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4.剣士襲来そのよん

今回もずっと、画伯のターン☆

センさんが可哀想になるよ。

今回、ヨシュアンさんの嫌な過去の一端が明らかに☆

 画伯作と知ったエロ本を手に、センさんは混乱していました。

 彼は勝負の場に立ったはずでした。

 しかし、今を見てみましょう。

 彼を取り巻く、この混沌を。

 さあ、彼はどうするのでしょうか。

 何とか気持ちを立て直そうとするみたいですけど…


「こ、こんな…こんなっ くそっ 魔族が!」

「とかなんとか否定的に言おうとしつつ、さり気なくエロ本を懐にしまおうとしてるよねー?」


 画伯の追撃!

 センさんは精神に250のダメージ!

 だって仕方ないよ、若いんだもん!

 私はだからといって軽蔑しない訳ないけどね!


「くっ……こんな本!」

 

 センさんが、決意したように本を地面へと叩き付ける。

 すかさずそれを、画伯が回収した。


「あっ…」


 あ、ってなんですか。センさん。 

 本人無意識か、惜しむような声が出ましたよ。

 そしてそれを、全員が聞いていました。


「もう! 俺の()を大切にしてくれないんだったら回収しちゃうに決まってるじゃん」

「お、惜しくなんかないぞ! 惜しくないからな! 大体、俺の好みはもっと溌剌とした…」

肉体(からだ)が?」

「ちげーよ!! 誰がわがままボディ好きだって!?」

「いや、誰もそこまで露骨に言ってないよー?」


 わあ、出てる出てる。ボロがボロボロと。

 繕おうとしてうっかり本音言ってるよ、あの人。

 凄まじい動揺は、人間性を露わにするんですねー。


「俺も女の子好きだし、君も若いし。肉欲垣間見えても恥ずかしくないよー?

女の子の前だと自重しなきゃだけどねー」


 それを貴方が言うの、ヨシュアンさん。

 私と勇者様が呆れの目を向けても、画伯は動じない。

 それどころか、どこからともなく大量のエロ本が出現した。

「どっから出した!?」

「ヨシュアンさん手ぶらなのにね。おかしいよね」

「………リアンカでもおかしいと思うのか?」

「いえ、多分ですけど何か収納系の魔法道具使ってるんじゃないかと」

「魔法具か…とことん、便利だな」

「高級品なので、質の良いのはあまり普及していませんけどね」

 魔法の品は魔法を込める腕の良い魔法使いと錬金術師の手による物です。

 お陰様で魔境ではそこまで珍しい物ではありません。

 質は様々ですけどね。

 だけど魔法の力が弱い人間の国では滅多に目にすることができないそうで。

 大国の王子様である勇者様でも、魔境にある物ほど質の高い物は見たことがなかったそうです。

 そんな魔法の道具も、副業で異常に稼いでいるだろう画伯ですから。

 高級品の幾つかは持っていてもおかしくありません。


 さあ、いよいよもって目の前が一層混沌として参りました。

 向かうは常識の世界から彷徨(さまよ)い人センさん。

 対するは野郎の欲望を叶えるカリスマ画伯。

 大量のエロ本を積み上げた画伯が叫んだ!


「ふっ…この副業初めて早十六年。その(かん)、休むことなく月に最低三冊のペースで発行し続けた我が著作の量を見よ!」


 すこぶる快調の様で、良い具合に飛んでますねー。

 良い空気を吸っているらしく、画伯がノリノリです。

 ばばっと振り上げた手が示す、桃色凄まじい本の山…。

 村の男衆に取っては、この上ないお宝の山ですねー…。

 えーと、魔境の一年は十五ヶ月なので。

 今年で十六年目だとすると。

「………単純計算で、六七五冊?」

「本人が最低(・・)三冊と言っているから、上限はわからないな」

「ああ、やけに多いと思った…」

 本は、余裕で千冊超えていそうでした。

 だけど画伯、入院中や出張中も発行続けてたのかな…?

 ちょっと画伯を見てみる。

 ………こだわりを守る為なら、どんな無茶でもやり遂げる男の顔をしていた。

 他で出そうよ、そのやる気。


「ジャンルに拘りなく幅広く作った俺の艶本(ムスメ)達だ! ヒロインの年齢層も、下は十代から上は七十代まで! あらゆるジャンルを描き尽くしてきた自負が俺にはある!!」


 そんな自負、捨ててしまえ。

「節操ないな、ヨシュアン殿。堂々としすぎだろう」

「村の男衆に『兄ぃ』って呼ばれるだけありますね…」

「敵わないとは思うが、尊敬はしたくないな」

「………エロ本って、女なのかな」

「男だったら嫌だな」

「何にせよ、エロ画伯の異名は伊達じゃありませんね」

「人は見かけによらない………」

 私と勇者様には、重苦しい空気が襲いかかってきていました。

 なまじ私が女だけに、居たたまれない…。

 そして勇者様は女難の権化の女性不信。むしろ恐怖症。

 そんな彼がエロ本に喜ぶ図は想像できません。

 きっと、勇者様は一冊も持っていないと思います。

 私の希望的観測かも知れませんが。

 多分、外れていないという確信があります。

 そしてエロ本には縁のない私達は、どう振る舞えば良いのでしょう。

 わからないまま、成り行きを見守るしかありません。


「これだけ幅広ければ、どんな野郎でも必ずツボにヒットする一冊をお届けできる!

それは君だって例外じゃないはず。さあ、俺の傑作の前に膝を折って屈服するが良い!」


 あれ、そういう流れなの?

 どんな展開、これ?

