38.第一回ハテノ村仮装ドッキリ(対象複数)そのろく
引き続き勇者様、地獄のお祭りデート編。
ただしお友達を引きつれ、女二人男一人の組み合わせをデートと呼ぶのなら。
まあ、少なくとも使者さん達の腹づもりはあわよくばなので、そっちかと。
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………わあ、なんだか慣れてるー。
後をついて歩きながら、私達は目をパチクリ。
上手いな、と。
隣でまぁちゃんが呟いています。
そうです、私達は驚いていました。
てっきり勇者様は怯えた子鼠のようになると予想して疑っていなかったのに。
驚きです。
吃驚です。
勇者様の、誘惑をかわすスキルに…!
現在、私達が距離を取っているのでほぼ三人で歩いている状態の勇者様方。
普通、ここは両手に花状態になると思っていたんですよ。
なのに。
勇者様は己の立ち位置を、両側に女性を侍らせる位置から避けておいでです。
両手に花配置になりそうになったら、絶妙のタイミングとさりげなさでそれを避ける!
頑ななまでに、接触面を減らそうとしているかのようです。
おまけに、並び順も考えたものです。
先にも言いましたが、使者の二人はぎりぎりの格好をしています。
そこで勇猛果敢にも攻めの姿勢を選んだのがミリエラさん。
恥じらいに負けて、守りに入ってもじもじしているネレイアさん。
勇者様は先ほどから、ミリエラさんと自分がネレイアさんを挟んだ対極になるよう、間合いを調整しています。
仮面の奥の瞳が、まるで針の目を通すように鋭くなっていました。
あんなに真剣な勇者様、初めて見たよ…!
アレですね。
この技術をどこでどんな風に習得したか、なんだか想像できるところが物悲しい。
心なしか、勇者様の背中も哀愁が漂っています。
いや、今の勇者様の背中には珍妙な文言とデフォルメされた子猫が鎮座している訳ですが。
ええ、私が犯人ですが、何か?
つい思わず猫の方へと視線は行きましたが。
それでも、勇者様の凄さはちゃんと分かります。
アレでしょ。
どうせ今までの人生で培った経験則で、体で習得したんでしょ。
あの巧みな、女性からの退避法。
女難の災いから逃れる為に、勇者様が得た生きる知恵ですね。
不憫な………
勇者様は凄い方だったと。
私達は今この時、目から鱗をぼろぼろぼろぼろ零しながら感動していました。
もう、「凄い」の一言で目が輝きそうです。
おかげでミリエラさんの不満が溜っている現実には、皆でさっと目を逸らしました。
あれが、爆発したら……
…後が怖いですね、勇者様!
でも、誰も助けない。
だから一人で頑張ってください。
さて、皆様。
私は今回に至って、ちょっと感心していることがあります。
ミリエラさんに。
あの人、マスクマン勇者様を見て動じなかったんですよ……
ネレイアさんだって、気付いた時は物凄く訝しげだったのに。
勇者様が一度マスクを取って、やっと納得したのに。
…まあ、最初から一度はマスクを取る予定だったんですけど。
なのに、ミリエラさんです。
彼女は、仮面付き勇者様を認識するや否や、にっこり笑って言ったんです。
「本日は供に加えてくださるとのこと、とても光栄ですわ」
その平然ぶりに、ちょっと怖いと思いました。
「………どうして、わかったんだ?」
動揺を抑えた、必要以上に平坦な声。
勇者様が目を泳がせながら問うと、返ってきた声は。
「私、殿下のことでしたら、どのようなお姿でもわかりますわ。ですがしいて理由をあげるとするなら…足運びのリズムと、ちょっとした気配の流れでしょうか」
なんてことを、彼女が言う訳で。
ちょっとどころでなく、怖いと思いました。
というか、焦りました。
勇者様なんか、完璧に硬直していますよ。
こんな相手を、騙し込むことができるのでしょうか。
確認と不安を込めて、サルファを見ると。
タイガーなマスク野郎は冷や汗一筋。
しかしそれでも真剣な、仕事人の目で言いました。
「大丈夫、俺に任せてよ☆ やってやれないことは、ないからさ…」
そう言いつつも、彼の声が揺れていることには目を瞑ることにしました。
今がどうあれ、結果が全て。
結果さえ上手くいけば、後は全てどうだって良いんですから。
私が認める意味を込めて頷き返せば、サルファも得意そうにニッと笑い返してきます。
多分に強がりとか、カラ元気の秘められた笑顔です。
でも、笑顔は笑顔。
私はそれを、奴の気概として認めましょう。
今回、限定だけど。
「取り敢えずサルファ、あんたもう所定の位置についたら?」
「ええっ もう!? リアンカちゃん、俺への愛は!?」
「川の底かしら?」
「取ってくる!」
「行くな、待て。サルベージはしなくて良いから、さっさと定位置に行きなさい」
今にもどこにも存在しない、見えない愛を探しに行こうとするサルファ。
その襟首をひっ掴んで。
私達は、サルファをいち早く家から叩き出したのでした。
でも不安は、消えません。
「大丈夫かな……」
「本人がやれるってんだから、大丈夫だろ」
自身も冷汗をこっそり拭いつつ、まぁちゃんが言う訳ですが。
「それでも、土壇場で無理でしたーはないでしょ?」
「出来なかったら出来なかったで、そん時に考えろ。今は確かめてもない結果を案じてああだこうだ言ってる時でもないだろ」
その言葉に妙に納得したから。
私はひとまず、不安に蓋をして見ないふりに徹することになりました…。
私達の村の村人は、日常とは全く関係ない方面でハイスペックです。
個人技に優れているというか、明らかに「何処で使うの?」と聞きたい様な特技を隠し持っていて。
いざという時の隠し芸用という、「いざ」がいつか分からない様なもの。
他の追随を許さないというか、何故それを磨こうと思ったの?と聞きたくなる特技。
そんなモノが満載で、多種多様で、そこまで独創性を磨いていたのか…!と初見の人は目を見張る。
…まあ、村育ちの私達にとっては、最早見慣れた茶飯事で。
初見の人が顎を落とす様な芸も、二回三回と見れば「ワンパターンw」と笑われる始末。
だからこそ皆、常に向上心と果敢なる未知への挑戦に余念が無く。
その情熱を他に向けろよ、と。
遠方からのお客様に苦々しく言われることも常のこと。
結論:メイン会場のステージと屋台が凄いことになっていました。
みんな、どっからあんなネタ拾ってくるんだろ?
