31.深夜の密約そのさん、てん、ご
前回の補足というか、オマケ的なナニかです。
故に短い上に本編とはあまり関係ありません。
ただ入れ損ねたネタが入っています。
次回に回しても良かったんだけど…きりが良いので、これだけ。
「あ、そーだ。リアンカちゃん酷ぇよ!」
宴会に加わったサルファが、身を改めた途端に詰め寄ってきました。
ちょっと、何が酷いんですか。
そんなふと思い出した様に、私の何を責めようって言うんです。
言いがかりは爪を剥ぎますよ?
思ったままを言ってみました。
「言いがかりは止めましょう。サルファも、生爪剥がれたくないよね?」
「リアンカちゃん怖い! って、じゃなくて、アレだよアレ」
「あれってどれ?」
「マリーアレンの花だよ!!」
「…?」
マリーアレンの花?
あの可憐な花が何だって言うんで…
「あ」
「あ、ってその顔! 忘れてたね!? 忘れてただろ!」
「ああ、はいはい。覚えてますよー」
「絶対に嘘だ!」
結果的に思い出したんだから、覚えていたことと同じでしょうに。
ちょっとあれです。
記憶の引き出しの奥の方に仕舞っていただけですよ。
「マリーアレンの花がどーしたって?」
酔っ払いの一人が、大騒ぎのサルファを宥めながら聞いてきます。
「リアンカちゃん、前にデートしてくれるって言ったんだよ」
「え、マジで? リアンカ、人生捨てるのは早すぎるぜ?」
「ちょっ 豹の兄さん、どーいう意味!?」
「いや、まんまだろ。それでどんな弱味を握って承諾させたんだ?」
「脅迫してねーから! リアンカちゃん、マリーアレンの花が咲いたらデートしてくれるって!」
「ああ、そりゃ…諦めろ」
マリーアレンの花は、七十五年に一度しか咲きません。
そして既に今年咲いちゃって枯れた後です。
ぶっちゃけ、ハテノ村では「一昨日おいで」を意味する慣用句なんだけど。
「サルファ、覚えてたんだ…」
私は忘れていました。
正直な心内の如実に表れた私に、サルファは眉を情けなく歪めて叫びます。
「覚えてるよ! 楽しみに花の頃を調べたら七十五年後って何ソレ! そんなに経ったら、俺達余裕で九十歳越えだよ! ちゃんとデートしてくれるの!?」
「いや、それはこっちが何それだよ…。というか、七十五年後だろうと実行する気なの…?」
「俺、女の子との約束は厳守する主義なんだ」
「いや、お前は人間だろ…? 死んでたらどうする気だ?」
「そん時は俺の墓でも参ってよ。例のマリーアレンの花でも供えてくれたらマジ感激しちゃう。それでデートって事にしていーよ?」
逆もしかり、だそうです。
「両方、とっくに死んでたら…?」
恐る恐ると勇者様が尋ねました。
本人を前に死んでたら? と聞くことを気にしているのか、気まずそうに私の顔を見ながら、それでもしっかり問いかけます。
サルファは答えました。
「その時は、あの世でリアンカちゃんを探すよ」
本気ですか。
真顔でしれっと答えたサルファに、皆で戦慄しました。
うわぁ、此奴…
女の子との約束を守るにしても、徹底しすぎだよ。
あまりのことに、うっかりサルファを尊敬しそうになりました。
危ない、危ない…。
この話題は危険ですね。
皆もうっかり危険を感じたのか、態度を急変させます。
「あ、そう言えばこの酒ってヨーグルトつまみに呑むと美味いってホント?」
「ああ、それな。デマだ」
「デマかよ!」
「実際にやると食い合わせ悪くて寝込むから気をつけろよ」
「あ、危ねぇ…」
みんな何事もなく聞かなかったことにして、サルファの世迷い言を流し始めました。
「え、何この空気。俺のこと無視?」
サルファは納得がいかないようで、あしらわれたことに不満も露わです。
話をうやむやにしてやろうと、私達はそんなサルファにしこたま呑ませたのでした。