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ここは人類最前線5 ~人間さん襲来~  作者: 小林晴幸
第一回ハテノ村仮装ドッキリの宴
45/46

42.決着:そのころ王国の、謁見の間

少し間が開いてしまいました…!

今回、ドッキリ直後→サルファ達の身の行方で。


頭の中、こにゃんこ物語のにゃんこどもにジャックされて…!

中々、中々進まなくって困りましたー…。

頭の中はほのぼのワールドでしたよ!



2/6 ご指摘を頂き、内容を一部改変致しました。

 獅子マスクが消えてすぐ、ハテノ村宴会会場ステージ上にて。

 皆の歓声の中、まぁちゃんがにやりと笑いました。

 わあ、悪人っぽい。

「それでは仕上げを御覧じろ!」

 高らかな宣言とともに、彼が掲げた光…

 文字通り、光としか言いようのない輝きです。

 刺すような光がまぁちゃんの手の中に集中して………


 それが一枚の大きな板状に拡散し、透明度を増しながら向こう側を透過させない鏡となる。

 ステージ上の虚空に、実体のない大きな鏡が出現しました。

 その鏡の中に映り込むのは、こちら側(・・・・)のどんな光景でもなくて――


『――陛下、見えます?』


 鏡の向こうから、此処にはいない人の声がした。





  ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



「そ、そなた何者だ…!?」

 近衛騎士の問いに、奇抜な格好を曝す青年はかる~い調子で答えた。

「俺はサルファ。軽業師のサルファ☆よろしく!」

「誰がよろしくするか! 阿呆か貴様!?」

 いきり立つ近衛騎士。

 おちょくる気はなさそうだが、神経逆撫で状態のサルファ。

 今にも近衛騎士に無礼討ちにされるんじゃないかという緊迫の最中。

 青年の背中、マントの下から待ったをかける声がした。

 それは高く澄んだ、ボーイソプラノ。


「お待ちください」


 声と同時に、パリッと空気の弾ける音がする。

 何事か――

 音の発生源は、サルファに食ってかかろうとしていた騎士。

 より詳しく言うのであれば、その全身を覆うように…

 パリパリと、空気の弾ける音が続く。

 摩擦熱で、静電気が起こっている。

 騎士の身体は、不可視の力…魔力によって、雁字搦めに戒められていた。

 しかし不可視であるからこそ、何が起こっているのか当事者以外は知りえようもない。

 騎士は動こうとしてそれが叶わず、見えない何かに抑えつけられている感覚だけが鮮明で。

 自分の理解が及ばない。

 自分を怪訝そうに見やり、首を捻る宮廷人。

 誰もこの現象を解明してくれる者はいない。

 それを理解して、騎士の顔がみるみる青ざめていく。

 不可思議な現象への恐れが、鉄壁の精神を必要とする騎士の目に浮かんだ。

 その、ただならぬ様子に宮廷の人々も徐々にざわめいていく。

 何が起こっているのかはわからずとも、騎士の様子がおかしいことが明らかで。

 動けないとまで察している者は、ほんの一部。

 王国でも魔法に従事する、ごく僅かな者達だけであったけれど。

 その魔法使いですら、瞠目している。

 自分達には到達できない高みにあると、完璧な魔力行使の技に冷や汗を流すしかない。

 緊張感が、先ほどとは別の意味で高まっていく。

 その緊張感にさらされ、サルファの片頬がひくりと引き攣った。

 困ったように眉を八の字にして、自身のマントの中に声をかける。

 背後、密着するそこに小さな影が潜んでいた。

「…やりすぎじゃね?」

「僕らの身の安全の為にも、侮られずにいる必要はあるでしょう」

「いや、やりすぎじゃね?」

「サルファさんが余計な挑発するからじゃないですか。

あのまま切られてたら、流石に勇者さんの顔面丸潰しの形無しでしょう」

「でもさ~…」

「しつこいですよ。もう済んだことをがたがた言ってると奥歯がたがたにしますからね!」

「ナチュラルに酷い! 何アンタ、やっぱリアンカちゃんの同類か!?」

「……同じ薬師なので、似ているところはあるかもしれませんが?」

「ハテノ村の薬師、超こわい!!」

 薬師云々じゃなく、それは個人の資質の問題だが。

 

