33.2 衣装の話 お客様編
ドッキリ大会の方へ入ろうとしたんですけどねー…
仮装! と張り切って衣装について書いていたら、えらく長くなりました。
長すぎて、それだけで終わりました。
なので今回、ひたすら仮装についてのみ書いております。
衣装? 興味ないね! と言う方は読み飛ばしても大丈夫です。
2/13 間違い箇所、訂正
シリウス→プロキオン
プロキオン→ベテルギウス
突如開催のハテノ村、強制仮装大宴会。
さてさて、使者のお姉さん達は目を丸くしておいでです。
それに渡した衣装に、深窓育ちのお嬢様達はお目々白黒。
実在の魔族さんをそれぞれ参考にしたから、我ながら良い出来だと思うんですけどねー…
あ、三人の衣装は私が作りました。
勿論一人じゃ大変なので、裁縫上手さん達にも協力して貰いましたけど。
こっそり笑える仕掛けを施そうかとも魔に差されながらの作成です。
既存の祭衣装を改造する形で、ちくちく縫いましたよ。
ふふふ…昔からお転婆やっては鉤裂きや何やら作ってましたから。
母にばれないよう証拠隠滅とばかり裁縫に励んでいたら…あら不思議。
私、結構お針仕事には自信あるんです。
全く自慢できない動機でも、特技は特技。
それを更に悪戯に活かしていたことは、母には内緒です。
その特技を最大限活かし、作った仮装衣装。
お祭なんて非日常空間では溶け込んでも、日常の中では浮くこと間違いなし!
精々浮かれて見えるよう、それでも違和感はもたれないよう。
ちくちく縫った甲斐があります。我ながら良い出来です。
ミリエラさんの衣装には、小さな翼をあしらいました。
外見は清楚なミリエラさんの背中に、小さな翼。
本人には言えませんが、参考にしたのは画伯の羽根です。
というか画伯に話を持ちかけたら、速攻でデザイン画を立ち上げてくれました。三人分。
遠目に観察しながら、既に三人のスケッチは何枚もしていたようで。
その類い希な観察眼によって、それぞれ似合いの衣装に仕上げてくれましたよ。
(宝の持ち腐れ…じゃない、ある意味超活用してるよ。)
卑猥な衣装になるんじゃないかと戦々恐々しましたが、それ程と言うこともなく。
精々「色気」で済まされる段階で、遊び心は止めてくれたようです。
一番スタイルの良いミリエラさんの服が、なんか少し下着に似ている気もしましたけれど。
でも、そこまで卑猥じゃないです。
そこまで。
ええ、あくまでそこまでですが。
画伯と話が弾む内に、サイさんも寄ってきて。
それから画伯の妖しい伝手で職人技をお持ちのよく分からない人も集結しまして。
この二日間、私達は一致団結してお針仕事につとめました。
というか、画伯が連れてきた人員が手慣れすぎていて怖かったです。
外見ごつい上に、服飾に関係なさそうな職業の人ばかりだったのに…。
そうしてできあがった、力作三点。
デザイン、画伯。←やっちゃった感満載。
小物の監修、サイさん。←意外に審美眼が厳しかった。
そして縫製監督、私。←脅威の遊び心。
その他大勢のお手伝いさん達も協力しましたが、主な制作は私達。
ええ、物凄い力作ができあがっています。
卑猥さを可憐さに上手くすり替えた、男の夢的な衣装が。
具体的に言うと、ミリエラさんの衣装は極ミニワンピになりました。
白地に桃色と金色を差し色にした、ふわふわひらひら衣装。
…の、背中に黒い翼。
堕天使ですね。わかります。
白と薄紅の薔薇を散らしてアクセントにしました。
絶対領域と歓呼した画伯の熱い要望で、足はニーハイブーツ。
チラリと覗く、白いガーターと総レースの靴下。
全体的に見ると露出が少なそうなのに…
見れば見るほど「チラリズム」とか「際どい」とか、そんな言葉が浮かびます。
画伯が大喜びで描き上げた、可憐な一品です。
そして現在、その衣装を前に完全硬直のミリエラさん(当然)。
襟も袖も裾もきっちりと詰まった格好をしている彼女には、きっと刺激が強すぎる。
そんな彼女には魔法の言葉、コレです。
「ミリエラさん、勇者様がミリエラさんたちのこと待ってましたよ」
ぼそっと呟くと、ばっと此方を振り仰いで。
何かを求めるように、食い入るような視線。
私は喜んで、ミリエラさんの前にエサをぶら下げました。
「着替えが済んだら、一緒に会場を回りましょうって。楽しみにしているって言っていましたよ」
瞬間。
ミリエラさんの手が、がしっと衣装を鷲掴みました。
「………チョロい」
そしてほくそ笑む私。
一人、陥落。
にこにこ顔で次の獲物に視線を移せば、其処には難しい顔のネレイアさん。
彼女の前には、黒い犬耳の衣装。
こちらの衣装は黒い猟犬の持つ凜としたしなやかなイメージ。
ネレイアさんにこれ以上はないと言うほどに似合いの衣装です。
ちょっと大人っぽいビターな感じ?
