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7.勇者様の事情そのに


 勇者様が自白しました。


 勇者様の国は、古い神のご加護によって勇者を選定する方法を持っているそうです。

 具体的には『選定の女神』と呼ばれる神の力だとか。

 女神が加護を与えるこの国の、王に代々与えられてきた権利。

 それは在位二十年までの間に一つだけ、女神が巫女を通して王の言葉に応えるという物。

 それも、『選定』という方法で。


 とある王様が、何か問題を抱えていたとします。

 それは国のことでも個人のことでも、他人のことでも構いません。

 その問題に対する相談を王都の中央神殿、祭壇前で口にすると…

 問題を解決する為に必要なアイテムや、相応しい手段を有する人材など、女神が最適と判断した物を指し示すのだそうです。

 ただ女神が選ぶだけで、それをどう扱うかは人間次第。

 解釈を間違えると災厄になる場合もあるとか。


 特に大きな問題がなかった場合もあります。

 勇者様のお国では、そんな時に神に問いかける疑問にいくつかの定番があるそうです。


 その一つがずばり、勇者選定。


 何も思いつかなかった王が尋ねる疑問の一つ。

 ――魔族や魔王といった問題を片付けるにはどうしたら?

 女神が指し示すのは、代々決まって武勇に優れた才能ある若者で。

 王は選ばれた若者を、魔境へと送り出すようになりました。

 そして勇者様の国は、女神の加護を材料に人間国家の中で優位に立ったのだそうです。


 力業でどうにかしろと?

 聞いた時、女神様も案外いい加減だなぁと思いました。

 その女神を本気で崇めている人達が、どう思うかはともかく。

 そうやって連綿と伝統は続きまして。

 今の王の代になり、再び勇者選定が行われ…

 当代の勇者として、王の息子が選ばれた訳です。

 王子は、誰もが認める武勇の誉れでした。


 そんな勇者様ですが、致命的な弱点が一つ。

 女難です。


 婚約者を王が選んでも、勇者様への執着で異常行動に婚約者が走り走り。

 具体的には語らずとも、勇者様は命の危険その他に苛まれたとか。

 お陰でもう十九歳なのに、年頃の王子が婚約者も恋人もいないという事態。

 これは一大事、将来のお世継ぎ問題に発展しかねないと。

 慌てに慌てたのは周囲の重臣、貴族達。

 勿論その中には、あわよくば自分の縁者を宛がおうと打算もあるのでしょう。

 王様お妃様はとうに匙を投げたそうな。

 心配しながらも勇者様に自分の幸せは自分で見付けろと言っているそうです。

 それで良いのかな、勇者様の国。

 本来ならあるまじき事でも、不祥事が連続して諦めたそうですが。

 それでも諦めきれないのが、打算と欲に支配された生き物だそうで。

 隙あらば、勇者様に縁者の娘を宛がおうと画策する貴族が沢山いるそうです。

 勇者様は、それらを蛇蝎の如く忌々しく思っているようです。

 でも、自分で幸せを見付ける自信は無さそうな気がする。

 一国の王子様(跡取り)が生涯独身は拙いですよ、勇者様。

 →ゆうしゃは きこえないふり をした


 勇者様はいきなり勇者に選ばれ、いきなり(自発的に)旅だったそうです。

 お城脱走の勢いで。

 手引きをしたのは、手紙を送ってきた従者さん。

 後は従者さんが夜鍋で作ってくれた「旅のしおり」の指示通り超急いで魔境に走ったとか。

 何故にそこまで。


「だって、貴族院が選定した旅の従者が全員女性だったんだ…!!」


 勇者様の血を吐くような叫びでした。



 ええ、この一大事。

 魔境まで魔王に勝負を挑みに行くという、大惨事。

 生きて戻れるかも不明の暗い道行き。

 ですが欲得ずくの貴族さん達は、それを『絶好の機会』と判断したそうです。

 面の皮、すごい厚いね。

 貴族院で会議という名の、利権と将来の打算を巡った轟々と紛糾する口論の末。

 旅の伴という名の、刺客が三人選ばれました。

 勇者様にとっては旅の伴じゃないそうです。刺客だそうです。

 態の良い、嫁候補ですね。

 貴族達もあわよくば処か、一緒に旅をさせることで既成事実を狙っているそうです。怖いね!

 男女で一夜を共に、どころじゃありませんよ。

 それが役目だというのに、旅を共にするだけで嫁に取らなければならない(トラップ)

 あまりに見え見えすぎて、勇者選定の段階で勇者様もその従者も展開を読んでいたそうです。

 もしかしたら実力重視で男性が選ばれるかも知れないと一縷の望みを抱きもしたそうですが。

 未来に夢は見ず、会議の間に大慌てで旅の支度を調えたとか。

 流石にご両親も同情して、こっそり快く送り出してくれたらしいですよ。

 そして三人の刺客が後を追ってこれないよう、勇者様は軍馬を全力疾走させたとか。

 会議で決定した伴以外は伴ってはいけないと言われたそうで。

 ならば全員置いていくという、清々しい即決だったとか。


 その決定のせいで、側近の従者さんも泣く泣く同道を諦めました。

 代わりに、少しでも勇者様の逃亡時間を稼ぐ為、三人の刺客に対する足止め工作に走ったとか。

 それが終われば後追いするつもりらしいとセンさんが言いました。

 一緒に旅立ったら駄目でも、主が旅立った後に同じ道程を旅することは禁じられていない…

 と、従者さんは言ったとか。

 なんだか、良い性格してそうですね、その従者さん。

 ただし従者さんが勇者様に追いつく=刺客も間近の恐れ有りとのことで。

 勇者様は再会を戦々恐々としておいでです。


 そして手紙が届いてしまいました。

 もう猶予、ないんじゃないですか?



