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座敷わらしは異世界で夢を見る。イロハ歌  作者: カラスの子
座敷わらしと悪役令嬢
4/15

二、座敷わらし泣く

 街からは騒がしい声が聞こえてくる。

 幽霊館の様な領主の館。

 その屋根の上で、街から響いてくる声を聴いていた。

 セルルカさんは、以外に広い領主の館を掃除している。

 フェルエナさんは、今朝からガラテヤさんがドラゴンを売りに行った街で買い付けてきた豪華な机で領主の執務を始めていた。

 何時まで騒ぐんだか。

 この街に来て既に十日。

 地竜ズムが討伐された朗報は、その日のうちにカシム全体に知れ渡り。ガラテヤさんたちが前の街で広めてくれたようで、それを聴いた多くの商隊が近道のカシムの街道を通り始めていた。

 そのガラテヤさんたち商隊は、馬車を一台増やして高く売れるドラゴンの部位とともに帝国に旅立っている。

 向こうでもカシムの事は話してくれると言うので、いずれは帝国方面からも商隊が来るように成るだろう。

 フェルエナさんはゲルニアさんを兵士長に任命し、街の治安のための部隊設立を指示し。ゲルニアさんはその為の人の確保に走り回り。

 街の人達を数人雇用し、修繕や要望を集めているようだ。

 その資金は、ガラテヤさんに売った地竜ズムの代金と地竜ズムにかけられていた賞金だ。

 賞金も凄かった。

 三十年分の賞金は、通常の地竜退治では得られない金額で、フェルエナさんは最初受け取るのをどちらも拒否していたがセルルカさんにも説得され。

 今は、その資金を元手に活動をしている。

 「ミィニア、ミィニア」

 おや?

 執務をしている筈のフェルエナさんが呼んでいる。

 「あ、またそんな所に!!危ないでしょう、降りて来なさい!!」

 見つかったようですね。

 「よ」

 屋根の上から飛び降り、風を纏って降り立ちます。

 「もう、危ないと言っているのに!!」

 怒られました。

 「ごめんなさい、フェルエナさん」

 「そのフェルエナさんと言うのも止めて欲しいと言ったと思うのだけれど?」

 「それなら、フェルお姉ちゃん」

 少し悪戯です。

 フェルエナさんが固まった。

 顔を真っ赤にして、二ヘラと笑い。パンパンと自分の頬を叩き、フルフルと頭を振る。

 な、何してますか?

 「そ、それで」

 「おっほん!フェルエナさま、目的をお忘れです」

 フェルエナさんの言葉を遮ったのはセルルカさんだ。

 「そうだったわ。ついね、ミィニア。フェルエナさんではなくフェルと呼んでね」

 「フェルエナさまじゃないの?」

 「それだと後で困るから」

 何が困るのか聴いても、フェルエナさんは教えてくれない。

 何か隠しているのは解るんだけれど。

 なんだろうね?

 「それよりもフェルエナさま」

 「そうだったわね。ミィニア、お茶の時間よ」

 あ、呼びに来たんだ。

 「それとミィニアお嬢様のドレスが届きましたので、試着をいたしましょう」

 セルルカさんも何故かわたしの事を、お嬢様付で呼ぶようになった。

 わたしはただ使いもしないお金を得たから、資金援助をしただけなのにね。第一、何でお嬢様?!