とても犬耳や尻尾の当たり、プロキオンさんを参考にしたとは思えないくらいに印象が違います。
画伯、センスは良いんですよね…
サイさんも感心しながら、画伯と服飾の話が弾んでいました。
そんなネレイアさんの衣装は、大胆にスリットの入った黒のタイトロング。
もうこれ以上は止めてあげてと叫びたくなるくらいに足が出ます。
用意した靴もショートブーツなので、太ももは剥き出しです。
更に絶対に鎖骨が綺麗なはずという、画伯の謎の主張で襟が開いています。
開きすぎて、日に焼けたことのない白い胸が半分見えています。
目を奪うような白さです。
せめてもの情けは、ジャケットが付いていることでしょうね。
ネレイアさんに合わせた、軍服みたいに見えるかっちりしたジャケットです。
金モールと、勲章を模したブローチで飾り立てました。
…ですが画伯の計算により、ジャケットの胸部は布に余裕がないように作られています。
普通に苦しくて前が詰められない、むしろ胸が大きすぎればボタンが届かない。
絶対に前を開いているしかないので、やっぱり白い胸がチラリ。
無理にボタンを留めると、布がパツパツで胸の形が凄まじく強調されます。
これぞ、画伯の罠。
ジャケットなのに前を開けても留めても恥ずかしいという。
当然ながら、ネレイアさんは衣装を着ることに躊躇していました。
着ないと分からないスリットの深さや、生地の薄さ。
それを見抜いたわけではないでしょうに…
警戒心さえ滲ませて、睨むような眼差し。
「殿下が、私達を待たれて…いや、でも、しかし…」
へどもど何かを言っていますね。
躊躇うようにおっかなびっくり。
でも、明らかに葛藤しています。
これは一押しで、きっと堕ちますよ。
「ネレイアさん、ミリエラさんと勇者様を二人きりにするんですか?」
ぴく、とネレイアさんの手が震えました。
ふふふ………協定を結んで協力体制を作っていても、いざ出し抜ける! 抜け駆けできる! となったら女の友情なんて脆いもの。
…と、何年か前にめぇちゃんが言っていました。
彼女に何があったかは知りませんが…
………様子を見るにそのことをネレイアさんも分かっていそうです。
よし。この方向性でちょっと突いてみましょう。
変に刺激したら後々勇者様が可哀想なことになりそうですが…
まあ、男の子なので頑張って耐えて貰いましょう。
いざという時は逃亡の協力すれば多分チャラです。
私は温い笑顔を浮かべて、ここぞとばかりに囁きかけます。
世に言う、悪魔の囁きを実践です。
「私、ネレイアさんも勇者様がお好きなんだと思ってました」
「な…っ」
いや、バレバレですって。
隠したいなら、その熱い瞳を潰してからにしてください。
「でもずっと見てたらなんだかミリエラさんに遠慮しているようですし…
お祭を二人で回れるかもしれない機会、譲っちゃうんですか?」
「え、ふたり…?」
「今日は凄い人混みですよ! もしかしたら連れとはぐれて二人きりに……とか。
ミリエラさんなら躊躇なく狙いそうですよね」
「……………」
確かに、と細かく頷くのが見えました。
「ああ、もしかしてネレイアさん、身を引いてミリエラさんを応援するんですか? 友情ですね!」
「いや、その…そう言うわけでは、」
「こういう浮かれたイベントって、告白の成功率が上がるそうですよ。場の雰囲気とノリで」
「…!!」
「ああ、明日には勇者様に恋人ができているかも知れませんねー…ネレイアさん、以外の」
「……………………化粧台を、貸してもらえますか?」
おお…キリリとした剣士のお姉さんが本気になった……!