 高まる警戒、緊張、緊迫。

 まるで何かの切欠を得た途端、弾けてしまいそうな危うさ。

 不審に過ぎる獅子マント。

 今にも緊張感で体を(たわ)めた警護の者達が、彼に殺到しそうな空気。

 それを一瞬にして塗り替え、空気を変えたのはこの場で最も高みに座す者だった。

 それは、一般に国王と呼ばれる。


「其方()、何者だ」


 それは静かながらも、有無を言わせぬ迫力を感じさせる声だった。

 相対するだけで、相当の胆力を消費しそうだ。

 しかしサルファは飄々と、思った。

 王様って普段から王冠被ってる訳じゃないんだ…肩こるもんな~、と。

 これが勇者の兄さんのパパ上様か~という、変な感心付きで。


 しかしサルファとは、全く違って。

 国王の誰何を重んじ、それに応じた者がいる。

 それは、サルファのマントの下から…


「――このような場に潜み、あのような不躾な登場をどうかお許しください」


 そう言って、身を現わしたのは細身の少年。

 まだ成長途中である身を視覚に訴える、十代前半の少年。

 年齢不相応な目の強さでしっかりと顔をあげるのは…


 外見は、人間と全く変わらない。

 だけど本来であれば、此処にいるはずのない人物。

 十四歳の薬師、ムルグセスト少年であった。


「お初にお目にかかります、陛下」

 少年は、自らの素情…その種族などおくびにも出さず、頬笑みさえ浮かべて恭しく膝を折る。

「不躾に失礼いたします。私はムルグセスト、此方の不作法者はサルファと申します」

「不作法ってひでぇな、むっちゃん」

 いきなり貶められ、サルファが不服そうに少年の頬を引っ張る。

 少年はちょっかいを掛けてきたサルファの手を叩き落とす。

 ついでに仕返しとばかり、指を掴んで関節とは逆の方へ曲げようとする。

 痛みに、サルファが悶絶した。

 その様子を玉座の上から眺め、国王は毒気を抜かれたような声で呟いた。

「――本当に不作法者だな」

「はい、恐れ入ります。田舎者と思い、ご容赦ください」

「其方は其方で、大した度胸よな」

 国王は感心と呆れが綯交(ないま)ぜになった目で少年を睨み据える。

 対して少年は、どこまでも平然としている。

 これで常日頃から魔王と親しく接していた身だ。

 人間の王の眼光如き、少年にとっては何でもない。

 自分に与えられた仕事を全うする為だけに、少年は淡々と言を進めた。

「それでその方ら、何者であり、何を目的に此処まで入り込んだ?」

 自分を前に怯まない者は…それが子供となれば、特に珍しい。

 何しろ国王は、相手が社会的弱者であっても貴族であっても、それが女子供であろうと罪を犯した者は公平に裁く果断な王として広く知られていた。


 以前から自分の王子を害した相手は、女子供でも容赦なく裁いてきた王である。

 …裁かれる側の女子供が、容赦するには許せる範囲を振り切りすぎていたという見方もあるが。

 何しろ王子本人は知らないが、何回かは無理心中で王子を殺されかけている。

 王子が助かり、生き延びたのは(ひとえ)に運が良かったと言う他ない。

 魔性の息子を持つと、父親は苦労するものである。

 息子が犯罪に巻き込まれる度に、お父さんは自分が王様で良かったとつくづく思ったものである。

 何しろ平民や下級貴族であったら、身分ある者に息子を奪われ、亡き者にされていたかもしれない。

 それを思うと、自分に最高権力があって本当に良かったと思うしかない。

 苦労性な王子様の父親は父親で苦労を背負っている自覚は、幸いにして国王本人にはなかった。

 だがその行いは消えることはなく、国王の振る舞いを見る者の目線で評価を受ける。

 結果、国王は女子供でも容赦しない部分を特に強く意識されることとなる。

 寛容な王というよりは公平な王として罪の意識のある者達に恐れられていた。

 そのことを、国王自身も知っている。

 だが、目の前のこの少年はどうだろう?

