33.3 衣装の話 主催者編
衣装の話、そのに。
まだまだドッキリ大会の内容前の蛇足です。
さてさて、私達もドッキリ仮装大会に向けて準備を整えましょう。
今日の為に、ちゃんと自分達の衣装も用意しましたよ。各自で。
画伯がデザインしようか? とかなんとか世迷い言をほざいていましたが…
当然の如く、黙殺しました。
「にゃんにゃ、にゃ、にゃ~ん♪」
きゅるるん☆
謎の効果音を引きつれて、極上の美少女が飛び込んできました。
「せっちゃん!」
「リャン姉様ぁ! せっちゃんが来ましたのー!」
私の胸に飛び込んできたのは、超絶可愛い子猫ちゃんでした。
「うわぁ、なにこれ! 凄く可愛くって出来が良い!」
「にゃんにゃんにゃ~ん♪」
うにゃん♪と可愛い鳴き声、有難うございます。
今日のせっちゃんは頭にふかふかの黒い猫耳を付けています。
リアルすぎる奴じゃなくて、ベルベットでできた精巧だけど飾りとしての「猫耳」。
魔境のリアルな変装グッズだと、猫みたいに動く精巧な耳もあるけど。
せっちゃんが付けている耳は、まるで大きなリボンみたい。
それに服も今日は猫耳に合わせた仕様です。
いつもの体型に沿う優雅なドレスじゃありません。
首には赤い、金の鈴がついた首輪のチョーカー。
黒いワンピースに、赤いリボンと緑地に白い水玉の飾り布がついています。
水晶のビーズが縫い込まれている様で、ワンピースは光をキラキラと弾いていました。
スカート丈は短目ですが、黒いタイツで足を完璧に隠しています。
元々体型の出るドレスを常用しているので、体の線が出ても大丈夫そう。
でもいつもは絶対に露出しない足が、タイツとはいえ出ているのだから凄まじく新鮮です。
赤いリボンを絡めた金鎖に、金の鈴を付けたブレスレットが可愛い。
せっちゃんの珍しい姿に、私は思わず全開の笑顔でせっちゃんの頭を撫で回しました。
「せっちゃん可愛い!」
「嬉しいですの、リャン姉様!」
「でもどうしたの、せっちゃんには珍しい格好だよね?」
「今日は仮装が必須とお聞きして、ヨシュアンに用意してもらいましたの!」
「……………………その割には、素晴らしく普通に可愛いね」
本当に意外なことに、画伯が手配したにしては普通だ…。
「流石に俺も、陛下の愛する王妹殿下と従妹様に対して悪巫山戯する程、命知らずじゃないって」
「あ、エロ画伯」
「ちゃおー」
呆れ眼で登場したのは、噂の画伯。
「陛下を本気で怒らせる地雷なんだから、敢えて踏む訳ないでしょ。そこまで命賭けられないよ」
「あー…じゃあ、私が画伯に衣装を頼んでたら…」
「普通に、過激さとは無縁な可愛い衣装を用意したけど」
「わあ、疑ってゴメンね☆とか謝った方が良い?」
「心がこもってないから、いらない」
そう言って、ぷんと拗ねてみせる画伯は…
どうしよう。文句なしの美少女でした。
落ち着け、コレは画伯だ。
心の中で四度も唱える。
「が、画伯…その格好は?」
「ん? 仮装」
「幾ら何でもプライド捨てすぎじゃない!?」
「イロモノで自分に似合うモノをチョイスしたら、どうしても女装になっちゃうんだよね…」
あと俺、男物より女物の方が良い物揃える自信があったし、と。
画伯は自分の性別よりも見栄えの完成度を獲ったようです。
確かに、可愛いけど…。
翠のふわふわした髪の毛には黒いレースのリボン。
編み込み可愛いですね、誰がやったんですか。
詰まった襟に、スカートの裾、袖口と各所に大量のフリルとレースがあしらわれています。
ちょっとやりすぎじゃないかと思うくらいです。
流石に露出すると男とばれるからか、体型を誤魔化すフリルとレースの固まりです。
そして各所を引き締める、ラヴェンダーのリボン。
パニエで膨らませられたスカートが、動く度にわさ…っと揺れています。
元からすんなりとした足には紫のタイツ。
そして足は………踵、高いな。
でもそれがやりすぎ感もなく纏まっていて、全体的に調和していて。
画伯は自分にどんな女装が似合うのかを知り尽くした格好をしていました。
「け、傑作だね、画伯…」
「ははは、どんな意味で言っているのか…お兄さんに言ってご覧?」
お兄さんに見えねぇ!!
