カ、座敷わらしお買い物
妖怪で出来る生産系の話?
「ひぬ」
疲れた。
やだ。
冒険したい。
妖怪には試験はないのです。
だから、勉強もないのです。
「お疲れ様でした、ミィニアお嬢様」
「お疲れ様でした、ザアカイ先生」
疲れていても、習った通りのお辞儀をしてザアカイ先生を送り出す。
代わりにフェルとセルルカさんがティーセットを持って入ってくる。
「お疲れ様、お茶にしましょう」
セルルカさんが持ってきたお茶を、手際よく準備する。
「今日は美味しいスコーンが焼けました。蜂蜜かブールジャムでお召し上がり下さい」
ブールジャムとは、ブールというブルーベリーに似た果物で、ブルーベリーよりも少し酸味が強い。
これが少し甘めのスコーンによく合う。
「お茶変えたの?」
「はい、流通が日々良くなっているので、しばらく街に出ないと直ぐに新商品が並んでいるんですよ」
新商品といっても、他の土地では普通に流通している品。ただ、危険で利益の出ないカシムには流通していなかっただけなんだけれどね。
「あ、美味しい」
口の中に、いい感じの渋味が広がり消えていく。
「お嬢様の好きな味だと思いましたので」
「本当、少し渋いのね。あ、でも、香りが強いわね」
確かに、わたしは渋めのお茶が好きだ。一方、フェルは甘めの方が良いらしい。
「このお茶もそうだけれど、随分流通が良くなったわね。一度、街に出て様子を見た方が良さそうね」
「街に行くの?」
「えぇ、ミィニアも行く?」
「当然、行くよ!」
フェルと街に行くのて、なかなかに出来ないもの。
楽しみだ。
あ、でも、そうだった。
「無理かも」
「あら、どうしてなの?」
「だって、勉強が忙しいもの」
何故かピアノまで増えて、座敷わらなのに、妖怪なのに、勉強しているのです。
「それなら大丈夫よ」
ニコニコと微笑んでいるフェル。
「来週から秋の収穫祭だもの、カシムには農耕地がないからほとんど関係ないけれど、この時期に長期のお休みを上げるのは一般的な事よ」
秋の収穫祭?
え、秋?
「今って秋なの?と言うか、この前まで夏だったの?」
残暑も夏の暑さも、感じませんでしたよ?
「雪とか降るの?豪雪地帯とか」
雪の多い寒い土地なら、確かに夏を感じないかもしれませんしね。
「帝国方面て季節感薄いのよ」
雪も降らないそうです。
季節感無さ過ぎです。
「帝国の方面て事は、王国にはあるの?」
「そうね、王国の王都辺りからなら、雪も降るわね」
雪、降るそうです。
見て見たいものです、此方の雪。
「いずれね」
フェルも嬉しそうに微笑み、その後は季節の花で盛り上がった。
あのお茶の日から、翌週に変わって直ぐにフェルと街に出た。
一緒に着いて来たのは冒険者姿のルールルさん、セルルカさんは屋敷でお留守番だ。
二人はお休みは良いのか尋ねると、セルルカさんはフェルの実家の領地に戻る気はないらしく。ルールルさんは家がカシムにあるそうで、日にちをずらして取るそうです。
ドレスの色を合せ、日傘をお大きさは違うけれど、同じデザインの色違いをさす。
「ますます姉妹に見えるね」
髪の色などは違うけれど、これだけ服装や飾りを合わせると双子コーデではないけれど。普通に姉妹には見えそうだ。
「母娘には見えないかしら?」
母娘?
確かに今日のフェルは、メイクをして少女と言うよりも女性って感じだけれど。それでも、母娘に見られるには私だって大きい。
実年齢で言えば、先祖と子孫なんだけれどさ。
「無理、あり得ない」
十年後は知らんけれどね。
て、フェル、落ち込んでる?!
