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ここは人類最前線5 ~人間さん襲来~  作者: 小林晴幸
第一回ハテノ村仮装ドッキリの宴
38/46

35.第一回ハテノ村仮装ドッキリ(対象複数)そのさん 接敵編

今回も、メインはラーラお姉ちゃん。

彼女の、彼に対する第一印象は…?

 宴って話だったけど、凄く賑やかで。

 準備期間は僅かだった筈なのに、沢山の出店が色とりどり。

 うん、やっぱり。

 これはもう、お祭でいいと思った。


  「ゴーレムはいかがですか~…。貴方と縁を繋ぐ、素敵なゴーレム……」

  「使イ方ハ一年間満月ノ光ヲ浴ビセ続ケルダケ トテモオ得」


  「型抜きフルーツの蜂蜜漬けはいかがですかー?」

  「お好きな形でお切りして販売していまーす」


  「紳士会秘蔵のお宝公開中! 副団長も唸った御神体のセクシーポーズ!」

  「画伯の特製ポートレートも販売中でーす」


  「ソマリのランタンは夜を彩るのにとっても綺麗ですよ!」

  「今日限定の祭りランタンを自分で彩色してみませんか~?」


 参加してみて、良かった…。

 リーヴィルの気遣いのお陰か、ヨシュアン君の発破のお陰か。

 思ったよりも人を気にせず、楽しむことができている。

 それがなんだかとても、新鮮。

 いつもだったら、絶対にこうはいかないから。

 多分、さり気なく暗示か何かかけてくれたんじゃないかな…。

 そう勘ぐってしまうくらい、私は自分が楽しめていることが不思議だった。

「ほら、ラヴェラーラ、出店でひよこを売っていますよ。こういうの、好きでしょう」

「……もう、ラーラ従姉(ねえ)さんって呼ばないの?」

「……………………あれは特別な時だけです。

対ラヴェラーラ用の最終兵器なんですから、そうそう連発はしませんよ」

「兵器って使う相手に申告するようなものだったかな…」

 そんなこと言われても、困っちゃうんだけど…。

 年下の従弟は誇り高い顔をして、ツンと澄まし顔。

 これは、もう絶対に何かあるまで呼んでくれないなぁ…。

 困ったーと思っていても、私の心情なんて知らぬ顔。

「あ、ラヴェラーラ、ちょっと婦人会の方へ顔を出しても良いですか?」

「婦人会に、魔王城の、青年の、リーヴィルが何の用なの?」

 本当に不思議で首を傾げてしまう。

 そんな私にリーヴィルは、手に持っていた皿を掲げるだけ。

 ………さら?

「祭の持ち寄り料理、私も用意してみたんですよ」

「……………私、女の子なのに何も用意してない」

 肩が落ちる。

 自分で自分にがっかり…。

 こういうお祭の時は、みんなで大皿料理を用意して持ち寄る。

 それはもう定番で、いつものことなのに。

 私ったら、どうせいつもみたいに「参加しないんだから」と用意することさえ考えつかなかった。

 実際にはこうして参加して、祭を楽しんで、料理を啄んでる。

 なのに自分は食べるだけ。

 食べ物の用意を自分も負担しようだとか、そういうことは全く思いつかなくて。

 年下で、男の子のリーヴィルの方がそっちに気を回してる。

「………私、女の子としてもお姉ちゃんとしても失格だね」

「いきなり何を言い出すんですか。突拍子がなさ過ぎて料理の皿を落としそうになりましたよ」

 本気で驚いた顔で、リーヴィルが大丈夫かと窺ってくる。

 ……我が従弟が、正気を疑う目をしているのは気のせいじゃないはず。

「料理一つで、ラヴェラーラは考えすぎです。こういうのは用意したい人が用意すれば良いんですよ。普通に用意された料理だけでもあまり気味で、こういうのは用意した人の自己満足と相場が決まっているんです」

「でも、リーヴィルのご飯は美味しいよね…きっと直ぐに売り切れちゃう」

「…………………………………そんなことありません。

ラヴェラーラが用意した方が、きっと早くはけるでしょう」

 何の根拠があってかは分からないけれど、リーヴィルはやたらと力強く断言してくる。

 どうして、そう言いきれるんだろう…?

