ヘ、座敷わらし日常。壱
「ミィニア!ミィニア!」
ふみゅ?バレたかな?
座敷わらしことミィニアです。
さて、わたし今お気に入りの屋根の上で、お気に入りの風景を見ています。と、同時に屋敷の一室でフェルが雇った教師と作法の勉強中です。
何を言っているかですか?
簡単です。
わたしは現在、屋根の上で休みながら、部屋で勉強中なのです。
「やっぱり!」
あ、見つかったようです。
「ミィニア、降りてらっしゃい!」
おう、怒ってまーす。
何だか最近フェルてば変なんだよね。
何でかね。
妖術、天の羽衣でフェルの元に舞い降りる。
「ミィニア、作法のお勉強。分身ちゃんにさせているでしょう!」
分身ちゃん。
妖術で作り出した、もう一人のわたし。
髪の色が違うとか、服の色が違うとかはない。ないのに何故かフェルにはバレる。セルルカさんたちにはバレないのに、フェルにはバレる。
何故だよホント。
「愛よ」
「愛って」
妖怪の心を読んだフェルの言葉に戸惑う。
フェルと出会って、ようやく一月。ドラゴンから助けて、名前もらって、資金援助して、暗殺者から助けただけだよね。
うん、それだけ、だよね。
それなのに何で、こんなに懐かれちゃったかね。
「さ、行きましょう。先生も分身ちゃんも待っているわよ」
フェルに手を取られ、行儀作法の勉強中である自室へと向かう。
・・・・・。
むぅ?!
まって、これってさ。駄々を捏ねる子供が母親に連れられていく図、じゃぁないのかな?
そんなね。
ハズはね。
ないよね。
わたし、実年齢数百歳だよ!たかが、生まれて十七年の小娘に、十八だっけ?まぁ、どちらでもいいけれど、そんな事よりもその程度の小娘にこの扱いってないよね!
「こら、逃げないのよ」
違う。ちょっと戸惑っただけなのよ!
手の握りが強くなり、フェルと部屋に入る。
「やぁ、捕まったね」
「やぁ、捕まったよ」
部屋の中には、私と全く同じ少女がいた。
少女の横に立つ妙齢の女性が、ビックリしている。
「本当に、ご当主はよく見破れるものですね」
彼女は、何度か見ているはずだけれど、ヤッパリ解らないと首を振る。
わたしだって解らない、どうしてフェルは見抜くのか?
「不思議」
分身の言葉に同意するけどね。
「それよりも、フェルにバレたのなら教えてよ」
「リンク外していたの本体じゃない」
だって、それではゆっくりと出来無いではないですか。リンクしていると分身の情報が入ってくるので、戦闘なら連携に使えますが、のんびりしたい時は邪魔なのです。
「はぁ」
溜息をつき分身と手を合わせる。
瞬間。分身はわたしの中に消える。
礼儀作法の先生が、物理的に引いている。最初見せた時は崩れ落ちたのを考えれば、かなり慣れたとも言えそうだね。
「それでは先生、お願いしますね」
フェルは満足そうに頷くと部屋を出て行った。
「コッホん!それでは、お嬢様。レッスンを再開いたしましょう」
切り替えたのか、ニコニコ顔のフェルが雇った礼儀作法の先生を見る。ちょっと怖い。
妖怪なのに。
妖怪には試験なんて無いのに。
「あ、そうそう、この後は高数学の先生が来られるそうなので、そこまでお付き合いいたしますね」
まて、それは分身をする隙を与えないぞとの意思表示でしょうか?
ですからね!妖怪に!妖怪に!
勉強は無いのですよぉぉぉ!!!!
うふふ。
「お疲れのご様子ですね」
セルルカさんが心配そうな目で見てる。
うん、疲れてるよ。
だって、xの事情聴取てなに?
ヒールで音を立てて歩かないようにて、飛んじゃ駄目ですか?
yの崩壊て何さ?
⊆∧∌∬₱てなんて読むの?
妖怪だから言語に不自由はないけど、読み書きは別だものね。
でも、歴史?第七戦争で13がルートですの?ほほほ、意味が解りませんわ。
高数学とか知らないやい!