 何度言っても止めてくれないし、そろそろ潮時なのかもしれない。

 気ままに異世界を旅しようと考えてたし、人に関わる気は無かったけれど。名前まで貰って、更に、座敷わらしの本能か居心地が良いから居座り続けてしまっている。

 「美味しいクッキーも焼けましたよ」

 クッキー。

 セルルカさんのクッキーは美味しい。

 ま、妖怪だし時間は沢山あるから旅に出るのはフェルとこのカシムが落ち着いてからにしよう。

 「ところでミィニアは屋根の上から何を見ていたの?」

 「街だよ、騒がしくなったと思って」

 「そうね、私たちが来た時とは全然違ってしまったわね」

 僅か十日、されど十日。

 賑わいは日に日に大きくなっている。

 「やるべき事が多すぎて、人を補充しないと」

 「そうですね、このままではフェルエナさまが参ってしまいますし。とはいえ、信頼の置ける人となるとなかなか」

 「それは後でいいわ、それよりもミィニアとのお茶の時間が無くなってしまう」

 フェルエナに手を取られ、館に戻る。

 フェルエナは、私とのお茶の時間や食事の時間は必ず取るようにして、セルルカさんも時間調整を行っているようだ。

 そんなに無理しなくてもと言えば、フェルエナさまに取ってミィニアお嬢様との時間は何にも代え難いのですという始末。

 私としても、実際は楽しいのでついつい喜んでしまう。

 そうして一日が終わるのだが。




 「むぅ」


 屋敷の周囲を数人の人影が動いている。

 ゲルニアさんが新たに雇った兵士ではないようだ。

 この街の兵士たちはゲルニアさんやジーラスさんが推薦した元冒険者を中心に、部隊を編成しているところで、今はまだゲルニアさんたち元からいた数人の兵士で昼も夜も見回りをしているような人手不足の状態だ。

 それでも治安は悪化していないのは、来ている人達が商人で、護衛の冒険者も商人の警護をするギルドが保証する人たちが多いからだ。

 「それでも治安の悪化は避けられないのかな?」

 布団を抜け出し、私に与えられた部屋を出ると悲鳴が木霊する。

 フェル!

 悲鳴はフェルの方から聞こえてきた。

 急いで部屋に向かい飛び込むと、フェルがセルルカさんを庇って三人の覆面男を相手にしていた。

 どうやら風の魔法で防いでいるようだ。

 男たちは、強盗かと思ったがそうではなさそうだよね。

 しなやかな筋肉の体に、全身黒尽くめに覆面と用意も周到。

 「ミィニア!来ては行けません!」

 フェルの言葉は遅く、男たちが私を確保しようと動く。

 素早い。

 でも、所詮は人の動きでしかない。

 「がっぁ!」

 悲鳴を上げないのは流石なのかな?