 勇者様は、私達に深く頭を下げました。

 そして、次の通りの女性を見かけたら速攻で教えて欲しいと。

 全力で逃亡するから。

 そう言いながら勇者様が告げた特徴は、以下の通り。


 ・元修道女で金髪碧眼の令嬢

 ・騎士の娘で剣を携えた栗毛の令嬢

 ・弓を携えた長い黒髪の令嬢


「安心しろ。見付けたら絶対に教えてやるよ」

 そう言うまぁちゃんの顔には、「修羅場勘弁」と書かれています。

 まあ、凄まじく面倒くさそうですよね。

「あの女共は俺も遠目に見たが、早々滅多に諦めそうには見えなかったな…

……なんて言うか、目に気迫が籠もってた」

 珍しく芯がありそうな令嬢だと、勇者様を脅すセンさん。

 勇者様は凄く可哀想な有様です。

 哀れすぎるので、同情しました。

「勇者様がいざ逃げる時の為に、隠れ家に良い場所をピックアップしてあげましょうか?」

「頼む!」

 ふと思いついて提案すると、全力で食いついてきました。

 そんなに切羽詰まってるの、勇者様…。

 可哀想処じゃなさそうでした。



 そして、問題の日がいつ迫るかと、勇者様の緊張感溢れる日々は始まった。

 逃走経路の確保と準備の為に、修業も休んで飛び回る日々。

 いっそ今から逃げれば、と言いたくなる熱心さ。

 働き蟻も吃驚なまめまめしさ。

 彼は絶対に女性が追ってこられそうにない場所を毎日検討しています。

 そんな勇者様を、私達は誰も邪魔できません。

 というか邪魔する気が起きません。

 

 でも勇者様が修業しないので、センさんがつまらなさそうでした。

 あわよくば、勇者様と手合わせしたいと望んでいたようです。

 しかしながら勇者様は、現在それどころではなく。

 見かねたまぁちゃんが、邪気のない微笑みで言いました。

「暇そうだけど。何なら俺が相手してやろうか?」

「あんたが…?」

「ああ。俺、強いぜ?」

 にっこりと、笑うまぁちゃん。

 その笑顔が、魔王の笑みだとセンさんは知らない。


「まぁちゃん、どうしたの?」

 弱い相手と闘うのは手加減面倒じゃなかったの?

 何か思惑ある様子のまぁちゃんは、意味ありげ。

「あの男、魔族に滅んでほしいんだってさ」

「そう言えばそんなこと言ってたよね」

 魔王を目の前に、なんて無謀な。

 知らないって凄い。

 知っていて暴言を吐く勇者様は、もっと凄い。

「どんなつもりか知らねーが、ちょいと探りでも入れてみようかと…な」

 

 そして当然の如く。

 センさんがボロ負けしました。

 期待を裏切らない方です。


 そうしてボロ負けしたセンさんに、追い打ちをかける勝者。

 まぁちゃんはにっこり笑顔で、倒れ込むセンさんの背中に腰掛けました。

 そのまま、センさんの首に腕を回し…頭を背中の方へ引っ張ります。

「な、何をする…」

「おー、背筋鍛えてるねー」

「…答えになってないぞ」

「まあまあ、落ち着け」

「首をキメられて落ち着けるか!」

「まあ、俺の話を聞けや」

 エビぞり状態でも苦しげなく喋るセンさんは凄いです。

 でもまぁちゃんは気にしません。

 そのまま、自分の言いたいことを言うのみでしょう。

「お前さん、ここどういう村か知ってる?」

「……人類最前線、だろ」

「そうそ、魔王城のお隣さんってね。魔族ともご近所づきあいしてくれる、得難い村って訳だ」

「………何が言いたい?」

「ん、だからさ。ほら見ろよ」

 そう言って、まぁちゃんはセンさんの首を離します。

 頭は背中側に引っ張ったまま。

 相も変わらず苦しい体勢のまま、センさんは指し示された方々へ視線を向けます。

 …やがて、その形相が変わってきました。

「お前さんが気付いてなかっただけで、あっちもこっちも魔族が一杯。だろ?」

「なんだ、この村は…!」

「だからそういう村なんだってば」

 それで片付けるまぁちゃんに、センさんは納得がいかない様子。

 ギラギラした目で、憎々しげに魔族を睨み据えます。

 背中にまぁちゃんがいさえしなければ、きっと後先考えずに飛びかかっていたでしょう。

 まぁちゃんの拘束を抜け出られる人間がいるとは思えませんが。

「ちなみに、さあ…」 

 まぁちゃんが、センさんの耳に口を寄せます。

 そのまま、彼の神経を最高に逆撫でにする一言を口にしました。


「俺も、魔族なんだよね」


 センさんが固まりました。

 というか、魔王でしょう貴方(まぁちゃん)




まぁちゃん、衝撃の事実爆撃投下…!

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