 少年は堂々と国王の目を見返してくる。

 宮廷の作法として言うなら、それこそ不躾ではあるが…

 その目は、何よりも雄弁に自分に後ろ暗いことや疚しい部分などないと訴えている。

 どんな子供でも、国王を前には小さくなるというのに…。

 国王は、珍しい少年の態度に目を離せずにいた。


 実際、少年は国王のことを実は歯牙にもかけていないのだが。

 そんなことはさっぱり悟らせずに、少年が口上を述べる。


「我らは魔境の民。そして此方の王子殿下であらせられるライオット殿の使いの者です」


 堂々とした真っ直ぐな声に、宮廷の人々の動きが止まった。

 誰もが驚き、言葉もなく。

 信じられない事態に動揺する中。

 彼は集まる注目の中、誰(はばか)るものもないと堂々とした様子で。

「少々お待ち下さい」

 そして、懐から何かを取り出した。

 すわ危険物か、と騎士達が警戒する中。

 周囲の状況など意に留めず、少年は淡々と道具を起動させた。

 彼が送り込んだ魔力に反応して、道具がふわりと浮かびあがる。

 その道具は、透明度の高い水晶のように見えた。

 だが、宙に浮いた水晶の透明度は、みるみる失われ…

 その中に、王国の誰も見たことのない何処か知らない風景が映り込む。

 鮮明な映像は、その中央に輝きに満ちた人物の像を結んで………


「ライオット!!」


 ほぼ一年ぶりに見る息子の姿に、国王が身を乗り出した。

 そこに映っているのは、金髪の青年。

 誰が間違うだろう、その美貌を。

 青い瞳を瞬かせ、うっすらと微笑む。

 それは紛うことなく、王国の第一王子。

 勇者として遥かな魔境へと旅立った、ライオット・ベルツその人だった。


 王子様の顔は、とっても嬉しそうで溌剌としていた。

 辛い肩の荷が下りた…そんな心情が雄弁に表れている。


 実はサルファ達が転移してすぐからこっそり道具の回線を繋ぎ、様子を窺っていたのだが…。

 そんな素振りは、微塵も見せない。

 さも今繋がりました、と言わんばかりの振る舞いだ。

 少年は道具の中から聞こえてくる青年の声と道具の調整らしきことを進めている。

「此方ムーだけど、問題なく通じてる?」

『おー、大丈夫そうだ。そのまま維持できるな?』

「あと一時間くらいなら大丈夫だけど?」

『よし、上出来だ』 

 水晶の彼方と此方で、水晶を媒介に話し合う二人。

 ムー…ムルグセストは、首を傾げる。

「だけど陛k…まぁ兄さん、画像の方が勇者さんの顔しか映ってないけど」

『そりゃそういう仕様だ。うっかり色々まずい物が映ったら大惨事だろ。勇者の精神力が』

『心配してくれるのはありがたいが、心配の方向性をもう少し考えてみないか、まぁ殿?!』

 画像の向こうで、王子様が元気に明るく一人で怒鳴っている。

 シュールだなぁと、ムーは思った。

 しかし王国の人達は違うみたいで……


「ライオット!!」

 感極まる、王様の声。


『あ、父上。お久しぶりです』

 しかし息子は普通に返した。


「……………」

 沈黙が満ちる、謁見の間。

 物問いたげな視線が、水晶に映る勇者様の顔に殺到した。

 最初は首を傾げていた勇者様だが…


『………はっ!』


 やがて、何かに思い当たったのだろう。

 ハッとした顔で、慌て始めた。


『も、申し訳ありません。不肖の身ではありますが、勇者ライオットが御前を失礼いたします。

遠方から故、このような仕儀とあいなっておりますが、どうかご容赦を…』


 どうやら、久々すぎて儀礼的な諸々を度忘れしていたらしい。

 染まってる、染まってるよ魔境に。

 そんな感想を噛み殺しながら、ムーは水晶を操作して画像を一際大きくした。

 大写しになった勇者様が、きりっとした顔で何か奏上しようとしている。

 だけど。


『国王陛下、久しくお目にかかられませんでしたこと、どうかご容赦ください』

「な、なにを言う! 堅苦しいのは無用だ。父と呼んでおくれ」

『父上…』

 