 私は天狗から餞別で貰った刀を構え、不用意に近づいて来た男の一人の腕を切り裂いた。

 男たちに戸惑いが生まれる。

 それはそうだ、子供にしか見えない。ネグリジェ装備の少女が、刀を構えているのだから。

 それでもフェルへの人質に使えると思ったのだろうか、三人がかりで襲いかかって来ます。

 ムリ。

 「妖術、カマイタチ!」

 妖怪カマイタチから教わった、風の刃が男たちを斬り刻む。

 昔、花札の賭けで遊び半分で教わった事が使えるなんて、妖怪人生。何が役に立つかわからんね。

 男たちは驚きながらも勝てないと踏んだのか、外へと飛び出す。

 「ミィニア!追わないで、危険よ」

 フェルが叫ぶが、わたしには逃がすつもりはないので追いかける。

 早いね。でも、妖怪から逃げきれると思わない方がいいよ。

 「妖術、眼からビーーーム!」

 指を目頭にあて、逃げる男たちに指を伸ばせば目からビームが放たれる。

 邪眼など、目の攻撃は以外にも多彩。

 ビームに貫かれた男たちは次々に倒れこむ。

 「追いつきました。逃がす気はないので捕まって下さい」

 折角の忠告なのに男たちは再び武器を構える。

 「妖術、雪吹雪!」

 今度は雪での攻撃。

 雪女さん曰く『馬鹿な男は氷漬け』な妖術。でも、氷漬けは後が面倒なので雪で埋めちゃうのです。

 アッと言う間に雪に埋もれる襲撃者二人。

 残念な事に一人は逃れた。

 「セルルカさん!ゲルニアさんたちに連絡!」

 「はい」

 男が一人に成ったので、安心したのかセルルカさんが街へと走る。

 「後は貴方一人、どうします?二人は雪の中、雪って重いんですよね」

 ですので、一人での脱出はムリ。

 「ではお縄に」

 悲鳴が上がりました。

 もう一人、覆面の男がフェルを押さえ込んでいます。

 「そこまでだお譲ちゃん」

 おや、喋りましたよこの覆面。

 「ふむ、四人でしたか。それにしても、盗賊さんじゃないですよね?」

 「そうだな、暗殺の方だ。対象はこのお嬢さん」

 おやおや、そんな事まで話してくれるとは。

 「フェルを傷つけたら殺すよ」

 「怖いね、どんな子供だよ。俺らの組織でも、その歳で恐怖を抱くような重みがある言葉は出ないぜ」

 数百歳です。

 教えないけど。

 「フェルを解放してお縄につけば命だけは助けますが?」

 「分かってねえな、こっちが優位って事」

 フェルを人質にした程度で優位って、第一、フェルは殺害対象でしょう。

 「フェルを殺害する、フェル心当たりは?」

 フェルは青い顔で頷く。

 でも、現場に出るような暗殺者が雇い主を知っているとは考えにくい。

 「でも、後で記憶を探れはアジトはわかるしね」

 「何をブツブツと武器を置いて!?」

 「置いてどうするの?」

 フェルを人質にしていた男は驚愕する。仕方がない、今まで話していた相手が後にいたのだから。

 「ぎゃぁ」

 「どうし」

 男は混乱しかしていないだろう。だって、後ろにいる相手がもう一人いて仲間を倒してしまったのだから。

 「妖術、分身」

 え、分身は忍術だろうて?

 そんな小さい事気にしていたら負けだよ。うん。

 フェルを捕まえていた男も腕を斬られ逃げ出すしかない。

 周囲を探索すれば、もう男以外の気配はない。

 「双子だったのかよ」

 「双子?」

 はい、お約束の間違いありがとうございます。ご褒美に、もう少し面白いショーを見せてあげましょう。

 「妖術、十人囃子」

 二人から十人に数を増やす。

 「な、なんだ!」

 「魔法なの?」

 フェルもビックリ。妖術ですてば、教えないけど。

 「忍術、畳返し土遁バージョン」

 あ、忍術っていっちゃった。

 教えてくれたのは天狗。

 当然、花札での賭けのお返し、皆、賭け事好きだよね。他に遊びが少ないのもあるけれど。

 ただ、私、座敷わらし何だよね。幸運で勝てるとか思っているのかな?

 ん、不正じゃないよ。うん。違う。

 十人の私に取り囲まれ、男は逃げ場を無くす。そこに十人での土遁の術で畳大の土を捲り上げ男へと倒す。

 男は逃げ場を確保する間もなく土の中へ。

 よし、コレでゴミ掃除終わり!

 「フェル、大丈夫だった?」

 蒼白なフェルに近づく。

 怖がらせちゃったかな?

 コレはアレだ。化け物扱い。

 楽しかったけれど、ここまでかな。

 「ごめんね、怖がらせちゃっ」


 パン!


 頬を叩かれた。

 はい?

 「ヒャう!?フェル、ななな、何を」

 叩かれ抱きしめられました。

 「心配かけないで、貴女が怪我をしたらと思うと怖いのよ!」

 え、えぇぇ、え、え、意味がわからない?!

 ど、どうしよう。

 フェル泣いています、怒っています。

 どうすればいい?

 あ、でも、抱きしめられるの温かい。

 あ、あれ?

 私の頬にも暖かい雫が、落ちている。

 ど、どうしよう?

 どうすれば良いの?

 だ、誰か!!

 どうすればいいのか教えてよ!


 『ごめんなさいだよ』


 だ、誰ですか?

 でも、優しい声です。

 ごめんなさい?

 フェルに心配させて、ごめんなさい?

 あ、そうですね。

 ここは。

 「ごめんなさい」

 その一言で、フェルに更に強く抱きしめられました。

 言葉にしても、やはり涙が止まりません。

 結局。セルルカさんがゲルニアさんたちを連れて来るまで泣き合っていました。

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