「ま、いいわ。それでは今日は姉妹で楽しみましょう」
米神を押さえ、何やらブツブツ言っていたフェルだったが、どうやら吹っ切ったのか笑顔を見せていた。
屋敷を出て街の中央まで歩く。
カシムは人口こそ村だったが、元は街。
領主の屋敷から街の中央まではそれなりに歩くのだが、歩く疲れ以上にカシムの変化に戸惑っていた。
まず、人が増えている。当たり前だが、ほんの少し前まで閑散としていた元街の姿はなく。普通の街として機能していた。
「こ、ここ迄変わる?」
「本当に変わったわね」
フェルと二人して驚いていれば、ルールルさんが嬉しそうに頷いている。
「書類上は把握はしていたけれど、実際に見るのとは受ける印象が違うわね」
フェルは流入してくる人口や新しく開く店など、書類上はしていたようだ。領主だし当然なのだけれど、それでも街の活気に驚いている。
「ルールルさん、治安とかの変化はない?」
この三人の中で一番街の様子を知るルールルさんに、治安悪化とかの人が増えたことでの悪い変化を聴いてみる。
「そうですね、確かに少し悪くは成ったとも聞きますけれども、私はそこ迄とは思いません」
人が増え、治安が悪化するのは当然で今はそんなに酷くはないと言う。
フェルは治安が悪化する前に、警備体制を整えたいようで人手の無さに困っている。
フェルは働き過ぎだと思う。
「フェル、今日は視察も兼ねているけれど折角の街だし楽しもうよ」
「あ、ミィニア!」
確かにカシムの賑わいは一日一日増えている。その分、トラブルや治安悪化は問題になるのだろうけれど。それでも、楽しんでも問題はないでしょう。
だから、フェルを強制的に連れ回すことにした。
先ずは、洋服や小物かね。
帝国、王国の両方の国から流れ込んでくる宝飾品がそれぞれ並んでいて、デザインの違いに選ぶ楽しさが増すというものだ。
ドレスや靴も両方を見ることが出来て、店の人が違いを説明してくれ。フェルは見慣れた王国の物よりも、やはり帝国の方を長く見ている。
フェルを連れ回そうとか思っていながら今更だけれど、私はドレスってよく分かんない。仕方なく店員さんの話を、フェルの側で聞いた振りをしていた。着物だとまだ分かるんだけれどね。
「ミィニア、このドレス着てみなさい」
よく分かんないので、現在、着せ替え人形に成っています。
「やっぱり帝国のドレスの方が、スカートの広がりは綺麗ね。でも、色は王国の方が好みだわ。ミィニアはどちらが好き?」
フェルは真剣に帝国のドレスと王国のドレスどちらも青を、比べて唸っている。
私に意見を求めて来たけれど、ヤッパリ分かんない。
「て、帝国の方かな?」
「そうよね、まだ社交は考えなくてもいいし、あ、でも王国の方も」
何だろうフェルが勢いだけで、いくつものドレスを買いそうだ。
「フェル、一着で良いからね」
「あら、遠慮はいいわよ。ミィニアの投資も返せる目処もたったし、それ以上に税収も金鉱の利益も出始めているから」
いえ、そうではなくてですね。
「あぁ、成長期だから無駄になると思っているのね」
いえ、成長しませんから。
「フェルも買わないの?」
「私?そうね、私も帝国のドレスを一着買おうかしら、あ、それと生地を見せてもらえる?」
フェルはドレスだけでなく、生地を持ってこさせ私に見せる。
「ミィニア、この生地の中から好きな色を選びなさい」
此方の生地は反物みたいに一定の幅ではなく、広かったり狭かったりしているが色は沢山あった。
「生地を選ぶの?」
「えぇ、貴女が最初着ていたドレスを再現しようと思ってね」
何とフェルは着物を作ってくれるようだ。
嬉しい。
凄く嬉しい。
「いいの?」
フェルは楽しそうに頷く。
ドレスは素敵だと思うけれど、ヤッパリ、新しい着物が着られるのは嬉しい。
「ありがとう、フェル!」
フェルに抱きつき喜びを現したあと、早速生地を選んでいく。
生地の素材や柄が着物とは違うけれど、アロハシャツだって元々は着物を現地に渡った人達が使って作ったのだから、その反対が合っても問題はない。
「どうしよう、着物と言われた途端にどれも欲しくなっちゃったよ」
着物の生地を選ぶのに悩んでいると、店の外が騒がしくなる。
「何かしら?」
フェルが開いた窓から外を見て、顔色を変え飛び出して行く。
「フェル?!」
私はルールルさんと後を追って外に飛び出す。
そこで見たのはにボロボロに怪我した子供が一人倒れている光景だった。