魔境に来たばっかりの方々は、正しくかぱーっと大きく口を開けて。
暫し呆然としていましたけれど、ハッと我に返って人の波に我もと飛び込んでいきます。
まあ、立ち止まっていても邪魔になるだけですし。
勇者様はちょっと二の足踏んでいましたが。
それでも立ち止まっていても埒が明かないと分かっているのでしょう。
気を取り直して、自身もまた祭の空気に混じり込んでいきます。
勇者様より六歩くらい離れた後方で。
私はまぁちゃんやせっちゃん、画伯という面子で鮮やかな会場の彩りに目を輝かせます。
お祭り、だいすき。
「おお……バルトロマイの爺さん、今日もいいキレしてんなー…」
「もう何歳だっけ?」
「百一歳」
「「「……………」」」
ステージの上では、枯れ木の様に細いお爺さん。
………全身を極彩色の大きな羽根で飾り立て、「ワーオ!」とか叫んで踊っています。
その激しく複雑なステップ。
情熱的な太鼓の音が鳴り響き、蒸気が昇りそうな熱気。
お爺さんは全身を弾ませながら、跳躍とステップを混ぜ合わせ縦横無尽と踊り狂う。
バウムクーヘンを焼きながら。
「実演販売で、踊る必要ってどこにあるの?」
「いや、アレは実演販売よりも踊ることの方がやりたかったんだろ」
私達は微妙な顔でステージを凝視しています。
勇者様を、そっちのけで。
いや、だってお爺さんの方が気になる。
その間、勇者様はおぶおぶしてました。
「まあ殿下、あちらは何でしょう…」
さり気なく、しなだれかかろうとするミリエラさん。
「いや、俺もそんな詳しくは…」
勇者様だって大概は初見なのに、聞かれても困りますよねー。
押しつけようとじりじり躙り寄ってくるミリエラさんをかわそうと、ひらりマントが翻る。
チラリと見えたこにゃんんこの刺繍に、不意打ちで目に入ったらしい通行人が噴き出して。
笑いを振り撒きながら、周囲も目に入らない程に必死で勇者様は逃亡を図るけれど。
→ ゆうしゃはにげだした
しかしミリエラにまわりこまれてしまった!
ゆうしゃはにげられない!
簡単に言ってしまえば、こんな状況ですね。
そろそろ一人でかわし続けるのも可哀想になってきましたねー。
助けるべきか、もう少し放置するべきか…
私が思い悩みながら焼きスルメを囓っていると、向こうから、
向こうから、見慣れた姿が………
「おや?」
「え、あれって…」
「まあ…! 珍しい姿を見つけてしまいましたの」
「ー…ありゃ、丁度のタイミングで」
いち早く気付いたまぁちゃんが、私の肩を叩いて注意を向けて。
そんな私達に釣られる形でせっちゃんやヨシュアンさんも気付いて。
私達は、四人揃って人並みに見出した二人に目を向けます。
二人も、やがて私達に気付いた様子で。
他意もなく、深い意図もなさそうな顔で。
二人は連れだって此方へと向かってきました。
私達よりも前方に出ている勇者様達が、自然と私達よりも早く接触します。
「こんにちは、勇者殿」
「え?」
そう声をかけた青年の背後には、怯え隠れる様に身を縮めておどおどするお姉さん。
今は人間の耳があるけれど…二人の頭上には、自前の角と、黒い耳。
黒山羊の角と耳を生やした、お二人は。
「リーヴィル殿、ラヴェラーラ殿?」
仮面で分かりづらいながらも、勇者様が目を見張って。
驚き混じりの声で、二人の名を呼びます。
「良い祭の夜ですね。楽しんでいますか?」
其処には、黒山羊一門のお二人。
りっちゃんとラーラお姉ちゃんが、二人連れだって立っていました。
何を警戒したモノか。
使者二人の目が、周囲の状況も忘れたのか目が吊り上がった気がしました。
※前々回などとは時系列が前後しています。
そしてラーラお姉ちゃんが男ウケの良さそうな可愛いひとなので。
ええ、男連れといえども警戒を怠れ無いと感じたようです。
今日、ちょっと「みてみん」の方に登録してきました。
小林晴幸の名前で何枚かのイラストを投稿しています。
その辺のメモや落書きから拾ってきた絵なので、ちょっと雑かも知れませんが。
イメージ崩れる! 見なくて良い! という方もいると思います。
でも、もしも気になるようだったら、どうぞ見てやって下さい。
無理に勧める訳ではありませんが。
でも、感想を頂けたら嬉しいです。
「みてみん」の機能が全然未だ分からないので、「なろう」の方で感想を貰えたら小林が喜びます。張り切ります。