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30,深夜の密約そのさん

 私は、兵士C…サイさんのことを誤解していました。

 彼は、私が思うよりずっと思い切りも良ければ打算的な部分も強い人だったみたいです。

 その対象が、自分の興味範囲に限られるようですけど。


 交換条件は、更に話を幾つか詰めて纏まりました。


 サイさんは私の諸々の暴挙に今後も目を瞑ってくれるとのこと。

 それだけでなく、時として協力してくれる気らしいです。

 その代わりにデートスポットを初めとする魔境の情報面でサイさんに助力する。

 サイさんはとても協力的で、自分の行動を仲間に不審がられない範囲で尽力するとのことです。

 特に、ベルガさんの思い人が魔族かも知れないと知ってからは…


 ……気のせいですかね?

 何だか、物凄く楽しそうなんですけど。


 心当たりがあると言ったら、サイさんが条件の追加を求めてきました。

 時機を見て、偶然を装いベルガさんと思い人の再会を演出すること。

 会わせて何とかなるとも思えません。

 相手はあの、内気で人見知りなラーラお姉ちゃんです。

 ですがサイさん曰く、重要なのは兵士Bの注意を他に集中させることだそうです。

 相手が魔族だと知れば、一層苦悩して意識が他に向かなくなるだろうから好都合…

 …って、サイさん中々に鬼畜ですね。

 でも、これに関しては私の一存じゃ何とも言えません。

 魔族の君主たるまぁちゃんのGOサインがないことにはなんとも…



「…という訳で、連れてきました」

「リアンカ…前振りを話す余裕があるなら、事前に許可取ってから連れて来ような…?」

 いっそこの方が話は早いと思ったので、連れて来ちゃいました☆

 悪びれない私に、勇者様が苦笑い。

 げんなりと疲れた様に項垂れる勇者様の隣で、まぁちゃんが笑い転げてますよ。

 何がそんなにおかしいの? 思わず聞いてしまいたくなる笑いようです。

 やがて存分に笑い尽くして飽きたらしいまぁちゃんが、きりっとした顔で言いました。

「戦場のど真ん中で好いた惚れたとか、騎士の分際で馬鹿じゃねぇの。時と場所を弁えろよ戦闘職」

「わあ、まぁちゃん流石ー。私の気持ちを見事に代弁ありがとう」

 それです。私も正にそれが言いたかった。

 どれだけ余裕があったのかは知りませんが、戦場のど真ん中で一目惚れって…

 全裸の女性に一目惚れって、変態か!

 しかも顔がうろ覚えって、全裸なら誰でも良いのか変態!

 彼がどんなつもりで、どんな気持ちかは知りません。

 しかし私の中では、彼はすっかり変態の地位に貶められていました。

 こんなこと、哀れすぎてラーラお姉ちゃんには言えないよ…。

 それでなくても変化→暴走という一連のあれこれでラーラお姉ちゃんは落ち込んでいます。

 そこに人間の騎士がラーラお姉ちゃんの裸体に惚れたらしいよ…なんて言えるか!