 国王陛下は、思わぬ再会にすっかり気が動転していた。

 だが、寂しそうな目に本心が垣間見える。

 危険な旅に勇者が旅立ち、ほぼ一年。

 息子を案じて国王の神経は擦り切れそうになっていた。

 そんな折の、再会だ。

 一度は期待外れで失望していたが、その直後のこれでは気が動転するのも無理はない。

 国王は元気そうな息子の様子に、秘かに目を潤ませる。

 隣の王妃席に座す妻は、誰に隠すこともなく感涙していた。


 そんな両親の様子に、何故か気まずそうな勇者様(ライオット)

 まさかこっちでそれなりに楽しくやっていますとは言い難い雰囲気で。

 本人も言う気はないが、何となく罪悪感が半端ない。

『父上、俺は元気ですから――』

 だから心配しないで、と言いたかったのだけど。

 それは父親の声に遮られる。

「お、おお、そうだ! お前は今、どこにいるのだ?」

 早く帰ってこないと、式典に間に合わないのではないか。

 何しろ追っていった使者が、一年近く経過して帰還してきたのだ。

 色々と思うところも多く、国王の不安が目を揺らす。

 父親の取り乱しように、勇者様は大変気まずい。

 それを、敢えて顔に出しはしないのだが…

『おれは、いま、その…』

「どうした、歯切れの悪い」

 歯切れも悪くなろう。

『その、ハテノ村………人類、最前線に』

「人類最前線!? 魔境か!」

 

 王様、仰天。


「どうしたということだ!? お前が旅立ってから、まだ一年経つか経たないかだぞ!

一年でもうそこまで行ったのか!? 幾ら何でも勇みすぎだろう!」

 素直に追手を待つとは思えなかった。

 それにしても王子はどうしてまた、そんなぶっちぎり状態で諸々すっ飛ばしてしまったのか…

 それでは碌に装備も整えず、魔王に挑むつもりなのか。

 不安と心配と呆れと、様々な感情が入り乱れる。

 混乱を極める王様に、勇者様は申し訳なさそうに苦く笑う。

『いま、必死で修行しています』

「段階をすっ飛ばすからそうなるのだ!」

 どうやら案の定、息子は大丈夫ではないらしい。

 それを知って、王様は顔が引き攣っている。

「物事の過程と段階は大切にするように言っておっただろうが……」

『言葉もありません…』

 勇者様は言葉もない様子で恐縮している。

 返す言葉もないことは、勇者様本人が御存知だ。

 国王もまさかそんなハイスピードで魔境に…

 勇者の最終到達地点まで行っているとは思いもよらず、顔面に困惑が張り付いている。

「………しかし、済んでしまったことは仕方あるまい」

 やがて長々とした溜息とともに、国王は肩の力を抜いた。

 その一瞬で意識を切り替え、項垂れる息子に問いかける。

「それで、お前はどうするのだ? 来月の式典には出ないのか」

『ああ、それはご安心を。移動手段は確保して…』


 思いがけない展開に固まっていたミリエラが、ハッと我に帰った。

 流石に国王と王子の会話をぶった切るなどという愚行は起こさない。

 しかし彼女は思い出していた。

 もう一つの、双転石の存在を………


 振り返った先に、安置された双転石の存在を探し…


 刹那、宙に浮かぶ水晶の向こうから不穏な叫びが聞こえてきた。


『まぁ殿! 人が余所見している間に何を…!?』

『あー…何って、見てわかんねぇ?』

『双転石を砕こうとしているんだな? 砕こうとしているんだな!?』

『あたり』

『あっさり肯定しないでくれ!!』

『なに? 口先だけだってわかってんのに否定してほしかったの?』

『そうは言っていないだろう!?』


 見えるのは、焦りに焦った王子の顔だけ。

 しかし聞こえてくる不穏そのものの会話に、国王の額に冷や汗が浮かんだ。


『まぁ殿、その双転石でどれだけの民が救えると思っているんだ…!』

『どれだけなのか、俺が相場を知っていると思うか? 魔境にこの石、出回らねぇのに』

『中流家庭三百戸が十年暮らせるだけの金額になるんだぞ!?』

『例えが分かり辛ぇよ! そこはせめて一般家庭一戸が何年かって例えにしろよ!』

『はっ…済まない。だが、馬鹿にならない金額だということは分かってもらえるだろう?』

『確かに、馬鹿にできねえ金額かもしれねーけどな。実際にこの石をお前んとこの実家が占有して使ってる限り、別に敢えてこれで民衆を救うことはねーだろ? だから砕いても良い筈!』