 私は不思議で、しきりと首を傾げ続けていた。



 後日、聞いた話だけど。

 リーヴィルの用意したご飯は、やっぱり直ぐに食べ尽くされて売り切れちゃったんだって。

 そのご飯に手を付けたのは殆どが男の人だったらしいけど…

「りっちゃんの生手料理!」「至福!」とか何とか勢いで叫びながら料理を奪い合っていたとか。

 それを聞いたリーヴィルの顔が、凄いことになってたけど…

 何がそんなに不快だったのか、リーヴィルの気持ちは今でも全然分からずにいる。


 でも、その日から暫くみんなはなんだかそわそわしていて。

 変な噂が、私の黒い耳まで届いてきた。


 ただ、返り血にべっとり赤く染まった姿で。

 リーヴィルが棍棒を手に徘徊している姿が何度も目撃されたらしいけれど…

 リーヴィルがそんなことする訳ないし。

 きっと、見た人の気のせいか見間違いだよね。



 ひとしきり、祭りを楽しんで。

 浮かれた空気に酔いしれて。

 いつもより、大分気も大きくなって。

 そうして祭を堪能していると、ふと視線を感じた。

 妙に気配のある、何か強い感情を含んだような視線。

 全然、隠せてない。

 感じる圧力から、私かリーヴィルを見ていることは確か。

 不可解で、怖い。

 得体の知れない視線の力に、大きくなっていた気持ちが、心がきゅっと縮こまる。

 私は忘れ果てていた、臆病という自分の本質を思い出して。

 怖々、目線だけで周囲を見回して…


 見付けた。


 あまりにも吃驚して。

 あまりにも怖くて。

 あまりに不可解すぎて。

 私は間近にあったリーヴィルの袖をぎゅっと握りしめ、肩を小さくして従弟の背に隠れる。

 まるで盾にするようで気が咎めたけれど、でも怖いものは怖くて。

 とても、あのまま視線に(さら)されたままではいられなかった。

 誰とも知れぬ、誰かに。

 見知らぬ気配の、誰かに。

 じっと見つめ続けられることが耐えられなくて。

 怖くて、怖くて、泣いちゃいそうだった。

 自分でも、萎縮してしまうのが分かる。

 何よりそれに、あの人…

 なんで、あの人……


 なんで、馬なの?


 あの人、なんで馬の頭を被っているの?

 不可解すぎて、珍妙で。

 凄く、怖い。


 馬の毛並みの艶やかさよりも。

 靡く毛並みの見事さよりも。

 その虚ろな目が見つめてくる事実に耐えられなくて。

 リーヴィルの背に隠れて、ぶるぶると震えているしかできなくて。

 恐怖の叫びを上げちゃうんじゃないかとも思ったけれど。

 喉は張り付いたよう。

 舌は張り付けられたよう。

 呼吸でさえも息苦しくて、喉が詰まって声も出ない。

 ただ、恐怖の一心で。

 目だけ、逸らすことができなくて。

 