 何、この追い打ち。

 私、必要以上にラーラお姉ちゃんには追撃したくないんだけど。

「まさか、あの騎士も本人に余計なことは言わねーだろ。

ここは徹底的に黙っとくぞ。関係各所にも口止めしとけ」

「あれ、まぁちゃん乗り気?」

「恋愛沙汰は本人の自由意思だろ。もめようと纏まろうと、本人達の責任だ。

そこを俺が勝手に未来の芽ぇ摘んだら駄目だろ。選択の権利は本人に与えねーとな」

「…とか何とか尤もらしいことを言っているが、顔がにやけているぞ。まぁ殿」

 勇者様が、呆れたようにじとっと見ています。

 まぁちゃんは完全に面白がっていました。

「まあ、ラヴェラーラが了承するとは思えねーけどな」

「分かっていて、まぁ殿は止めないのか?」

「万が一って事もあるだろ。そこで種族の障害を越えるかどーかは騎士次第。

駄目なら同胞を無闇に傷つけたってことでリーヴィルあたりがなんか報復すんだろ」

「魔族さん達は結婚するのに種族のこだわりとかないもんね」

「まあな。獣人でも妖精でも人間でも、結婚相手に拘りねーし」

 魔族は、結婚相手の種族を特に気にしません。

 理由の一つに、生まれてくる子供の殆どが片親どちらかに偏るってこともあると思うけど…

 魔族と他種族が結婚した場合、生まれてくる子供は3パターン。

 魔族か、相手種族か、稀に両親の種族が半々で混ざり合った半魔のどれかです。

 でも半魔は滅多に生まれないので、大概は完全にどちらか一方に似るとのこと。

 確率的には魔族六割、他種族三割五分、半魔五分くらいだとか。


 ご多分に漏れず、まぁちゃんとせっちゃんは生まれながらに完全な魔族です。

 混血は混血なので遺伝情報を有してはいるので、外見は人間そっくりですけど。

 (たま)に隔世遺伝で、混血の魔族から人間が生まれることもあるそうです。

 もしかしたら、まぁちゃんやせっちゃんの孫とかに人間が生まれることもあるかも知れません。

 むぅちゃんなんかは、珍しい半人半魔ですね。

 ちなみに私はむぅちゃんの他に半魔を見たことがありません。


「その辺も含めて、魔族は本当に自由なんだな…」

 勇者様がやけに感心したように呟きます。

 感嘆の溜息まで吐きましたよ。

 物凄く珍しいことですが、どうやら勇者様が魔族に本気で感心しています。本気で凄く珍しい。

「魔族の習性含め諸々、色々様々、どうかと思うことは多いが…」

「本当に多くねーか…?」

「い・ろ・い・ろ・と、どうかと思うが」

「強調したって現実は変わらねーぞ」

「………それでも、種族間の差別が一切ないことだけは、本気で尊敬する」

 勇者様は不本意そうな顔で、それでもはっきりと言い切りました。

 そうですよね。他の種族じゃこうはいきませんよね。

 どこの種族だって、大なり小なり種族間の差別はあります。

 好きな種族、嫌いな種族がハッキリ分かれていて当然です。

 種族ごちゃ混ぜの魔境で生きていたらマシになりますし、順応したら気にならなくなるけれど。

 それでも魔境に生きる獣人や妖精でも、いくらかの差別は残っています。

 でも、そこを魔族さん達は…

「どんな種族だろーと、殴り合うのに関係はねーからな。戦闘スタイルの得意不得意くらいか?」

 …これですからね。

 全て殴り合いの得手不得手で割り切ってしまう魔族さん。

 ある意味、超平等主義。

 肉弾戦も魔法もどっちもこなしてしまうだけに、相手を選びません。

 魔法できそうならあの種族~とか、槍ならあの一族~とか、その程度の区別しかしてないよ。

 殴り合うのに出身は関係ねーとか言い切る血の気の多すぎる戦闘種族。

 差別はしなくても、きっちり能力による区別はしています。

 魔族さん達によると、人間は個人戦には向き不向きがあるけれど集団戦なら一日の長がある歯ごたえたっぷりの種族らしいです。

 (たま)に努力と才能如何で突然変異みたいな強い個体(例:勇者様)が現れるのも喧嘩の売り甲斐があって楽しいそうです。

 だから集団戦をしかけるなら人間が一番だとか。

 ああ無情…完璧に喧嘩(あそび)相手と認識されていますね……。

 他種族なら相手にしない様な諍いでも、躍起になって相手するから…。

 そんな区別を付けられても、付けられた側はきっと不服たっぷりですよ?

