ロ、座敷わらし名をもらう
「あはは、こんにちわ」
不味いです。
本当は、こんなに目立ってこの世界に降りる気は無かったのです。本来なら、影に潜みこの世界を楽しもうと思っていたのですけどね。
それに、完全に引かれていますよ。お嬢様らしき女性の後ろのメイドさんは涙目でわたしを見ていますし。
言葉は通じている筈ですが、怯えられているよね。
「お姉ちゃんたち大丈夫だった?」
コテリと首を傾げ。出来る限り、子供らしく話しかけます。ドラゴンを上空からの蹴りで倒す子供など居ないでしょうけれどね。
「あ、あの、ありがとうございました。ところで貴方は天使さまですか?」
妖怪です。
「天使さまではないのですね」
「ごめんなさい」
「いえ、コチラこそ助けて貰いましたのに不躾な事を言いました。しかし、空から降って来られたのは、風の魔法でしょうか?」
「そんな所、それにしても女性二人で旅するのは辺鄙すぎない?」
辺りを見渡せば、岩場が多く。草木は余り見えない。
女性もメイドさんも何か戸惑っている。
「この先のカシムという村に行くところなのです」
「こんな所の先に村があるの?」
空から見えた限り、こちら方面の土地は荒野が広がっているように見えたよ。人って、どこの世界でも凄いよね。
どんな過酷な場所でも住むんだから。
「着いて行っていい?」
「え、それは構わないですけれど。何もない村と聴いていますよ?」
それに・・・と、倒れた馬車を見る。
馬はどうにか落ち着いて、馬車も幸い壊れていない様だけれど。横倒しの馬車を立てるのは女性では無理だろうね。
「大丈夫だと思うよ」
わたしがニッコリ微笑むと、何処からともなく馬車の音が響いてきた。
「あ、馬車?」
しばらくすると、数台の馬車がコチラに向かってきました。見たところ商隊のようですね。
「おや、お嬢さんたちこんな場所でどうしたんだい?」
声をかけて来たのは、太っちょの男の人。商人さん?
商人さんて、太っちょが基本ですか?
女性二人に女の子一人。
護衛のボロい鎧を着た男たちが警戒します。
商隊を止めメイドさんが前に出て、倒れている馬車を説明しますが、商隊の人たちの視線はドラゴンへと釘付けです。
「それが先程、申しましたドラゴンです」
「ドラゴンって、コイツはこの辺を縄張りにしている地竜ズムじゃぁないのか?」
「地竜ズムだって!」
商隊を護衛してした男達に加え、馬車の中から弓を持ったエルフさんや魔法使いさんらしき服装の女性たちが出てきます。
冒険者です!
冒険者さんたちは倒れているドラゴンを確認するように調べています。
「間違いない、コイツは地竜ズムだ」
確認の声に、皆さん沸き立ちます。
「有名なドラゴンなのですか?」
メイドさんの質問に、商人さんが興奮気味で頷きます。
「コイツがいるせいで、この街道はあまり使われていないんだ。しかも、三十年も前から討伐依頼が出ているのにも関わらず。退治出来ていなかった」
「国が動いた事もあるが、結果は散々だったと聴いている」
「百年は生きているって話も聴いたな」
百年?
年下ですか?