涼しげな目元に羞恥の朱が滲み、それより強い決意が瞳に宿っています。
凜とした佇まいに、艶を増した眼差しがお綺麗です。
綺麗すぎて、きっと勇者様涙目! これは絶対に涙目!
肉食系女子は勇者様にとって恐怖の対象でしょうが…
これだけ煽ったんです。
普段はミリエラさんに一歩引いて控えめな彼女も、今日はガンガンいってくれるでしょう。
潰し合いと言う言葉が、脳裏で踊ります。
この調子ならミリエラさんとも牽制しあい、水面下で争い、潰し合ってくれるはず。
結果的に勇者様の安全が確保されるというものです。
どちらかが、上手く恋敵を出し抜くのに成功しない限り。
今までネレイアさんは騎士志望という立場からか一歩引いていましたけれど、今日はそうはいきませんしね。精々ミリエラさんと相争ってくれるでしょう。
そしてミリエラさんは、今までにないネレイアさんの態度に戸惑うはずです。
彼女がどれくらいで意識を立て直すかは分かりませんが…
それでも、精神的優位性に影響が出るはず。
その実力は拮抗すると推察します。
今日の私は良い仕事をしました!
勇者様、感謝してください。
良い仕事したーと額の汗を拭う振りで、私は晴れやかに笑うのでした。
最後の付け加えみたいになりましたけど、エルティナさんの衣装も紹介しておきましょうか。
彼女には控えめに、という心情があったので、彼女の衣装は他二人に比べると大分マシです。
そのお陰か抵抗なく着替えていただけて、ミリエラさん達が目覚めた時には既に仮装済みでした。
画伯も、普通の服がデザインできるんじゃないかと。
見て思ってツッコミましたが気にされませんでした。
後々考えてみればそう普通だった訳でもありません。
でも他二つが酷すぎたので、対比でまともに見えたんです。
他の二つが、酷すぎたから。
そんなエルティナさんの衣装ですが。
今、エルティナさんの額には白い一本の角。
あれ、性悪一角獣からパクってきた正真正銘の聖なる角なんですよね。
今はカチューシャに改造して、エルティナさんの頭の上です。
一角獣も乙女の額にあれて、草葉の陰で喜んでいるでしょう。奴は画伯の熱心な信者でした。
エルティナさんの衣装のモチーフは、一角天馬。
魔境でも希な、一角獣と天馬の間に生まれるという希少種です。
一角獣の清廉なイメージと羽根を衣装にはあしらいました。
神官服にも似たシルエットの上衣に、翼を模した短いレースのマント。
足はショートパンツからにょっきり生えているけれど、本人は森育ちで気にならないとのこと。
一応膝丈のパンツも用意していたんですけど、此方で良いと素敵なお返事。
目に眩しい綺麗な健脚美でした。
編み上げのロングブーツには、また一工夫。
小さな羽根飾りの付いたブーツは、足首から翼が生えているように見えてちょっと可愛い。
そんな、清らかで可愛いエルティナさんの姿を見た兵士C。
万感の思いでも込めたのか、ぐっと拳を握ってガッツポーズを取ってましたよ。無表情で。
女の子は、やっぱり華やかで飾り甲斐があります。
野郎はどうでも良いです。
いえ、これがまぁちゃんや勇者様のような格好良すぎる面々なら飾り甲斐もあります。
でも二人が輝き過ぎて、並の男なら飾っても意味がないように思えるんです。
それに画伯も、相手が男じゃやる気でないって言うし。
そんな理由で兵士A~Bには仮装グッズだけ丸投げして衣装は用意しなくてもいいやーみたいな。
なんだか、そんな空気になりつつあります。
ふと、もぉちゃんが言いました。
「男じゃなく、彼奴らをモデルにした男装女子と考えてみたらどーだ?」
画伯のデザイン画が、凄いことになりました。
でもやっぱり、どうしても所詮は「男装女子」用。
とても現実に実際の野郎に着せたい服にはなりません。
なのでやっぱり、兵士A~Bには仮装グッズだけ渡すことにしました。
本人達に美意識があるなら、自分達で取り繕うでしょう。
母が何か世話を焼いていたような気がするので、多分不格好な出来映えにはならないと思います。
そして服飾センスに優れていることが今回発覚したCは、自力で衣装を用意していました。