 私達の理解の及ばない勝負が、いつしか始まろうとしています。


「くっ…なんて質量だ!」

「ふふふ…溌剌とした女の子が好きなら、この本なんて気になるんじゃないかなー?

………ほら、これなんてどう?」


 自分の著作をチラチラと見せながら、深淵に誘う画伯。

 屈服した時、男は画伯を信仰する冴えない男衆の一員となるでしょう。

 そうなった時、彼に訪れるのは幸いか否か。

 男としては、どうか知りませんが。

 人間としては、何かが終わるかも知れない。


「凄まじいな…だが、俺には一つ聞きたいことがある」

「ん? なにー?」

「お前、本を出し始めて何年だって?」

「今年で十六年だけど」


「何歳だ、テメェ!?」


 あ、そこか。

 ヨシュアンさん、若くみえますからねー。十歳はサバ読めますよ。

 …って、十六年?

 今更だけど、十六年???

 ………私が一歳の頃から、って。

 私は画伯の実年齢を知っています。

 だから、驚きで固まりました。

 知らない勇者様は、逆に余裕です。

「センチェス、相手は魔族だ。年齢と外見は関係無いんじゃないか?」

 言葉をかけられたセンさんが、はっとした顔で画伯を見るけれど…

 ヨシュアンさんは答えました。


(よわい)二十四だけど?」

「俺と同じ歳かよ!!?」


 さあ、本日一番の衝撃が来ましたよ。

 画伯、(見えないけど)御歳二十四才。

 逆算してみましょう。

 そこから十六を引いたら…?


「おまっ 十歳にもならない内から…っ 八歳からこんなことしてたってのか!?」

「うん」

「あっさり答えんな!!」


 センさんは自分の頭がおかしくなったと言わんばかりの顔で。

 凄くふらふらの状態で。

 信じられない物を見る目で、画伯を見ている。

 その眼差しには、本気の恐れが感じられる。

 画伯は今や、センさんを圧倒していた。

 私と勇者様は、空虚な目で見守っていた。

 勇者様も頭を抱えている。

「…早熟というか、マセガキというか」

「エロガキでしょう」

「そうだな。その通りだ」

「親御さんも絶望したでしょうね…」

「いや、他所の家庭はよく分からないが。どうなんだろう」

「それもその通りですね。決めつけはよくありませんでした。でも私なら、あんな我が子は嫌です」

「八歳でデビューに至るなんて、彼に何が…」

「誰かが才能の発露に目を付けたのか、自主的にやらかしたのか。

それで私の画伯を見る目が今後どうなるか決まりそうです」

 怖いので、確かめる気は毛頭ありませんけれど。

 

 戦々恐々とするセンさん。

 そんな彼(の、精神)にトドメを刺そうというのか。

 結構(精神的に)ずたボロになっていそうなセンさんに、画伯が新たな一冊を投げつけた。

 顔面にクリーンヒット!

 次いでセンさんの手の中に落ちてきたのは…


「喰らえ☆ 痛し恥ずかし渾身の若気の至り(デビューさく)!」

「デビュー作!!?」


 それは記念すべき作品第一号。

 =ヨシュアンくん、八歳の作品。


 思わず手の中の本へと食い入る様な視線を送って…

 センさんが、腰を抜かした。

 顔は、恐怖で青白くなっている。


「な、なんだ、これぇ!?」

「うん、だからデビュー作」

「待て! 待てったら待て!!」

「うん、待ったげる」

「これどう見ても20禁どころか25禁指定されてもおかしくないだろ! えげつない!!

八歳児の描くもんじゃないっ!!」

「絵的に? 内容的に?」

「どっちもだ!!!」

「画力は問題ないと思うんだけどなー…」

「問題ないどころか上手すぎて大問題だっ!!」


 ………彼は何を見たのでしょうか。

 全身が、ガタガタ震えているんですけど。

 ああ、ほら、凄い冷や汗。むしろ滝汗。

 自分の胸のあたりをぐっと掴んで、まるで縋るよう。

 恐ろしいと画伯を見る目は、過剰な恐怖に瞬きもできていない。

 本当に、何を見たの?


「俺もねー、当時出した後でしまったって思ったよ? 親にも怒られるし。当時の魔王様にも頭抱えて説教されるし。でも初めてだったからさ、加減が分からなくって。設定も盛り込み過ぎちゃったし。大衆的じゃなかったかもって。代わりにマニアの固定客(ファン)ができたけど」

「お前の頭はどうなってんだぁ!!」

「それは十六年前の俺に聞いてくれ!」

「できるかぁああっっ」


 屈強な一人の青年が、この日、完膚無き迄に心を折られて屈服した。

 以後、彼は画伯を恐れ、怯えながらも敬うようになってしまいました。

 センさんが何を見て、何に屈服し、心を折られたのか…。

 勇者様と画伯が徹底して私の目から遠ざけました。

 なので結局、私がそれを見て確かめることはできませんでした…。


 どんな恐ろしい物を描き上げたの、八歳のヨシュアンさん。

 エロ本という枠に収まらないデビュー作。

 問題のブツは女子供の目に触れぬよう、親御さんの命令で封印されたとのことです。

 それを敢えてこの場で出すのもどうかと思いますが。

 破壊力が抜群だったことだけは、疑いようもありません。


 決着が付き、土下座したまま頭を上げないセンさん。

 私は彼を見ながら思います。

 これは果たして、決闘と呼べるのだろうか? と………。




センチェス・カルダモンは頭を抱えている。

勇者様は頭を抱えている。

リアンカはきょとんとしている。

そしてヨシュアンは鷹揚に笑っていた。

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