『極論やめような!? 実際にそれだけの金額分かかってるアイテムなんだ! 国家の財産なんだよ! 砕くぐらいなら売り飛ばす方がまだマシだ!!』

『勇者、物ってのはな…(すべから)くいつか壊れるものなんだ』

『壊れるのと壊すのは大きな違いだろう!?』

『無に還れ!』

『無に還そうとしないでくれ! 砕いたら損害賠償請求するからな!?』

『おーし、上等だ。目に物見せてやろうじゃねぇか。俺の本気と個人資産の総額嘗めるなよ?』

『払う努力をする前に、払わずに済む努力をしようって考えはないんだろうか!?』


 水晶からいつも穏やかな王子のものとは思えない、焦りに焦った声が響く。

 その切羽詰った声音が、向こうで起きている騒動が洒落ではないと如実に訴えていた。

 我が息子は、一体どんな暮らしをしているのか…

 国王の脳裏に、先までとは種類の違う不安が湧き上がる。 

 双転石は、妙な特質を持つがそれと同じくらい異様に固いことでも知られる。

 それを平然と砕くと言い切り、王子にその懸念を与える者。

 国でも敵う者無しと言われたあの王子が、止めるのに窮するような相手。

 そんな人間が、果たしているのだろうか…


『い・い・か・ら!! これは砕くんじゃなくて送り返す! それで良いな!?』

『へいへい、わかったって。そんな慌てなくてもわかったって』

『本当だろうな!?』

『もう良いから、さっさと送り返しちまえ』

『――では、遠慮なく』


 どうやら、いつの間にか会話にも決着がついたらしい。

 水晶に映る王子は肩で息をし、呼吸が荒い。

 かなり本気だったらしい舌戦の果てに、勝利を掴んだのはどうやら王子のようで。

 水晶の中、王子は双転石を持ち上げると…振りかぶり、何かに向かって投げつけた。



 ――ビシッ


 空間の歪む、音がする。


 後は先ほどまでと、同じように。

 一瞬の歪みが、双転石と、それに触れるモノが…

 つまり、投げつけられた双転石がぶつかったモノを移動させ………


 現れたのは、なんだか薄くてピンク色の本だった。

 表紙には、デカデカと大きく書名。


   【誘・惑HOLIDAY ~罪に追われた徒花~】

                     著:ヨシュアン


「一体、これはどうなって……どういう地なんだ、魔境は」

 ぽかんと間抜け面を曝し、国王は突如現れたブツを茫然と見下ろしていた。

 あまりにも目に毒であり、場にそぐわない。

 宮廷という場所に相応しくないそれを、しかし誰もが動けずに凝視している。

 本当に、あまりにも場違いだから。

 困り顔で、ささっとサルファが本を掴んで懐に突っ込んだ。

 此方の気まずさを知らない王子達は、水晶の向こうで再び言葉を尖らせて言い合いを始めている。


『ちょっ…誰だ、アレ投げつけた奴!?』

『いや、面白いかと思って出来心で』

『お前か、プロキオン。よくやった(爆笑)』

『まぁ殿、笑うのはやめてくれ…! あんなの転送して、俺が両親に変な心配されるだろう!?』

『もう手遅れじゃん』

『他人事だと思って、この愉快犯ー!』

 声の騒がしさが、広間の白けた空気に虚しく響く。

 王様の顔も、王妃様の顔もまるで能面の様に表情を失っていた。

 案の定、変な心配をされている。

 皆の水晶を見る目は怪訝そのものだが、水晶の向こうにいる王子は気付いていない。


 国王は、見なかったことにした。



 その日、水晶越しの通信で王子はいくつかの宣言をした。

 それは例え魔境という遠くにいても、王の在位を祝う式典には駆けつけること。

 応急に使わされた二人が王子の名代となり、王子が宮廷に戻るまでの代理を務めるということ。

 自分の権限によって、名代の少年の方にはある程度の自由を与えるということ。