「ホイホイと分身しているからですね。不思議な魔法ですが、その特性が判明すればフェルエナさまは手を打たれますよ」
テーブルに突っ伏すわたしに温かい紅茶の良い香りが鼻孔をくすぐる。まぁ、確かにセルルカさんの言葉通りだけれどね。
「だからって、両方に教師を付けなくてもいいともうよ!?」
分身で逃げたら、両方に教師が付きましたよ。
解せぬ。
教師たちも慣れたのか、今日は何方ですかと聴いてくるように成っちゃったしさ。
「十人に成ればいかがです?」
セルルカさんが焼いてくれたクッキーを頬張り。コックンと飲み込む。口の中に物がある時は話してはいけません。
「十人囃子はそんなに都合良くはないよ」
「そうなのですか?」
「うん」
わたしの分身は妖力で作り出すが、維持する為には通常よりも多くの妖力を必要とする。その為、一人の分身よりも十人の分身だと使用する妖力が多くなり過ぎ枯渇してしまうので、十人の場合はそれだけ一人に使う妖力を制限する。しかし、制限すればそれだけ分身の能力が落ちる事でもあり。
行動自体が単調にも成ってしまう。
「でしたら三人とか」
「出来ない」
「え?」
「三人とかは出来ない」
練習はしたよ。
基本は一人も十人も同じだし。でも、出来なかった。十人か一人どちらかなのだ。
「それはまた以外に不器用なのですね」
うーん、そうなんだよね。
天狗も言っていたな。それ。
もう一度練習しようかな。
いや、いやいや、今度は三人に教師が付けられる。わたし、態々天狗に頼んでまで異世界へと来た意味がないじゃない!
こうなったら直談判だ!
「フェルに文句を言ってくる!」
「え、ミィニアお嬢様!?」
突然のわたしの言葉に驚くセルルカさんを置いて、急いでフェルの執務に走る。
教師は増えたが、メイドさんはまだ二人雇っただけで増えたって感じはない。
「フェル!」
執務室のドアを勢い良く開くと、そこには見知った顔があった。
「お、噂をすればミィニアお嬢様じゃぁないか」
「ジーラスさんにキルキスさん?」
と、その横に知らない妙齢の女性。
「ミィニア、ノックもせずにドアを開けては駄目よ」
ジーラスさんたちとの再会も感じる間もなく、フェルに怒られた。
「あはは、ドラゴンを倒したミィニアお嬢様もフェルエナさまには頭が上がらないか」
「お嬢様は子供だから」
いえ数百歳ですよ!!
と言うか。
「二人にお嬢様て言われると変な感じ、それにお嬢様じゃぁないし」
何故そこで笑顔?いや、生暖かい目でニコニコ?
「ミィニア、何か用事があるようだけれど。後でいいかしら、今、ジーラスさんとお話中なの」
だから後でねと退室させられそうに成る。
「それなら、わたしも話を聴きますわ。いいでしょうか、フェル」
どうだ!お嬢様モードで対応したぞ。コレは断れまい!
「そうね。いいわよ。セルルカ、ミィニアにもお茶を」
おや、それでも退室させられると思っていたのに、フェルは同席を許したよ。
「それでは話を進めましょう」
「その前に、自己紹介をしてもよろしいでしょうか?」
フェルの話を止めたのは、ジーラスさんたちの横に座る知らない妙齢の女性。
「そうだったわね」
フェルの言葉に頷くと女性は立ち上がり優雅にドレスのスカートを軽く持ち上げ会釈する。
「帝国冒険者ギルドのシラウエと申します」
長い水色の髪の毛で解らなかったが、彼女の顔にあったのは鼻と口と、大きな目が一つ。
「一つ目小僧?」
「小僧ではありませんよ」
ふふふと笑う一つ目小僧のシラウエさん。
「ミィニア失礼よ、それに自己紹介を忘れているわ」
そうでした。
「ミィニアと申します。この屋敷の居候です」
「ふふふ、もう、ミィニアたら」
フェルが苦笑している。何故かその微笑みが黒く思えるのは気のせいでしょうか?
「それにしても帝国ですか」
帝国は、この大陸最大の国家で元は迫害された人族以外の異種族と呼ばれる人々が建国した国らしい。最初の頃は幾度となく人族の国に滅ぼされかけたが、常にとまではいかないが勝ち続ける、今では領土だけでなく、人口も経済も大陸最大で、それは通貨の価値にも現れているらしい。
王国貨幣は王国以外では使えないが、帝国通貨は大陸全ての国で使え。外大陸との交易にも使われるそうだ。
オマケで価値も倍あるらしい。
「でも帝国冒険者ギルドの方がこちらにどの様な用事があるのです?」
シラウエさんはお茶を一口頂くと、微笑み。
「はい、フェルエナさまの要請でカシムに帝国冒険者ギルド支部を設置する事に成りました」
え、帝国冒険者ギルドの設置?
ここ一応は王国領だよね。
それなのに帝国冒険者ギルドを設置?
慌ててフェルを見れば、フェルは満足そうに頷くだけだった。