 恐怖に見開いたまま、じっと此方を凝視してくる馬の顔を見つめ続けることしかできなかった。


 なんだか、目をそらしたら取り返しの付かないことになる気がして。

 気の全く休まらない、緊張と怯懦の時間が始まった。




  ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




 見付けた、と。

 意識するよりもずっと早く。

 頭で考えるよりも、もっと早くに。

 感覚が、感情が、この心臓が。

 鐘の音のような鼓動と共に、俺にそうと知らせていた。

 視線が、何気なくふと流れた先で一点に固定される。


 彼女だ、と。


 見付けたと思ったその時から、もうこの視線は逸らせない。

 食い入るように、細部まで見て、本当にそうなのか確かめようとするように。

 自分が彼女のことを、よく知るわけもないと愚かさを感じながらも。

 違いはないか、確かに彼女かと。

 理性を納得させる為の材料を、感情は探さざるを得ない。

 見付けたと、確かに彼女だと。

 そう、この心が思ってしまったから…。


 俺はもう、彼女を 見つめるのに必死で。

 見続けることしかできなくて。

 そうすることしか考えられなかったから。

 それ以外が全く目に入らなかったから。

 当然の如く。

 彼女の隣にいた男のことなど、少しも目に入らなかったんだ。

 そして、彼女の隣にいた男に。

 知らぬ間に不審者認定を受け、貶むような冷たい目で睨まれていることにも。

 当然ながら、全く気付くことはなかった…。

 ただもう、彼女を見ることに必死だったから。


 言い訳を言わせてもらうと、俺はそれだけ、彼女の姿に夢中になっていたんだ。

 逃げてしまう、去ってしまうと。

 そう思った瞬間に、足が勝手に追いかけてしまうくらいに。


 

 

  ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




 な、なんであのひと…馬? 追いかけてくるの……!?


 早く行こうとリーヴィルを急かして、逃げるのを試みたのに。

 なんで、どうして。

 あの人は私を追ってくるんだろう。

 これ、追われてるよね?

 追いかけられてるよね、確かに?

 怖々と後ろを振り向けば、人ごみの向こう、そこに確かに 馬 。

 私は恐ろしさで顔が青ざめそう。

「…ラヴェラーラ、何から逃げたいのかは知りませんが」

 私が手を引っ張るのに任せてついて来ていたリーヴィルが、私の肩を叩く。

 どうどう、落ち着けとばかりに。

「逃げても、どうにもならないと思いますよ。

現実に追ってきているのなら、対峙した方が面倒も減りましょう」 

 肩を竦めるリーヴィルが、私の腕を掴んで。

 そうしてゆっくりと、失速した。

 腕を掴まれている私の足も、一緒に止まる。

 酷い。

 私の気も知らずに、年下の従弟は服に付いた糸屑でも見るような眼で馬の人を見て。

「………うま?」

 それはそれは訝しそうに、困惑の声で呟いている。

 うん、リーヴィル。お姉さんも同じ気持ちだよ。きっと。

 見るに異様な馬の人は、私達が足を止めたのを見て速度を緩め…

 やがて、私の真正面で足を止めた。

 なんで、わざわざ私の真正面。

 そしてどうしてそんなに、じっと見下ろしてくるの。

 得体の知れない怖気が、逃げろと私に訴える。

 だけど私は逃げられない。

 だって、困ったことに足が竦んでいる。

 うぅ…あまりにも情けなさすぎる。私。

 

 私があまりに後ろ向きで。

 それに萎縮していたからだと思うけど。

 リーヴィルが眉間に皺を寄せて、私と馬の人の間に体を割り込ませる。

 馬に人のじりじりする視線が遮られて、私は目に見えてホッとしちゃったんだと思う。

 一層、リーヴィルの視線は険しくて。

 馬の人に、刺々しい誰何を向ける。


「人の連れを何じろじろ眺め回しているんですか。視線で脳天に穴でも開ける気ですか?

嫁入り前の娘を不躾に…変質者か何かですか? 私の連れが、そんなにお気に召しましたか。

貴方、どこの馬の骨…失礼、まだ肉が付いていましたね。貴方、何処の馬ですか」

 わあ、悪意が多分に含まれてるー…


 遠く遠く、空の上か何処か。

 よくわからない遠くから。

 なんだか、戦いの始まりを告げる鐘の音が聞こえた気がしました…



 -- ROUND1 FIGHT!



 

 


次回予告


「貴方、その頭カッコイイとか思っているんですか…?」


 最初は蔑みに満ちていたりっちゃんの目が、やがて驚きに見開かれる…。


「…全治、一ヶ月ですね。痴漢講習会の師範が泣きますよ……」



 →次回:ハテノ村仮装ドッキリ(対象複数)そのよん

             神々の(ラッキー)悪戯(スケベ)

                              お楽しみに☆

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