 そして金輪際、女性の供は必要ないということ。

 更に幾つかの瑣末事を王子が進言し、この日の連絡は終了した。




「――ムルグセスト殿!」

 通信の終了と同時に、宮廷に仕える魔法使いが一歩進み出る。

「貴殿は、もしや魔境の魔法使いか…!? 巧みな魔力操作の技、とてもただ者とは思えませぬ!」


「違います」


 スパッと答えたムーの言葉はにべもない。

「しかし、あの魔力は…っ」

「あの程度できる奴、魔境にはごろごろいるよ」

 主に魔族とか、と内心でムーは付け加える。

 心の声が聞こえた訳ではないだろうに、魔法使いはハッと目を見張った。

「もしや、魔ぞk…!」


「違います」


 またもやスパッ!


「僕は、人の子です。人の親を持って生まれました」

 …が、同時に魔族の親も持っている半魔です、とまたもや内心で付け加える。

 疑わしそうな顔をする魔法使いに、ムーは内心で呆れていた。

 この程度の技で驚くなんて、と。

 何もムーは、自力で魔境と通信を繋げたわけじゃない。

 そんなことができるのは、魔族でも上位の者だろう。

 ムーは道具に魔力を流した、道具を操作しただけだ。

 通信を繋げ、会話を渡し、映像を保ったのは道具の力である。

 ムーはただ、その機能を補助したにすぎない。

 あれらは全て、道具の力。

 自分は魔力を流し、取扱説明書に従っただけ。

 それに対して人間の魔法使いはこんなに目の色を変えるのだ。

 人間の国々で行使される魔法、魔力の水準が魔境とは比べ物にならないくらいに低く、弱い。

 話には聞いていたが本当なのか、と。

 ムーは知識という形でもっていた情報に実感を持ち、変に感心してしまう。

 化け物魔族の傍で育った少年にとって、何ほどもないことにこれほど感動するのだ。

 そんな彼らが、ほんのちょっとだけ可哀想になった。

 無意識に魔境と比べ…そして、こんなに生真面目だと魔境にも到達できない…できたとしても、酷い衝撃に寝込むかもしれないと思った。

 少年の内心を知らない魔法使いは、自分の考えを(ことごと)く否定されて怯え気味になっている。

 恐る恐ると、問いかけが来た。

「では、貴方は一体…?」

 そして、その問いにもまたムーはきっぱりと答えるのだ。


「僕は、薬師です」


 その魔族の親譲りの微笑みに、物騒な色を交えながら。

 線の細い少年は、逆に魔法使いの肩を掴んだ。

 まるで鷲にでも攫まれたかのように、がっちりと。

「僕の自由を保障しろと、此処の王子が言いました」

「え、あ、はい…」

 いま、少年の脳裏を占めるのは一つのこと。

 我慢したくもない、その欲求。

 それを満たしたくて仕方ない。

 魔法使いの言葉に満足げに目を細め、薬師の少年は言い切った。

 まだ場所は謁見の間であり、眼前には国王がいるというのに。


「取り敢えず、この城の薬草園及び毒草園に案内してもらいましょうか」


 その言葉には、有無を言わせぬ異様な迫力が込められていた。




落書き帳にさかさか落書きしていて、気づきました。

Bの外見、設定してねー!

その時鉛筆を走らせていたのは、こにゃんこ物語。

セーラー服の羅愛良お姉ちゃんとブレザーのレオくん。

並べて備中を描こうとして、描けずに止まりました。

はて、こやつはどうしたもんか。

AとCは大雑把な設定があるのに、何故か出番の多いBだけがない。

アルビレオなんてBより後に生まれたのに。

そして今更、Bのイメージが湧かないという…。


どなたか「Bは絶対こう!」というイメージを語れる方、いませんかー?

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