たかが百年で、あのデカイ顔をしていたなんてイラッて来ますね。
「ところでコイツは君たちが倒したのかい?」
「いえ、私たちは襲われただけで、倒したのは」
メイドさんがコチラを見て、視線が集まります。
おう。
「え、この娘?」
呆然と見られています。皆さんの感情や思考は揺れていることでしょう。
「え、本当?」
「はい、私たちがドラゴンに襲われている所に空から降ってきてドラゴンを蹴り飛ばしたのです」
降ってきたって、舞い降りた気分だったのですけどね。
直接見ていない皆さんは半信半疑、ま、当然かな。
「そ、それならこのドラゴンを売って貰っていいかね」
商人さんが、突然ドラゴンの買い取りを提案してきます。
「別に構わいですよ。でも相場とか知らないです」
「それは俺らが、公平に判断するぞ」
任せてくれればなと、冒険者のリーダーさんらしき男性が提案してきたので、お願いすることにします。
商人さんは急いで馬車の荷物の整理を、使用人らしい人達に指示します。
「輸送費、解体費を差し引いて、ギルド登録してないよな?だったら、一般費での判断だからギルドへの上納は無し、だったらこれぐらいだろう?」
「少し高い様にも思えますが、何よりも捕れたてのドラゴンですし。それくらいですね」
商人さんとリーダーさんは指先で数を、確認しています。
「では、王国白金貨二十枚と帝国白金貨十枚でどうでしょう」
「王国白金貨二十枚に帝国白金貨十枚!」
メイドさんが驚きの声を上げ。お嬢様も驚いていますが、価値が分かりません。
「いいよ」
もしかすると買い叩かれているかも知れませんが、相場がわからない以上ゴネても意味がないですしね。
「それとあの馬車お願いしていいですか?」
倒れたままの馬車を指差すと、冒険者さんたちが直ぐに起こしてくれました。
「あ、ありがとうございます」
「いや、困っていたら助けるのは普通だ、それよりも自己紹介がなまだだったな。オレはジーラス、冒険者ギルド所属の冒険者パーティ鉄器のリーダーだ」
「イリス地方で旅商会を運営しております。ガラテヤと申します」
「フェルエナ・グランデアと申します。こちらは侍女のセルルカ、私たちはこの先のカシムに向かっていたところです」
「カシム?」
ジーラスさんは、村の名を呟いてガラテヤさんと頷き合う。
「失礼だが、今度、カシムに赴任してくる新領主さんかい?」
「はい、わたしの事です」
ジーラスさんの値踏みをするような視線にも負けず、フェルエナさんは堂々と頷く。
「すまない、噂とは違うと思ったのでね」
ジーラスさんの言葉に反応をしたのは、フェルエナさんではなく。侍女のセルルカさんだった。
「違います!!お嬢様は嵌められただけなのです!」
「ん〜、侍女さんには申し訳ないが、庶民の俺らには貴族の政争なんて関係が無いんだ。あるのは、その領主が公平で安心出来る統治をするかどうかだ」
侍女さんは、そんなと呟くがどの世界でもそんなものだろうね。
「だが、良い領主には成りそうだな」
ジーラスさんのフォローが良かったのか、セルルカさんは嬉しそうな表情に変わる。
「はは、まぁ、それはいいとしてだ。それよりもお譲ちゃんのお名前は?」
おう。
こっちに話が飛んできました、当然ですわな。
どうしようか?
座敷わらしです。
通じないよね〜。
わらし。
それもなぁ〜。
「名前はないよ」
「名前が無い?」
思いっきり不審者を見る目です。
「発言いい?」
エルフのお姉さんが手を上げて前に出て来る。
「あ、私、キルキス。鉄器所属のエルフです。彼女の名前ですが、フェルエナさんが贈るのが良いと思いますよ」
「私がですか?」
キルキスさんは頷く。
「それはエルフとしての助言ですの?」
エルフの助言て何でしょうか?
「そうね。それもあるけれど、名前がないのは不便だと思うし、彼女は名前に固執が無さそうだから」
キルキスさんの言葉に、チラチラこちらを見る。フェルエナさんは、戸惑いながら何処か嬉しそう。
別に名前をつける必要はないと思うけれど、くれるって言うなら貰ってもいいかな。
「いいよ、フェルエナさん。名前ちょうだい」
「え、そ、それならミィニアなんてどうかしら」
「お嬢様!?」
嬉しそうに提案するフェルエナさんと違って、セルルカさんは驚きの声を上げる。
「お嬢様、そのお名前は!?」
「何だ思い入れのある名前なのか?」
セルルカさんの言葉に、ジーラスさんはフェルエナさんを見た。
何か嫌な予感がしていますよ。
聴いちゃいけないのに、フェルエナさんは微笑みまで浮かべている。
「亡くなった妹の名前なの」
ほら、聴いちゃいけなかった。