ヲ、座敷わらし怒られる。皆同じ。
地竜ズムを倒し満身創痍で、それぞれ適当に座り込んでいる。
「生きてる」
「あぁ、生きてる」
流石のベテラン冒険者たちも、死を覚悟の戦いに疲れたようだ。
だからって、二人の世界を作らないで欲しい。
ジーラスさんは見た目的にも年齢的にも、ピンクの世界を作っちゃダメな年齢でしょう。
「お嬢様!火をください!」
ルールルさんがいい笑顔で駆けて来る。その手には大きな肉。
血も滴って新鮮そうだ。
「それ、何かな?」
「お肉ですわ、お嬢様」
うん、それは見れば解るよ。
「いや、それってズムの肉だよね?」
「はい、私、ドラゴンなんて初めて食べます!」
「でしょうね」
「ま、ドラゴンなんて高級食材など。ただの冒険者風情に食べる機会なんぞ、早々ないしの」
ドルンさんも食べるき満々だ。
と言うか、ドルンさんが切り出したのか。
キルキスさんから小さな火なら大丈夫とお墨付きを貰い。肉を焼けるくらいの火を起こす。
マンガ肉だ。
サイズがべらぼうに違うけれど、紛れもないマンガ肉が焼きあがる。
うん、美味しそう。
残った火で湯も沸かし、ルールルさんはお茶を煎れる。
「酒が欲しくなる」
ドラゴン、ワニなんかと同じで鳥系の味かと思っていましたら牛系の味でした。
味付けは携帯の少量の塩のみ。だが、肉は柔らかく肉汁もタップリ。
臭みも驚いた事に無かったです。
それこそ和牛の上物とも言える肉質に、ただそう得られない希少な肉なのに、この味は色々と納得したよ。
・・・・ヤバイ思い出しちゃった。
「ドラゴン確かに美味かったです」
あれ?
言葉にしちゃっていたかな?
「美味しかったよな」
「そうね、戻れば氷漬けしてあるから売らずに少し食べればいいわ」
地竜ズムは高価な角だけは回収し、残りは蟻たちに食べられないように氷漬けにしてからダンジョンを出た。
うん、キルキスさんその意見には賛成するよ。あれは妖怪でも美味しかったしね。
でもね、ルールルさん、ジーラスさん、キルキスさん、今、現実逃避はやめた方がいいと思うよ。
「そう、ドラゴン美味しかったのね」
雪女も真っ青の凍える声が響く。
目の前には、鬼人族のルールルさんも霞む鬼が仁王立ち。
「ミィニア、私との約束忘れていないわよね?」
「う、うん」
ダンジョンに向かう以上、無茶な約束だとは思うけれど。一応、危険な事をしないと約束した。
「で、でもね。助けられなかったけど、人の命も掛かっていたし、まさか地竜ズムが生きていて、この前のが別の地竜なんて誰も思わなかったから」
「それでも、何か危険がある事は予測出来たわよね?」
それはそうですが。
「フェルエナさま、それに関しては俺等も油断していたところがあったから何も言えませんが、お陰で地竜ズムの本物を倒せましたから、出来るならその辺で」
「ジーラスさん、貴方も何ですよ?」
援護したジーラスさんに、フェルの冷たい視線が向かう。
「ベテラン冒険者と思ってミィニアを預けたのです。貴方たちなら危険を冒さないだろうと、信用したからミィニアを任せたのに、地竜ズムと戦ったですって!確かに、私はミィニアに地竜から助けて貰いまましたわ。でも、だからと言ってミィニアを危険な目には合わせたくないのです。ミィニアが、地竜ズムと再び戦ったと聴いて、私、倒れるかと思ったわ!」
お、おぉう。
「あ~、それは済まないとは思うが、それでも、お嬢様がいて助かったのは事実だ」
そこは引けないと男らしさを出すジーラスさんだったが、そう言うことは視線を合わせて言おうね。
あと、正座だと威厳もないし。
この世界、正座の概念はあるみたいで、怒っているフェルに突然に「正座」なんて言われて。わたしの方が戸惑った程だ。
因みに、正座は叱られる時にするものらしい。
わたしはドレス。ルールルさんはメイド服なので普通に正座だが、キルキスさんは、まぁ、ブーツだからまだ良いけれど。
問題はジーラスさん。金属鎧の膝が曲がらないブーツでほぼ拷問状態で座っている。
あ、プルプルしてる。
「まぁ、いいわ」
フェルが正座を解きなさいと、手を振って合図をする。
「セルルカ、お茶を用意して」
フェルはセルルカさんにテーブルの用意をする様に促す。それにしても、セルルカさん。わたしたちの助けを求める視線を完全にスルーしていた上、自分の方にとばっちりが来ないように見事に気配を消していた。
「足が!足が!」
「う、おぉう」
「あ、セルルカさん、ま、待って、待って下さい!あひぃが!」
セルルカさんはルールルさんを追い立てるように連れ出してしまう。
「よ」
足の痺れに苦しむ三人を見ながら、ポンと立つ。
「足、痺れてないの?」
フェルも驚いていたが、仮にも日本の妖怪ですよ。正座なぞ、日常でしたから痺れないコツだって知っていますしね。
え、妖怪が足の痺れを起すのか?ですか。
起こしますよ普通に、うん。
「ジーラスさんは産まれたての子羊ですか?」
「鎧で正座は地獄だ」
文句を言いながら、ジーラスさんもどうにか復帰してソファーに座る。
セルルカさんとルールルさんがお茶の用意をして、やっと本題のダンジョンの報告に成った。
「え、公表するの?」
地竜ズムが生きていた事、前のが別の地竜だった事。それらを公表すると言うのだ。まぁ、隠せる事ではないけれど、先の奴を地竜ズムと言っているだけに確認とかの責任問題とかならないか心配になった。
「大丈夫よ、それよりも地竜を二頭も倒せる戦力があると話題にもなるし、商人たちからも安全だと思われるでしょうね」
どうやら日本とは感覚が違うみたい。
「それよりも本当に金鉱なんてあるの?」
「それは間違いない。ドワーフの見立てだ。しかも、既に地竜ズムが基本的な穴は掘っているので、直ぐにでも山を開く事は出来るだろう」
ドワーフのね。と、フェルは地図を見ながら何かを思案しているようだ。
「ただ、先にも報告したようにアント共の殲滅が必要だ」
女王が居るかどうかは解らないが、今なら殲滅は容易だと告げる。
アント関しては冒険者ギルドに討伐依頼を出し、ゲルニアさんに鉱山の為の人員募集もさせなければと話す。
でも、アントの殲滅か。
「あ、ミィニア。貴女は、しばらく謹慎だから、アント討伐依頼は受けられないわよ」
ほえ?
「ど、ど、どうひて!?」
わたしの冒険が!異世界生活の楽しみが!!
「当然でしょう。セルルカにも言われて、好きな事もさせなければと冒険者ギルドを任せ、冒険者登録も許したけれど。地竜とまた戦うなんて!」
フェルの様子に、セルルカさんを見るが目をそらされた。
では、護衛も兼ねたルールルさん。
「申し訳ございません、お嬢様」
ルールルさんも目をそらし、ジーラスさんにキルキスさんは。
既に、視線が明後日の方向に向いています!
四面楚歌。
おぉ、皆さんに裏切られました。
援護も援軍もありません。
「新しい先生も雇ったから、暇はないから安心してね」
それ何処を何を、安心出来るのですか?!
優しい笑顔・・・のフェルにそっと頬を撫でられ、わたしはゆっくりと頷くしか出来ませんでした。
シクシク。