わざわざ作った訳じゃなくて、既存の衣装を合わせて雰囲気を作り上げています。
流石、布地屋の息子。組み合わせが見事です。
サイさんは目元に紅い模様を描き、額に紅い石を貼り付けて。
白いファーで毛皮を表現して。
柔和な顔に差した紅い色がアクセントになって、引き締めています。
服装自体は奇抜ではありませんが、全体的に見て想像するモノが一つ。
…この人、例の騒動の元凶であるカーバンクルをモチーフに選びましたよ。
それがまた本人に似合うように衣装が調整されているので、嫌味にならないこの不思議。
サイさんは、服装に関してもやり手でした。
A~Cは、やっぱり魔族の仮装をしています。
Aに関してはみんなで遊んで、全身に紋様を描いて彩色してやりました。額には第三の目です。
筆がこそばゆいと暴れて逃げたがるのを、勇者様に取り押さえて貰って。
私とまぁちゃんと、サイさんで図面通りに筆を走らせます。
「えーと、右手のA線は緑色で…」
「このG線って、何色?」
「あ、それは鼠色で」
「肌の地色は茶色だから…ここ、I線って何色だ?」
「そこは芥子色じゃなかった?」
「面倒くせぇな…」
「あひゃひゃひゃひゃひゃ……っ もう、も、やめ…っっ」
「あ、動かないで! ずれるじゃない」
笑いすぎて呼吸困難、息も絶え絶えのアスターさんを押さえ込んでの作業になりました。
モデルにしたのはベテルギウスさん。
どこかで見たような仕上がりに、Bが顔を引きつらせていました。
Aの顔も引きつっていました。
私達は素知らぬ顔をしました。
最後に呪われた武器を持たせて完成です。
「待て…! なにその禍々しいの!?」
「呪われた武器だけど」
「そんな堂々と何!?」
「大丈夫、アスターさんが暴れたぐらいで誰もびくともしないから」
「暴れる系の呪詛!?…って、洒落にならない本気の呪物か!?」
本気で嫌がるので、アスターさんに呪われた武器を持たせるのは断念しました。
代わりに包丁を持たせて妥協しようとしたんですけど…もっと嫌がられました。
仕方がないので勘弁してやることにしましたよ。
Bには以前お世話になった御礼にとびきりセットを用意しました。
蝶の羽です。
大きな揚羽蝶の羽と、蝶を模した仮面です。触角も付けました。
それをずずいっと差し出してみたところ、無言でノーサンキューとのことで突っ返されました。
渋々のふりで第二候補を持ってきます。
次に用意したのは、 馬 の 頭 です。
ええ、勿論かぶり物ですが、何か?
実は私的には此方の方が大本命。
一度とびきり拒絶反応を示しそうなモノを示してから、それよりは許容できる逃げ道を示す。
本人は一度断っている引け目を覚えるし、精神的に此方の方がマシという心理が働きます。
使い古された手ですが、有用なことに違いはありません。
見事、着用させるにいたりました。
この馬な仮装には、私達なりの目論見があります。
実は仮装に紛れ込ませて、ラーラお姉ちゃんと対面させる手はずになっているんですから。
ですがラーラお姉ちゃんは、可哀想なことに内気で小心で人見知り。
コマネズミのような小動物系の性格をした、魔族に稀な天然記念物です。魔境の宝です。
守らねば、なりません。
そんな彼女の心を守る、というか人見知りを緩和させる為です。
敢えて相手の顔は見えない仕様にするかという事になりました。
だから馬の頭。だからこその馬の頭。
もっとマシなモノがなかったのかという意見は聞き入れません。黙殺です。
諦めてとっとと、さっさと着用してください。馬の頭。
ちなみに乙女の夢、白馬ですよ。嬉しいですか、楽しいですか。
私は見ているだけでとっても楽しい気分になります。
是非、勇者様(王子)に背中に乗って貰ってください。
長身の男同士で負んぶしている姿なんて、滑稽なことこの上ありませんが。←酷い言いぐさ
さあ、そんなこんなでお客様全員の仮装が終了しました。
それでは皆様、ドッキリ大会の開催です…!
使者と兵士A~Cの仮装だけしか書いていない今回。
主催者側の仮装は別に書かなくても良いかな…?