雨
雨が降ってきた。
今日は夕方から雨が降ると天気予報で言っていた。
しかし、傘は持っていない。
面倒だから持って来なかったのだ。
とりあえず、雨宿りできそうな場所へ入る。
今はシャッターが降りている店の軒先である。
通学路にあるのだが開いているところは見たことがない。
おそらくすでに潰れているのだろう。
文句を言われる心配はなさそうだ。
雨宿りといっても雨は到底止みそうにない。
誰かが迎えに来ることもない。
無駄な行為である。
ただ、何となくそんな気分だったのだ。
ふと、足下の水たまりが目に入った。
丸い波紋が次から次へとできては消えてゆく。
地面の段差からして浅い水たまりであろうが、何故だかひどく深いように見えた。
目の錯覚か。気分のせいか。
ため息がこぼれた。
「五月病か?まだ四月だぞ。」
からかうような声がした。
顔を上げるといつの間にか目の前に男が立っていた。
友人の瀬川健人だ。
「こんなところで何してんだよ。この雲じゃそうそう止まねえぞ。」
「だろうな。」
「わかってんのに雨宿りか?」
お前らしい、と言われた。
どうやら俺はこいつに変な奴だと認識されているらしい。
「傘に入れていってくれる優しい奴を待ってたんだよ。」
「俺のことか?」
「どうせ俺の家の前通るんだろ。入れてけ。」
「何様だよ。」
などと言いながらも傘には入れてくれる。
「男同士で相合傘ってのもなぁ…」
「お前が入れろっつったんだろうが。」
そんな風に話していると先ほどまでの暗い気分もどこかへ行った気がして、後ろを振り返ってみた。
さっきまでいた店先の前を黒い傘の少女が歩いていた。
よく見ると傘は黒地に白い水玉模様になっている。
見覚えがある。
むしろよく知っている。
彼女、長谷部小夜香のものだ。
彼女は小学生からの同級生で、俺の片想いの相手である。
健人が来るのがもう少し遅ければ、彼女と帰れたのかも知れない。
そう思うと再びため息がこぼれた。