「コレさえなければ、もっと素直に感心できるのに…!」

 勇者様の溜息は、沈殿しそうなほどに重々しい物でした。


「あ、この酒うまい」

「どこの銘柄だったかな…」

「これじゃないですか?」

 アディオンさんが掲げた酒瓶には、「大吟醸えくすかりばあ」の文字。

 それだそれだと囃し立てる酔っ払い。

 大吟醸えくすかりばあ…

 確か、四百年くらい前に魔王討伐にやってきた勇者様の創始した酒蔵お勧めの逸品です。

 何でもその勇者様は魔王に散々煙に巻かれ、良い感じに魔境に馴染んで帰化しちゃったとか…。

 ………何だか、今目の前にいる勇者様の行く末を暗示している様な気がします。

 今後の結果は分からないけれど、勇者様…取り敢えず、ガンバレ。


 現在、勇者様の部屋は良い感じに混沌(カオス)な宴会場と化しています。

 人間も魔族も獣人も関係無しに、大盛り上がりです。


 夜這いという名の襲撃をかけてくる恐れのあった、二人の女性。

 図らずも、私が彼女達を夢の世界へ送ってしまいましたからね。

 勇者様の恐怖は今日明日に限り霧散したわけですが…

 準備も整っていたことですし、今更と言うことで酒を酌み交わしながらの相談と相成りました。

 酒樽ごと飲み干すくらいの勢いでがぶがぶ酒を飲み比べるお兄さん達。

 まぁちゃんに挑むなんて、無謀ですよセンさん。

 まぁちゃん…いえ、魔族は総じてザルなんですから。

 魔力の強い魔族は状態異常無効の能力を持っています。

 そして体が酩酊状態を状態異常の一種【混乱】と勝手に認識してしまうそうです。

 体内に入ったアルコールも殆ど魔力で中和しちゃうんだって。

 結果として、本人が望んで中和作用をoffにしない限り酔わないという…

 特にまぁちゃんなんて、飲んで中和するまで三秒ですよ、三秒。

 それを知っている人達が、無責任にセンさんを煽っています。

 今日は今後の対処について助言を貰おうとセンさんを呼んだのに…

 この様子じゃ、三十分も経つ前に役立たずと化しそうですね。


 只今、室内にいる宴会参加者は八名。

 私、勇者様、まぁちゃん、アディオンさんは当然として。

 後から呼ばれたセンさん、リス君、もぉちゃん。←二人はセンさんについてきた。

 それから兵士Cことサイさんがいます。

 …って、ん? あれ?

 あれれ?

 肝心の輩がいませんよー…?


 首を捻っていると、一番に呼びつけた筈の奴は遅れてやって来ました。

「なんでもうみんな始めてんの!? 俺、放置! みんな酷っ」

 ドアを開けるなり盛大に嘆いた、此奴。

 夕食の時と変わらぬ…いや、結構変わったサルファが其処にいました。


「さるふぁ……ピンクのふりふりで現れるとは予想外だわ…」

「どこで手に入れた、その新妻エプロン」


 思わずみんな、真顔でじっと見入ってしまいます。

 長身痩躯の、どう見ても男。

 その体の全面を覆うのは、フリルとレースの新妻エプロン。

 前身頃が、見事にハートの形をしています。

 きらきら☆でふわふわ♪です。

 これで手に鍋つかみを付けて、お玉を持ったら完璧かも知れない。

 なんだか、旦那様を待つ新婚夫婦の幼妻みたいなエプロンです。

 …なんか、前に画伯が雑貨屋で真剣に吟味している姿を見たことあるよ、あんなエプロン。

 あの時は次回作の小道具で使うって言ってた。何描く気だったのかは知れないけど。

 それくらいにベタで、だけど逆に現実では見ないようなエプロン。

 え、何その格好。

 これ、なんかのネタ?

