ル、座敷わらし地竜と戦う。
残酷な表現ありです。
戦闘は難しいですね。
「地竜ズムって倒したんじゃなかったのですか?」
フェルを助けた時、つい力を入れ過ぎて倒してしまったハズ。
ガラテヤさんが確認して、その後、その死骸を高く買って貰った。
「その筈だがな、だが、ここに地竜がいる。ここはズムの巣だ、ならコイツは地竜ズムでしかない」
縄張り意識の強い地竜が、他の地竜を住まわせる事はないと断言されました。
なら以前、倒した地竜は?
「別の地竜だろうな」
「見てみろ奴を、ボロボロだ。この前の地竜は大きな傷はなかった、たぶん縄張り争いでコイツは負けたんだ」
「それで縦穴を掘って蟻たちの巣を襲ったのよ。自分の巣を守る蟻たちを、美味しくもないのに食べた。ドラゴンの巣に住む魔物は、ドラゴンの非常食とも言われているけれど。その通りに成ったと言う事ね」
その証拠にと、蟻の残骸に紛れる白い残骸を指差す。
「栄養がある卵や幼虫も食っているもの、もしかしたら、女王さえ捕食しているでしょうね」
女王さえ餌食に成っているって、それってここの蟻たちはもう全滅しかないじゃないか。
地竜ズムはそれよりも餌として蟻を補食したのだろうと言う。しかも、蟻の出入口から襲うのではなく。地中から、逃げられないように襲った。
外に出て獲物を探し、別の地竜と再び戦うリスクと縦穴を掘る手間を考えて、今の地竜ズムにとっては後者の方が都合がよく。蟻を襲う行動に出たのだろうが、それだけ弱っているとも言える。
「それでどうするの、逃げる?」
「手負いとはいえ逃げ切るのは無理だな、背中を見せたが最後。後ろから追いつかれ食べられるだけだろう。奴はご馳走を逃がす気はないだろうよ」
だから、戦って切り抜けると剣を前に突き出した。
「相手は手負いだ、傷もいえず弱っている勝算はあるさ」
「手負いこそ気を付けるべき相手と思うがの」
「当然、油断なんてしないさ!」
ジーラスさんたちが動き、地竜ズムが咆哮し生き残りの戦いが始まる。
「お嬢様、申し訳ございません!私が着いて居ながら危険な場所に連れて来てしまいました」
「どうして謝るかな?ルールルさんは引き返そうと言ったじゃない、なら、これはルールルさんに責任はないよ」
わたしも刀を構え、前に出る。
それにね。
ルールルさん。
「幸運はこちらにあるよ!火炎車!」
「ファイヤー!」
わたしの妖術・火炎車とキルキスさんの炎の矢が地竜ズムに襲いかかる。
地中深いダンジョンの奥で炎なんて自殺行為だが、そんな事を構ってはいられない。
「尾は気にするな!今の奴では素早い反転は出来ない、正面からなら尾は届かん!」
「それを油断と言うんじゃ!」
怒鳴り合いながら、炎を目隠しに左右に展開したジーラスさんたちが剣でヒットアンドアウェイを繰り返す。
特に、怪我を負う右側から容赦なく攻撃を加えるが、ズムだって馬鹿ではない。首を回し左目で此方を見ようとする。だが、それこそがジーラスさんたちの狙いだった。
手投げナイフや魔法で左目を狙う。
「ダメか。やべ、まずった!」
前に出過ぎたドルンさんにズムが口を開いて襲いかかり、頑丈に補強された盾に噛みつかれ。ドルンさんは盾を捨て間一髪下がる事が出来た。
ズムに奪われた盾は、クッキーでも割るように潰し捨てた。
「補強も地竜にはムダか。ミスリル程ではなくとも高価かったのじゃがな」
ヤレヤレとドルンさんは鎧の紐を引き、上半身の鎧を脱ぎ棄ててしまう。
「さて、これで少しは動けるの!」
ドルンさんがもう一度突撃したのを見て、援護を再開する。
このままではダメぽいよね。
「それなら!分身!」
「ぬわ!」
「何じゃ?!」
分身で二人になり。わたしも攻撃に加わる。
「魔法なの?」
地竜ズムよりも味方の方を驚かせてしまったみたいだね。そう言えば手の内教えていなかったよ。
反省。
わたしは左右に別れ、それぞれに支援に入る。
