシラウエさんでした。
「ママ〜」
最初に出迎えてくれた一つ目小僧が、聴いてはならない言葉でシラウエさんに抱きつきます。
「シラウエさん、この子は?」
「息子のパラエウです、ほら挨拶なさい」
「パラエウです!しゃんさいです!」
シラウエさん!まさかの子持ちでした!
指を三本たてて挨拶するパラエウ君、わたしの知る一つ目小僧とは違って可愛いですね。
「旦那さんは何方ですか?」
そう聴くと、シラウエさんは奥にいる冒険者というよりもサラリーマンぽい男性を指差す。
別に、スーツ姿ではないけれど。事務をしている姿はやはり、冒険者ギルドには似合っていない。
「人なんですね」
男性は普通の人間でした。職場結婚らしいです。
「あれ?帝国から来たのはシラウエさんの家族だけですか?」
「流石にそれはないですよ。後二人連れて来ていますが、今は出掛けています。それと数人カシムでも人を雇うつもりです」
わたしの言葉をシラウエさんは笑いながら否定して、奥へと案内される。
「ギルド長いるか?」
そこに現れたのはジーラスさんたちのパーティだった。
「おや、お嬢様も来ているとは」
ジーラスさんはわたしを見つけ、よ、と手を上げる。
「やぁ」
こちらも手を上げる。
「お嬢様、やぁ、ではありません。正しく挨拶をなさって下さい」
花嫁修業を兼ねているからだろうか、ルールルちゃんは礼儀に煩い。
「皆さん、こんにちは、お久しぶりですね」
「いや、挨拶を二度されても困るが」
わたしだって嫌だよ!何この恥辱プレイ!
「そろそろ報告していいか?」
ジーラスさんは困り顔ながら、シラウエさんを見る。
「あ、お邪魔ですか」
退席しようとしたが止められる。
「いや、お嬢様も聴いてくれ」
何だろう?
空気が張り詰める。
「・・・・地竜ズムの巣が見つかった」