 どう反応を返した物か、判断に困ります。

 一番に駄目出ししたのは、意外と笑いに厳しいリス君でした。

「なんだ、その中途半端な格好。俺達の笑いを掴みたかったら、いっそエプロンの下は裸で来い」

「度肝を抜きたかったら、そのくらいして欲しいよなぁ」

 うんうんと、相棒のもぉちゃんも頷いています。

 本気に嫌そうに、センさんがリス君の襟を掴み上げました。

 襟を掴み上げるなんて、センさんも大分いまのリス君に馴染んだみたいですね。

「止めろ、男の裸エプロンなんて見たくもない…!」

 真剣なその声に、私も同感です。

 勇者様やアディオンさんも同意見みたいですね。

 まぁちゃん一人は笑顔で、

「ははは…リアンカの前でそんな格好実践したら、***を****して****にしてやる」

 ………笑顔で、怒ってました。

 途中途中でまぁちゃんに耳を塞がれたので、具体的に何を言ったのかは知りませんけど…

 周囲のお兄さん達の青い顔を見ると、結構えげつないことを言ったみたいです。

 あなおそろしや、と身を引く私達。

 そんな全員の物議を醸した発端たるサルファはと言えば、

「流石にそんなんしねぇって!」

 ケタケタと笑っていました。

 うん、完璧に受け流しています。

 なんか、いつどんな扱いを受けても、サルファは笑うか慌てるかしかしていないような…


 よくよく考えてみると、彼は私達に結構な扱いを受けて、色々な目に遭わされています。

 まあ、大概の場合は自業自得ですが。

 おまけに全く悪びれない上に懲りないのですが。無駄に根性出しやがって。

 ですが思い出してみれば、どんな目に遭っても怒ったところは見たことがないような気がします。

 …今更気付いたけど、それって結構凄いような。

 奴の器は、意外に大きいのかも知れません。


 酔った勢いも混じって裸エプロンの要求が一部から上がりました。

 止めろ、酔っ払い!

 いくらなんでも私みたいな少女の前で何という要求を…!

 サルファは私をちろりと見て、盛大に溜息。

 うわぁ、サルファに呆れられてるよ…終わったな、奴ら。

 そんなことを思ってしまう私。

 サルファは本当に呆れているようで、つまらなさそうな口調で冷めた目を向けています。

「全くもー…おつまみ作って来たってのに、そゆこと()ーなら分けたげねーよ?」

 そう言うサルファの手には、やけに小綺麗な手料理が…

 ………あの口ぶり、作者はサルファですか?

 母さんが作った料理だと思ってた…。

 意外に思ったのは私だけではないようで、酔っ払いから好奇の声が上がります。

「え、サルファ料理できんの? 超意外」

「…THE 男の手料理な大雑把調理しかできない、あのばあちゃんのメシ誰が用意してっと思うの?」

「お前って、ホント器用な奴だよな…」

「俺、旅芸人一座に混ざってたこともあんのよ? 料理できなきゃ旅なんてできねーよ」

「……………」

 半年も旅暮らしに身をやつしておきながら、料理の習得には至らなかった勇者様が此処にいます。

 ああ、暗い顔で完全に黙り込みました…。

 大丈夫ですよ、勇者様!

 料理できなくっても死にませんし、勇者様は立場的に料理するんじゃなくてして貰う側です!

 料理できなくても、サルファに劣ったことにはなりませんから!


 そんなことを思いつつ、勇者様の背を撫でる私。

 やっぱり私達のサルファの扱いは本当に酷いなぁとしみじみ思いました。

 サルファの自業自得ですが。


 妙に器用で、大概の要求にはほいほい応じて、しかもやりこなす。

 元々の芸人根性が強くて、芸の為に熱くなることもしばしば。

 そんな奴も、流石に裸エプロンはしないと断言しています。

 着てきたエプロンもあっさりと脱ぎ捨てて、何事もなかったように宴会の席に混ざり込みます。

 待て、だからそのエプロンはなんなんだ。

「ん? 気になる、リアンカちゃん」

「ならないと言えば嘘になるけど?」

「やだなぁ、コレをリアンカちゃんが知らないってことはないっしょ」

「何故そう断言する…?」

「だってコレ、奥さんに借りたのよ?」

 ………母よ…。

「お皿洗うの手伝うっつったら貸してくれた。流石にフリルスカートみたいで恥ずいと思ったけど」

「うちのお母さんの趣味がわからない…」

「いや、分かりやすく少女趣味だろ」

「視点を変えれば凄まじく卑猥なエプロンだよね☆」

「サルファ…あんたは黙ってなさい」

 なんだか、今後の算段について相談始める前からげっそり疲れました…。




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