「塗り壁!」
向かって来るズムの顔の前に土壁を出現させ、ズムは止まる事が出来ずに塗り壁に突っ込んで、土壁を突き崩す。
「一撃ですか?!」
三・四回は持つと思ったのに一撃で噴きたんじゃった。手負いでも流石はドラゴンか。
それでも隙が出来たのか、ジーラスさんはズムが塗り壁を壊した瞬間、踏み込み傷ついた鱗に一撃を入れた。
「クッソ!」
ジーラスさんは思った程攻撃を入れられなかったのか、悔しそうに下がるが今度はズムがそれを許さない。
大きな口を開いてジーラスさんへと襲いかかる。
それをルールルさんが横から手刀と蹴りで牽制するが、今度はルールルさんにズムの牙が向かう。
ルールルさんもジーラスさんも前に出過たのだ。
キルキスさんの悲鳴が上がるが、その時、暴れすぎたのだろう。ホールの天井が崩れ、ルールルさんに襲いかかろうとしていたズムの顔に崩れ落ちてくる。
「おお、危ねぇ」
「ジーラス、ルールルさん!前に出過ぎよ!パラメイラ準備は出来たの?」
「わかっている。喰らいなさいよ、ライトランス!」
キルキスさんの声に後ろに控えていた普段は無口の魔法使いの女性、パラメイラさんが光の集束魔法をズムに放つ。
その光は、傷ついた鱗を砕きズムを貫いたというのに、それでもズムは倒れない。
「心臓を反れた!」
「ブレスが来るぞ!」
狙いは反れたものの強力な一撃をいれられたズムは、怒り狂い。口を閉じ傷ついた足を開き。
わたしたちをブレスで一掃する気になった様だ。だが、足を開いた瞬間、足元の蟻たちの残骸が滑った。
ズムは体制を維持できずに、顎を閉じたまま倒れ込み。吐き出そうとしていたブレスが暴発を起こす。
吹き飛ぶズムの顎。
唸り首を上げたところに、ドルンさんが突撃し柔らかいズムの下首筋に剣を突き刺し。剣を離して戻ってくる。
「どうやら幸運の女神でもついているようじゃな」
ついているのは妖怪ですけど。
「本当に、幸運なら地竜なんて戦わないわよ。死神でも微笑んでいるんじゃない?」
死神ではないすよ!
「奴にの!て、これでもダメか?」
それでも地竜ズムは倒れない。
本当にコイツ、この前の地竜に負けたのかな?
でも、生きようとする足掻きは凄いとしか言えないよね。
「ごめんね」
妖術、壁走り!
壁を走って登り天井から地竜ズムに向けて跳ぶ。
この寝床の広さでは、以前の地竜のような蹴りはお見舞い出来ないし。強力な妖術や毒系も使えない。
だから、別の方法を取る。
地竜ズムが咆哮する。
死なないと言っているように、可哀想とは言わない。人が生きるには、必要なエゴだろうとも。
妖怪ってね。
森に住む精霊や妖精と違って、人がいないと存在の意味がないんだ。
小豆洗いしかり。
枕返ししかり。
天狗だってそう。
山奥に住む、雪女や山姥も同じ。
勿論、座敷わらしも同じで、今のわたしは何よりもフェルを優先したい。
そのフェルの為に、地竜ズム。君には倒れてもらうわ。
「妖術、十人囃子!」
わたしに気がつき、此方を睨んだズムの残った右目が驚愕に開く。
襲い掛かってくる来た小さきものが、十人に増えればそれはドラゴンとて驚くだろう。
今度は、うまく動揺を誘ったようだ。
上空からの攻撃に、地竜ズムはブレスも牙もない。
「山姥直伝!脳天砕き!」
天狗から貰った付喪神化しかかっている刀に妖力を送り込む。妖力を得て鋭さを増した刀は、地竜ズムの硬い鱗をケーキのように抵抗なく切り裂き。動きの鈍いズムの脳天に根元まで突き刺さった。
「バイバイ」
妖力を開放する。
刀の刃から噴き出た妖力は、ズムの脳をズタズタに切り刻んでしまう。
地竜ズムは、その巨体を轟音と共に崩し倒れた。
「やったのか?」
わたしの足元で動きを止めた、地竜ズムを皆信じられないと見つめ。
動かない地竜ズムを見つめ。
そして、叫ぶ。
「た、倒したぁぁぁ!!!!」
歓喜の声は、ダンジョンに響き渡った。