きゅるん♪ そんな変な効果音が聞こえてきそうな可憐さです。
此奴のウインク一つで何人のお兄さんが悩殺されるだろう…。
「言ったらネタにする?」
「秘密v」
ろくなことにならないと察知したので、私は口を噤むことにしました。
その後、準備を整える前に様子を見に来た勇者様が画伯の姿に絶句して。
更にまぁちゃんが来て、勇者様が絶句していました。
「ま、まぁ殿、その格好は…」
「衣装用意すんのが面倒だった」
しれっと言った、まぁちゃんの格好。
まぁちゃんは、 魔 王 の 略 式 正 装 で現れた。
どこの手強いバケモノと闘うつもりですか、まぁちゃん。
白い髪は丁寧に整えられ、身繕いもきっちり。
黒いローブには銀の刺繍。そして縫い止められた宝石の色は青と紫。
ひらりと揺れる黒いマントには、季節の植物を象った意匠が刺されています。
銀のサークレットに、頸環、腕輪と完璧です。
填め込まれた鶉の卵みたいな大きさの紫水晶の光が、内包する魔力に揺らめいていました。
仰々しさと煌びやかさと神々しさで、一人だけ空気が違って見えました。
ま、まぁちゃん…それは仮装じゃなくて盛装だよ。意味が全然違うよ。
「あに様、それじゃありませんの」
「ん? どーした、せっちゃん」
「せっちゃんは猫ちゃんですの!」
「おお、可愛い黒猫さんだなあ。よしよーし」
「ふふ…だから、あに様もお揃い、しましょうなの」
小首を傾げて、兄を見上げるその瞳。
超絶美少女の瞳には、一片の曇りもなかった。
そしてこの魔王様は、妹のお強請りにたいそう弱いのです。
「………ヨシュアン」
「はいはい陛下ー。ご用意してますよー」
ヨシュアンさんが懐から取り出したのは、せっちゃんとお揃いの猫耳セット。
結果、まぁちゃんは魔王の略式正装の上から、せっちゃんとお揃いを敢行。
白 い 猫 耳 をつけることになりました。
勿論、尻尾も装着。
首に付けていた頸環も外して、銀の鈴がついた蒼い首輪を着けていました。
即席ですが、白猫ちゃんの完成です。
神々しすぎて目を逸らして笑いそうになりました。
「………」
勇者様も気まずそうに視線を逸らして、口許を押さえています。
まぁちゃんのあまりの麗しさ(笑)に目を奪われて案山子と化しているアディオンさん。
彼の襟首を引き摺って、勇者様が退場します。
…笑い、堪えきれなかったんでしょうかね。
まあ、勇者様は準備も整っていませんでしたし。
改めて、着替えの為に退出なさったのでしょう。
「…勇者、あの格好で行くのか?」
何事もなかった様に、白い猫耳まぁちゃんが。
「いえ、勇者様には渾身の仮装をお渡ししたよ。着替え前に私達の様子を見に来たみたい」
「あー…あの仮装、着替えにそこまで時間はかからないからね」
「なんだ、ヨシュアンも知ってるのか?」
首を傾げるまぁちゃんの頭上で、白い猫耳が揺れた。
「「……………」」
「あに様、お可愛らしいのー!」
「あ、」
せっちゃん、言っちゃった…。
まぁちゃんは無言で、頭上の猫耳をちょいちょいと引っ張っています。
気になるの? 気になるよね?
背中が煤けて見えました。
「あ、そういえば…」
ヨシュアンさんが目を逸らして、話題も逸らそうとしています。
その目が捉えたのは、私でした。
「リアンカちゃん、それ何の仮装? ひらひらして可愛いけど…」
きょとんと首を傾げる、ビジュアル美少女エロ画伯。
私の着ている衣装の、大きな袖口の飾り布を引っ張ります。
ひらひら、ひらひら
「見た目からの印象……魚?」
「金魚だよ」
「あ、なるほど~」
目を見張り、納得したと画伯が頷いています。
興味深いという顔で、私の周囲を回りながら観察してきます。
「斬新な衣装だけど、作ったの?」
「我ながら良い出来だと思うけど…」
急拵えながらも見事なデザイン画を起こした画伯の前です。
ちょっとどうかなって、緊張します。
「うん、可愛い!」
「当たり前だろ、リアンカが可愛いのは」
「陛下…その答え、場合によっちゃ凄い野暮だから。使いどころ選んで、乱発しない様にね」
「お前は俺が普段から誉め倒す様な男に見えるって?」
「肝心の言葉はここぞという時に使った方がいいよ、ってだけですー」
じとっとした目で配下を睨むまぁちゃんと、目を逸らして後退する画伯。
そんな二人を放置して、せっちゃんが私に抱きついてきました。
「姉様はいつだって可愛いのー!」
「うん、でもせっちゃんはもっと可愛いから」
「せっちゃん猫で、リャン姉様は金魚さん!」
「申し合わせた訳じゃないのに、何だか奇遇っぽいねー」
「猫さんせっちゃんが食べちゃうぞ、なのー!」
「きゃあ、食ーべーらーれーるー!」
せっちゃんがあまりにも可愛いので、ひとしきりじゃれ合いました。
「うんうん、良いよねぇ。可愛い女の子と凄い美少女がじゃれ合う、この図!」
「……………描いたら、地下牢に三年四ヶ月閉じ込めるからな」
「怖いよ! 地味にリアルで凄い怖いよ! なんで三年四ヶ月!?」
「お前の邪な目を潰さないだけ、有難いと思っとけ」
「もー…幾ら俺だって、陛下が怖くてやんないよ。そんなこと」
画伯は今日も信用が無いみたいでした。